先ほど戦ったマンモスマンもそうだが、この絶冬には寒い所でよく見る様な動物にちなんだモンスターが多く、基本的にそういう奴らばかりだ。
今も多くのペンギンっぽいモンスターに囲まれている。
カァンッ!
「硬っ! なんだこいつ!? 硬すぎて斬れねーぞ!」
「ダードさん達はエリエスさんがマッドフィールドを敷いたら、ティーガーさんに任せて一旦下がってください! こいつらの攻撃力はそれほど高く無いですが速度、防御共に高いので!」
「分かった!」
「いくで! ドラゴンテイル!」
カンッ!
虹竜の一撃も簡単に弾かれ「まじかっ!?」とティーガーは驚く。
今ラシア達が戦っている硬く速いモンスターの群れは、ペンハルコンというモンスターだ。
進化系で見ると名前の由来は分かりやすく、ペンギン→ペンキン→ペンラチナ→ペンスリル→ペンハルコンと金属由来の名前になっている。今戦っているペンハルコンはその最上位となるのでマジで硬い。
「……今思ったんだが、こいつを捕まえて盾に貼り付けておけばいい防具になるんじゃないのか?」
雪の上を弾丸のような速度で飛んでくるペンハルコンを弾きながらそんな事を言っているラオメの声が聞こえる。ラオメも元々はかなり厳格そうな感じの人であったが、このパーティーの雰囲気に馴染んで来たなーとラシアは思う。
だがいくら硬くても、絶冬の一番の敵は環境だ。ラシアの攻撃はまともに通るし、槍で貫通力高めの攻撃ならパルサーの攻撃も十分に通る。そしてノアがフレディムから教えてもらった魔法もかなりの効果があり、油断さえしなければ本当に問題のない相手だ。
そしてようやく全てのペンハルコンを倒し、すぐに出発の準備に取りかかる。
絶冬のダンジョンは全部で十五階層となる。一本道のダンジョンなのだが、階層を降りたり上がったりする訳ではない。氷でできた道というか大きな穴の開いた氷道を通り抜けると次のエリア、階層に行く感じだ。
ラシア達が今いるのは二階層となり、澄んだ青空と真っ白な雪とその辺にいっぱい生えている電信柱より大きな氷の柱が特徴だ。
絶冬はこんな感じのエリアが七階層まで続き八階層からはさらに凶悪さが増す。吹雪となり視界が超絶悪くなるのだ。
ゲームだと凍結対策さえしっかりしていればドロップも経験値も美味いので来る人は多いが、それでも七階層までだ。八階層からはボスや時間湧きのボスを狙うガチ勢が行く様な場所で、デスペナなどを考えると一気に人が減り始めるのだ。
今は戦闘が終わり次に向けての準備なのだが……ここはやはり超級ダンジョン。問題も出てくる。
まずはなんと言っても……甘酒を除く液体系の消耗品アイテムがアイテムバッグから出した瞬間に凍り付き使用不可という事だ。
少し補足になるが回復薬には大きく分けて二種類ある。ラシアが使っている様な丸薬タイプの回復薬とポーションタイプの回復薬だ。
違いは今の所この世界ではあまり感じられないが、丸薬系は数字を刻んで行く様に回復し、ポーションタイプは一気に回復する仕様がある。
どちらも回復薬なので大きな違いは無いが、丸薬タイプは回復している最中にダメージを食らっても、そのダメージの数値もじわっと減っていく。ラシアがこの丸薬タイプを好んで使っているのはその為だ。
それが功を奏したとは言わないが今回に関しては丸薬タイプで良かったなーとラシアは思う。
グオンやエンセトが攻撃力を上げる為のポーションを飲もうとするがそれも駄目だし、試しにノアがMP回復薬(液体)を出したが……全てが凍り付いた。
あとはビエットやゲニツといった弓職が使う、矢に塗って使う毒薬なんかも全滅だ。
「ここは……俺達でもついて行けるから正直、舐めてたけど……普通に終わってるな。モンスターも強いし……」
「ダード……仮に寒くなかったとしてもラシアさんや姫様、騎士、聖騎士のランク以上の人達がこれだけいてようやく進めるのを忘れないでね」
「ほんとですよね……」
なんて事をダード、ビエット、エリエスの三人が言っているが……本当にその通りだ。
まず攻撃や防御云々の前に支援がキツくなる。リレッサは別格で、レクトアとパドロワが支援をしているが……回復薬がほぼ使えないので支援にかかる負担がかなり大きい。
パドロワは殴りもできるので純支援ではないが、レクトアに至っては国の中でもトップクラスの支援職だ。
そんな人が支援をしても追いつかないとなると……普通に踏破なんか無理になってくる。今はリレッサがいてノアの魔法でモンスターのMPを吸収して味方のMPが回復しているから余裕があるだけなのだ。
