全員が休憩所で休息を取っている。この場所では甘酒の効果が切れても凍結する事もないので今は全員が腰を下ろし、ゆっくりとしている。
ただ出口に近づくに連れて寒くなっていくし、出れば即座に凍り付くのでちょっとした恐怖は覚える。
帰還用のアイテムなどを持って来ておらず、こういう休憩所で甘酒が無くなったりしたらこの場所に取り残されるからだ。
そういう所は遭難とかに似ているかも知れないなーとラシアは思う。流石に雪山で遭難した事はないが。
そして交代で見張りをする事になるが、ダード達やグオンを除くグオン組は見張り役なしで体を休めてもらう方針だ。
この絶冬ダンジョンにももちろん遠距離型のモンスターがいるからだ。ノアやグオン、ティーガーなら不意打ちで遠距離から攻撃されても対応できるが、ダード達はもしかしたら反応できずに即死という事もある。
この辺はペンハルコンと戦った時の様子を見て分かった事だ。LLLの上位勢なら魔法職のノアであっても攻撃に反応し、なんなら躱していたが、ダード達は数テンポ遅れていた。
だから視界が悪い所で遠距離からの攻撃なんかをされると……即死の可能性も十分にあるのだ。
そして先にラシア、ティーガー、レクトア、フウコウが見張りとなり、休憩所の入り口付近まで向かい、寒さを感じない辺りで警戒を始める。
皆が慣れていない初めてのダンジョンで、ダード達も疲れてすぐに寝るかと思った。だが初めての超級ダンジョンにテンションが上がりまくりで、魔石で点灯するマジックランプを中心にかなり盛り上がっている。
「ダード達は新兵ではないが、王都の新兵みたいなものだな。自分より圧倒的に強いダンジョンやモンスターを目の前にして楽しそうに話せるのはダンジョンに潜る者としては適性があるんだろうな」
「せやなー」
そう言う二人は少し難しい顔をしている。これは前にセレットとラシアが話していた内容に近い。冒険者や兵士に向いているという事はそれだけ死が近いという事だ。
普通の者なら出した瞬間に回復アイテムが凍り付き始めるダンジョンなど恐怖の対象でしかない。
そしてやはりノアやグオンも適性があるのか、聞こえてくる声は楽しそうだった。
「今更やけどラシって、どえらい強いのに慎重というか冒険者に向いてない性格してんな」
「それは違うぞティーガー。ラシアは冒険者に向いてないんじゃなくて、生きるのに向いてない。宿にいる人を省いたら確実に二日、三日は人と話してないぞ」
「失礼な」と言いながら宿やLLLのメンバーを省いて考えてみると、ちゃんと冒険者ギルドのいつもの受付嬢とだけは話していた。だからなんの問題も無いのだ。
「ノアさんもグオンさんもガンガン進んで行くタイプですから、ラシア様が良いブレーキ役になってるのかもしれませんね」
「そうにゃ。基本的にガンガン進んでいくようなクランは何処かで躓くにゃ。いいクランの条件は副マスターが慎重か現実を見てる所にゃ」
その辺はLLLがたまたま上手く回っているだけだなーとラシアは思う。会社でもそうだが上がしっかりしていないと下の者は本当に動きづらいのだ。
だからフウコウの言う様にクランマスターが皆を引っ張っていって、間違えそうになったら副マスターが意見し止めるのが理想なんだとは思う。ただそういうのは人と人とのやりとりで、数字の様にはっきりと出る物ではないので難しいなと思う。
そんな事を考えているとレクトアが面白い事を言い出した。
「ラシア様は根が善人なんでしょうね。それだけの力がありながら特に誰かを傷つける事も無く、その力をむやみに振るう事も無いのですから」
その辺は元の世界の日本から来た人なら基本的にそうじゃないかなーと思う。多分普通の人はいきなり力を与えられても戸惑うだけだと思う。簡単に宿を破壊したり、モンスターといえど生き物を殺したりできる力など本当に怖い。
だけど……異世界に来て自分と同じ様に急に力をもらった人などいないから比べようも無いとは思う。
「善人かどうかは分かりませんが中身は一般人ですけどね」
「戦闘能力は置いておいて、会話以外を高水準でこなす奴は一般人とは言わない」
「一般人ですよ一般人」
その夜はそんな話で盛り上がりながら過ぎていった。何かこう見えない力で守られているのかは分からないが……休憩所にいる間はモンスターの襲撃は全くなく無事に体の疲れを取る事ができた。
……
それから二日かけてゆっくりと進み、ラシア達は七階層までたどり着いた。
この絶冬のダンジョンのボスは氷神シヴァリーという名のモンスターになる。氷の神なので氷でできているのかと思えばそうでもなく石像となる。土偶、埴輪と来たので石像なのだろう。フレディムがいたら「知らんけど」と言いそうな並びだ。
