いくつかの村を越え、そこで困った事、岩が邪魔とか近くにマウスマンが巣を作り始めたから討伐して欲しいとか、そんな事をこなしながらラシア達は王都に向かって進んでいる。
馬車から眺める風景は平和だが……講習で教官が言っていたよりは街道でのモンスターの遭遇率は高い。今も戦闘が終わった所だ。
戦ったモンスターはクビカミキリ。中型犬ぐらいの大きさの昆虫型のモンスターだ。クレイハウンドよりは強いが単独行動を好むモンスターなのでラシア達の敵では無かった。
モンスターの遭遇率が高いのは宿のおやっさんに聞いていた事も関係あるのかと思って、詳しい事は言わずにベルエドに聞いたが、許容範囲らしい。
季節の変わり目というか、モンスターも生き物なので動く事もあれば動かない事も多いそうだ。
そして今日の昼にはダンジョン都市と王都のちょうど間に位置する都市に入るので、何も起きないことをラシアは祈った。
外を警戒しながらそんな事を思っていると、今日は荷台ではなく馬に乗って警戒しているノアが近づき話しかけてくる。
「もうすぐつきますよ。王都ではないので明日の朝には出るんですけどね」
分かりましたと返事をしてからラシアは少し質問する。これだけ毎日一緒にいればその人の事が少し分かるからだ。
まぁ、一緒に王都に向かっている人達は一名を除きいい人なので話をしていたからと怒られる事もない。その一名も行商のお偉いさんでただのスケベおやじと言うだけの話だ。
「そういえば、自分がなっている職ってどうやってわかるんですか? ノアさんならウィザード。エリエスさんなら魔法使いみたいな感じですが……」
「ラシアさんって妙にくわしいのに妙に知らない事も多いですよね。ギルドは無い所もありますが、神殿に行けばありますね。ダンジョン都市にもあったと思いますがあの女神様が祈ってる像があるところです」
基本的に宿から出なかったラシアがそんな所を知っているはずも無いが、話を合わせて適当にありましたねと答える。
「そこにいって水晶みたいなのに手をかざすと色が変わるのでそれで判断する感じですね。剣士なら赤。魔法使いなら青みたいな感じです」
ゲームでも作りは違うが転職するときは神殿だったのでなるほどとラシアは頷く。
「大きいというか中級とか上級ダンジョンに入れるギルドにはあんまり置いてないですね。ルインエルデにはありますよ。言えば見てくれるので初心者さんが自分の職が分かりやすくなってます」
レベルが上がって転職とかどうするんだ? と考えていると長い間、冒険者をやってると途中で水晶の色が変わり職が変わる事があるそうだ。
「冒険者になった頃は私も魔法使いでしたが今はウィザードですからね。途中で職が変わる冒険者も多いみたいですよ。凄くまれですが剣士職から魔法職になった人もいるみたいですよ」
(……魔法剣士ならいいけど剣士から魔法使いになったらスキルが死ぬな……その辺も自由度が高いからの弊害なんだろうなー)
それから少し進んでいるとゆっくりとだが街道の勾配がキツくなってくる。
ようやく高い坂道を上りきるとダンジョン都市と同じぐらいの都市が見えた。
「あそこが中央都市です。すこし早いのでゆっくりできますね。ダンジョン都市とは違うので色々売ってますよ」
「そうなんですね」と相づちを打つがラシアの場合は宿を探して引きこもるだけだ。
城門を抜けて中へと入る。ダード達もこの町は初めてのようで辺りをキョロキョロとしていた。
そしてベルエドが全員を集めて話をする。
「ここも基本的に自由行動だから好きにしていいぞ。明日の朝にはここに集合だ。夕食はそこの酒場でくえ。ダンジョンはないが外で仕事をしている奴も多いから話を聞くのも面白いぞ。まぁ冒険者なんて荒っぽい奴も多いから喧嘩すんなよ」
「でも喧嘩売られたらどうすんだ?」
