絶冬のダンジョンのボスは氷神シヴァリーとなる。雑に作られたゴーレムみたいな石像だ。
で、ラシア達は十五階層までたどり着き、戦いになるかと思ったがそうでもなかった。
「私より眷属の方が強いから戦うのならそちらにして欲しい」とか言い出したのである。
ラシア的にも大きな魔石は欲しい。ただ話が聞けるなら戦わなくていいのではと思ったが……氷神シヴァリー的には駄目らしい。
「せっかくこんな寒い所を抜けて来て話だけとか味気なさ過ぎて面白くないから駄目」とのことだ。
で、「君達が勝ったら話をしよう」と言ってかまくらの中で火鉢にあたっている氷神シヴァリーを見るとなんとも言えない気分になる。
そしてどの階層でも見なかった時間湧きのボス、鍋リウスが積もった雪の中から現れた。
鉱山ダンジョンのトロッコⅤぐらい訳の分からない時間湧きのボスがこの鍋リウスになる。
バスぐらいの大きさの土鍋に、蟹のハサミや足や目が生えている姿をしていて……巨大な鍋の中にはちゃんと具材も入っているのが鍋リウスなのだ。
何を言っているのか分からないと仲間に言われるが、言っているラシアも分かっていないし……それ以外に説明のしようがないのだ。
「見た目に関しては言いたいことは分かったが……そもそも私達の国に鍋という食べ物はないからな」
「スープとかシチューとは違うねんな?」
こう、日本人なら違いは分かるのだが……詳しく説明しようとすると案外難しいなと思う。こう、ロボットを知らない人にガ○ダムとマ○ロスの違いを説明するような気分だ。
この鍋リウスの特徴だが……戦闘中に蓋が閉まると属性が切り替わる。今は水炊きなので、水属性と氷属性のノーマルだ。カレー鍋は火属性になり、フグ鍋になると攻撃に麻痺が乗るという特徴がある。そこは本気で注意する必要がある。
相手の出方を待つ必要もないので、まずはラシアがプラティディオンハンマーで攻撃する。だが……蟹と鍋のモンスターなので想像以上に硬く、様子見で放った一撃は簡単に弾かれた。ここからが本格的な戦闘開始だ。
「今の攻撃を弾くってことはあの金属ペンギンより硬いにゃ?」
「はい。殴った感じではまさにその通りですね」
「となると……ダード達は下がらせておいた方が無難か? まともに攻撃が通らないだろう」
その案を出したラオメにラシアが「お願いします」と言ったところで鍋リウスが攻撃に入る。蟹のように口元に泡がたまり始め、一気にそれがはじけ、そこら中に泡が浮かんだまま留まる。
「うざっ! 皆さんそれに絶対に触れないでください。今の状態でそれに触れると爆発し凍結します! ビエットさん、ゲニツさん。離れている泡から矢で破壊していってください!」
弓職の二人が返事をし、言われた通りにその泡を攻撃する。泡は爆発し、その後に凄まじい冷気があふれ出した。
そしてラシアも降り積もった雪をなぎ払って大量に浮いている泡に向かって攻撃を仕掛ける。グオンやラオメといった防御を担当する者達も全員、泡の対処に回る。この泡が残っている間は鍋リウスにまともな攻撃を仕掛けることができないからだ。
ラシア達が泡に気を取られている間に鍋リウスはさらに攻撃に入る。
大きなハサミを振り上げて何かを呼び寄せるような動きを始める。この行動はゲームでもあったのでラシアはうげっと苦々しげな声を漏らす。
鍋リウスが使ったのは雪招きというスキルだ。この十五階層は雪など降っていないエリアだが……これをやられると吹雪状態になって視界が悪くなり、甘酒を飲んでいても凍結する恐れがある。
そして最も特徴的なのは、このスキルがコンボの起点になるということだ。
この雪が降っている状態でもう一度雪招きを使われると、雪招きが雪崩招きというスキルに変化する。雪崩招きはMPが多く残っているほど大ダメージを食らうスキルなのだ。
ゲームのようにMPを数値で見ることはできないが……この階層に入る前に準備を整えて来たので全員のMPは満タンのはずだ。
だから雪崩招きを使われ雪崩が発生すると全滅する可能性は十分にある。
そして一気に雪が降り始めて視界が悪くなり、ラシアは気づいた。
これもう一発、バブルプロージョンを使われたら雪で何も見えないところに凍り付く泡が飛んで来るんじゃね? と。
その考えが鍋リウスに伝わったのかは知らないが……蟹の顔が笑ったように思えたときに鍋リウスは先ほど使った爆発する泡のスキル、バブルプロージョンを使用した。
ヤバいと思ったときにはすでに遅く、風に乗ってその泡はラシア達に向かって急接近した。
「相棒! 俺で地面ごと吹き飛ばせ! 詰むぞ!」(幻聴)
「リレッサ! ラオメ! グオンは全力でガード! 他の人達も防御!」
ラシアはそう叫んだ後に、コル・クール・パルで足元に巨大な杭を出現させ、ギガンテックハンドを使用してからプラティディオンハンマーでその杭を打ち込んだ。
杭が打ち込まれるより先にいくつかの泡がラシアに命中した。ダメージは受けてしまったが……ティアから借りた太陽神の腕輪のお陰でなんとかその杭を叩き込むことができた。大量にあった泡もなんとか吹き飛ばすことができた。
