「私が勝ったら質問に答えてもらいますがいいですか?」
「断る。どうして私がお前の質問に答えないと駄目なのか。ダルい」
この野郎とラシアは思うが、命のやりとりをしている相手に質問に答えてもらおうとする方がおかしいとも思うので、今戦っている風雷神ウィンディアが正しいのだろう。
ウィンディアは他のハニワとは違い、ハニワと聞いて頭に浮かぶ様な形をしている。名前に風と雷が入っているだけあって、メインの攻撃は風と雷になる。
注意する事はウィンディアが使う魔法には両方の属性の効果が乗るという事だ。風魔法を使えば雷の特性である麻痺が乗り、雷魔法を使えば風属性の吹き飛ばしの効果が乗る。
強いのは強いがそこだけ対策していればウィンディアは結構なんとかなる。炎神フレディムの様にアホみたいな火力が出るわけでもなく、このダンジョンで戦った翼竜の様に不慣れな空中戦を仕掛けられる事も無い。
ウィンディアがいる場所にはちゃんと足場があり、全員が広々と戦えるフィールドでもあるからだ。
「風よ! スカイフォールダンパー!」
ウィンディアの魔法によってラシア達の上空に圧縮された大気が集まり、一気に弾けてラシア達に向かって落ちてくる。
「フォースシールド!」
「ロックシールド!」
「エンジェルブレス!」
ラオメとグオンの防御スキルで軽減し、リレッサの魔法で完全に防ぎきり、ラシアが反撃に転ずる。
「ハンマーマグナム!」
ラシアから打ち出されたハンマーが高速で回転しながら飛んでいく。だがウィンディアは風の鎧を纏っているので、ハンマーは流されて明後日の方向に飛んで行ってから戻ってくる。
この防御があるためにウィンディアは物理遠距離無効というふざけた特性を持っている。
「弱くなったんじゃないか? ローウェンテニアの死神もどき」
「もどきと言うのですから本人ほど強くないのは当たり前では?」
「いや? そうでも無いぞ。偽物が本物より強いなどいくらでもある。知らんけど」
この辺の話し方からなんとなく炎神フレディムを思い出し、少し似ているなーとラシアは思う。強さの総合値も似ているので、倒すとなればラシアが接近して戦うしかないのだが、翼竜には劣ると言ってもウィンディアは十分に速いためになかなか接近戦に持ち込む事ができないでいた。
どうしようかと考えていると、いつの間にかティーガーとグオンが竜に乗り、ウィンディアの背後に回り込んでいた。
「エレメントブレス!」
ティーガーの虹竜がブレスを吐く。だが当たるという所でウィンディアは加速し簡単にその攻撃を躱した。
「ウィンドブラスト!」
「ロックシールド!」
ウィンディアが反撃の魔法を唱え、風がティーガーを襲うがグオンが魔法で弾く。お互いに致命打が無いままにまた仕切り直しとなる。
「この世界の人間もなかなかやるじゃないか」
「自分も土偶のくせにやるやんけ」
「どっからどう見ても埴輪だ! 土偶の要素がどこにある!」
「どっちも土器やんけ。知的な分、土偶の方が上ちゃうか?」
「はい切れたー。お前は許さん!」
「切れたって自分……土器なんやから欠けたか割れたやろ。まぁ間違えてごめんやで土偶」
ウィンディアの背後からピシッと亀裂が入る音がした後に……ティーガーへの攻撃が増した。
「ちょっとティーガーさんヘイト集めてくれるのはいいですけど! 大丈夫ですか!」
凄まじい勢いの攻撃がティーガーを襲うが、ティーガーはなんとか気合いで直撃だけは避けている。
「なかなかしんどいで! せやからささっと倒して欲しいけども、土偶やからいけそうな気がしなくもない感じやな!」
「埴輪だ!」
「すまん埴輪!」
「土偶だ!」
「「…………」」
「はいっ。馬鹿はっけーん!」
「むきー!!」
みたいな感じで空を飛び、遊んでいる様に思えるがティーガーの操竜でなんとか直撃は避けているだけなので、虹竜なんかはたまに攻撃がかすって涙目になっている。
竜に乗っているグオンから見ても、よくあれだけ躱せるなと思うほどの操竜らしい。だがあんな速度で飛び回られたらこちらの攻撃が届かないのだ。
「ラシア。そろそろ一度、引き剥がさないと。虹竜のスタミナが切れたら直撃しますよ」
それは本当にリレッサの言うとおりでそろそろマズい気配もするので、ラシアはパルサーとフウコウに指示を出した後、ティーガーにこちらへ向かって飛んで来る様に伝えた。
その声が聞こえていたのかティーガーは軽く手を上げた後にこちらに向かって飛んできたので、パルサーが投擲用の槍を準備する。
「そんな攻撃が私に当たるか!」
とウィンディアが怒っているが、ダメージが入ればそれでいいし、入らなくてもいい。
そして次の瞬間にパルサーがレーザーを思わせるような勢いで思いっきり槍を投げた。その衝撃でパルサーの近くにあった花びらや葉っぱなどが舞い上がる。
その投擲された槍の速度はウィンディアが想像していた以上だったようで、高速で移動していたウィンディアはその槍を弾くために一瞬だけ動きを止めた。
「あぶなっ! そんなものが私に効くか!」
