応接室でティーガー達と話しているのは掘削令嬢だ。前の食事会で揉めて話をややこしくした人その二かその一かその三だ。
もちろんラシア自身もその中に入っているし、エリゼ嬢も入っている。
あれだけの事があったので「自分は無関係です」とは口が裂けても言えるものではない。
そんな令嬢が何の用事でここに来たのかなーとは思う。変にいちゃもんをつけられたら本当に面倒くさいなと思っていると近くにいたパルサーに笑われた。
「思っている事はなんとなく分かるが……侯爵家の令嬢だからな。ラシアが王女直属の騎士といえどもあまり顔には出さない方がいいぞ」
「え? そんなに顔に出てました?」
「うわっ……ダルっぐらいの感じは出てたにゃ」
「じゃあ違うので大丈夫ですね。そんな事思っていないので」
「なんかラシって感じやな~。まぁその辺はええか。ラシにお客さんやで、というよりもLLLに依頼って感じやな」
それだったら冒険者ギルドに依頼を出せば良いと思うが、出したら出したでラシアが断るので直接来たのかなーとラシアは思う。
一応はLLLも指名依頼などがあれば受けているが、それはグオンが昔から付き合いのある商人とか貴族の依頼のみだ。基本的に新規などは紹介が無ければ受け付けていない。
なぜなら簡単な話で、ラシアが人と話をしたくないのもあるし、クランメンバーと狩りに行けばラシアの知識のお陰で依頼を受けるよりも稼げたりするので、あまり依頼を受けに行く理由が無いのだ。
ただ付き合いなどもあったりそういうツテを作ったりしないといけないので、メンバーが個人で受けたり誰かの依頼について行ったりはよくしている。
そんな事を考えていると、掘削令嬢が立ち上がり丁寧に頭を下げてラシアに挨拶をした。
「お久しぶりですラシア様。今日はこの私、リドル・エンブレントが謝罪と一つのご依頼にやってまいりました」
ラシアが心の中でえー……と思っていると、ティーガーが少し補足して教えてくれた。
エンブレント家はデルパロア家と敵対関係とまでは言わないが基本的に仲が悪い。ただティーガーの家とエンブレント家はそれなりに付き合いがあるので、今みたいな感じで仲介を頼まれたりするとの事だ。
そしてラシアはリドルから食事会での謝罪を受け、さらに謝罪が遅くなった事も謝られたので自分も大人げなかったと謝った。
そしてそのついでに少し気になった事をティーガーに質問する。
「あれ? でもティーガーさんってデルパロア家と仲良しですよね?」
「んや。大公個人と話するぐらいで家同士仲良しかと言われたらそうでもないで。家の付き合いやったらエンブレント家の方が仲良しちゃうかな?」
「基本的に騎士や聖騎士は何処に対しても建前だけは中立となっているからな。ウチの父さんが騎士団長だがデルパロア様とは仲が良いからな」
「なるほど」
無茶を言われたら断るしかないが……まずは話を聞いてみないと話にならないので、ラシアもリドルに挨拶をしてから席に着いた。
そしてリドルから詳しく話を聞くと簡単に言えば、ある街で仕事があるので護衛をして欲しいとの事だった。
「護衛ですか?」
「はい。ですが護衛と言いましても正確にはLLLとしてついてきてもらえるだけで大丈夫ですわ。エンブレント家からも幾人もの護衛が出ますし、フェリスロステ様に王都からその街までポータルを繋いでもらえる事になっていますわ」
「LLLが出ないと駄目なほど危ない国なら……他の人に任した方が良いような気はします。モンスターを倒したりするのは得意ですけども護衛は得意ではないので」
ラシアがそう言うと、ティーガーがその辺を説明してくれた。
「ラシの次の目的地は絶冬やったろ? ほんでドリルが向かう国が絶冬に繋がるポータルをもっとる国って事や」
「リドルですわ!」
「ちょっと間違えただけやんけ。気にしたらあかん。ほんで何の交渉をするかまではウチも知らんけど、その交渉を有利にするのにラシア達LLLについてきてって話やな」
