天風のダンジョンでの戦い方には少しコツがある。
それはできるだけ足場がある所で戦う事だ。
このダンジョンに出てくるモンスターは全て空を飛べる。その為にできる限り足場がある場所で戦わないと、全方位から攻撃されてしまうのだ。
それと今回はリレッサとレクトアの二人が支援にいるが、どちらかは空を飛べる魔法に意識を向けておかなければならない。
天風のダンジョンには魔法を解除してくるモンスターは出ないが、時間配分をミスして空を飛ぶ魔法が切れてしまったらゲームなら即死扱いとなる。
前にノアが森で別の場所に飛ばされた様に、落ちたら入り口に戻されるとかいう親切設計は確実にないはずだ。だから何があっても飛ぶ魔法だけは切らせてはいけない。
「ハンマーマグナム!」
ラシアの攻撃がヒットしバランスが崩れた所にティーガーとノアが追撃する。
「エレメントブレス!」
「スターフォール!」
二つの魔法が直撃し、ようやくモンスターは倒れ重力に引っ張られ落ちていく。
「もっ、もったいないにゃ……」
フウコウの言う事はもっともで、このダンジョンはだいたい空だ。モンスターを倒しても地上の重力に引かれて落ちていくのでアイテムの回収ができないのだ。
今のモンスターも戦艦ツバメといって羽毛を集めたら防具とか作れるし、レアドロップとかもあるのだが落ちていく。
ゲームならそんな事も無いのだが……最近、ドロップ無しが多いので心にくるものがある。
「超級ダンジョンに人がいないのは、モンスターが強い云々よりアイテムの回収ができない事が理由の様な気がしてきた」
「確かにそれはあるが、ラシア殿がいるから進めるという話でもある」
「まーでも。姐さんの言う事も分かりやすね。ローウェンテニア城とかなら割と安全に稼げますし」
ラシアの呟きを拾って、一緒に前衛を頑張っているラオメとグオンが苦笑する。
そして辺りにモンスターがいないのを確認してから浮島から空へと上がる。
皆が空中戦とこの天風のダンジョンに慣れていないのもあり進みはかなりゆっくりだが、戦闘はかなり安定している。
まずは前衛だが、ラシア、グオン、ラオメとなり、ラオメとグオンがタンクとして守りを担当する。どちらも硬い上にラシアが攻撃を担当しているので、モンスターが近接戦を仕掛けて来た場合はどちらかが受けてラシアが潰す。
そして中衛というより遠距離になるがここはノアが魔法で攻撃してくれる。牽制もしてくれ、火力もそこそこある。
あとはここにティーガーとフウコウが入る。ティーガーは遠距離の攻撃もあるが竜に乗っているので、モンスターが多い時には前衛に行ったり支援職の守りにも行っている。
フウコウに至ってはダンサー系なので踊りによって味方を支援し、ノアが危ない時には支援に入る感じだ。
そして最後は後方の支援になる。この位置にはリレッサ、レクトア、パルサーがいる。
支援が二人いてリレッサは天使を召喚して守る事もできるのだが、急に支援職が狙われた時にも即座に対応できるようにパルサーにいてもらっている。
パルサー自身は遠距離攻撃のスキルが少ない。本人曰く、投擲用の槍は幾つも持って来ているという事だが、今は戦闘も安定しているので無理に使う必要はない。
で、今は空を飛んでいるのだが……足の下には雲が流れているし、遠くにはでっかい生物が飛んでいるのも見える。
分かり切っていた事だが地球では無い。
(これ降りたらどの世界に行くんだろう? ダンジョンがある世界だからローウェンテニアとかがある世界だと思うけど……)
みたいな事を考えていると、ノアも同じ様な事を考えていた様で「降りられそう」という声が聞こえてきた。
「ノアさん。そんな気はしますけど、何があるか分からないのでやめてくださいね」
「大丈夫大丈夫! 流石に超級ダンジョンで変な事はしないから!」
「でもノアって犬っぽいからここでボールとか投げたら取りに行きそうな気はすんな」
「ティーガーさん! それは私に失礼だよ!」
と、ティーガーに怒るノアを見てラシアは思う。前にダンジョンで小動物を追いかけて迷子になりかけたのはどなたでしたか? と。ただ言わないのも優しさなのでラシアは言わない事を選択した。
そして空中で襲われる事も無くようやく次の浮島へとたどり着く。ここからが三階層になるが、少し休憩をとる事にする。
戦闘の疲れがあるとかではないが……なんというか飛び慣れない上に気流に乗ったりするので、変な所に力が入って足がつりそうになるのだ。
「おみゃー……運動不足にゃ」
