第34話 活動拠点
「はぁぁぁ…………」
ラシアはこの世の終わりとでも言うほど大きなため息をついていた。Bランクに上がってから一週間が過ぎた日の事だった。
理由は今いる王都が原因だ。
この国最大の都市と言うだけあって人が多い。何処を見ても人、人、人、人……。
人が苦手なラシアからすればこの人の多さはとてもしんどかった。
まだダンジョンには潜っていないが、税金の事も聞くとダンジョン都市より高く25%だそうだ。
人が多い分少し高くても売れるのか、冒険者を相手にする商売は基本的に高い。消耗品にしろ装備品にしろだ。
そしてラシアが期待していた宿もいくつか探し、何カ所か泊まってみた。
お風呂もあった。下水もあるのでトイレも綺麗だった。ご飯はそれなりだった。
ただ……高い。本気で高い。
最初、ノアに教えてもらった宿もお風呂があってトイレもそれなりで……一泊、約10万セル。
ぼったくりすぎかと思ったが、お風呂トイレ付きの宿はだいたいこんなものだった。上を見ればさらにきりがないし、試しに一泊20万セルの宿に泊まろうとしたがBランクのラシアは断られた。一見さんお断りみたいな感じだ。
高い所の設備はそんなに変わらない。料理がおいしくて宿屋の人の愛想が良くて都市の事を教えてくれるぐらい。
ラシアでもギリギリ生活の基盤を作れそうな安い宿が問題だった。トイレは汚いが慣れてきたので我慢できる。……ただシャワーとお風呂が大問題だった。
宿にないのである。
王都の何カ所かに銭湯というか公衆浴場があり、そちらを使えという感じでシャワーやお風呂がないのだ。
これが大問題だ。
ラシアはどちらにも入れないからだ。中身は男だが男湯に入るわけにもいかない。見た目は女だが女湯にも入れない。
だから王都で体を洗おうとすると高めの宿に泊まる必要があるのだ。
それはまだ生活の基盤ができていないラシアからすれば無理な話だった。中級ダンジョンで一日どれだけ稼げるとか安全に戦えるのかも分かっていないからだ。
「はぁ……」
あと王都で精神にダメージを負うのが奴隷などを売っている事だ。治安は税金が高い分よくて何かが盗まれたとか喧嘩している等はほとんど聞かない。
この世界では借金があったり、一定の悪事を働いたり、親族から売られたりすると奴隷になる事があるらしい。
子供、大人、問わずに様々な奴隷が売られていた。
この国の文化と言われればそれまでだが……元の世界の文化と違いすぎてラシアはとてもしんどかった。
この国の制度を変えようとは思わない。ラシアの目的は元の世界に帰る事だから。
奴隷を助けたとしても元の世界に帰った後はどうするのか?となってくるので、そうなってくると関わらないのが一番良いのだ。
と思っていてもティアぐらいの子供が売られているのを見るとそれだけで精神にダメージを負う。
そこまでは割り切れば何とかなるかもしれない。数日我慢して中級ダンジョンに籠もりまくればお金も何とかなるかもしれない。
だが一つだけ駄目な事があった。というか見てしまった。
それはさっき街を歩いている時に見覚えのある馬車があった。その中にいたのだ。
ラシアの命を狙う、大公の娘だ。
その顔は忘れられない。この世界に来て初めて助けた人だ。白に近い銀の長い髪の娘だ。
ラシア自身も自分の事は美人の類いだとは思うが……彼女の美しさは磨き上げた宝石のイメージだ。
噂では武闘派の大公の一人娘で、親が冒険者を殺して装備を剥ぎ取るリアルモンスターだ。
そんな者が住んでいる都市を拠点にするのはどう考えても難しい。
木を隠すなら森というが……針葉樹の中にいちょうの木があればバレるようなものだ。バレる時はばれる。だから近くにはいない方が良い。
冒険者以外はポータルを使用できないとおやっさんの弟に聞いた。
王都からダンジョン都市までは、遭難しなければ二週間ぐらいで行ける。だからよほどの事が無い限りはそういう高貴な人は来ないはずだ。
「……ダンジョン都市に帰るか。どうせポータル繋がったんだし」
だが今更戻るのは戻りにくい。ノアを助けたので、おやっさんはあっさりしてるからいいが……ノアの母親になんか言われるのが嫌なのだ。
あと冒険者ギルドで何か聞かれるのもダルいなーと思ったが、いつもの受付嬢なら冗談も言える仲になっているし話もしやすいので、まぁ良いかと考える。
ただ王都の悪い所ばかりが目についたが良いところもかなり多い。確かに物は高いが品揃えなんかはとても良い。
ゲームとかだとレア扱いの素材なんかも冒険者が多いので普通に売っているし、武器や防具なんかもかなりの数があり大抵の物はそろう感じだ。
あと一番驚いたのがゲームだと特定の職しか使えない物が普通に売っているという事だ。錬金術師の系統なら錬金釜、鍛冶職の系統なら金床とかそういう物だ。
ゲームだとその職で釜や金床を持っていると錬金とか鍛冶ができる様になる。
