雪エイに乗って少し走り、王城にたどり着いた感想だが……絶冬のダンジョンに行く前でよかった! という感じだ。
まず良かった事から言うのなら、ラシアがティアから借りた太陽神の腕輪のお陰で全く寒くない。
ラシアが着ている聖銀鋼の鎧には寒さへの耐性がない。それなのに兜を取っても寒くなかったので、これは本当にありがたい誤算だ。
ノアも炎系統の魔法使いだからなのか、つららができている様な場所なのに肌寒いかなーという程度で済んでいる。貸してあるローブの影響もあり普段と同じ様に動ける。
逆に全然駄目なのが……フウコウとパルサーだ。パルサーは気合いで耐えているのか、寒さに慣れていないのかカタカタと震えている。フウコウに至っては鼻水も凍り、まともに動ける様な状況ではない。
リレッサ、レクトア、パドロワの支援組もなんとかなっているが、他のメンバーも寒さで動きが鈍い。
「グオンは、毛ーないけど頭さむないん?」
「……ティーガー。人を禿げてるみたいに言うが剃ってるだけだからな。というかお前もドラゴンに乗ってるんだから寒くないのはわかるだろうが!」
「ハゲてる奴はだいたいそう言うんよな! ドラゴンによって違いあるんかなーっと」
ティーガーとグオンは竜に乗ってるのでお互いに冗談を言える程に仲が良かったりもする。で、今の話にもあったように降りている時は別だが、竜に乗っている間はティーガーもグオンも普通に元気だ。竜の体温が高いからなのか、気温の変化に対する耐性があるのかは分からない。
後でパルサーとフウコウの寒さ対策を考えないと絶冬は無理だなとラシアは思う。それが先に分かったのは良かったなと思っていると白い大きな門が開かれて皆が中へと入っていく。
そして城の中に入るととても暖かく、外の寒さが嘘の様だった。
「あっ、暖かいにゃ~」
「いっ、生き返るな」
そして使用人に案内され、リドルを先頭に謁見の間へと進んで行く。城の中は本当に暖かく、その辺りを尋ねると魔石を使って魔力を循環させて暖かく保っているそうだ。この世界特有の技術だという。
その辺は国が変われば魔法も技術も変わるのが面白い所だなとラシアは思う。
「王都とかルインエルデってそういう国の特性みたいな技術って何かあるんですか?」
「あるで。この中やと……ラシが一番恩恵もらっとんちゃうかな?」
そんな恩恵もらってる事ってあったのかなーとラシアは思い出しながら答える。
「ご飯が美味しい?」
「おやっさんのご飯美味しいもんな! やけど正解は建築とか建物補修とか全般やな。その辺は昔から戦いが多くてすぐに直さな話にならんから進化していったって話やな」
「へー。他の国でもあんな感じかと思ってましたがそうでもないんですね……というかおやっさんにも言いましたが、人がしょっちゅう宿壊してるみたいな事言わないでください」
「倍から建築速度違うって話やけども……けっこう壊してるって話聞くよな?」
ティーガーの言葉に身内全員が頷くのはやめろとラシアが思っていると、ようやく目的の場所に着いたようで扉が開けられ中へ入っていく。
中に入ると敵対している様な視線は感じられず、リドルが言っていた様に友好国だというのが分かった。
中には国王やなんか偉い感じの人がいっぱいいるが、国同士のやりとりや政治の事などは本当に分からないのでその辺はリドル達、エンブレント家の者達に任せる。
ラシアも何かあった時の為にリレッサやパルサーから謁見の作法などを習い、合格はもらっているので失礼は無いと思いたい。
話し合いには笑顔もあり穏やかに思えるのだが……何かこう強者というかモンスターの気配がラシアのセンサーに引っかかっている。
それは勘違いでもないのでパルサーもいつでも戦いに入れる様に準備はしているし、フウコウもキョロキョロしている。
「……もしかして誰かがドッペルゲンガーとかですかね?」
「そういう感じではないな。なんというか敵意の無いモンスターという感じだ」
「にゃんか……近くにキングがいるみたいな感じにゃ」
たぶん今頃はルインエルデの公園でコアラ焼きを売っているんだろうなーと皆が同じ想像をしていると、ようやくその気配の主が分かった。
この国の王が手を叩くと、昔からこの国の為に働いてくれているという者が奥の扉から現れた。
真っ白な雪より白い長い髪が特徴の美しい女性で、青白いドレスに身を包んでいる。
流石に相談役と国王が言ったので何もしないが……ラシアもリレッサもいつでも戦闘に入れる様にはする。
その者は女の子モンスターの白蛇様(ちゃん)だ。巫女服からドレスに着替えてはいるが、白蛇様の特徴である二匹の白い蛇が両腕に絡みついているので分かりやすい。
「……感覚的にだがカグヤと同じぐらいのモンスターか?」
ラオメもいつでも戦闘に入れる様に準備はしているが、騎士団にいるテイマーが使役しているカグヤちゃんDXと強さを比べている様だった。
「総合的な強さは同じぐらいですが……ああ見えて空中戦が得意なので上を取って魔法をぶっぱしてきますよ」
「先ほどの雪エイもそうだが……資源が乏しい分、モンスターを使役し国を強化しているのだろうな」
レベルにして確か九五とかはあったはずだ。それほどのモンスターを使役できるテイマーがいたのは凄い事だとラシアが思っていると、その白蛇様が挨拶をしにラシア達の元にやってきた。