「毎回ダンジョンに来る度に思うんですけど……どこも支援職って少ないですよね」
そうラシアが隣にいるモコモコパルサーに話しかける。
「これでも王都はまだ多い方だな。ティーガーは使えないが聖騎士は回復魔法だけなら使える者は多いからな。レクトア様やリレッサのように支援がメインとなると本当に少なくなる」
「ここは別やけど、回復アイテムとかで代用きくし、あとなんやかんやで騎士も聖騎士も血の気が多いから殴った方が早いって言う奴ばっかりやしな」
確かにその通りだとは思う。ラオメなら全然分かるが……この二人が怪我人に向かって「お怪我は大丈夫ですか?」みたいな事を言おうものなら、変な物食べたか頭でも打ったのか? とラシアは思う。ティーガーとパルサーの二人を見てラシアは大いに納得した。
「ラシが変な事考えているのはよー分かったわ」
「間違いない」
「一言も声に出していないので明らかに気のせいですね」
そして準備が終わり進んで行く。
まずは踏破が大事だが……ゲームにあったような休憩所が本当にあるかが問題なので、そこが最初の目的地だ。
一階層、二階層にはなく三階層からあるので、三階層にたどり着いたラシアは記憶を頼りに歩いて行く。
そしてようやく雪が積もった大岩か崖の様な場所が見えてきた。遠目ではあったが……穴が開いている様に見えたのでそこが休憩所となる。
休憩できる場所があった事にラシアはほっとするが、ハイシーフのフォルグが敵の接近に気づき手を上げる。
「あねさん。一匹デカいのが来てやすぜ」
寒い所の生き物は大きいものが多いと聞くが、この絶冬も例外ではない。少し離れた場所からラシア達めがけて積もった雪をかき分けて突っ込んできた。
来るのが分かっているなら叩き潰すだけだ。ラシアが前に出て迎撃態勢を取る。
そして突っ込んできた相手に向かってバットでボールを打ち返す様に武器を振るうと、その巨体が姿を現す。
雪の中を泳ぐように襲って来たのはカモンアザラシの進化系である羅生門アザラシだ。
カモンアザラシ→破門アザラシ→羅生門アザラシとなる。破門された事で闇落ちしてこうなったとかなんとか。
カモンアザラシは大丈夫だが、破門アザラシになるとプレイヤーもモンスターも問答無用で襲う修羅となる。その為、破門アザラシがいるダンジョンではこの羅生門アザラシはそこそこ見るので結構有名だったりする。
だが、Mr.フェンリルなんかと比べるとレベルにしても八十台半ばだ。このダンジョンに来るようなプレイヤーなら全く問題ない相手なので、ラシアも吹き飛ばした羅生門アザラシへの追撃にすぐ入る。
少し雪に足を取られるが……太陽神の腕輪と甘酒のお陰で雪の中で動くのにはなんの問題もない。
「ギガンテックハンド! プラティディオンハンマァーー!」
そのまま攻撃を叩き込み、ラシアの勝利となるが……力一杯に武器を振るうと積もった雪が風圧で吹き飛ばされて視界が悪くなる。
こういう所も地味にストレスがかかる要因だなとラシアは思った。
そして舞い上がった雪が収まると……またいつもの様な問題が出てくる。獄炎は溶岩の中に落ちていく。天風は地上に落ちていく。この絶冬は……雪に埋まる。
何が? と言われるかも知れないがもちろんドロップアイテムの事である。雪の上に家の鍵とか落としたら探すのが大変なのと同じで……今倒した羅生門アザラシのドロップアイテムが何処に落ちたか分からないのだ。
魔石に関しては大きいのでなんとかなるのだが……他の物もあるはずなのに何処に落ちたのか全く分からない。
しかもいつモンスターが襲って来るかも分からない状況なので、ラシアは大きくため息をついた後に仲間の元に戻り休憩所へと向かった。
休憩所は洞窟の様になっていて、警戒しながら中へ入るが……何か生き物がいるとは思えない程静かで綺麗だった。
そして何より。
「うわっ! ぬっくっ!」
ティーガーの言う事が正解で外の寒さが嘘の様に暖かいのだ。もちろん入り口付近まで行けば寒いが、それでも奥まで入るとやはり暖かい。
「あっ暖かい……」
「ほんとですね~」
いくら甘酒を飲み、寒さの対策をしていると言っても寒いものは本当に寒い。ラシアは太陽神の腕輪があるのでいつもと同じ様な感じだが、冷えないだけでちゃんと寒さは感じる。
ゲームならここは休憩所でモンスターなどは襲って来ないが、ここは現実。どんな拍子にモンスターが襲って来るか分からないので、洞窟の暖かさを満喫した後に話し合い、今日は予定通りここで一泊し体を休める事にした。