ラシア達は慣れない空中戦で苦戦を強いられている。
相手は翼竜。名前の通り翼の竜なので空での戦いが最も強いボスモンスターだ。体色は緑を基調としていて、ワイバーンの様に腕と翼が一体化しているタイプのドラゴンだが、特撮とか見る人ならギャ○スが想像しやすいと思う。
「はっや! あの巨体であんな速度出せるとかあほちゃうか!」
ティーガーの言う事はもっともでティーガーやグオンが乗っている騎乗ドラゴンぐらいでは全く追いつけない。
自転車とスポーツカーぐらいの差がある。その上で離れすぎるのも危険なのである程度固まっての戦闘となるがキツい。
翼竜もラシアが一番の強者だというのが分かっているのか迂闊にはラシアに攻撃してこない。
「バスタースワローと戦った時もこんな感じだったな……」
この世界の飛行するモンスターは何か賢いなと思いながらラシアはもう一度気を引き締め、高速で移動する翼竜を観察する。
この翼竜の攻撃で注意するのは不可視のブレスと、全速力で全体重を乗せてその翼で特攻してくる翼チョップ。
不可視のブレスは圧縮した空気とか風をぶっ放してくる攻撃で本当に見えない。ただ追尾したり拡散したりはしないので、撃つと同時に動けば躱しやすい。
翼チョップに関してはそのまま特攻してくるので、雲の中に入られて見失う事が無ければ割となんとかなる。
ただし本当に一撃が強いので並の防具では簡単に砕かれる。ラオメも最初は空のモンスターの攻撃を軽減する盾を装備していた。だが翼竜の翼チョップを食らいその盾が破壊されたので、今はヴァルキリーシールドを装備している。
そして……何より脅威なのがゲームの中では無かった事だ。
この翼竜だが……加速の度に音の壁をぶち破っているのか、ソニックブームみたいな衝撃波が発生し、近くにいるだけでダメージを食らい三半規管が揺さぶられ、平衡感覚がおかしくなる。
防御魔法と回復魔法のお陰でダメージは軽減されすぐに治る。だが接近された時に反撃しようとしても、平衡感覚を乱されるせいでなかなかうまくいかないのだ。
そして翼竜はまるで大空が自分のものだと言わんばかりに遠く離れた場所で旋回し、体に大気をまとった様な白い衝撃波を発生させ突っ込んできた。
「また来たで!」
「今回はオレが弾く!」とグオンが叫び、ラシアが教えたスキル、リボルバーボックスを使用する。
中に込めるスキルはシールドウォールと灰竜のガイアフォースだ。それを交互にセットし、皆を守る様に防御スキルを展開するとリボルバーボックスが回転し順番にスキルを発動させる。
グオンのスキルが展開された所に翼竜は最高速のまま衝突し、空でこんな音は鳴らないだろうというほど甲高い爆音が鳴った。それでもなんとか翼竜の攻撃を防ぎきる事ができた。
「ラシアの姐さん! 次来たらもう一度防げるとは限りませんよ!」
そうグオンが大きな声で叫ぶが肝心のラシアの姿はない。
ノアやレクトアもラシアを探すがいない。というか何人かいない。主に猫組がだ。
「え!? みんな連れ去られたの!?」
ノアはベルエドがバスタースワローに空中で真っ二つにされた事を思い出し狼狽えるが、リレッサが大丈夫だと言った。
「流石に無茶がすぎると思いますが……猫組というだけあって動く物には飛びかかりたいんでしょうね」
少し呆れながらリレッサはもう遠くまで行った翼竜を指さした。
「えっ!? あの一瞬で飛び乗ったの!?」
その瞬間を見ていたラオメが笑う。
「私の方でも猫組に入りたいという話は良く聞くが……今の様な事ができる事を入組条件の一つにしても良いかもしれないな」
「なっ、難易度が高すぎる!」
そんな話をしている頃、ラシア達は翼竜の背中にへばりついていた。
力を緩めれば一瞬で吹き飛ばされ、空に落ちようものなら確実に翼竜に狙われ殺されるだろう。
だからもう倒すだけ。
ラシアは自分だけ張り付いてバスタースワローを倒した時の様に首元まで行き、へし折ってやろうと思っていた。ティーガーとパルサーとフウコウまで同じ様にしがみついたのは流石だった。
凄まじい風圧と風を切る爆音のせいで会話なんかできるはずがない。確実にサラマンダーよりずっと速い。
たぶんマッハ近く出ているのにこんな事ができるのは本当にファンタジーだとラシアは思い仲間を見る。
フウコウは両手に持ったナイフを翼竜の外皮に引っかけ、靴も脱いで足の爪も引っかけてしがみついている。
パルサーは槍を突き刺しそれと外皮を掴み何とか耐えている。ティーガーも大剣を突き刺しそれに乗って耐えているのだが……可哀想なのがゲーミングドラゴンだ。
