復活した風雷神ウィンディアを見て全員がもう一度構える。だがウィンディアは土器なので血管などないはずなのに額に血管を浮かび上がらせ、文句を言い始めた。
「お前は! 人の話を聞かないのは昔から同じで世界が変わっても変わらないな!」
そして罵詈雑言が始まったので、たぶんこれは戦闘にならないと皆が少し肩の力を抜いた。
「私は待ってと言いました! どうして待たないか!」
そんな事を言われても自分にどうしろとラシアは思うが、ハニワが切れているのは少し面白い。
「というか……なんで攻撃してくるモンスターに待ってと言われて待たなあかんねん」
「それは私が埴輪だからだ!」
「あー……なるほどな。そういう事か」
皆がそう答えたティーガーの方を向く。
「分かったか! 人間!」
「お前がアホやと言うのはよく分かった。アホって言葉理解できますか? お前の事を言うんやで?」
もう一度、ウィンディアの背後からピシッとひび割れる様な音が聞こえた後に、ティーガーとウィンディアの喧嘩が始まった。
そんな二人を放置してパルサーはラシアに相談する。
「どうする? 帰還用のポータルは出ているんだ。放置して帰るか? もう一度戦うというなら戦うが、さっきまでの様な強者の雰囲気はないな」
最初のように初手から攻撃してくるというのなら全然戦うし倒すのだが……こう仲間と遊んでいるのを見ると戦いにくいのは少しある。
今もティーガーと喧嘩しているがもうすぐ負けそうな勢いすらあるのだ。
復活するならドロップアイテムが出るまでマラソンしても良いとラシアは思う。だが流石にモンスターといえども、こう人の言葉を話して意思疎通できる者を何度も倒すというのは抵抗がある。
襲って来られたら別だが……今の様にティーガーとじゃれているぐらいならそこまでする必要はないと思うからだ。
流石に自分だけでは決めきれないので皆に相談すると、もう帰る方向で良いだろうという事で話がまとまった。
「ウィンディアと戦って得るものがあるというのなら、戦った方が良いとは思いますが……なさそうですしね」
そう言うリレッサの見つめる先にはウィンディアの上に乗ったティーガーがおり、喧嘩はティーガーの勝利で終わった様だった。
「なんや? さっきの戦いの勢いはどうした! ウチに負けるとか何処の雑魚やねん!」
「くそー! こいつ腹立つ! 復活してすぐに魔力とか回復するか! 私から降りろ!」
「さてと……ウチが勝ったからな! なんかアイテムよこすか、情報よこせ!」
「お前みたいな奴に誰が渡すかボケ!」
そう言ってまた喧嘩が始まりそうだったのでラシアは二人を引き離した。
「ウィンディア。もう戦わないのであれば私達は帰りますが?」
「お前に倒されてこっちは魔力がカラカラだ。戦える訳がない!」
そうなってくるともうここにいる意味もないので帰ろうと思っていると、引き離したティーガーがせめて何か情報ぐらいよこせと言い出した。
「お前みたいな奴に教えるか馬鹿め!」
また始まったと皆が呆れる中、ティーガーは続ける。
「知らんかったら知らんって言うた方がええで? 自分あれやろ? 土偶みたいに賢くないし、器も小さいから……知らんってよう言わんねんな?」
またウィンディアの背後からピシッとひび割れる音が聞こえた。
「知ってますー! 土偶より知ってます!」
「大丈夫! ウチは分かっとる。後で土偶に会いに行くからその時にやっさしく言うといたるわ。埴輪は若造やからなんも知らんって」
「そこまで言うなら答えてやる! 何でも聞いてみやがれこのドボケ!」
小学生の喧嘩でこういうのを見た事あるなーとラシアが思っていると、ティーガーが一つの質問を投げた。
「ダンジョンってなんや?」
「お前はそんな事も知らんのか! このドアホめ! ダンジョンとは滅んだ世界の記憶だ」
それを聞いた皆が、今けっこう重要な事を言わなかったか? と、なりティーガーはもう一度ウィンディアを煽り話を続けさせる。
ウィンディアが言うには、ダンジョンはこの世界とは本当に別の世界で、ポータルで繋がっている。その正体は滅んだ世界の記憶との事だ。
ウィンディア自身も含め、翼竜も炎神フレディムもコアラキングもダンジョンにある全ての物が本当はもう無くなっているという。今あるのは世界に残る記憶の塊との事だ。
