今日はロディーに報酬である深淵のダンジョンの情報をもらう為に王都に来ている。無かったら無かったで良かったのだが、ちゃんと頑張って調べてくれた様で見つかったとの事だ。
ただし内容が人に言えるような事でもないとの事で夕方にでも来て欲しいと言われて時間を潰していた所だ。
その時間の潰し方だが、天風のダンジョンでティーガーがフウコウを助けた事で、ご飯を奢ってもらう事になっていた。一番高い店でないのならラシアやパルサー達もついてきて良いと言い出したのだ。
ラシア的には別に王都で食べなくても良いと思っているのだが……せっかく誘われたので行く事にした。メンバーはラシア、フウコウ、ティーガー、パルサー、ノア、リレッサだ。
そのメンバーで行って食事を楽しんだ訳だが……店を出て少し歩いた所でフウコウは崩れ落ちた。
「おやっさんの店よりマズいクセに値段が十倍近いとか……どんな嫌がらせにゃ……」
「おやっさんの所の飯うまいからしゃーないな。前にここに食べに来た時はもっと美味しく感じたんやけど、年取って味覚変わったんかなー」
「ティーガーさん……年取ったって私達より少し上ぐらいだよね!? 私は緊張して味分からなかったけど美味しかった!」
「いや、それどっちやねん」
「私的にはちゃんと美味しく思えたが、リレッサはどうだった?」
「ちゃんと美味しかったですよ? ただ少し味付けは単調に思えましたけど、十分に美味しいと言って良いレベルではないでしょうか?」
みたいな感じで、崩れ落ちたフウコウはなんとか立ち上がり、皆でティーガーの家へと向かう。
ラシア的にもちゃんと料理は美味しく感じたが……宿と先ほどの店では調味料の差がめちゃくちゃでかいというのが感想だ。
調理の仕方などは圧倒的に今行った店の方が上手だと思う。焼き方なども普通に上手だった。おやっさんは肉が赤いのが嫌いだからとことん焼くタイプなので硬い時がたまにある。
ラシアもよく焼いた肉の方が好きなので問題ないのだが……やはり調味料がデカい。
まぁこれに関しては元の世界の記憶を持っているラシアがいるので仕方が無いという所ではある。
おやっさんの宿で調味料が増える時はこうだ。ラシアがこんな調味料あったなーと思い出す→リレッサが作ってみましょうかと言い出し再現する→ナットンが宿用に簡略化し量産する→おやっさんがそれを使って料理を作る。
みたいな感じで調味料が増えるので、調味料さえあれば元の世界の料理なんかも普通に作れる。
前に作っていたカツ丼なんかも普通に宿ではもう提供されていたりもする。名前はなんでかカツドゥン。
そういう感じでルインエルデの隠れた名店みたいになっているので、結構いろんな人がご飯を食べに来たりする。食べに来る人も周りに言いふらさない様で、お客さんがめっちゃくちゃ増えててんてこ舞いになったりする事も無い。
ただし、リレッサとティアが朝に販売しているサンドイッチは別。アレに関しては普通に争奪戦になり、最近は一瞬で売り切れる。なのでティアにしてもリレッサにしても昼前には片付け終わり、宿を手伝っている。
あとは宿で提供しているパンなどはリレッサがローウェンテニアの技術を提供したのでめっちゃ柔らかくなっている。
今はおやっさんの宿だけだが将来的には近所の宿も巻き込むとかなんとか。
そんな感じなので高級な料理店より安くて美味い店に仕上がっているのがおやっさんの宿なのだ。
「最近、ルインエルデの発展が凄まじいからあんまり王都に来る意味ないにゃー」
「フェリスロステ様のお陰でルインエルデからも行けるダンジョンは増えたが、冒険者の上位勢は王都に拠点が多いし、武具の手入れは圧倒的に王都が上だからまだまだ来る事は多いだろ」
「逆に言うたらそれだけやしなー。まぁ言うてもカオドラとか天使に攻め込まれて、住むのが無理になった連中はルインエルデに行ったし闘える奴は王都に出て来たって感じやしな。天使の国から流れて来た冒険者も強い奴は王都におるしな」