ついでに仲間も何人か吹き飛ばしたが……確認できる余裕はない。
そしてここで鍋リウスの背の蓋が閉まりモードチェンジとなる。そしてもう一度蓋が開くと中にはフグマンとかが入っている。フグ鍋となり鍋リウスの攻撃に麻痺が乗るようになる。
環境がモンスターに味方しただけでここまで状況が悪化するとは本当にラシアは思っていなかった。正直この絶冬のダンジョンを舐めすぎていた。
この吹雪の中で鍋リウスの攻撃を何度も凌ぎきることは難しい。早めに倒しておかないと確実に死人が出る。
後方を確認するとパルサーや数人の足が凍り付き地面にくっついている。こうなってくると一方的にやられてしまう。
短期決戦。これしかない。
「ティーガー! ドラゴニックパワーをお願いします! すぐに決めます!」
「よっしゃ! ドラゴニックパワー! こっちは皆を守っとく! やってまえ!」
ラシアは強く頷く。
「シュトルクトゥーア・オーバーーリリーヴ!!」
ラシアの体を流れる血液が沸騰し、骨や筋肉が限界を超えて悲鳴を上げる。それを邪魔するように鍋リウスはもう一度、バブルプロージョンを使用する。今回はタイプチェンジでその泡の効果は凍結ではなく麻痺になっている。
ダメージは食らうが、太陽神の腕輪のお陰で麻痺にはならない。
「ギガンテックハンド! プラティディオンハンマァーーー!」
巨大なハンマーを握り潰すほどの力で握り、さらに強化を続ける。
「サンライトコンタクト!」
太陽の光が白金色のハンマーに集まり凄まじい光と熱を放ち、周りの雪が溶け始める。ラシアはもう一度、コル・クール・パルを使用する。
次は鍋リウスの頭上に巨大な杭が現れる。
本来ならここで打ち込むのだが今の鍋リウスのHPはほぼ満タンだ。倒しきれる保証はない。だから白紙のスクロールを取り出し一つの魔法を追加する。
「ミラージュコピー!」
その魔法を唱えた瞬間にラシアはプラティディオンハンマーを振り下ろし鍋リウスに杭を打ち込んだ。
「氷神の眷属よ! 雪と共にーーー!」
先ほどより凄まじい攻撃が雪を全て吹き飛ばし地面を露出させ、その地面さえ少し融解させる。
それでもラシアのハンマーは鍋リウスの命には届かなかった。
鍋リウスが耐えきったのだ。ここで鍋リウスからラシアに反撃が入れば、ラシアは倒れるだろう。
スキル・シュトルクトゥーア・オーバーーリリーヴは攻撃のダメージを劇的に引き上げるが、使用者の体にもかなりのダメージを与えるスキルだからだ。
そして攻撃に耐えた鍋リウスがラシアに向かって反撃に入ろうとし、仲間が即座に動く。距離があり間に合わないと思われたが……ここでラシアの追撃が入る。
それはラシアが最後に使ったスキル・ミラージュコピーだ。
タイミングがこの上なく難しいが……数秒前の動きをそのままコピーする。
黒い影が鍋リウスの上に現れた後にラシアの動きをコピーするが……ラシアも想像していなかったことが一つだけ起こった。
現れたコピーはどう見ても前に倒した黒ラシアで、言葉を話したのだ。
「久しぶり! 兄弟! 後はおまかせ! そして必殺っブラクリオンハンマー!」
ゲームならただ影が動くだけだ。その違いにラシアが本当に戸惑っていると、黒い杭が鍋リウスの上空に現れ、黒ラシアはそれを叩き込んだ。
真っ黒な光が全てを包み込み決着となった。
そして光が収まると……鍋リウスの巨大な魔石だけが残り、黒ラシアもなんかギャルっぽい感じで皆に手を振って消えていった。
「あれ? 今の黒いラシアさんって前のドッペルマン?」
「それが……私にもどういうわけか分からないのです。ミラージュコピーは少し前の動きをそのままコピーするだけのスキルなので、なぜギャルラシアが出たのかは謎」
「ラシに分からんだら誰も分からんで」
「それはそうだな」
「気になることもあるでしょうが先に全員の治療をしましょう。今までで一番、被害が出てますからね」
そう言ってリレッサはすぐにラシアに回復魔法をかけて、パルサー、ティーガー、ノアにも回復魔法をかけている。
遠くでは凍り付いたフウコウがレクトアに回復魔法をかけてもらっていた。
そして全員の回復が終わるのを待っていたように、氷神シヴァリーがかまくらから出てきた。
「わっ私のなべちゃんを倒してしまうとは……流石はローウェンテニアの死神様。まぁ私は生前に会ったことないから話しか聞いたことはないんだけど……」
ここでようやくラシアの認識とは食い違う話が出てきた。ゲームだとラシアは氷神シヴァリーを何度か倒しているので、出会ったことはあるはずなのだが……今回のシヴァリーは会ったことがないと言ったのだ。
「さて、ここまで人が来ることは滅多にないし、この場所で最も強い眷属も倒された。倒したから答えるというものではないが、君達にはその資格がある。私に答えられることなら答えよう」
先ほどまでかまくらの中で火鉢にあたっていたシヴァリーはここにはおらず、氷神としてのシヴァリーがここにはいた。
そしてラシアが質問を投げかけた。