先ほどまでの神々しい雰囲気は氷神シヴァリーから消え去った。シヴァリーは雪原の上に氷でできた椅子やテーブルを出現させ皆を座らせた。
多少冷たくはあるが、シヴァリーの魔力で作られた氷は人肌程度では溶けることもないので、皆は席に着いた。
そして何体かの雪だるまが召喚され、シヴァリーのかまくらから温かい飲み物を全員分用意した。これで話をする準備は整った。
フレディムにしてもウィンディアにしてもこういうところがあるので本当に気が抜ける。敵であるような感じもしないので、ラシアは質問を投げる。
それはもちろんダンジョンのことで、ダンジョンは記憶の欠片だということや、次はこの場所、絶冬に行けと言われたことも含めてだ。
「その二人も元気そうで何より。それで質問の答えだけども、それが正解だと証明する方法がない。納得はできないかもしれないけど、元の世界、君達が住んでいたローウェンテニアがあった世界は確実に滅んでいる。最後の最後までは見てないけど……世界そのものがなくなったと思う」
「嘘を言っているようには思わないんですが、フレディムにしてもシヴァリーにしても滅んだという結果を知っているのはどうしてですか?」
「それはフレディムが言った順番に私達が死んだから」
フレディム→ウィンディア→シヴァリー→セレトネア→ヘリオンの順に並んでいき、最後のヘリオンの頃にはもう世界は美しかった頃の面影がないほどに傷んでいたとのことだ。
「私が生きていた頃でも相当なものだったから……私より後に死んだヘリオンとかに聞いて、やっぱりそうかーって感じ。あとフレディムが言っている順番は私達が死んだ順番でもあるけどもう一つの意味がある」
ラシア達がどういうこと? と悩んでいると真っ先に気がついたのはリレッサだった。
「もしかして……周りの環境ですか?」
「おぉー……流石は神童。まさか今ので気づくとは思わなかった……てか君とかそこの死神みたいなのがいてどうしてローウェンテニアって負けたの?」
それ以上は姫様のトラウマに触れるかもしれないので、ラシアが待ったをかけるとそのタイミングでティーガーもなるほどなと頷いた。
「ウチも分かったで!」
「ティーガー……分からないときはちゃんと分からないと言った方がいいですよ?」
「ちゃんと分かっとるわ!」
そうリレッサに文句を言ってから分かっていない者のためにティーガーは答えた。リレッサが「周りの環境」と答えたのは、その変化を指してのことだ。
地星のダンジョンは大きな森がある世界で様々な命があふれていた。次に行った獄炎は溶岩があふれる洞窟の中で、天風では空へと上がった。
そして今いる絶冬は雪に包まれている。
「せやから言葉にすると、緑あふれる森があったけども、火山とかが爆発しまくって環境変わって冬が来たとかちゃうんかな? 空は知らん」
「私もティーガーと同じ考えですね。ローウェンテニアにも浮島はありましたし、場所によっては人が住んでいる所もありましたが……天風は私も分かりません」
シヴァリーは感心した後に正解と告げて手を叩き今の話を補足した。
「戦争が激化していた結果……世界の魔力が暴走し天変地異を起こしてね。まずは全ての火山が噴火し溶岩があふれ出したの。地上が住みにくくなったから人は空にある浮島に上がった。そして……全てを覆うほどの雪が降り始めたって話。私も他の魔神種も、それぞれその時々に死んでいるという話ね。だから私は絶冬までは知っているけどそれ以上先は聞いた話でしか知らない感じ」
皆が頷き話を聞いている中でラシアもそう思う。次に行く聖陽もゲーム内では見えている建物は殆ど崩れている。白い灰のようなものが地面に覆い被さっており、世界から色がなくなったようなそんな白い世界だ。
最後の目的地である深淵も行ったことはないが攻略サイトなどの画像を見ると本当に世界が滅んだような形をしている。
そこでふと思ったのは……何年とかいう規模でそうなるのかという話だ。地星が緑あふれる世界なら……絶冬は氷河期みたいな感じだ。人とかモンスターが争うような数十年でそんなことになるのか? とラシアは思った。
そしてそのことをシヴァリーに聞こうとした瞬間に目が合い首を左右に振られ、その質問をする機会は奪われた。
「ダンジョンは別の世界っていうのも分かってきたから凄い話や。やけどもそれを立証するものがないからどないもでけへんけども」
「その辺が気になるなら……フレディムが言った順で次は聖陽に行くのが良いかもね。セレトネアは色んなことに詳しいし私みたいに暇してるから行けば喜んでくれるはず」
ふとそこで、ノアが一つ気になったことを質問する。フレディムは自分に力をくれたし、ウィンディアは攻撃してきたけどもそれなりに友好的だった。
このシヴァリーにしても相当な実力者だ。それなのにどうしてダンジョンに入ってそこを荒らすような人間にそこまで友好的に接してくれるのか? という質問だった。