「もの凄く政治的な匂いがしますが?」
「そらまー。貴族様が動く=政治みたいなもんやからしゃあないな」
で、どうしてラシアが絶冬に行くのが分かっているのかというと、三つの超級ダンジョンを踏破しているからだ。周りの者達には全ての超級ダンジョンを踏破すると思われているとの事だ。
「でも次は聖陽に行くとなっていたらどうしたんですか?」
「それに関しては他国との交渉ではありますが、急ぎではありませんのでラシア様が絶冬に行く時に合わせられますわ。フェリスロステ様にもお話は通してあります」
その話を聞いてラシアが依頼を避けたいと思うのは……面倒くさいとかではなく、何か揉め事が起きた時に国に出てもらう事になるからだ。
冒険者は好き勝手やっているというイメージがあるかも知れないが、ギルドを通しているしちゃんと国の管轄になる。だから形だけとはいえ他国で護衛をして、他国の人と何かあって補償や賠償の話になった時に国に迷惑がかかるのが嫌なのだ。
だからこれは冒険者になって慣れて来て分かった事だが、他国に入国してそこのダンジョンに行こうと言う人はほぼいない。何かあった時に本当に大変だからだ。
そうじゃない国もあるが王都のルールではそうなのだ。
だから他国のダンジョンの調査となると騎士や聖騎士が行く事が多いとの事だ。場所によったらモンスターに詳しい冒険者も同行するという。
ちなみにラシアは絶冬にどう行こうかと考えていた時、ちゃんと手続きを踏んで行くつもりだった。ただフェリスロステがいるので、後で何を言われるか分からないがこそっと絶冬に繋いでもらおうと考えていた。
うーんとラシアが悩んでいると騎士と聖騎士であるティーガーとパルサーが意見をくれた。
「少しキツい言い方になるが……断るなら断っていい。ドリルは交渉と言っているが……要は力を見せつける事だからな。あちらの国もダンジョンの探索には力を入れてはいるが超級ダンジョンの踏破などはやっていない」
「まー簡単に言うたらラシが絶冬を踏破してウチの国はできますけど? そちらさんは? って感じの状況を作りたいって感じやな。敵国では無いし同盟国やけどもどっちが上かだけははっきりさせておきたい感じやな」
「うぐっ……そっ、そうですけど、そこまで悪い意味合いでもありませんわ! ちゃんと同盟国からの絶冬の調査という話もありますわ!」
「そこは言わしてもらうけど、超級ダンジョンなんか何処でもそうやで? 並の人間にはいかれへんだけやから調査が進んでへんねん」
「まーこないだ、獄炎にいましたけどね」
「蟹と戦っとったな! ウチもびっくりやったわ!」
そういう事があるので、踏破は無理だとしても国の精鋭達が調査もできないとか言い出すと絶対に何かあると勘ぐってしまうのだ。
ただまぁ……絶冬に関してはダンジョンの中でもかなり特殊なのを知っているラシアからすれば、分からない話でもないのだが……う~んという感じだ。
そんな感じでラシアが悩んでいると、リレッサがリドルとラシアに話し始める。行く行かないを決める前に問題があるというのだ。
それはその依頼を受けた場合の報酬の話となる。金額に関してもラシアはXランクなので凄い額になるが、一番の問題はラシアが欲しがる物を出せるかという話だ。
「ラシアは大変な依頼を受けてまでお金が欲しいですか?」
「……特に困ってないのでいらないです」
「そうなって来ると依頼を受けずにLLLだけで行った方が楽という話になってきます」
「でっ、でしたら、エンブレント家からお金の代わりになるようなアイテムや宝石などはどうでしょうか!?」
「ラシア。持っていたらで良いのですが金銭的な価値が高そうな宝石などは持っていますか? あれば少し出してもらえればと」
その辺に関してはアイテムバッグに売れない物として置いてあった換金アイテムの宝石などがあったので、ラシアはアイテムバッグに手を突っ込んでそれを取り出す。