「失礼な。冒険者なので運動不足ではないですよ」
「まーでも言いたい事は分かるわ。ウチもドラゴンに乗りたての頃とか変に力入って筋肉痛とかになったもんな」
「普段使わない武器で訓練とかしても次の日に少し痛くなったりするな。私のメインは槍だが剣や弓などを一日中使っているとそうなる」
異世界でも筋肉痛ってあるんだなーと思っているとリレッサとラオメ、レクトアがこちらを向いて微笑んでいた。
「? どうかしましたか?」
「いえ、休憩中だから良いんですけど、超級ダンジョンなのに話している事が筋肉痛の話なのが何か面白くて」
「なんというか、ラシア殿のいるパーティーだなと思うと可笑しくてな」
「ラシアはそういう所がありますからね」
「何かこう馬鹿にされている気がする!」
「それは人聞きが悪いですよ。ちゃんと褒めています」
それから休憩も終わり、本格的に気持ちを切り替える。
どこのダンジョンでも似たようなものだが、基本的に一階層や二階層はそこまで敵が多くない。もちろん入ってすぐに多い所もあるが天風のダンジョンはマシな方だ。
ここから出てくるモンスターだが基本的に全てが強敵なのであまり言う事はない。超級ダンジョンなのだから弱いモンスターがいる方がおかしい。
先ほども戦った戦艦ツバメに、ワイバーンの上位種でありふざけた名前のワシバーン。進化形はワイバーン→オレバーン→ワシバーンとなるのできっとワイバーンの生き残った老兵なんだろうと思う。
後は……土偶ではなく炎神フレディムのライバル? 的な立ち位置のハニワが数種類飛んでいる。他にはフライ系のモンスターもいる。
アジフライ、エビフライにドラゴンフライ。もう突っ込み所が満載だが……全てがレベル九十以上なので、サクサクの衣がついたドラゴンが飛んでいても油断してはいけないのだ。
そしてここのボスは十三階にいる風雷神ウィンディアとなる。ハニワが出てくると言った通り、ボスもハニワの顔をしてる。
設定では……ハニワの超技術を使い全てのハニワを宇宙(そら)に上げようとしたなれの果てであり、生き残りとの事。
時間湧きのボスは翼竜。君……カオスドラゴンより強くね? とよく言われる。空中戦にもなるのでマジで強い。できたら会いたくないモンスターだが、ボス部屋以外の全ての階層を飛び回っているので、探してもそう簡単に会えるモンスターでは無い。
モンスターは全て強いが要注意なのはボスである翼竜と女の子モンスターのハニワちゃんだ。
まぁこの辺は数も少ないので、この広い天風のダンジョンで出会うのは結構稀だ。気をつけなければいけないが、気にしすぎる程でもない感じだ。
もう一度リレッサに浮遊魔法をかけ直してもらい、全員が浮島の端に行き気流に乗る。
この辺の気流に乗る場所にもゲームではよくあるギミックがあり、間違った場所から乗ると違う場所に連れて行かれたり、一階層に強制的に戻されたりする仕様だ。
そして気流に乗り空を飛んでいると……フウコウがラシアに質問する。
「ラシア。翼竜ってどんなモンスターにゃ? ワイバーンとはまた違うんかにゃ?」
「形状はワイバーンですけど、大きさが段違いですね。ワイバーンが一軒家ぐらいだったら、翼竜はおやっさんの宿ぐらいの大きさがありますね」
「なるほどにゃ~」
「……まさか前みたいに何処かにいるとか言わないですよね?」
「おみゃーはワッチをなんだと思ってるにゃ。見かけたらちゃんと報告するにゃ!」
「ですよね~」
流石に前回はフウコウが知らなかった事だし、不幸な事がよく起こる体質なだけだ。何でもかんでもフウコウのせいにするのはおかしいなと思い、ラシアは謝った。
「分かればいいにゃ。だいたいこういう広い所でワッチが襲われる時は、相手がそこの大きな雲に隠れていて急に襲ってくるにゃ」
そう言ってフウコウが指さし、皆が近くにある巨大な雲を見る。
すると……強大な生物の気配がした瞬間に凄まじい風圧と共に巨大な竜が現れた。
立派な翼を持つその姿には空の王者と呼ぶにふさわしい風格がある。
翼竜だ。
先制は翼竜に取られたが、フウコウの話を聞きながらもしもの事を考えていたラオメが初撃をガードし、少し吹き飛ばされた。
そして一旦仕切り直しだが……皆がフウコウの顔を見る。
「ワッチが言ってなかったら危なかったにゃ!」
「……まさにその通りなんですが……それを認めるのは何かこう悔しいといいますか」
皆が頷き、フウコウが「なんでにゃ!」と文句を言ってから戦闘が始まった。