「じゃあ、悪いが店の方は頼んだぞ」
「分かったわー。気をつけてね~。ノアちゃんもティアちゃんも気をつけてね」
「うん。大丈夫!」
「行ってきまーす!」
みたいな感じの微笑ましいやりとりが宿の外では行われている。
なんかおやっさんは「せっかく犬ぞりが手に入ったのだから使ってみる」とのことで、馬車で半日ぐらいの村まで荷物などを届けてみるそうだ。
ついて行くのはノアとティアになる。ヘルハウンドもアホなのは見た目だけで普通に賢いので、人の言うこともちゃんと聞くしティアにも懐いているし、おやっさんには服従している。
何かあったときのためにノアが護衛として行くのだが、モンスターとしてのヘルハウンドは普通にレベルで六十台とかある。そんじょそこらのモンスターとかなら軽く蹴散らせるのでたぶん安全だ。
そんなことを考えながら、ラシアは寝起きなので眠い目を擦りつつリレッサが運んでくれた朝食を食べている。
「滅んだとはいえ、一国の姫にご飯の準備させる騎士とか初めて見たぞ」
「お前はローウェンテニアの死神だろ! もっとシャキッとしろよ!」
みたいなことを超級ダンジョンのボスモンスターが言っているが、ダンジョンのボス役もやれてない土偶と埴輪に言われる必要はない。
ちなみに石像のシヴァリーももちろんいる。先ほども言ったが本日はおやっさんがいない。料理する人や宿を守る者がいないので、前に食べた物の代金代わりとしてこの三体の魔神種が宿の警備にあたる。もちろんキングもいるので宿の警備は最強だ。
そしてセレットは料理などが壊滅的に駄目で、道具屋の方もある。なので宿の料理は本日限定で全て鍋料理となる。
その辺は前にシヴァリーがおやっさんに色々教えていたし、美味いとお墨付きをもらったので任せられるということだ。
よっぽどのときはフレディムもシヴァリーも眷属であるジェネシスライオンマンと鍋リウスを召喚するとのことなので……本気でやめろとは言っておいた。
ちなみにウィンディアの眷属である翼竜は今日も元気に王都の郊外を飛び竜騎兵達をしごいているとのことだ。
そしてようやく朝食を食べ終わったラシアも準備をしてリレッサと出かける。ラシア達が向かう所はダンジョンではなく、レクトアと大分前に約束していた倉庫だ。危ない物とか金目の物がないか見て欲しいと言われていたからだ。
「キング、ナットン。何もないとは思いますが後のことはよろしくお願いします」
「うむ。任せておくがいい。ついでに宿の周りの掃除でもしておく」
「お任せあれ」
コアラの王様とメカに頼むのもどうかと思うが……どう考えても土偶や埴輪に比べると信用できるのでこればっかりは仕方がない。
礼を言ってラシアが外に出ようとしたら、キングがラシアを見つめた後に少し考えてから質問を投げかける。
「友よ。出かけるときに聞くようなことではないが少し答えてもらいたい。見知らぬ誰かに力をもらったら何がしたい? それをもらったらどうなると思う」
まーた変なこと言い出したよとラシアは思うが……実際に中身一般人のラシアはこの世界に転移して超パワーをもらったので簡単に答えられる。
「とりあえず力をもらったら宿に引きこもりたい。こう何か問題があったときに遠隔操作で倒せる力なら欲しい。あとは力をもらっても変わらないかな? 超級とか踏破してるけど宿から出たくないのは変わらないから」
「うーむ……やはり友であるな」
「昨日もトイレに行くとき以外は部屋から出てません。ご飯は私とティアが運びました」
「ラシア……もう少し外に出ましょう」
「姫様。外は危険がいっぱいなんですよ。結局は育った環境とか持って生まれた物で変わるのかなーって感じですけど、なんでキングはそんなことを聞いたの?」
「いやなに。どこの世も力を欲しがる者は多いと思ってな。ないと話にならないことも多いから気持ちは分かるのだがな」
「コアラの王よ。そればかりは仕方がない。交渉などをするにしても同格でなければ搾取されるだけだからしゃーない」
ナットンもキングも宿で寝泊まりしているのでいつの間にか仲良くなっているのは面白いなとラシアは思う。
「手間取らせて悪かった。ラシアはラシアであるということであるな」
「重度のコミュ症ですからね友は」
「何度も言いますけども人見知りですからね」
「ラシア。コミュ症とはなんですか?」
そんな話をした後にリレッサはポータルを開いて王都にあるティーガーの家の前に出る。
そして門兵に驚かれるも、今回はちゃんと笑顔だった。変な緊張が解けたのだろうとラシアは喜んだ。
その門兵がティーガーを呼びに行くとすぐに彼女はやってきた。
「お待た! ほんだら行こか。目的地は大聖堂やな。どうする? そんな遠いとこちゃうけど馬車呼ぼか? 姫おるし」
「歩くのは嫌いではないですから歩いて行きましょう」
「了解。ほんだら行こか! ほんでラシさっきの門兵やけどどうやった?」
「何がですか? 今回は笑顔だったので変に緊張してなくてよかったなーと」
