ようやく絶冬のダンジョンに向かう日が来て、ラシア達LLLは準備万全だが……セレットやそのお弟子さん、フウコウの知り合いの錬金術師はくたばっている。
理由は簡単。絶冬に行くには凍結対策として甘酒というアイテムがいるので、それを大量生産してもらった為だ。
少し危険だが今回はLLL全員+αで行く為に、かなりの量の甘酒が必要になる。その為にラシアがお金を出して甘酒の材料になる火炎茸を大量に購入した。
普段は火炎茸がマイナーな料理として出される程度だったので、誰も取りに行っていなかった。そこへラシアが依頼して大量購入したせいで、値段がつり上がるというハプニングもあった。それでも絶冬に余裕を持って挑めるだけの甘酒を大量に作ってもらった結果。
セレット達にしわ寄せが来たという話だ。
「私……ここまで続けて錬金したのって人生で初めてかも知れない。絶対に修行の時より多いと思うわ」
「ありがとうございます。それで登録とかはどうします? お礼としてセレットさんの名前で登録でもいいですよ?」
「ラシアちゃん。こういう消耗品系って登録すると利益がとんでもない事になるから駄目なのよ……高級石鹸と消臭玉で一ヶ月に入ってくるお金を聞きたい?」
「えっ、遠慮します。じゃーすみませんけど私の名前でお願いできますか?」
「わかったわ。登録名はホットドリンクでいい?」
「絶対に駄目です。甘酒です甘酒」
「お酒でもないし甘くもない……体が温まる液体を甘酒って呼ぶのはどうなのって私は思うんだけど……」
「錬金できない錬金術師もいるので大丈夫です」
ラシアがそう言うとセレットは窓の外にいるフウコウを見てクスッと笑い納得してくれた。
そしてラシアは近くにいるティアの頭を撫でて礼を言う。それはティアが妖精のポーチから当てた課金アイテムの太陽神の腕輪を借りたからだ。
モンスターがどうこうよりも絶冬のフィールド凍結の対策をしておかないと本当に何があるか分からない。だから何かがあった時でもラシアだけは確実に動ける様にしておく必要がある。動ければ撤退する事も可能だからだ。
「ティアちゃん。壊れる事はないと思うけどもしもの時は頑張って弁償するから許してね」
「うん。大丈夫! というかその腕輪欲しかったらラシアさんにあげるよ?」
その言葉に流石のラシアも心を揺さぶられるが……こういうアイテムはティアの財産なのだ。いつか本当に困った事があったら売れば良い。奪われる事もあるかもしれないが、このアイテムがある事で助かる場面は確実にあるはずだ。だからこの太陽神の腕輪はティアが持っておかないと駄目なのだ。
「ティアちゃんありがとう。でもこの腕輪はティアちゃんが持ってて。きっと大人になった時に役に立つと思うからね。だけど、次とその次のダンジョンに行く時も貸してね。無いとしんどくなるから」
「うん。わかった! いつでも言ってね」
「ラシアちゃんが欲しがるほどの腕輪なんだから……本当に凄い腕輪よね。確かその立派な鎧より価値があるのよね?」
「鎧と腕輪なので一概にはそうは言えませんけど……総額で計算しても私の一張羅よりも上ですね」
「……そんな物を誰が買えるのって話になるんだけど、まぁ普通の宿にそんな物があるって誰も思わないからいいか」
「ほんとそうですよね」とラシアは笑ってもう一度ティアの頭を撫でた。二人に「行ってきます」と言い、厨房にいるおやっさんにも声をかけた後に宿を出る。
外に出ると全員の準備が終わっており、装備の最終チェックをしてからルインエルデの冒険者ギルドのポータルを抜けて王都へと向かった。
ポータルを抜けて王都の冒険者ギルドに到着すると、本日はめっちゃ人が少ない。フェリスロステに王都から目的の国までポータルを繋いでもらう事になっている。その際に何かあっては駄目なので、エンブレント家と騎士団、聖騎士、龍騎兵団が人払いしているのだ。だから冒険者が殆どいない。
そして待っていたリドルやエンブレント家の従者達と先に挨拶を交わして、本日同行するメンバーと合流だ。
と言ってもいつものメンバーだ。フウコウはルインエルデから一緒にいるので、ここで合流するのはティーガー、パルサー、ラオメ、レクトアの四人となる。
この四人は騎士や聖騎士なので国同士のやりとりになっても信用がある。また後の事も考えて、絶冬のダンジョンにどんなモンスターがいてどういうアイテムなどを落とすのか、その記録を残す役割も担っている。
四人ともラシアと会話できる数少ない騎士と聖騎士だ。他の騎士や聖騎士が行きたいと言ってもラシアが嫌がるので無理だし、この四人は遊撃、前衛、タンク、支援と本当にバランスが良いのだ。
他にはアトラスやヘッジもラシアと話せる人間だが、アトラスは国王になってしまったのでダンジョンなんか行けるはずがない。ヘッジに関してはアトラスに「お前ばかり良い思いはさせん」と国王専属の護衛に選ばれてしまったのであんまりダンジョンに行けないとの事だ。
