本日はティーガーとラオメが遊びに来ている。ティーガーはお休みの日でラオメは雪ちゃんの犬ぞりを持ってきた感じだ。
そこまではまだ良いのだが……宿にはフレディム、ウィンディア、+αでシヴァリーが来ているので人外魔境と化している。
まぁ……ティアの蟻が皿を運んだり、妖精がいたりコアラがクッキーを焼いたりする宿だ。周りの人もゴーレムっぽいモンスターが増えたところでまったく気にしていない。
で、その変な面子が来た経緯だが、ラシアは絶冬のダンジョンで鍋リウスを見たら鍋を食べたくなったので、材料をリレッサと買いに行った。帰って来たら……シヴァリーが土鍋を持って来てくれて、フレディムとウィンディアがやってきた感じだ。
何を言っているか分からないと思うが……言っているラシアも分かっていない。
で、まだ昼過ぎで夕食には早いので、シヴァリーがおやっさんに鍋の作り方などを教えているときにティーガー達がやってきたとのことだ。
フレディムはちゃんとダンジョンから出てきたが、ウィンディアは王都の郊外の空で竜騎兵を鍛えていたらしく空中戦をしていたとかなんとか。
「ダンジョンを守るボスモンスターが勝手に出てきていいのだろうか?」
「そもそもあそこにいるけど守ってる覚えはないしな。踏破されたところで問題はないし、『出かけています』と書き置きはしてあるから大丈夫だ」
「そもそも実力と知識があってようやく私達がいる所まで来られるという話だ。というかダンジョンと呼ばれるようになって私達の所に来たのはお前ぐらいだぞ」
なんてことを言っているのは土偶と埴輪なのだが……気が抜ける程度にはこの二人は適当なのだ。
「ちなみにハニワの眷属も王都の郊外で暴れとるから、天風のダンジョンにはボスは全然おらん感じやな」
「……なぜ翼竜まで出てきているのか」
「それは私が鍋を食べたいからだ。分かったか死神」
この喋る無機物は何を言っているのかと思ったら……ティーガーがちゃんと補足してくれた。どうやら鍋を食べたいのは本当のことなので、竜騎兵の特訓は翼竜を召喚して任せたとのことだ。
「大丈夫なんですかね?」
「そこのハニワより賢いから大丈夫ちゃうかな? 竜同士やったら会話できるっぽいからなんとかなるやろ」
「眷属よりアホなマスターがいるとでも思っているのか!!」
「自覚ないのも大変やなー」
「むきーー! 表出ろそこのなんちゃって聖騎士!」
「今日は休みやから無理やな!」
みたいな感じでティーガーが埴輪で遊び始めたので、ラシアはラオメに向き合った。
「それでラオメさん。どうします? あの犬ぞり一回出してみます?」
「ああ。それが良いと思うがかなり大きな上にヘルハウンドが三十頭ぐらいいるからな。迂闊に街中では出せないのはある」
「ですよねー……橋渡って街の外でやりますか? 外なら色々やっても文句出ないでしょうし」
「それが良さそうだ」
なんてことを話しているとティアも見に行きたいと言い出した。大丈夫だとは思うが一応危険な要素もあるとおやっさんに伝えると、わりと簡単に許可が下りた。
「お前と姫様がいてどうにもならんのなら、どうしようもないだろ」
「信用してくれるのはありがたいけど……全身全霊で守らせていただきます」
で、そんな話をしていると聞こえていたのか、セレットも行きたいと言い出したので、ラシア、リレッサ、ティーガー、ラオメ、ティア、セレットの六人で街の外へと向かうことになった。
そして街の外に出て、ラオメがアイテムバッグから雪ちゃんの犬ぞりを取り出す。
改めて見ると……こんな大きな物がアイテムバッグに入っているのだからアイテムバッグの存在もかなり謎だ。
大きさに皆が驚くがそれよりも全員が言いたいのは……
バウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウバウ!
