ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第37話 家族の形

 

 ティアと一緒に部屋に避難し、ラシアはおやっさんが武器強化をしていた事を思い出す。

 

 おやっさんは誰でもできるから武器強化は冒険者個人がやると言っていた。おやっさんの運が良くて+10の包丁はできたが、普通はまずできない。

 

 そこで鍛冶職のスキルを思い出しながら考える。物によっては武器製造や強化に補正がかかるスキルがあるので、こちらの世界でも武器を安全に強化するなら少しでも確率が高そうな鍛冶屋に持っていくべきだとラシアは考えた。

 

 先ほど成功したので、ラシアは金床とハンマーを取り出す。

 

 防具も同じように強化できるので、アイテムバッグの中からいらないアイテムを探す。

 

(なんかあったかな……)

 

 目についたのは小さなリボンだ。色で耐性が変わる物で、赤なら炎耐性といった物だ。

 

 試しに金床に置いて何度か叩いてみると……+7になると同時に砕けるように壊れた。

 

「クホホ……布系が砕けるってなんかおかしくないか? まぁいいけど……」

 

「ラシアさん。可愛いリボンだったのに勿体ないね」

 

「そうだけど、失敗を見るのも一つの目的だからね。まだあるしね」

 

 ティアが砕けたリボンを集めて見ているので、欲しかったのかとラシアが尋ねると、そういう事だったらしく頷いた。

 

「青と紫と黒と白があるけどどれがいい?」

 

「青がいい!」

 

 ラシアはアイテムバッグの中から青い小さなリボンを取り出し、ティアの頭につけてあげる。

 

「ラシアさん!ありがとう。本当にいいの?」

 

「良いけど私からもらったって言わないようにね。おやっさんはいいけど」

 

「分かった!」

 

 いらないアイテムと言っても課金アイテム。可愛いのは見た目だけで、性能は氷結無効と水属性耐性の上昇だ。

 

(宿屋の娘が氷結無効と水属性耐性上がっても意味ないだろうから良いか)

 

 鍛冶の実験はここまでにする。聖銀鋼の鎧やメテオ君も鍛えたいが、ティアがいるのであまり見られたくないからだ。

 

 いつかは誰かに話して情報を仕入れたいと思っているが、今は錬金が先だ。

 

 金床やハンマーをアイテムバッグに仕舞い、王都で買った錬金釜を取り出す。

 

 そんな大きな物ではなく、バスケットボールより少し大きな釜だ。

 

 頑張って話した王都のアルケミストが言うには、アイテムをぶち込んで魔力を流せばできるとのことだ。

 

「ラシアさん。錬金するの?」

 

「試しにやってみようと思ってね。大丈夫とは思うけど私の後ろにいてね」

 

 ティアは分かったと元気に返事する。

 

 変な化学物質とか出たら嫌なので、ティアに頼んで窓を開けてもらいラシアは準備をする。

 

 作るのは鉱山のダンジョンで言っていた石鹸だ。

 

 材料は

 

 灰結晶

 きれいな水

 油脂

 

 を一つずつでできる。灰結晶も油脂も鉱山のダンジョンで取れる。きれいな水はアイテムバッグの中にゲームから持って来ていた物を使う。この辺も少し気になる。

 

 普通の水と違うのか? という話だ。瓶には入っているのでこれも後で実験。

 

 ラシアは錬金釜にアイテムを全て入れる。

 

「……魔力ってどうやって流すの?」

 

「セレットおばさんのお弟子さんは壺の横を持ってなんか呟いてた」

 

 聞いた通りにやってみる。釜を支えるように手を添える。

 

 するとほんのり温かくなり始めた。

 

 呟いていたというのは詠唱だと思うのだが、そんな物は知らないので昔やったゲームの詠唱でもいいかと適当にラシアは呟く。

 

「ほんだららった〜へんだららった〜どんからがった〜ふん♪ふん♪」

 

「ラシアさん!それ何!」

 

「え?私が子供の時に習った召喚の詠唱?」

 

 ラシアが言い終えると同時に釜に光が集まり、小さくポンと音がした。

 

 中をのぞき込むと水や灰結晶は消えて固形物が一つになっていた。

 

 ラシアが思っていた石鹸が完成した。

 

「おーできた。戦士職の私でも作れるのか」

 

「わっ!凄い!」

 

 これが宿で使ってる石鹸と違いがあるのかとか色々と試したかったので錬金を続ける。

 

 ……

 

 …………

 

 あれからかなりの回数を試したが、成功したのは合計で二回だけ。

 

 井戸の水を使ったりもしたが大きく変わる事はなかった。

 

 分かったのは誰でも錬金できるが成功率はかなり低くなるという事だ。石鹸もゲームならかなりの高確率で成功する。

 

 失敗する方が難しい程だ。それがこれだけ失敗するという事は、錬金に職業適性がないからだ

 