街の中なら問答無用で逃げるのだが……流石のラシアも城の中で逃げる事はできないので色々と諦める。
「初めまして、騎士、聖騎士、冒険者の皆様。私はこのホワイトヘズの相談役を務めさせてもらっているシロと言います。見ての通り……モンスターではありますが、皆さん思ったより落ち着かれていますよね?」
この辺はどう答えて良いのか本当に悩むが……慣れているとはとても言いにくいのだ。ティーガーやパルサーにしても騎士団にはカグヤちゃんDXがいるし、そもそもおやっさんの宿に行けば妖精にコアラに土偶に埴輪が喋るのだ。
まぁはっきり言ってしまえば両腕に蛇が巻き付いてる女の子モンスターが流暢に喋った所でインパクトは無いに等しいのだ。
ただ、友好国ではあるがその辺も国の情報だし、街中でコアラが食べ物を売っている事にどう反応するかも分からない。ラシアが悩んでいると、こういうやりとりに慣れているラオメとレクトアの二人が話し始めた。
余計な事は言わずに、騎士団でも試験的にだがモンスターの使役を始めており、もう少し幅を広げるとかそういう当たり障りの無い話をしている。
そして話は進んでいき、レクトアがシロに話を振った。どういった感じで出てきたのか、その経緯を聞く流れになった。
シロがテイムされ出てきたのは今よりだいたい百年ほど前で、その時は今より弱いモンスターだったが時間をかけて進化してこの姿になったとの事だった。
ちなみにこの国ホワイトヘズからは様々なダンジョンに繋がっている。その中でも有名なのはもちろん絶冬だが、その次に有名なダンジョンは九十九ダンジョンになるらしい。
そのダンジョンはいわばなんちゃって和風ダンジョンで、モンスターというか妖怪が出てくる。他のダンジョンと比べて一番深く、九十九階層もあるので時間がかかりすぎる。だから踏破はしない。
強さは上級ダンジョンの真ん中ぐらいで、九禁狸やダイタイボッチやガチャドクロといった妖怪に似たモンスターが多いのが特徴だ。そこに白蛇様も出てくるといった感じで、その九十九ダンジョンから出てきたのがシロとの事だ。
ヘビマン→青大将→白ヘビマン→ダイコンオロチ→白蛇様(ちゃん)となるので、青大将か白ヘビマン辺りでテイムして昔の人はシロを連れ出したのかなーとラシアは思う。
そして話は続き今回の依頼の話になったのだが……このホワイトヘズ周辺のモンスターが強くなり始めてきたという。そこで資源を得られる場所を増やす為に、絶冬の調査をお願いしたとの事だった。
「なるほど、兵士は戦うのが得意ですが、この国の民の様に木や食料といった資源を取るのは得意では無いという事ですか」
「はい。特に冬になれば寒さに強いモンスター達が活性化しますので、迂闊に森の中に入れません。絶冬のダンジョンの浅場でも何か取れる物があればと思いまして。あとやはり高位のダンジョンの魔石になれば価格も燃料としての価値も上がりますので」
ラシア的には分かる話なのだが……それならシロが行けばいいんじゃね? と思う。白蛇様は両腕の二匹の蛇に魔力を流してプラズマ化して空中からぶっ放してくるし普通に強い。踏破はできなくても一階層、二階層ぐらいは調べられるんじゃね? と思っているとシロが恥ずかしそうに言った。
「その……蛇のモンスターなので寒い所にはとても弱く、冬はこの城から出るとまともに行動できないんですよ」
確かに蛇は変温動物だったなとラシアは納得する。
そして一通り話を聞き、ティーガーやリレッサにも聞いたが特に怪しい事も無く、本当に友好国としての調査の依頼だった。後のやりとりはリドルに任せてラシアはまた雪エイに乗って冒険者ギルドへと向かい、最終的な装備の点検をする。
「パルサーさんとフウコウさん。寒さ対策でモコモコフードとネコモフマフラーどっちがいいです?」
寒さ対策で出した物なのに何言ってんだこいつは? という様な顔をされた。そんな顔をしなくてもいいとは思うのだが、れっきとした寒さ対策の装備だ。確か去年の冬のイベントで来たアイテムで、どちらも凍結や氷魔法に対する耐性が強いので作った装備だ。
「フウコウさんは耳があるのでフードの方は被りにくいと思うんですが、マフラーでいいですか?」
「にゃ……暖かくて良さそうとは思うんにゃけど……にゃんでこんにゃ気が抜ける様な顔が描かれているにゃ……このマフラーは……」
「ラシアさんこれ可愛い!」
「これ何処で買えるんですか!?」
「ラシア様、これ後で売ってもらえませんか?」
みたいな感じで、ノア、エリエス、レクトアにはとても好評だ。
「にゃー……まぁ温かったらこれでいいにゃー」みたいな感じで文句を言いながら装備してみると一瞬で寒さが消え虜になっていた。
そして……後はパルサーだが、めちゃめちゃ抵抗している。まぁモコモコフードはピンクの生地にモコモコの白い綿みたいなのがついてるので……。
「パルサー早く着るにゃ! それも絶対に温かいにゃ!」
「ずぅぇぇぇぇったいに嫌だ!」
「絶対に似合うと思うんやけどなー」
「私は寒さに強い! だから我慢する!」
みたいな感じでしばらくパルサーが抵抗したので、切れたラオメがパルサーとモコモコフードを冒険者ギルドの外に放り出した。
そしてようやく寒さに負けたパルサーがフードを被って帰って来たので、絶冬のダンジョンの踏破へと向かう事になった。