「勝てるならやれ。負けるならやめとけ。勝てる相手を見極めるのも一流の冒険者だぞ。と言っても周りに迷惑かかるからな。ヤバそうならささっと憲兵を呼んどけ。」
ラシア以外の冒険者はそれで納得する。
そして解散となりラシアが宿を探しに行こうとすると行商のおやじに話しかけられる。
「ラシアさん!私と一緒の宿に泊まりましょう!貴女なら一晩で三十……いえ四十万セル払いましょう!」
子供ではないので言っている事の意味もわかる。お金の価値も分かる。が……別にお金に困って無いのに何が悲しくてスケベおやじの相手をする意味が分からないのでラシアは断る。
「はぁ……何回も言っているように別にお金に困ってませんし、相手をするつもりもありません。欲求不満なら娼館へ行ってください」
「誰でもいいわけではないんです!ラシアさんがいいんです」
「だからと言って、はい。分かりましたという人はいませんよ」
そこで話を打ち切りラシアはそそくさと宿を探す。
この旅で分かった事は多い。スキルの事もそうだが……ラシアの見た目はかなり整っており綺麗や美しいといわれる女性達の中でも上位に入るそうだ。
だから冒険者などで男性からの視線を感じる時はそういう目で見られてるという事が分かった。
元が男でありゲームのキャラなのでそういうのは全く気にしてなかったが……ダードやビエットがたまに変な所をみる視線があったのでエリエスに尋ねた所、そういう事が発覚した。
「ラシアさん。超美人ですからね!あの二人には強く言っておきます!」
「別に怒ってないから……」
ラシアがゲームの設定と同じ歳なら19歳でエリエスに年齢を聞くと今年で16でダードとビエットは17歳になるそうだ。年頃の男なので仕方ない所だろうと思う。
ラシアから見ても自分の体は整っているし目も髪もとても綺麗だから……ちなみにノアはもう少し若いと思っていたがラシアと同い年だった。
宿はすぐに見つかり空いていたので、通ってきた村に比べると割高だったが部屋を借りる事にした。
「また、えらいべっぴんさんがきたね。こんな宿に泊まらなくても他にあるだろうに」
「いえ。冒険者なので明日には出ますから」
「なんか冒険者やってるのが勿体ないね。この町にはダンジョンは無いけど流通はあるから色々なものがあるから見てくるといいよ」
ありがとうございます。と言って部屋に入りベッドへ飛び込む。土地勘が無いのに迷子になったら大変だから夕食までは部屋から出ないつもりだ。
部屋の窓から外を眺める。建物の作りは少し違うがこの街もダンジョン都市と同じ様に活気があり良い街に思えた。
……
…………
コンコン。
日差しや風が気持ちよくラシアは寝てしまっていた。ドアがノックされたので返事をする。
「ノアです。ベルエドが夕食だから呼んでこいと言ったので来ました」
了解ですと返事をして部屋を出る。借りた宿の事は言ってなかったはずだがその事を尋ねるとラシアが向かった方向にはこの宿しかないので、宿に来てここの女将にいるかいないかを尋ねたそうだ。
プライバシーもないが……こういう世界なので色々と仕方ないとラシアは諦める。
酒場にたどり着くと、酒を飲んでいるのは仕方ないが……皆できあがっていた。エリエスは大丈夫そうだがベルエドもダードも酔っており大きな声で盛り上がっていた。
ラシアはこういう空気が本当に苦手だった。うるさいし絡まれたら何よりうっとうしい。
はぁとラシアは大きくため息をつきノアと共にエリエスの近くに座る。
「おう!ラシア。やっと来たか。明日から少しフィールドが変わるからしっかり食っておけよ」
はいとだけ返事をしてエリエスがついでくれた飲み物を先に飲む。とても甘いジュースの様な飲み物でこの都市の特産のお酒だそうだ。
前の世界ではお酒はほとんど飲まなかったので飲みやすいジュース程度にラシアは飲んでいく。
周りは自分達以外にも様々な人が飲んでいるが、冒険者が多い様に思えた。
