ラシアとダードは焚き火にあたり軽食を食べている。もうすぐ夕方になるのか、空が少しずつオレンジ色に染まっていく。
ノア、エリエス、ビエットの三人はまだ目覚めない。ノアに関しては出血がひどかったのもあってか、顔は青く辛そうだった。
「それで、ラシアはどう考えてるんだ?崖を登って小隊と合流するか?」
流石にそれは無理だろうとラシアは思う。一人だけなら登れるだろうが……背負ってとなると無理だ。
登れる登れない以前に、あの高い崖を登っている途中で襲われたら反撃のしようがない。
だから無理だと伝え、少し考える。
「ダードさんはこの森、大樹海でしたっけ?には詳しいですか?」
「いや。初めてだな」
だったら進むのも戻るのも同じだ。道が分からないからだ。
こういう時は動かない方が良いとは聞くが……助けなんか来るはずがない。
ノアが言うには大樹海は危険な場所だ。そんな所に初級になったばかりの冒険者を助けに行く者などいない。それは言い切っていい。
戻るか進むかだ。
ノアが王都側から森に入った事があると言っていたし、日数で考えても王都に着く方が早いはずだ。
だからラシアはここから王都を目指そうと伝えた。
「戻るも進むも迷子なので、ここから王都を目指しましょう。ノアさんが王都側から大樹海に入ったと言ってたので、ノアさんが起きてからになると思いますが……」
「わかった。ここさえ出れば何とかなりそうだからな」
ただラシアの不安は大きかった。ノア達の事もあるが、モンスターの強さだ。
Sランクが通うような場所だとノアが言ってはいたが、ラシアが樹海で初めて出会ったモンスターはキッチョウだ。
レベルにして六十台後半。どう頑張ってもノアやダードでは勝ち目がない。
そのあたりのモンスターが出ればラシア以外は確実に死ぬ。
それが一番の不安だった。
戦いは確実に起こる。
だが問題は――どうやって守りながら戦うかだ。
(……これはしんどいな)
そう考えていると、小さなうめき声が聞こえた。
ビエットが目を覚ます。
「こっここは……?」
「ビエット!起きたか!」
ダードが嬉しそうにビエットの肩を叩く。昔ながらの友人との事だ。
そしてラシアに助けられた事、今はノアとエリエスが起きるのを待っている状態だと伝えた。
「そうですか……ラシアさん。ありがとうございました。」
「いえ……」
「ラシア。ビエットは昔から狩人の家系だ。森なら役に立つぞ」
「少しは分かりますけど、森によって特色は違うのでなんとも……」
先ほどまで少し暗そうにしていたダードだったが、友人が起きた事で少し元気を取り戻し嬉しそうだった。
やがてゆっくりと夜の帳が下りはじめる。空はまだ明るいが、日の光を遮るものが多い森では夜の訪れは早い。
先ほど集めた薪を焚き火に焼べる。
遠くでは聞いた事の無い獣の声が響く。
そんな中、焚き火にあたっているとダードもビエットもかなり疲れている様でウトウトとし始める。
仕方のない事だとラシアは思う。回復したとは言え、先ほどまで死にかけていたのだ。
ここで寝ていいと言えば逆に起きる。
だから言い方を変える。
「ダードさん。ビエットさん、先に私が見張りをしておきますので、先に寝ていてください」
「……いいのか?」
「はい。後で変わってもらいますので大丈夫です。交代の時間が来たら起こしますので先に寝ておいてください」
「わかった。ビエット、先に寝ておこう。ラシア悪いが頼んだ」
「ではすみませんが……ラシアさんお願いします」
二人は頭を下げてからノア達の隣に寝転がる。下は地面だが疲れているのだろう、すぐに寝息が聞こえてきた。
ただノアやエリエスはまだ目覚める気配がなく、少し寒そうだった。
焚き火に焼べる薪を増やし、ラシアはアイテムバッグの中から使えそうな物が無いかを探す。
確かガチャで当たった何か服があったはずだ。
アイテムバッグの中に手を突っ込み探すとすぐに見つかった。それは聖銀鋼の鎧ガチャのラインアップに入っていた魔導師系が装備できる装備だ。
聖銀鋼の鎧が戦士系の装備なら、ラシアが出したローブはそれの魔導師版だ。
性能も凄まじいが装備した所で意味は無いので、ガチャをやった人なら分かるが強くてもいらない装備はハズレ枠だ。
そのローブは無駄に大きいのでノアとエリエスにかけてやる。無いよりは良いだろう。
そしてラシアは皆を守る様に座り焚き火にあたる。
獣のうめき声などは聞こえるが人の声はしない。