無効化系でも攻撃を無効化しきれない事があるのはラシアの実験済みなので、パルサーが強くなったらたぶん貫通するなとラシアは思うが……一瞬だけ止まれば十分なのだ。
無効化できるのは遠距離の物理攻撃だけだから。
そしていつの間にか背後に回り込んでいたフウコウが体を猫のようにクルッと回し、ウィンディアに強烈な蹴りを入れて地面に叩きつけた。
「私を地面に叩きつけるとかやるな! だがまだまだ!」
「んにゃー。これで終わりにゃ」
「クラックフォール!」
ウィンディアが飛んでいる間は拘束系のスキルで動きを止める事はできない。だが、浮島とはいえ足がつく場所があるなら拘束できる。
ラシアのスキルでウィンディアは拘束され身動きが取れなくなる。
ラシアが全力を出せば今いる浮島ごと消える恐れがある。だからこそリレッサと力を合わせる。
「ラシア。行きますよ。シャインランス」
拘束されたウィンディアの頭上に人の背丈の何倍もある巨大な光の槍が出現し、ウィンディアめがけて加速する。
「こっこんなもの!」
当たる直前にウィンディアが魔法の障壁を発生させてなんとか防ぎ、せめぎ合いが起こる。だが魔力に関してはウィンディアの方が上の様で、少しずつシャインランスは押し戻され始める。
だけど……ここでラシアの出番となる。
「ギガンテックハンド!」
「行くぜ! 相棒!」(幻聴)
「プラティディオンハンマァァァァァァ!」
「ちょっと待て!」
そう叫ぶウィンディアを無視して、ラシアはシャインランスを杭代わりに叩き込んだ。
光が弾け……光の粒子は風に乗って何処かへと舞い上がっていった。
全ての粒子が風に流され、全員の視界が戻ってくると、風雷神ウィンディアの姿は何処にもなかった。ラシアが攻撃した前方にあった全ての浮島も消失していた。
「ラシア殿と狩りに行く時は足場も気にしないと駄目だから難儀な問題ではあるな」
そうラオメが言うと全員が同じ様に頷くが……ラシアは何か人数が少ないような気がした。
その違和感はリレッサにも伝わった様で「フウコウは何処へ?」と言った。
皆が辺りを見渡すが猫耳と尻尾の生えた者はおらず、ティーガーもいなかった。
ラシアはハンマーを振り下ろした時の位置関係を頑張って思い出すと……ティーガーは後ろにいたはずだが、フウコウはラシアの前方にいたような気がしたので変な汗が止まらない。
「……フウコウはお星様になったか。惜しい怪人を亡くしたな」
「ちょっと! パルサーさん縁起が悪いですからね!」
「やー……フウコウさんの今までの事を考えると、巻き込まれてない方が嘘じゃないかなーと……」
ノアの言う事が本当のように聞こえるが流石にそれはシャレになってないので、ラシアがフウコウの名前を叫ぶと……崖の方から声が聞こえてきた。
「にゃんで……ワッチがこんな目に……ふっ不幸にゃ……」
「そのいつもの台詞を言うって事は余裕あるんやな」
「無いにゃ!」
慌ててラシア達が出来上がった崖の方に向かい下を見ると、ティーガーが虹竜に乗りフウコウを捕まえていた。
ティーガーとフウコウが無事だった事に皆がほっとしているとティーガーがゆっくりと上がってきて、フウコウをその場に降ろした。
「フウコウさん、ティーガーさん。巻き込んでしまったみたいで申し訳ない」
そうラシアが頭を下げるとティーガー曰く違うらしい。
ティーガーは少し離れた所でラシアの一撃を見ていた。シャインランスの先がウィンディアの作っていた盾に打ち込まれた瞬間、風船から空気があふれるように凄まじい風が出たとの事だ。
その風の進行方向に狙った様にフウコウがいて真上に吹っ飛ばされた。ようやく着地できるタイミングで地面が光になって消え、そのまま落ちたそうだ。
「最初に吹っ飛ばされた時点でティーガーに追いかけてもらわなかったらマジで落ちてたにゃ……。ティーガーありがとうにゃ~」
ガチ目に死にかけたのでフウコウの耳と尻尾は下がり涙目になっている。地面が消し飛んだのは自分のせいでもあるのでラシアもフウコウとティーガーに謝った。
「全然かまへんで! 超級のボスって言うだけあって強敵やったさかいなー。まぁフウコウには今度飯でも奢ってもらうけどな!」
「分かったにゃー。それぐらいなら全然いいにゃー」
「王都で一番高いとこ予約しとくわ!」
「それはやめろにゃ!」
皆が無事で良かったが……強敵と戦う時は本当に注意しないと仲間を巻き込むなとラシアは再度認識し、背筋に冷たい物が走った。
そして深呼吸してから振り返るとラシア達の背後に帰還用のポータルが出現した。
「しかしあれだな……翼竜がいたから良かったものの、あれだけの強敵を倒して何もなしはラシアでは無いが心に来るな」
皆がほんとそれと頷くのと同じタイミングで魔力の動きがあり、その後に声が聞こえた。
「はぁー……もどきでも死神は死神って所か。私は待ってと言いました!」
皆が声の聞こえた方向を向くと大きな魔石が浮かんでおり、それを中心に風が集まり始めたかと思ったら、そこには傷一つ無い風雷神ウィンディアがいた。