だからそういう物を手に入れて、自分が使えばどうなるのか?を知りたくて色々買った結果、お金が無くなったのもある。
この辺は無駄になるかも知れないが……かなり重要な事なので経費だと思ってラシアは諦めた。
そしてもう一度大きくため息をついてから決めた。ここにいても仕方ないのでダンジョン都市に戻ろうと決めた。
ラシアは王都の冒険者ギルドに向かって歩き出した。
その姿を少し遠くから見ている者達がいる。
「見て見てメニス。凄い綺麗な人がいるわよ」
「お嬢様……女性が好きだったんですか?」
「違うわよ!」
大公の娘で絶世の美女と言われる、エリゼ・デルパロアがそんな事をいう人がいるならもっと話題になっているはずだと思いながらメイドのメニスは言われた方向を向く。
お嬢様の冗談かと思ったが……そうでも無かった。とても綺麗なあかい金色の髪が特徴的な女性だった。
顔が見えたのは一瞬だったが……疲れていたように見えたがその姿はとても整っていた。
「あっ。見えなくなっちゃった。どう綺麗な人だったでしょう?」
「はい。冗談かと思いましたが……いましたね」
「あんな人って貴族にいたかしら?」
お嬢様に言われて考えるが……メニスの記憶はない。一度でも見たら確実に忘れられない。ただ初めて会ったという様な気もしない。
「うーん……あの髪の色。もしかしたらさっきの人が白の騎士とか?」
「流石にそれは無いでしょう。冒険者という可能性はあるかもしれませんが……今の人が一撃でドラゴンを倒せるとは思いません。どちらかと言えばお忍びで来ている何処かの国の令嬢や姫といった方が信憑性はあります」
「言ってて思ったけど……確かにそうよね。今の人とか男性からのアプローチとか凄そうよね」
「はい。ですがお嬢様も負けていないと思われます」
「私の場合は怪我が治って見てくれが良くなったの狙ってる奴ばかりだから。性別的には男性でも中身はモンスターと同じよ」
「たしかに……」
「まぁその辺は良いけど……いつになったら白の騎士様に会えるのやら……何か情報ってある?」
「ありませんね。変わった所だと中央都市付近の山岳地帯でバスタースワローという大型のモンスターの目撃情報があるぐらいですね」
「私達が通ろうとした辺りか……被害が出そうならデルパロア家の依頼で討伐隊を出してあげて」
「その辺りは大丈夫かと……噂になりますが樹海に落ちたとの事なので討伐された後だと思われます」
「へー。さすがモンスター専門ってだけあって冒険者は凄いわね。それも白い騎士様が倒したとかね」
「お嬢様。恋するのは構いませんが……何でも紐付けて夢見るのは感心しませんよ」
「してないわよ!」
ここでエリゼ達がラシアを引き留め話に繋げておけば良かったのだが、世の中はそう上手くはいかないようで、ラシアとエリゼが出会うのはまだまだ当分先の事となる。
そんな事はつゆ知らず、ラシアは王都の冒険者ギルドからポータルに入り、ダンジョン都市へと戻ってくる。
こちらの冒険者ギルドは王都に比べれば人も少なく、心が軽くなる。いつもの受付嬢もいないのでラシアはささっとギルドを出て前に泊まっていた宿へと向かった。
ノアの事もあるので魔道具屋には行きにくいので、別の道具屋を探すかーとか考えながら宿屋に着くと何かがおかしい。
建物の作りが変わっている。二階はあって宿はやっている感じだが……一階が改装され外から見えるように道具屋チックな感じになっていた。
そういえば宿屋のおやっさんがノアのお母さんの弱みを握って再婚するとか言っていた。
なんかこう確実にめんどくさい事になりそうな感じがしたのでラシアは回れ右をする。
だが逃げられない相手に見つかった。
「あーーー!ラシアさんだ!お帰り!帰ってきたの!?」
ノアとかおやっさんなら問答無用で逃げるが……流石にティアからは逃げられない。
ラシアはもう一度、回れ右をしてただいまの挨拶をする。
「ただいま……ティアちゃん宿が凄いことなってるけど……」
その質問に答える前に奥からおやっさんとノアの母親が出て来た。
並んでいる二人を見てラシアは口からぽろっと言葉が出てしまう。
「憲兵さん!この人です!」
「はぁっ!?戻って来た一声がそれか!憲兵を呼ぶ要素がどこにある!」
「だって!ノアさん似の綺麗なハイケミストのお母さんが、山賊面の宿の主人と一緒にいることがおかしい!」
ノアを助けて貰った礼も言いたい。新しく妻になった女性がなんでハイケミストと一発で分かったのかも知りたい……だが山賊面とはどういう了見かとおやっさんは怒る。
「よし、その喧嘩買った!お前なんぞウチの宿に泊めるか!」
「それは困る!ティアちゃん助けて!」
「お父さん!私はラシアさんの味方だよ!」
「おい!卑怯者!」
「まぁまぁ、みんな落ち着いてー」
こうして一悶着あったがラシアの拠点が決まった。