「その辺を詳しく聞きたいのなら、次のセレトネアが詳しいね。それにそこの死神にしても神童にしても私達、魔神にしても感謝はあっても恨みはない。君達と君達がいる世界のお陰でもう一度、命をもらったわけだからね。モンスターを狩ろうが、ダンジョンを更地にしようが怒るようなことではないよ」
「更地にしたのはラシアにゃ。その話で思ったんにゃけど……にゃんでぶっ壊しても元に戻るにゃ?」
「多分だけどその形として記憶されてるから戻るんじゃないかと思ってる。人も怪我とかしても元の形を覚えているから元の形に戻るのと同じ感じかな~っと」
「にゃるほどにゃー。ありがとにゃー」
「はい。どういたしましてー」
そして最後にラオメが、このダンジョンの情報をここと繋がっている白の国に提供するので少し騒がしくなるかもしれないが許して欲しいと伝えた。シヴァリーは気にしないので好きにして欲しいと答えた。
「もしかしたら私達の知らない強者がいてここまで来てシヴァリー殿に戦いを挑むかもしれないが……そのときは許して欲しい」
「私もやり返しますしそのうち復活するので大丈夫ですよ。ナベちゃんもいますしね。そしてこのエリアに限れば天候も操れるのでそこの死神様にも後れは取りません。たぶん!」
そう言って指はないのにどうやったのか、手からパチンと音を鳴らすと晴れていた空は一気に吹雪に変わった。もう一度、パチンと鳴らすと吹雪は止み晴れ始めた。
「なるほど。それなら問題はないようだ」
そして話は終わり、シヴァリーが帰還用のポータルを出現させたので、皆が入っていき最後にまたラシアが残った。
「先ほどの質問の続きなんですが……」
「貴方のその体の中に別の記憶が入っているのは分かりました。私は貴方のことは知っていましたが、出会ったことはありません。もちろん眷属の鍋リウスもラシア・ラ・シーラが死んでからの世界で生まれたモンスターです」
シヴァリーにとって、出会ったことのないラシアが自分とその眷属のことを知っていたのは驚きだった。
「どうして私が元いた世界にゲームとして貴方達の世界の記憶があったのですか?」
「私はそのゲームというものがどういう世界かは分かりません。ですが……自身のことに当てはめれば少し楽に考えられますよ。貴方の魂は世界を渡ってこちらに来たのです。ですから世界の記憶のようなものが世界を渡ってゲームというものとして再現されたと考えてみれば楽なのでは?」
「……なるほど」
「魂が渡れるくらいだから記憶の塊ぐらいはたぶん世界を渡ると思います。たぶんですけどね。先に記憶が渡っていて道ができていたので次に貴方の魂が渡りやすくなったとも考えられますからね」
それはシヴァリーの仮説だと思うがラシアは妙に納得できた。ただモンスターの名前とかまではどうなってるの? という話になってくる。こちらの世界の言葉でそれっぽく翻訳されているだけだとは思うが、おかしな奴も所々にいる。
そのことをついでに質問するとシヴァリーは太陽を指さした。
「あの光っている球体は貴方の世界ではなんと言いましたか?」
「え? ……太陽ですけど。他の世界では違うんですか?」
「私の世界でも太陽でした。ですから世界は変わっても太陽は太陽ですし、私は私。ラシアはラシアということで良いではないですか。大昔に人に伝えた言葉があります。世の中の全てに答えはある。だけど全てを知る必要はない。これは覚えておいてください」
セレットにもよく言われるので、意識しているつもりだが気にしすぎなのかなとラシアは反省する。
「ありがとうございます。もう少し気楽に生きようと思います」
「それがいいですね。それと……貴方の望みですが、最終地点であるヘリオンならば叶えることができるかもしれませんよ。彼は私達以上に人間が好きなので。ただし……対価のような覚悟は見せてくれと言われますけどね」
「私は会ったことはないですが……どんな方ですか? 聖天セレトネアにしてもですが」
「大丈夫。基本的に全員クセが強いから行ってのお楽しみかな? めんどくさいのはウィンディアぐらいかなーと思う」
なるほどとラシアは頷き、これ以上仲間を待たせるのもいけないので、教えてくれたシヴァリーにもう一度丁寧に頭を下げて礼を言った。
そして仲間が待つ場所へと繋がるポータルへと入っていった。
そんなラシアを見てシヴァリーはつぶやく。
「君も私も偶然もらった二度目の命。君の幸せが仲間の幸せだとは思ってはいけない。だけどそれは逆も同じ。何処に重きを置くかは君次第。だけど……君は相当な頑固者だから……元の世界の自分は死んでると分かっても帰りそうな気はするね。まぁ気張らずに頑張ってくれたまえ。ローウェンテニアの英雄様」
そう言ってシヴァリーが笑っていた頃に、ラシアは仲間の元にたどり着き、絶冬のダンジョンの踏破に成功した。