それはダイヤモンドの様な加工がされているが、宝石の中に空が丸ごと閉じ込められた様に青い。どういう理屈かは知らないが雲が流れ、小さな太陽も映っている宝石だった。
「うわっめっちゃ綺麗やな! これなんていうん?」
「空の宝石。ブルーワールドダイヤですか……前から思っていましたが、ラシアは色々持ってますね」
「え? 姫様これ知っているんですか?」
「知ってますよ。ローウェンテニアでは加工できるようになりましたが……一世紀前の他国なら国の宝とまで言われた宝石ですよ」
「へー……そうなんですね」
「にゃんで出したおみゃーが知らないにゃ……」
「ラシアさん。そういうアイテム多いから。私が借りてるローブもラシア共和国連合の国宝って言ってた!」
「ラシア様は他国の王族でしたの!?」
「違いますけど!?」
「そうなってくると……こういうアイテムをポンポン持ってるラシアが欲しがるような物を用意できるかという話になってくる。代わりに名声を与えるにしても王女直属の騎士だし、この世界で考えてもXランクだ。本人が望めばZランクにもなれるし、父さんからは『騎士団長やらないか?』とも言われている」
「……ラシア様はこういう物をたくさんお持ちですの? というかマジですの?」
驚きすぎてそろそろ素が出てきたんだろうなーと少し面白くなり、ラシアはアイテムをバッグに仕舞いながら頷く。
「ちゅうても……今のエンブレント家は前ほど元気もないからそこまで金は出されへんとは思う。この依頼かて後がない訳では無いけど失敗したら他の貴族には舐められるやろな」
「そうなんですか?」
その辺をティーガーに尋ねると、あの食事会の失敗が尾を引いているとの事だ。デルパロア家の様に「死んだら仕方がない」という様な貴族でもないので、亡くなった冒険者や騎士や聖騎士の家族に補償を支払ったりした結果との事だ。
「結構亡くなったのと腕の立つ連中がこぞっておらんなったから難しい依頼とかでけへん様になったのが痛いな。そら他にも人はおるやろうけど人が育つのには時間かかるしな」
「ティーガーさん。詳しいですね」
「有名な話やしな。今の所はどうなるか分からんけども……このまま続くとエンブレント家は傾くかも知れへんとは言われてるな」
本来なら今日はリドルの父親が来るはずだったとの事だ。だがリドルは食事会での事をラシアに謝罪するのと、自分がしでかした事の責任を取る為に父親に無理を言って代わってもらい、ここへ来たという。
はっきり言って受ける必要は無いが……ラシアもある程度は国の事を勉強している。現状、貴族社会はデルパロア家の一強のような物だがその上でバランスは取れている。侯爵家であるエンブレント家は大公家であるデルパロア家に比べれば周囲への影響力は弱い。それでも貴族社会のバランスが取れているのはエンブレント家があるからだというのも分かっている。
だから……もしエンブレント家が潰れる事があれば……貴族のバランスは崩れ、国は大変な事になるだろうと思う。
その事を考えるのならどうせ絶冬には行くのだから受けても良いとは思うのだが、本当に貴族にはこの世界に来てから大変な目に遭わされている。なので是非お断りしようと思っていると……断られるのが分かったのかリドルが立ち上がりラシアに向かって盛大に頭を下げた。
「ラシア様! エンブレント家から貴女様のお眼鏡にかなう物は出せないかも知れません。それでもエンブレント家は長らくお国の為に戦い尽くしてまいりました。ですのでご助力いただきたいのですわ! この命が欲しいと言うのなら差し出しましょう! 死ねと言うのなら死にましょう! ですからどうぞ何卒!」
切実に言いたいのは、誰も命をくれとも死ねとも一言も言っていないという事だ。ラシアが困って横を見るとティーガーが笑い目で物を言っていた。
(この手のタイプは変な事言うと本気でやるで!)という事だ。そしてラシアもリドルを説得しようとしたが……どう頑張っても無理だった。最後には根負けし、ラシアは依頼を受ける事になった。