とヘルハウンドことアホ犬三十頭が一斉に鳴いているのでかなりうるさいのだ。
「うっさい! ぼけっ!」
とティーガーの一言で静かになるので田舎の蛙かなーとも思う。
「出したのは良いんですけどまたアイテムバッグに入るんですかね?」
やってみるかと言ってラオメが試すと、ちゃんとアイテムバッグの中に入れることも取り出すこともできたので……ティア以外は「アイテムと生き物とモンスターの違いはなんだろう」となった。
「ラシア……生きてるってなんなのでしょうね」
「姫様……それは私も切実に聞きたいです」
「ラシアちゃんに姫様……私も聞きたいからあまり考えるのはやめましょう。アイテムバッグに入る便利な犬ぞり。犬付きね」
「お母さんにラシアさんに姫様、大丈夫?」
ティアに心配され、もう深く考えるのをやめようと考え、ラシア達は犬ぞりを調査していく。
まず見えている範囲ではデカい。これに尽きる。ヘルハウンドの先頭からそりの後ろまで入れるとフルトレーラーぐらいの長さがある。
後は砲身も防御用のシールドを発生させる装置も大きい。荷台の下には蟹のハサミみたいな近接用の隠し腕もあったりする。
そして一番意外なのはヘルハウンドことアホ犬がアホっぽい顔してるくせに普通に賢いということだ。
ティアとリレッサが近づいて、おすわりとか言うと全員が一糸乱れぬおすわりを披露する。
ヘルハウンドとそりを繋いでいる物もわりと特殊で、着脱がとても簡単にできる。近づけば勝手にくっつくし、誰かが命令すれば離れるといった感じだ。
火薬がたくさん載っているであろう荷台を調べたいので、一度全てのヘルハウンドを放してみることにした。
「レベル換算で六十以上あるんですが、大丈夫なんですかね?」
「駄目なときはすべて殺処分だから大丈夫だ」
ラオメは真面目そうに見えてけっこう過激なのでラシア的には面白いお姉さんという認識だ。
そんなラオメの過激発言をヘルハウンド達も理解したようで遠くまでは行かずにその辺で遊んでいる。
もしものことがあっては駄目なのでティーガーとリレッサが様子を見ている中で、ティアがじゃれて遊んでいる感じだ。
そしてラシアを先頭にセレット、ラオメで荷台の中をチェックしたところ……白の国に渡さなくて良かったなーということが分かった。
セレットが調べてくれたところ……この荷台だけで魔導火薬工場として成立してるということだ。
何を言っているか分からないと思うがラシアにも分からない。
「すっごい簡単に言うと……と言ってもそれ以外に言いようがないんだけど、この荷台の中にいっぱい浮いてる小さな光の粒が精霊なの。それが三十頭のヘルハウンドから魔力を吸い上げて、ここで魔導火薬作って樽に詰めてるの」
「どうやって?」
「この世界にはない技術で……かな?」
ちなみに魔導火薬というものは火では爆発せず、魔力のある火のみで爆発する火薬のことだ。それに関してはゲームでもあったが……どうすんのこの犬ぞりという感じである。
「だが、セレット殿。樽などは外から持ち込まなければ駄目なのではないか?」
「それも大丈夫なの。見た目は樽なんだけど、要は精霊達の力で空気中の塵とか集めて、魔導火薬の入れ物作ってるだけなの。だから本当にこの犬ぞりだけで魔導火薬工場として成立してるの」
しかもかなり強力な防御結界があるので、そんじょそこらの火の魔法ぐらいでは犬ぞりに引火したりしないとのことだ。
自分が本気でやれば破壊できるので、「破壊しましょうか」とラシアが提案した。すると……セレットは止めに来るわ、またアホ犬共は一斉に鳴き出すわで大変だったので破壊する方向も見送られた。
「お父さんが……隣の村に荷物持って行ったりするのに使うかもしれないからね?」
「……とりあえず、私達でも操縦できるか乗ってみますか」
「それが良さそうだな。聞いたか! 犬共! ラシア殿にこの犬ぞりを破壊されたくなかったらしっかり言うことを聞け!」
バウ!×30
そして犬ぞりに近づくと磁石にくっつくようにヘルハウンド達は綺麗に整列して準備ができた。
だが……誰が乗るのかという話になってくる。
あの雪原を爆走しているのをラシア達は見ているので誰も乗りたいとは言わないのだ。しかも安全とは分かっているが荷台は爆薬が満載だ。
「どうしよか……ウチも竜には乗ってるけどこれの方が速いしな」
「防御魔法全開で乗れば大丈夫だと思うので私が乗りましょうか?」
「一国の姫が犬ぞりに乗らないでください」
本当にどうしようかと悩んでいると、助けが来るので世の中は捨てたものではないなと全員が頷く。
「にゃんか、宿に行ったら外で面白いことやってるって聞いたにゃ~」
こういうところで来られる彼女は英雄なんだろうなーとラシアは思う。そして乗り手が決まったのでリレッサに防御魔法をかけてもらって発進だ。
フウコウのお陰で分かったことはいっぱいある。
まずは犬ぞりだが……ほんの少し地面から浮いているので雪がなくても全然使えるということ。そして想像以上に加速が激しくものの数メートルで最高速に到達する。
だから曲がるときに少しは速度が落ちるが即座に最高速に戻るので、雪ちゃんが速かったのもこのためだ。
あとは風圧やGなども軽減されてるようで体にかかる圧力もほぼなし。
デメリットとしては、攻撃のメガマジックカノンと防御のマジックフィールドが使用不可。これはやっぱり雪ちゃん専用装備の弊害だ。
ただしヘルハウンド達が咥えて運ぶ犬爆弾は全然使用可能で目標に向かって普通に走って行って爆破して帰ってくるし、他のも色々使える。
一番危ないのは……操縦する部分から一瞬でも手を離すと吹っ飛ばされるということだ。
フウコウは高速で犬ぞりを飛ばして遊んでいたのだが……皆に手を振るために手を離した瞬間に、犬ぞりの防御から外れたようだ。風圧などがまともに体にかかり文字通り吹き飛んだ。それが一番危険なデメリットだ。
「ふっ……不幸にゃ……」
「大きな怪我もなかったですし、フウコウさんのお陰で色々分かりましたからありがとうございました」
それから宿に帰り皆で話し合った結果……おやっさんの宿で運用することが決まった。おやっさんが近くの村に荷物を運んだり、セレットが研究所に物を運んだりするのに使うとのことだ。
三十頭もヘルハウンドがいるので少しぐらい荷物を増やしても余裕とのこと。
あともう少し先の話になるが、この犬ぞりを一番上手く操縦できるのはティアとなる。