第253話 聖陽のダンジョン
ラシア達は聖陽のダンジョンに来ている。フウコウも用事があって抜けてしまったので、ラシア、リレッサ、ノア、グオン、パルサー、ラオメ、レクトアとなる。
今から……聖陽のダンジョンを進むのだが、全員の気持ちは別の所に向いているし、視線は同じ方向を向いている。
その視線の先にはレクトアがいるのだが……目と口が動くペンギンの帽子はまだいいとして……服までおかしい事になっている。
前は白を基調とした聖職者っぽいローブだったのだが……今はピンクを基調とした可愛らしい色合いに変わっている。
どうしてピンクになったのかは分かる。大聖堂の倉庫整理をしていた時に課金アイテムの染色のスクロールが出たからだ。
そのアイテムは装備ならどんなアイテムでも染色できる人気アイテムだ。
だから染色のスクロールでピンクになったのは分かる。だけど何故ピンク色なのかが分からないので、ラシアは色々と諦めてレクトアに尋ねることにした。
「えっと……レクトアさん。可愛いとは思いますが、なぜ神聖な雰囲気があった服がピンクなんでしょうか?」
「それはもちろん可愛いからです。どうです? 可愛くないですか?」
可愛いのは間違いなく可愛いのだが……冷静に考えると見える事もある。多分だが素材のレクトアが可愛いので似合っているだけのような気がしてならないという話だ。
多分だが、リレッサやノアが着たとしても似合う。ただそうなってくると服が可愛いという話にもなってくるので……女性が言う可愛いはレベルが高いのだ。
「……そのペンギンの帽子が少し減点かと」
「どうしてですか! 可愛いじゃないですか!」
「次に染色のスクロールを手に入れたら、その帽子もピンクにするんだな。その帽子だけ黒地だと目が行く」
「むー。やっぱりそうですよね。頑張って染色のスクロールをもう一度手に入れたいと思います」
良いのだけれど……一枚しかなかった染色のスクロールをどうして使ったのかなーとはラシアも思う。だが、使ってみないと分からないのでこれは仕方ない。そう思いながら気持ちを切り替えてダンジョンへと向き合う。
ラシア達が来ている聖陽のダンジョンは、全てのモンスターが聖属性という特性を持つ。プラティディオンハンマーは無属性だし、ラシアがゲームで遊んでいた時は武器を強化する際にミスをして、闇属性の武器を壊してしまった。そのせいでテンションが下がってほとんど来なかったダンジョンだ。
あの時に変な声が出た事も、異世界に来た今となっては良い思い出だ。
それで話はこの聖陽のダンジョンに戻るが……色々と白い。空から白い灰が降っているので視界も白いし、足下にも積もっているので色々と白い。
周りにある木なんかも全部枯れているし、建物の跡も朽ちている。世界から色が無くなるとこうなるのかなーというぐらいに白い。
イメージ的には昔見た映画に出てきた腐海に少し似ている。青い服を着た女の子が空を飛ぶ、あの映画だ。
ここに出てくるモンスターには動物系のものもいる。ナウい鹿とかそんなのだ……
「ラシア。このダンジョンは何階層まであるんですか?」
「えっと……確か十四階層ですね。ボスが聖天セレトネアになりますね。今ならギャルラシアではなく黒ラシアにもらった闇属性のブラクリオンハンマーがあるので楽にいけるはず」
その言葉通りラシアが背負っているハンマーはいつもの白金色ではなく黒金に輝いている。
そしてラシアを先頭に進み始める。ティーガーの事も気になるが……それに気を取られてこちらが大怪我をするような事があっては話にならないので気持ちは切り替えてある。
この聖陽のダンジョンは、少し変わったモンスターが多いのも特徴だ。
人の体にダチョウの足とカンガルーの袋がついたような、ハイ・ヒューマンというモンスターがいたり、冬虫夏草→冬獣夏草→冬人夏草→冬竜夏草という順に進化し、竜の亡骸に寄生しているモンスターもいる。
あとはラシアが持っているプラティディオンハンマーのように、意思を持つ武器がモンスターとして存在するのも特徴だ。
火魂刀や十身倍毒刀みたいな名の武器に魂が宿って浮いているのだ。
そしてここのボスモンスターは聖天セレトネアとなる。土偶→埴輪→石像ときたので次は木像になるが、攻略サイトで見た感じは仏像だ。
その動く仏像がこの聖陽のダンジョンの主となる。
ラシアが先頭を歩き、その後にパルサーが続く。さらにラオメ、ノア、リレッサ、レクトアと並び、最後尾を守るのがグオンとなる。
灰竜にも乗っているし機動力も防御力も火力もある。このダンジョンを踏破すればもう目的の深淵のダンジョンは見えている。
まだ冥王ヘリオンとは会った事はないが……フレディム達の話を聞いていると、良い意味でも悪い意味でも人には友好的に思える。
そこがラシアの旅の終着点となる。