「まー流石にそれはそうかって話だよな。製造スキルの恩恵とかもあるしな」

 

 材料は勿体なかったが、その結果にラシアは納得する。もう少し錬金の事を勉強すれば成功率も上がるかもしれないが、今はこの程度で満足だ。

 

「ラシアさん。だいじょうぶ?セレットおばさんから錬金の事きく?」

 

「んー……気にはなるけど今はそこまでしなくて良いかなーって感じかな」

 

 そっかーと言いながらティアは錬金で失敗したゴミを集めてからラシアのベッドに腰掛ける。

 

 少し話したい事がありそうなので、ラシアは飴をあげてから声をかける。

 

「ティアちゃん。何か聞いて欲しい事あるの?」

 

 たぶんおやっさんの再婚相手の事だろうとラシアは勝手に思っている。ノアの事はお姉ちゃんでセレットの事はおばさんと言っているからだ。

 

 話すか話さないかはティア次第だからラシアは無理には聞かない。アイテムバッグの整理をしたりしているとティアが話し始めた。

 

「ラシアさん。セレットおばさんの事をお母さんって呼んだ方が良いのかな?ノアお姉ちゃんはお姉ちゃんって呼んでるから……」

 

 自分とティアは他人なので気持ちは分からない。でもラシアも似たような事を経験してるので、ある程度は参考にできるだろうと思って自分の考えを告げる。

 

「どっちでも大丈夫かなーって思う。ティアちゃんが言いたい方で良いと思うよ。セレットさんも呼ばれた方が嬉しいかも知れないけど……ティアちゃんの気持ちも分かってるだろうしね」

 

「……」

 

「人はね。たぶんだけど生まれてからすぐに家族になる訳じゃなくて、時間をかけて家族になるの。めんどくさい事をいえば血のつながりとかもあるけど……繋がってなくても家族は家族だしね」

 

「そっかー」

 

「だから……ティアちゃんもあまり気を張らずに。セレットさんに何かお願い事を聞いて欲しい時だけお母さんって呼ぶとか、そんな気軽な物でいいと思うよ。家まで気張ってたら疲れちゃうからね」

 

「ラシアさんありがとう!私頑張ってみる」

 

 ラシアは頷きティアの頭を撫でると、ティアは嬉しそうに目を細めた。

 

 そして元気よく「いってくる」と言って、力強くドアを開け放ち下へと降りていった。

 

 ラシアが驚いていると空いたドアから声が聞こえる。

 

「お母さーん!ラシアさんが錬金で困ってるからコツを教えて欲しいって!」

 

「おっお母さん!?…………わかった!お母さんに任せて!ティアちゃん!準備するから手伝って!」

 

「わかった!」

 

「ティアちゃん!? よくもずけずけと人の中に入る!恥を知れ俗物! って言いたくなるんだけど!!」

 

 ラシアは慌ててティアを止めようとするが……時すでに遅しで頭の中で頭痛の鐘が鳴る。

 

 高性能AIティアの暴走だ。

 

 いくら未来から来た高性能AIでも暴走するんだなーと、ラシアは頭が痛くなる。

 

 窓は開いている。外は気持ちよい風が吹いている。

 

 ラシアの心は決まった。

 

「よし!逃げるか!」

 

 知らない人と話す事に比べたら錬金の実験など些細な事だ。

 

 ラシアは窓枠に足をかけて二階から飛び降りた。

 

 大空から滝壺に落ちて足を折ったぐらいで済んだのだ。二階から飛び降りた程度ではなんともない。

 

 このまま逃げようとするラシアの背後から話しかけられる。

 

「そのまま逃げて宿から追い出されるか……このまま宿に戻って俺に感謝されるか好きな方を選べ」

 

 ラシアが振り返ると、おやっさんが機嫌よさそうに煙草を吸っていた。

 

「え?さっきの嫌がらせ?」

 

「んや。そんなケツの穴の小さな男じゃねーからな。家族サービスだ。娘と奥さんの味方だな俺は」

 

「……私の味方がいませんが?」

 

「好き好んで一人でいる奴が調子いい時だけ味方してくれってのもおかしな話だよな」

 

 まさに正論だった。

 

 おやっさんにもう一度選べと圧力をかけられて、ラシアはしぶしぶ部屋に戻っていった。

 

 部屋に戻って頭を抱えていると、機嫌が良さそうな母と娘がやってきた。

 

「ラシアさんお待たせ!お母さん連れてきた!」

 

「えっと……ラシアさん、ラシアちゃんどっち?」

 

「ノアお姉ちゃんと同い年って言ってたよ!」

 

「じゃあラシアちゃんね。今日はよろしく~」

 

 もう色々と諦め、ラシアはよろしくお願いしますと力弱く頭を下げた。

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