……人が嫌いな訳ではないが静かな方が好きなラシアにとっては少し心安まる時間だった。
そんな時間もすぐに終わりを告げる。
慣れない野営で疲れているはずだが、眠気も疲れも来ない。気が張っているからだ。
がさ……がさっと足音が聞こえはじめる。もちろん人の足音ではない。
ラシアは立ち上がりエルダーハンマーを手に取る。
暗闇に目を向け、戦闘態勢に入る。
ようやく光が届きモンスターが姿を現す。全長は成人男性ぐらいの大きさがある大きな蟻だ。
しかも一匹ではない。ラシア達を取り囲む様にかなりの数がいる。
そのモンスターを見てラシアは大きく息を吐き出した。
「よし!いけるこいつらなら弱い!」
馬鹿にされているのが分かったのか、ラシアが一人だと油断したのかは分からない。一匹がラシアに飛びかかる。
だが簡単にハンマーが振り下ろされ一撃で潰される。
モンスターの名前はソルジャーアント、レベルにして二十台だ。ラシアの敵ではない。
気をつける事は一匹も通さない事。ダード、ビエット、エリエスにすれば強者だし、ノアは瀕死だ。だから守りながら戦うだけ。
このモンスターがいるという事は近くに指揮をするキャプテンアント、コマンダーアントもいるだろうが、レベルにしても三十、四十ぐらいで範囲攻撃は持っていない。
だからひたすらに倒すだけでいい。
「頼むから戦いに釣られて他がくるなよ!」
襲いかかる巨大な蟻をラシアは潰していく。
囲まれ覆い被されれば、手で握り潰し、死骸を投げつけて他を潰す。
蟻も仲間を殺されてご立腹だ。ノア達を狙う様子は全く見せない。敵はラシアのみと言わんばかりにひたすらにラシアを狙う。
ラシアももう考えるのをやめた。
潰し、千切り、投げつけるだけ。考える必要は無い。やる事は守って殺すだけ。
戦い方も少しずつだが洗練されていく。がむしゃらにハンマーを振る今までの戦い方とは違う。
殺す為の戦い方だ。この体が知っていたのかは分からない。だが研ぎ澄まされていく。
……
…………
朝の優しい光がダードの目にかかり、そのまぶしさに慌てて目を覚ます。
「もう朝か!?」
周りに目を向けるとビエットとエリエスはいなかった。ノアは起きてはいなかったが、見たこともない美しいローブが掛けられていて顔は昨日よりは良さそうだった。
そして起き上がり外に出ると……凄まじい光景が広がっていた。
森の中だったはずだが、あたりは踏み固めたかのように更地になっていた。木は倒れ、岩も粉々になっていた。
ただそれ以上に無数のモンスターのパーツが散らばっていた。昆虫型のモンスターだろう。
あちこちに足や顎があり体液が飛び散り、まるで戦場跡になっていた。
そんな中で何かを探すビエット、エリエスを見つけた。
「エリエス!大丈夫か!」
ダードの声に二人は顔を上げて返事をする。
「本調子にはまだまだですけど……ことがことなので頑張ります」
「なら大丈夫そうだな。というかこれだけ戦ったなら起こしてくれよ」
ダードの問いに困った様にビエットは笑い答える。
自分達が起きた時はもうこの状態だったと……
「え?」
間抜けな声が出る。
「どうも……僕たちが寝ている間にラシアさんが夜通し戦ったようです。倒されたモンスターの魔石を集めている所ですね」
もう一度ダードはあたりを見渡す。
ざる勘定だが……モンスターの死骸は百を超えている。
これを一人で? 夜通し?
「それは無理だろ……」
「僕もそう思うけど、誰かが助けに来る気配なんかないし足跡もラシアさんだけ……しかも倒され方がほぼ同じ。これで誰かいたって考える方が無理。一人でやった方が信憑性あるよ」
長年の友人に言われダードはもう一度あたりを見渡すが、答えは変わらない。
そしてその渦中の人物を探すが見当たらない。
「ラシアは?」
その答えにはエリエスが答える。
「川で体洗ってくるとの事なので……覗きに行くなら私がお相手するのでどうぞよろしく」
昨夜の着替えで少し見てしまったラシアの身体をダードは思い出す。見たくないと言えば嘘になるが、そんな場合ではないのは分かっている。
「……覗くか!一人で大丈夫かと思っただけだが、これができるなら大丈夫そうだな」
「今の間が気になりますが……まぁ許しましょう。さてとダードも魔石探し手伝ってください。せっかくラシアさんが倒してくれたので無駄にはできませんよ」
ダードは頷き、二人がやっている事を手伝った。