で、なぜこんな話になっているのかというとボスや時間湧きのボスの他に会いたくないモンスターがいるからだ。
それが女の子モンスターだ。
基本的に奴らは可愛い顔してマジで凶悪だ。カグヤちゃんDXがその筆頭。
もちろんこの絶冬にもいる。レベルは八十台後半となり、他の女の子モンスターであるハニワちゃんやラキュラちゃんAB型に比べれば低い。だけど弱くはない。
ラシア達が戦っている女の子モンスターは雪女の雪ちゃんになる。
雪女と聞くと白い和服を着て雪とか降らせそうなイメージがあると思うが……んなこたーない。
三十頭近くのヘルハウンド、つまりハスキーを五倍ぐらい馬鹿にしたアホ犬に引っ張られ、スポーツカーより速い速度で雪原を爆走するのが雪ちゃんだ。
コンテナの様に大きな幌が付いたソリをヘルハウンドが引っ張り、なんちゃって雪女が操縦している。
そこだけ見れば犬ぞりしてる女の子に見えるかも知れないが、雪ちゃんの左側には魔法を弾くシールドを生成する装置が付いて、右側には魔力を圧縮して撃ち出すメガマジックカノンが付いている。
そしてその特徴的なソリの荷台には火薬の詰まった樽が大量に入っている。ソリを引っ張っているヘルハウンドが雪ちゃんの合図でその樽を咥えて、某モンスターをハントする二足歩行の猫のように爆弾を背負ってこちらに向かって来るのだ。
「にぎゃーーー! ラシア! またあのアホ犬が来るにゃ!」
しかもこの爆弾、上級プレイヤーの爆裂魔法並みに威力がある。
「パルサーさん! 絶対に近づけないでください! ビエットさんとゲニツさんはパルサーさんの援護を」
分かったと頷き、パルサーが槍を凄まじい勢いで投げる。
その勢いで雪は舞い上がるが……その攻撃をものともせずにヘルハウンドは簡単にジャンプして槍を躱す。
だがジャンプさせてしまえば空中で身動きは取れない。そこにビエットとゲニツの矢が飛来し、ヘルハウンドが背負った樽爆弾に命中し大爆発を起こした。
で……何が腹立つかというとあれだけの大爆発があったにもかかわらずヘルハウンドはほぼ無傷で犬ぞりに戻っていくのだ。
距離を取れば魔法という名のビームが飛んで来るし、速度が速いので近づく事も中々に難しい。
距離を詰めたかと思えば……荷台から小型の爆弾が大量に付いた爆導索みたいなものを落として爆破しまくるのだ。
そしてようやく倒したかと思ってもソリの部分が壊れただけで、そこから雪ちゃん単体と戦う事になるのでけっこう大変なモンスターなのだ。
……
やっとの思いで雪ちゃんを撃破したのだが……頭の痛くなる事が起きた。
それは……ゲーム時なら声が出る程喜ぶレアアイテムが出た事だ。
「……さっき破壊したのになんで犬ぞり復活してんねん」
「アホ犬もいっぱいいるにゃー」
雪ちゃんを倒したらいつの間にか背後にあったレアアイテムは『雪ちゃんの犬ゾリ』だ。
ゲームでは女の子モンスターには特有の装備があり、いま目の前にある犬ぞりもその手のアイテムだ。
女の子モンスターの装備は課金でも買えずドロップも超低確率なので、テイマーからしたら喉から手が出るほどのアイテムになる。だが……ラシアのパーティーにテイマーはいないし、王都もテイマーはほぼいない。
「ラシアさん……これどうするの?」
ノアの言う通りで、本当にどうするんだろうという話だ。
……とりあえずかなり悩んで答えが出なかったので、アイテムというのならアイテムバッグに入るだろうとラオメが言い出した。
「……言いたい事は分かるんですけども流石に入らないと思いますよ?」
「私もそう思うが置いて行くのもな…………入ったぞ?」
ラオメが荷台の部分を掴んでアイテムバッグに仕舞う動作をすると犬ぞりはヘルハウンドごとアイテムバッグの中に消えてしまった。
これには流石のリレッサもアイテムとはなんなんだろうと頭を悩ませ難しい顔をした。
「ラシアは分かりますか?」
「ナットンも連れて帰る時は入ったので難しく考えては駄目です。それっぽく考えるなら今は魂がないとかにしておきましょう。ヘルハウンドも犬っぽい何かです。きっと……」
「かっ考えても答えは出なさそうですからそうしましょうか……」
ローウェンテニアの神童と呼ばれたリレッサに考える事を放棄させたのだから流石は超級ダンジョンの絶冬だ。
ラシア達は無事に七階層を抜けて、吹雪のエリアとなる八階層へと入っていった。
そしてそこから数日をかけてようやく……このダンジョンのボス、氷神シヴァリーがいる十五階層へとたどり着いた。