「二極化しつつはあるな。王都は力、ルインエルデは住みやすさというようにな」
「錬金術師はだいたい王都から出たにゃ。研究所とかもルインエルデにあるしガロ婆もいるにゃ」
「そうそれ! フウコウさん。錬金術師の人達が変な物作ってて臭いって苦情出てたよ!」
「無理にゃ。錬金術師は賢い馬鹿だから人の言葉は届かないにゃ」
「その辺は騎士か聖騎士に言うか……よっぽどの時はラシアに頼んで更地でええんとちゃうか?」
「余程の時は注意ぐらいはするかも知れませんけど流石に更地にはしませんよ」
皆が言うように王都やルインエルデというよりもこの国や隣国を含めて最近は本当に動きが多い。
今も話に出ていたが、隣国から流れてくる人もいれば向かう人もいる。もちろんフェリスロステの妖精の国に行く人もいれば人間の国に戻る人もいる。
基本的に妖精の国には闘える人物は必要無く、何かを作ったりする人が好まれる。まー地星のダンジョンから出てきた妖精はレベルにして八十オーバーなので、そんじょそこらの野良モンスターや夜盗では相手にならない。行った所でそういう食い扶持が無いので、仕方ないと言えば仕方がない。
これから先、この国や他国がどうなっていくかはラシアには分からないが……それでも停滞せずに動いている事は良いことだなーと思っているとようやく目的のティーガー宅へとたどり着いた。
前と同じ様に門兵にびびられながら中へ入っていくと、ロディーも帰って来ている様だった。
そして準備ができたとの事で使用人がラシアを呼びに来た。皆で行こうとすると、そこで待ったがかかった。
「ロディー様が言うにはとても重要な話となりますのでお話しするのはラシア様だけにして頂きたいとの事です」
「って事はちゃんと見つかったという事ですか?」
「申し訳ありませんが……私はそこまで聞かされていません」
「という事は私が聞いても駄目な話の様ですね。ラシア、行って来なさい。きっと深淵のダンジョンは見つかってその上で何かがあり、表には出せないという事でしょうから」
「姫様……そんな事を言われたら身構えますからね」
「ほんだらウチの部屋で遊んどくさかいに終わったらメイドにでも案内してもうて」
そう言ってティーガーを先頭に皆は別の方向に歩いて行ったので、ラシアはメイドに行きましょうと言ってロディーの元へと向かった。
そしてロディーの部屋へとたどり着きメイドがノックすると中から返事があったので、ラシアは中へと入っていった。
「ラシア隊長いらっしゃい! ご飯行ってきたらしいけど美味しかったです?」
「それなりにって感じですね」
「なるほど。牛負けたってやつですな。ほんだら真面目な話なのでこっちで話しましょうか」
はいと返事をしながらラシアは考える。牛負けたってなんだろう……だが「美味しかった」が「うまかった」で「馬勝った」だから、「美味しくなかった」は「牛負けた」になるんだろう。そう思うと、たまに変な事を言うのはゲームの時と変わらないなーと思い、ラシアは隣の部屋に入っていった。
隣の部屋に入るとロディーが飲み物を用意してくれていて、王家のサインが入った書類なども用意してくれていた。
そしてその飲み物を飲んでから話が始まった。
「まずは……隊長の言っていた深淵のダンジョンですけども、ありました」
それに関しては無い方がおかしいので、だろうなーという感じでラシアは頷いた。
そしてロディーは深淵のダンジョンについて話を続けるが、先に言っておく事としてはもう入れないダンジョンとの事だ。
そのダンジョンが見つかったのは先々代国王の時代だったという。この王都から馬車で約二週間ほどの所にあった廃村の井戸の中に急に現れたとの事だった。
そしてその時代の国王が何人もの騎士や聖騎士、冒険者を送り込み調査したが誰一人として戻ってくる事は無かったとの事だ。
「精鋭ばっかりやったのに全滅して、これは危険やから破壊して封印しようかと当時の国の偉い人が言うたんです。破壊してその廃村の井戸ごと埋めて、廃村も綺麗に焼き払ったのが表向きの話になります」