大聖堂に向かいながらその話をすると、ラシアが冗談半分でティーガーに「門兵の練度はパルサー宅の方が上ですね、冗談も言えるぐらいですし」みたいなことを言ったのが、どういうわけかロディーの耳にも入ったようで……
誰を見ても笑顔で門兵ができる特訓をやらされたとかなんとか。
「ウチでもやりたない特訓しとったさかいに兵士達の練度も上がったやろ」
「……ちょっと後でロディーと話し合います」
そんなことを話しながら遠くの空を見ると……竜騎兵達が翼竜と空中戦をしている。飛行機と鳥ぐらいの差があるので、ちょくちょく吹っ飛ばされて重力に引っ張られていくのが見えた。
「ちなみに今日はおかんも竜騎兵のところにおるで。やっぱ竜に乗っとるから竜騎兵団に入りたいとは言うとるな。聖騎士長おらんようになるからあかんけどな」
「何処も人手不足なんですね」
「せやで。ラシが聖騎士長か騎士団長やってくれたら解決するとはおかんもデゴット様も言うとるけどな」
「はっはっはー。その答えに関しては言わなくても分かるでしょう」
「なるほどな。やる気満々ってことやな! 帰ったらおかんに言うとくわ」
「騎士団長か聖騎士長かは難しいところですが、ロディーが竜騎兵団に行くならラシアは聖騎士長ですね」
「鎧も白いし、ええな! ラシア聖騎士長って呼ばなあかんな!」
「絶対に嫌ですよ!」
そんな冗談を話しながら大聖堂にたどり着くとレクトアを先頭に大人数の聖職者に出迎えられる。だが……レクトアはあの目と口が動くペンギン帽子を被っているのでなんか色々とおかしい。
そしてリレッサはリレッサで着々と兵力を増やしているようで全員と知り合いで超丁寧に頭を下げられている。
「大聖堂も占領されたんやな……わりと真面目に姫様に手出されへんようになってるな」
「ティーガー。そもそもラシア様が近くにいるので大丈夫ですよ」
「彼女は何処へ行くのだろう」
「何処にも行きませんし占領もしてません。回復魔法や支援魔法の講習などをして知り合っただけです」
リレッサがそう言うと全員が訓練された兵士のように同じタイミングで頷いたので、リレッサの姫力も相変わらずだった。
そして用途が不明な何十年分ものアイテムが詰まった倉庫へとラシア達はたどり着く。
「ここが聖騎士と聖職者の間で放置されてるゴミ庫やな」
「ティーガー。宝物庫です宝物庫。倉庫のようにはなっていますが……」
なんてことを言っているのでラシアとリレッサが見るが思った以上に片付けられている。その辺を尋ねるとリレッサが来るので信者というか配下がめちゃくちゃ頑張って片付けて、価値の分からない物は分けてあるらしい。
「ということですので……リレッサ様。定期的に来ていただけるととても助かります」
「分かりました」とリレッサが返事をしたのを合図にラシアは積み上げられた何十年分のアイテムに戦いを挑んだ。
ラシアもリレッサも全てのアイテムを覚えているわけではないが……基本的には使えない物や、よく分からない名簿みたいなのがあったりもするが……それでも数を撃てばレアが当たる。
「おー染色のスクロールか。これも普通にレア」
「ラシア。こんな物もありますよ。ルドラの短剣です」
「見えない刃のついてる短剣ですね。というかレアが結構ある……」
「ラシ。この短剣はどう使うん?」
「柄を握って使いたい属性を言えばほんのり刃が見えますよ。今は無属性なので透明ですが炎と言えば少し赤くなります」
ラシアに言われた通りにティーガーがつぶやくと、ほんのり赤い空間が現れた。そこに短剣の刃があることが分かった。
そんな感じで使える物使えない物をラシア達は分けていく。
そんな中でティーガーは一つラシアに質問をする。
「なぁなぁラシ。天使とかその辺やと思うけど、なんか危険な物って落としたりするんか?」
「んーなんかあったかなー……危険というわけではなかったと思いますけど、シエルオーテスがなんか冥府の王と会話できるみたいなのは持ってたような」
「なんでそんなん持ってんねん」
「そらまー天使ですから。人間界を征服したら冥府も侵略するみたいな感じだったような……と言ってもシエルオーテスだけは天使の中でも話ができる方なので、戦争の落としどころを探していたのかもしれませんね」
なるほどなーと頷くティーガーの様子が少しおかしかったような気がした。そのことを尋ねると、前の天使との戦いでそういう変な物が落ちてないかを騎士団でも聖騎士でも気にしているとのことだった。
「実際に街の人が見たことないアイテムとかが瓦礫の下とかから出てきたとは言うとったからな」
「なるほど」
「よっぽどのときは力貸してな」
「私ができる範囲でいいならですけどね」
そんな感じで、作業も進み全ての調査が終わった頃には夜になっていた。ボスモンスター名鑑のような物はなかったが、それでもいくつかの呪われたアイテムがあったり、スキルのレベルを上げる課金アイテムが出たりもした。その辺を少し分けてもらい倉庫の片付けは無事に終了した。
大聖堂で夕食をごちそうしてもらうことになり、断りづらかったラシアは頑張って皆と夕食を食べ終えた。
そして数日が経ち……ラシアが聖陽のダンジョンへと向かう日が近づいてきた。