だからこの聖陽のダンジョンの踏破が終わったらクランの事について話し合う必要がある。個人的には解体する予定だ。全員が何処へ行ってもやっていけるぐらいには知識を身につけさせ、経験も積ませてある。
ダード達も付き添いだが超級ダンジョンである絶冬の踏破も経験している。それだけで本当に価値があると思う。
去る者の責任として残る者の未来は幾つも残してある。
その話をしてLLLを解体するならそれで良し、もしグオンやノアが後を継ぎたいというのならそれも良しだ。
ただ、ノアに関してはおやっさん、セレット、ティアが心配するので冒険者をやめて欲しいとは思うが、根っからの冒険者なので難しい所だ。
ラシア達の目の前に白い灰が雪のように積もっていく。
建物の跡だとは思うが……ここがどんな場所なのかは分からない。教えてもらった情報で考えるなら、リレッサがいたローウェンテニアの時代から何百年と経った後の世界だろうと思う。
「なんとも寂しい世界だな……獄炎や絶冬でも極悪な環境だったとはいえ、まだ生命の気配はあったのにな」
「ほんとですよね。小動物の気配とかも無いので……本当に終わった世界なんでしょうね」
パルサーとそんな話をしながら進んでいくと積もった灰が崩れ、モンスターが姿を現す。
先ほど少し思い出していた、ドラゴンに何かが寄生した冬竜夏草だ。
ドラゴンの体にキノコのような物が寄生し、強制的に屍を動かしているモンスターだ。ゲームではそこまでの大きさではなかったが、この世界では想像以上に大きい。
初手はラシアが取り、ブラクリオンハンマーを顔面に叩きつけると、当たった所は簡単に吹き飛ぶ。だが……削った所を菌糸のような物が塞ぎ、吹き飛ばされた顔は似たような形へと修復されていく。
顔が菌糸で修復される様子はゲームには無かったが……回復能力を持ちながら耐久力が高いという特徴は似ている。その上で火属性の魔法も通りやすい。
「ノアさん、炎系の魔法を!」
「任せて! ヴォルカニックストーム!」
冬竜夏草の足下が赤く光った次の瞬間にマグマが空へと舞い上がる。そしてそれは捻れ、竜巻のように螺旋を描いて指定したものを飲み込んだ。
前衛に立っていたラシアとパルサーが少し退く程の熱気が収まると、冬竜夏草の命は潰えており、その体はゆっくりと崩れていき、他の灰に紛れるように消えていった。
「……もしかしてこの周りの灰って他の命の亡骸?」
「かもしれないな。他の世界で過去の話とはいえ……虚しいというか寂しい気分にはなるな」
「ですね」
こういう時にティーガーやフウコウといったムードメーカーのような存在が要るんだろうなとラシアは思う。
ただ今回はその役割が……レクトアになっているのかなと思う。
「……なるほど。ティーガーさんとフウコウさんがいない事を考慮して聖服をピンクにしてくれたんですね。流石はレクトアさんですね」
皆がラシアの顔を見るが、すぐにリレッサが頷きラシアの話に乗った。
「そういう事です。ダンジョンに潜るというなら暗くなるよりは明るい方が良いですからね。自分は笑われてもいいという自己犠牲でレクトアは服をピンクに染めたのでしょう」
「違いますけど!?」
「……流石は聖女レクトア・フロスティンという事か。ペンギン帽子もピンクの聖服も伊達ではないな」
「なるほど! レクトアさん凄い!」
「ラオメ! ノアさん! 待ってください! そうではないですからね」
普段自分が言われているような事を他人が言われているのは面白いなとラシアは思い、もう少しレクトアをいじった後に、明るくなったパーティーの仲間達と進んでいく。
そして進んでいくうちに分かったのは、この聖陽のダンジョンがゲームで実装された直後の状態だという事だ。
まず、ゲームで実装された時にラシアもこの聖陽のダンジョンに来たが、当時文句が出ていたとおりの状況になっている。
モンスターの数が少なくて、出てきても経験値やドロップがほとんど無い。それが実装当初の状況だった。
経験値のことはこの世界では分からないが、ドロップがまずいといった特徴も実装当初と同じだ。
そして後から実装されたモンスターなんかもいない。ヤニカスやナマケモノマンなど後から大量に追加されたモンスターも全く見ない。
この辺はシヴァリーが言っていたように世界が崩壊した時に元の世界に情報が流れ込んで、そのまま実装されたのかなーとは思う。
開発者も設定資料で凄くリアルな夢を見たとか言っていたからだ。
だけど例外というか意味不明な事もある。ローウェンテニア城の先生などがまさにそれで、現在先生がいる場所はアプデ後の配置だ。そういうゲームでのアプデ後の配置やアイテムなんかがあるのも、かなり不思議な話である。
後方を歩くピンク聖女がかぶっているペンギン帽子などはまさにそれで、最初にアプデで追加された物だ。
ゲームでは落ち着いたが、実装当初は高値で取引されていたのでラシアは本当によく覚えている。
そしてほとんどモンスターと戦わないまま二階層への入口を見つけ、次のエリアへと進んでいった。