あまりここで長話していても悪いのだがラシアはフェリスロステに質問する。どうしてこの依頼を受けたのかだ。
人と妖精はいろいろあったが、フェリスロステが人間を毛嫌いしているとは思わない。それでも善意でする様なタイプではないからだ。
「それはもちろんラシアと同じですよ」
「リドルさんに泣きつかれたとか?」
「ラシア様!」
驚くリドルを見てフェリスロステはクスッと笑って答える。先の事を考えてこの依頼を受けたのだという話だった。
地星にある妖精の国だと気候の変化が殆ど無い。だがダンジョンの外では気候の変化があり新しい妖精の国でも気温が下がり始めたとの事だ。
今回の冬は人も少ないので問題なく乗り越えられるが、新しくできた国故にそういう気候の変化に対する知識が無い。だからフェリスロステがエンブレント家に求めた物は冬に備える知識だ。
今回行くのは白の国・ホワイトヘズと呼ばれる国で一年の三分の一は雪に覆われている。そこで書物や奴隷や移住者などを探すよう、エンブレント家に求めたのだ。
「新しく生まれた妖精達がどう寒さを乗り越えるかという問題もあります。ですから先を見据えてといった感じですね。それにこれぐらいの簡単な事ができないというのなら、この先はエンブレント家との付き合いを考える必要も出てきますからね」
「がっ、頑張りますわ」
めっちゃ責任重大じゃね? とラシアは思うが、妖精の国も既に動き始めている。その女王陛下に頼むのだからそれはそうかという話だ。ここにフェリスロステがいる時点でかなり凄い事だと思う。
「ううん? でもフェリスロステはたまにおやっさんの宿に遊びに来てません?」
「私も妖精ですからね。気分転換ぐらいしますよ」
密入国になるんじゃね? とラシアは思うが……転移魔法を扱う魔法のエキスパートであるフェリスロステなのだから、誰にも止められないという事だけは分かった。
そして帰りだが、ゲートポータルを使用して帰って来いとの話だった。
「繋いでおいても良いですが、こちらが行ける=向こうもこちらに来られますからね。何も無いなら閉じておく方が無難ですよ」
「流石にテロみたいな事はしないと思いますよ」
「あった時に面白くないですよ。ラシアもこちらに気を取られて超級ダンジョンに挑むのは嫌でしょう?」
「まぁ確かに」
「そういう訳ですから気をつけて行って来なさい。つまらない怪我などはしないように」
みたいな事を言われたのでお母さんかなと思うのだが、そんな事を言おうものなら怒られそうなのでラシアは礼だけ伝えた。
そして王都で合流した者達の装備や持ち物も最終チェックしてから、フェリスロステにポータルを繋いでもらいラシア達は白の国へと向かった。
ポータルを抜けると……空気というか気候が変わった。出たのは建物の中で、周囲には王都で言う所の騎士や聖騎士みたいな人達がいる。暖かく感じるが周りを見渡すと暖炉などに薪がくべられており、火による独特の暖かさだ。
友好国というだけあって周りにいる者達も警戒はしているが、突き刺さる様な気配はしていない。
そして全員がポータルを抜け終わるとリドルが前に出て挨拶をした。この国の偉い人らしき人物が出てきて、お互いに穏やかな感じで挨拶をすませた。
そしてラシアはこのまま絶冬に突入してぱぱーっと踏破したら良いのかなーと思っていると、そんな訳はなく……一度、このホワイトヘズの王城に全員で出向いて欲しいとの事だった。
心の中でえぇーと思っていると隣にいたパルサーから肘で突かれた後に「声に出すなよ」と注意されてしまった。
フルフェイスのヘルムなどで顔は見えず声も出していないはずなのに……と思うが、こういう想定外の事は元の世界で働いていた時にも本当に多かったので仕方ないとラシアは諦める。
そして外に出ると雪が降っており、真っ白な世界が広がっていたが……雪の下にモンスターの気配があるのでラシアはリドルに少し待ったをかけた。
「流石は超級のダンジョンを幾つも踏破している冒険者様ですな。これぐらいは気がつきますか。ですがご安心ください。これはテイマーが飼い慣らした移動用のモンスターです」
男がそう言うと近くにいたテイマーであろう者達が笛のような物を吹き、雪の中から平べったく大きな白いモンスターが何匹も現れた。
「雪エイか」
「博識ですな。まさにその通りでございます。この国は雪が多い国ですから雪の上を移動するにはもってこいのモンスターなのです。これに乗り王城へ行きましょう」
そう言って男は雪エイに乗ったのでラシア達も分かれて雪エイに乗る。
「ラシア。これは乗って大丈夫なのか?」
「速度は速いし毒を持ってますけど……そこまで強いモンスターでもないので大丈夫ですよ。ウルフマンの方が強いですしね」
「なるほど、だったら大丈夫だな」
そして全員が乗り込み、雪エイは雪のような白い城に向かって飛ぶように走り始めた。