この都市周辺の魔物を狩ったりする冒険者なのだろう。ダードやベルエドが酔っ払いながら話を聞いている。
そしてだんだんと……口調が強くなり始める。
「おい。お前らはどこから来たんだ?よそ者なら挨拶しろよ」
「あん?酔っ払いが喧嘩うってるのか?」
「おい。ダードやめとけ。お前が勝てる相手じゃねーぞ。俺なら勝てるが」
「だっそうだ!」
「「「ぎゃはははは!」」」
何というか……飲み屋で喧嘩が始まる前の空気だ。
「……なんか喧嘩はじまりそうですね。ラシアさんどうします?」
「ご飯ぐらい黙って食えよカス共としか言えませんね」
「「はい?」」
普段絶対に言わない事をラシアが言ったのでノアもエリエスも驚きながら声の主の方向を見ると顔も赤くあきらかに酔っていた。
ノアもエリエスも嫌な予感がしたタイミングでダードが殴られ喧嘩が始まった。
「てめぇ!やりやがったな!」
「おう?かかって来いよ雑魚初心者がよ!」
乱闘が始まった。ラシア達の方にもなんか色々飛んで来るが特に気にもせず片手ではたき落としラシアは食事を続ける。
「ノアさん。エリエスさん静かにしているなら守ってあげますので近くにいて良いですよ」
そういってラシアは酒を飲み肉をくらう。
「なんかワイルドですね……」
「ストレス溜まってるんでしょうね……」
そして食事をしていたがとうとうこの街の冒険者に見つかりラシア達は絡まれる。
「おお?えらい美人がいるな俺もまぜてくれよ」
ノアが止める前にその男はラシアの隣に座り胸を触った。
そしてその事に文句を言う前にその男は宙を舞った。
異様な気配が酒場に行き渡り全員が喧嘩をやめる。
気配の出所はラシアだ。静かにこの酒場の店主に話しかける。
「できるだけ壊さないようにしますが……壊れたらこいつらから請求してください」
その気配に店主はコクコクと頷くしかできない。
「あ?クソめんた。お前なに言ってんだ?」
ベルエドと喧嘩をしていた同ランクであろう冒険者がラシアに近づく……
「ぐほっ!?」
変な声と共にラシアのボディーブローが突き刺さり一発で沈んだ。
「おっおい!ラシッ……グボッ!?」
次はベルエドが一撃で沈んだ。
ラシアが叫ぶ。
「食べ物無駄にするな! 黙って喰え! お前ら全員しねっ!!」
一瞬でダードもビエットも沈む。敵も味方も関係ない。冒険者も業者も男も女も……
「エリエス……悪いけど憲兵さん呼んできてくれる?私じゃ止められないから……」
「わっ分かりました!」
喧嘩などではない。歩いて近寄り一発殴るだけ。背後から椅子で殴られようが四、五人の冒険者に抱きつかれようが止まらない。殴って沈めるだけ。
逃げようとする奴だけ目でも追えない速度で回り込み殴るだけ。謝ろうが祈ろうが関係なし。
「すっすまね!俺たちが悪かった!許してくれ!ごぼっ!」
「うっさいボケ!」
「ラシアさん!私です味方です!ごべっ!」
「お前はセクハラおやじだろ!」
酔っ払いことヨッパラシアーはストレス過多でブチ切れているから止まらない。
……
…………
エリエスが憲兵を呼んで戻って来た時は全てが終わっていた。その光景はとても異常だった。
ラシアだけが一人静かに酒を飲み……他全員が店の掃除をしていた。敵、味方問わずだ。
あと、店主の男の機嫌も良い。
「店主。迷惑をかけた。他に掃除させる所があればやらせるが?」
「はっはい。大丈夫です。これだけ綺麗にしてもらえれば大丈夫です」
「うむ。ならいい。酒とつまみの追加を頼む。お前ら!しっかり掃除しろよ!終わったら店の前もやっとけ!」
「「「「はっはい!」」」」
……
…………
そして次の日を迎える。
ラシアはとても頭が痛い。
二日酔いではない。昨日のことを鮮明に記憶しているからだ。
そのあとの記憶はかなり曖昧だが……ラシアに酒は一滴も飲ますなと言う事だけは決まった。