「この場所もこの空もお前達が踏んでいる土も滅んだ世界の記憶だ。もちろん私も、そこの死神も、神童もだ」
ウィンディアは指がないので、ラシアとリレッサに腕を向けて答えた。
「自分……あんまり適当な事言うたらあかんで?」
「お前は魔力回復したら絶対に泣かす!」
そしてまた喧嘩が始まりそうなタイミングでリレッサが手を上げて、どういう事かと尋ねるが、そのままの意味だとウィンディアは答える。
「お前もそこの死神も戦争の割と早い段階で死んだからな。知りようがないが……人、天使、魔族の戦争の最終地点は全ての種族の全滅だ。小動物や微生物はまだ世界に残っているだろうが、全ての知性ある生物は死んだ。それが終着点だ」
ウィンディアも最後の方まで生き残ったがそれでも全ては知らない。分かっている事は戦争終盤に天使達が異世界から持ち込んだ兵器のせいで全てが終わり、戦争が終結したという事だ。
全てが死に絶えたはずだったが……その天使達が異世界の空間を開いた事で二つの奇跡が起きた。
世界にあふれていた魔力が時間をかけて全てを記憶し始めた事、そしてもう一つは別の世界と繋がった事だ。
「何処から何処までが記憶されているのかは分からないが……外の世界、お前達の世界と繋がった事で私達の世界はもう一度、生を得た」
「それってどこまで信憑性あるんや?」
「はっきり言って無い。私も死んでからの記憶は無いし他の魔神種に聞いてそうなのか? という程度だ。どうして繋がった? とか聞かれたら、魔力の性質がそっくりだから引き合ったんじゃないかと答える。ダンジョンで使う魔法と外で使う魔法は同じだろう?」
「魔神って言うからには腐っても神様なんやろ? 知らんのか?」
「神とか名付けるのは人間のやった事だろうが! 私は名乗った事ないぞ! それを言い出したら主神ゼレストニアだって神だろう! アイツの方が何も知らないだろうが!」
やはり同じ土器だけあってフレディムと同じ様な事を言うなとラシアは思うが、問題はそこでは無い。
一番の問題は……ウィンディアの言っている事が本当かどうかを確認できない事だ。本人が適当な事を言っていなくても、その話が正しいとは限らない。
「その滅んだ世界に行く事はできるんですか?」
「それが無理。どうやっても繋がらない。理由は不明。世界が丸ごと無くなったのかもな? で、質問される前に答えておくが、ダンジョンから連れ出すとその記憶が固定化されて形になり、記憶から魂へと変わって肉体を得る。何故かは知らん」
そうなると……どうして元の世界にゲームとしてその滅んだ世界の記憶があったのだろうという疑問が出てくる。ラシア自身も、どうしてこの世界でラシアの中に入っているのだろうと考える。
「私が知っている事はそれぐらいだ。他の魔神に聞いてみれば何か知っているかもな?」
それからメンバーがウィンディアに様々な質問を投げかけたが、「ダンジョンとは滅んだ世界の記憶だ」という話のようなインパクトのある答えはもうなかった。
教えてくれた事に感謝を告げてラシア達は帰還する事を決めた。
「ほんだらハニワ! また来るから元気でな!」
「また来る前に回復したらしばきにいくから覚えておけよ!」
ティーガーが笑いながら先陣を切りポータルに入って行き、また最後にラシアが残った。
「聞きたい事はあるだろうから先に言っておく。例外もあるが……私達は外の世界に感謝している。外の世界がなければもう一度、生を得る事はなかったからな」
「……」
「お前はラシアだが……自分の事をラシアとは思わない方がいい。ラシアであり、そうではない。だがラシアを名乗り生きる事はできる。私と同じ様にこの世界に愛されもう一度もらったチャンスだ。無駄にはしないように!」
「……それでも私は帰ろうと思います」
「まぁ。それもいいんじゃないか? 風の赴くまま雷の落ちるままに生きるのも一つの生き方だ」
ラシアは少し考えた後にウィンディアに頭を下げてから帰還用のポータルへと消えていった。
そんなラシアを見てウィンディアは笑う。
「本当にアイツは別人か? 本人とそっくりじゃないか。そうやって生きるのも一つの生き方だ。人は生き方に縛られすぎている。もう少し風のように自由でも罰は当たらんとは思うがな……」
そう言ってウィンディアはポータルが消えるまで見つめ続けた。
ここでこの章は終わりになります。