かろうじて足の爪が引っかかりなんとか耐えている状態で死んだ蛙みたいにひっくり返っているのだ。
とても主人思いのドラゴンだとは思うがそれどころではないのでラシアは力を込めて外皮を握り潰しながら首筋を狙い登っていく。
翼竜もラシアの行動が分かったのだろう。きりもみしながら飛んだり何度もソニックブームを発生させ振り落とそうとするが……ここで落ちたらどうしようもない。しがみつく以外の選択肢はないので、ラシアは必死に耐えながら少しずつ登っていく。
ようやく目的の場所までたどり着いたラシアは一旦後ろを向き、仲間達にこれから仕掛けるぞという意味で頷いた。伝わった様で全員が頷いた。
そしてラシアは一度大きく深呼吸してからスキルを発動する。
「ギガンテックハンド!」
巨大化した腕に力を込め、ラシアは翼竜の外皮を力任せに引きちぎる。
その攻撃による凄まじい激痛で翼竜は速度を落としのたうち回るが、それが過ちとなった。
速度が落ちた事によりフウコウが一気に駆け上がり、どの生物にとっても弱点である目を切り刻みナイフを突き立てる。
そこで本当に翼竜が止まり、ラシア達を振り落とそうと翼や尾で攻撃するが、今まで耐えてきた者達がそんな簡単に落ちるはずはない。
「パルサーさん! ティーガーさん!」
「了解! デトネイトランス」
そう言ってパルサーは槍を宙で何度か振り回した後に、ラシアが外皮を引きちぎって露出した皮膚に槍を突き立てる。すると一瞬光った後に、刺された周辺の肉がボコボコと盛り上がり爆発した。
「ほんだら行くで! お釣りはちゃんと返してな! リボルバーボックス! ファイヤーブレス、アイスブレス、ウィンドブレス、ストーンブレス、ホリーブレス、ダークブレス! 長いねん! ほんでエレメントブレス!」
いつの間にか登ってきた虹竜にリボルバーボックスの効果で六種類のブレスが銃弾のように装填され、最後のエレメントブレスを引き金に順々に翼竜の首筋に打ち込まれていく。
これが騎乗ドラゴンの真骨頂であり虹竜がゲーミングドラゴンと言われる由来だ。
「にぎゃーーー! 目がチカチカするにゃ!」
そう叫ぶフウコウの言いたい事はよく分かるが……これで翼竜が生きていたら確実に振り落とされる。そういう気配が無いという事は戦闘の終結を意味する。
血が蒸発し肉が焼けた煙が空の風に流されると、翼竜は首が皮一枚で繋がったまま絶命し、あとは地上の重力に引かれる様に落ちていく。
「にゃんか……ワッチ達も落ちてるにゃ」
「ああ。落ちてるな」
「ウチは大丈夫やけどな。虹竜に乗っとるし」
それはまぁ冷静に考えればリレッサにかけてもらった支援も切れる時間だ。何の対策も考えずにフウコウは飛び乗ったのかと思うが……いざとなったら虹竜に飛び乗るんだろう。
ただ流石に後衛組と合流しないとマズいので、ラシアはアイテムバッグから白紙のスクロールを取り出して使用し、全員を浮かせた。
「おぉーラシア。ありがとにゃー」
「どういたしまして」
そして全員が浮き、元から浮いているティーガーは浮力が増した様で虹竜より遙かに大きい翼竜をキャッチして運んで来た。
「流石に毎回なんも無しは嫌すぎるからな。どっか安全な所で解体して魔石取るなりしようや」
ジェネシスライオンマンの時も本当に魔石しか出ず、今も倒したモンスターが下に落ちていくのでこの天風のダンジョンもドロップアイテムが美味しくないのだ。
そしてラシアが頷くとリレッサ達もこちらに近づいて来ていたので、合流して近くの浮島へとたどり着いた。
「疲れたにゃー」
「ほんまやな」
そんな二人にリレッサは回復魔法をかけて、グオンが率先して翼竜を解体していく。
その間にラシアはこの浮島を調査するが……ここでもゲームとの違いが出ている。翼竜との戦いでかなりの距離を飛んだのは間違い無いが、たどり着いたこの場所は七階層になる。
何故か知らないがこの七階層はゲームでも蝶々が飛んでいるので分かりやすい場所だ。地形の確認もしたが形もそっくりなのでかなりの距離を短縮できた事になる。
ゲームではこの天風のダンジョンの道のりは短縮できなかったのだが、ゲームとの違いがあるのは今更だなというのが感想だ。
あと、こんな場所で蝶々が飛んでいるのは現実では不可能なのでバリアーでも浮島に張ってあるのだろうと思う事にした。
時間を短縮できたのもあり、想像以上に皆が疲れているし、翼竜の解体もあるので本日はこの七階層の浮島で見張りをしながら一泊する事にした。