「表向きって……またそんなにもったいぶって」
「いや、深淵のダンジョンの情報は大公も知らんぐらい厳重に扱われていて、国王専用の保管庫に残してあっただけです。かなりの話です」
「へぇー。前に聞いた時は知らないって言ってたのは本当だったのか。絶対に嘘ついてると思ってたのに」
「アイツはそういう奴ですからね。ほんで話は戻りますけども表向きは戻ってきてない騎士や冒険者ですけども……本当はダンジョンから出てきてはいたとの事です」
初めにそれを見つけた者達は、それがとても歪で何なのか分からなかったそうだ。ただよく見れば何処かに人のパーツがあり人だという事が分かった。
そしてそれはその騎士達を襲い始め……ものの数分で新たに廃村に送り込まれた精鋭達を倒したとの事だった。
「この辺は国の歴史にもあるんですが、国境付近で大きな小競り合いがあってかなりの死者を出したとか載ってます。最後はそのモンスターも全部倒されたって話ですけどね」
「それって、黒いスライムみたいな奴に人の手とか足とか心臓とかついてるやつです?」
「それです……てか、さすが隊長。よく知ってますね」
攻略サイトなどはよく見ていたのでそのモンスターは知っている。
スピリットヒューマンとかいう名前で、心が外にあって中に肉体があるとかいうモンスターだったはずだ。
雑魚モンスター扱いだがレベルにして九十台後半になるので……この世界の人からしたら普通に強敵だ。
「ほんで国の総力戦みたいな感じでそいつらを討伐したんやけども……なんかそのポータルが勝手に動き出して、なんかヤバそうなのが出てきそうやったんです。そんときの騎士団長が危なそうやからと徹底的に破壊して埋めたとの事です」
「話だけ聞くとそこまでって思うけど、国がほぼ全軍動かしてってなったから結構やばかったのか」
「勝手に入られてそのスピリットヒューマンでしたっけ? それが勝手に出て来ても困りますからね。ほんで国が箝口令を敷いて今に至るという話です」
「なるほど……てか箝口令まで敷かれてたのによくロディーは見つけましたね」
「それはまー。今の国王がラシア隊長も知っているアトラス様やし、この国としてもローウェンテニアは軽視もできひんし、ラシア隊長に至っては地星、獄炎、天風の超級ダンジョンを死者無し怪我人無しで踏破してますからね。多少のわがままは簡単に通りますよ。しかも普段は何もせずに大人しく騎士の鑑みたいなものですからね」
昼前まで寝ている自分を騎士の鑑と言うのはいかがなものかとは思うが良い方向に勘違いしてくれるのなら別にいいのでラシアは黙っておくことにした。
「私が調べて分かる範囲はそれぐらいの事ですね。もっと探せば出てくるかと思います。その廃村の跡を探せば分かるかも知れませんけど、破壊した上に埋められてるので見つけた所でって言うのはありますね」
王都のポータルから繋がっていて楽に入れるならそれに越した事はなかったが……当初の予定通りにフェリスロステに魔石を使ってもらって無理矢理入るのが良さそうだ。次は絶冬に行って、聖陽に行った後に深淵に行けとフレディムに言われていた。今まで通りで良いなと思いながら、ラシアは調べてくれたロディーに礼を言った。
「ラシア隊長。国がここまで厳重にするという事はまだ何か危険な事があったということだと思うので行く時はくれぐれもお気をつけて」
「はい。ですから強制的に開けたら向こうから何かが出てくる心配も少ないでしょうからね」
それからしばらく深淵ダンジョンの事などの意見交換をしてラシアはもう一度ロディーに礼を言ってから部屋を後にした。
そして外に待機していたメイドにティーガー達の元まで案内してもらおうと思ったが、何かお客さんが来ているとの事だった。ラシアも話が終わったら応接室に来て欲しいという。
自分を知っている人は殆どいないので誰だろうと思いながら、メイドについて行き、応接室へ辿り着くとそこにはティーガー達と話をしている掘削令嬢がいた。