ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第38話 二つの力を一つに

 

 錬金の準備はできているが心の準備ができていないので、セレットに待ってもらってティアを連れて部屋の隅に行き話をする。

 

「過ぎたことは仕方ないからいいけど……セレットさんって信用していいの? 命狙われない?」

 

 子供にこんな話をしてまともな答えが返ってくるはずはないと、ラシアも分かってはいるが聞かずにはいられない。

 

 命がかかってる事だから……

 

「わかんない!でも昔からいい人だったと思うよ」

 

「だよねー」

 

「ラシアさん。ごめんね!」

 

 いざとなったら逃げる。その事を心の一番上に置き、セレットがどういう人物かは自分で見極めようと考えて、ラシアは向き合おうと決意する。

 

 ぱっと見た感じ、のほほんとしたお姉さんだが……ノアの母親だ。若返りの秘薬でもあるのかなと言うレベルで若く見える。

 

 そんな事を考えているとセレットがラシアにもう一度挨拶をする。

 

「ラシアさん。改めまして、セレットです。娘のノアを助けてくれて本当にありがとう。しつこいかも知れないけど感謝してるから何度も言わせてね」

 

「いえ。大丈夫です」

 

「それで、ティアちゃんから聞いたけど錬金で困ってるそうね。私はその手の専門だからお母さんに任せて」

 

 ハイケミストの正装に、アクセサリーもラシアが知っている物で、製造や精錬の成功率を上げる物を身につけている。ティアにお母さんと言われたのが嬉しいのか…………

 

 この人、ガチだ。

 

「では申し訳ありませんがいくつかの実験に付き合って頂けますか?」

 

「分かったー。けどラシアちゃん。少し固くない? こうティアちゃんや旦那と話すみたいに砕けても怒らないよ?」

 

 知らない人になれなれしく話す程の度胸はラシアにはない。大丈夫ですと言ってからいくつかの質問を投げる。

 

 自分の様な素人と錬金術師では精錬がどう違うのか、錬金の事も含めて様々な事だ。

 

「それは経験の差が一番大きいかなー。運の要素もある事はあるけど毎日やってる人とやってない人では違うよねって話だからね」

 

「それはそうですよね」

 

「あっでも。参考になるかは分からないけど私みたいに長いことやってると運の要素は減るかな。できない事はできなくなるし、失敗する物は成功しないって感じかなー。最初のうちは分量を間違えても成功する事あるけどそれが無くなる感じだねー」

 

「なるほど」

 

 その辺がゲームと現実の違いなのかな? とラシアは考える。化学反応で分量を間違えて成功する方がおかしな話だ。ただ魔法がある世界で何言ってんだという話にもなる訳だが。

 

「じゃあ、すみませんが材料はこちらで出しますので何個か錬金してもらえますか?」

 

 ラシアは材料をアイテムバッグから取り出し、セレットに石鹸を作ってもらう。

 

 やはりハイケミストだけあってラシアの様な失敗はしない。五個中全部成功だ。

 

 それを見て考えるラシアにティアが話しかける。

 

「ラシアさん。これって石鹸? 一つ欲しい」

 

「良いけど状態異常を治す石鹸だから……使えるのかな? ちょっと待ってね。セレットさん次はこれで錬金してもらえますか?」

 

 ラシアは別のアイテムを取り出す。

 

 灰結晶

 精製水

 油脂

 香油(ラベンダー)

 回復薬

 

 これで石鹸の上位アイテムである高級石鹸ができるのだ。

 

 効果は汚れの状態異常を回復させた後にHPが少量回復するので、作った石鹸で肌が荒れてもゲームどおりなら回復するんじゃね? という考えだ。

 

 セレットは渡されたアイテムを錬金釜に入れ、両手から魔力を流すとやはり一発で成功し、ラベンダーの香りがする良い匂いの石鹸が完成した。

 

「ティアちゃん。はいどーぞ。たぶん大丈夫だと思うけど何かあったら教えてね。それも実験だから」

 

「わかった! お父さんとかお母さんは使ってもいい?」

 

「いいよー」

 

 と、言ってから自分でも使って試すかと思い、セレットに頼みもう二個ほど作ってもらう。

 

 セレットはラシアが出すアイテムをとても興味深そうに見ているが、何も聞く事はなかった。

 

 そして毎回セレットに錬金を頼む訳にもいかないので、簡単な物は自分で作りたい。そこでラシアはコツというか作り方を尋ねた。

 

「ラシアちゃんは何処まで錬金術の事を知ってる?」

 

 作れる物はほとんど覚えているが……よけいな事は言わず、釜の中にアイテムを入れて魔力を流すぐらいしか知らないと答える。

 

「詠唱もあると聞きましたが……その辺は全く知りません」

 

「なるほどなるほど。魔力を流すって言うよりは魔力で混ぜるって言う感じだね~」

 

「混ぜるですか?」

 

「そうそう。一回見てあげるから何でも良いから作ってみて~簡単な物でいいよ」

 

 分かりましたと返事をして、井戸の水を空瓶に入れて二回ほど注ぎ込む。

 

 きれいな水ときれいな水でゲームなら精製水ができるからだ。

 

 そして釜に手を当てて、セレットがいるので変な詠唱はせずに魔力を流す。

 

 ボンと釜が光った後に失敗し、きれいな水は真っ黒い水になった。

 

「と言った感じです」

 

「ラシアちゃんが初心者だというのもあるけど……魔力の流し方、使い方が間違ってる感じだね~少し見ててね」

 

 黒い水を捨ててから同じ様にきれいな水を二回入れてセレットが錬金すると、釜が光った後に精製水が完成した。

 

 きれいな水と精製水の違いは分かりづらいのでラシアは失敗したと思うが、黒い水になっていないので錬金は成功だ。

 

「要は魔法に少し似てて魔力の流し方もイメージなの。流すって言うより混ぜる。詠唱もそれを助ける為にある物だね。だから何処の国の言葉でもいいし、イメージしやすい言葉でいいの」

 

 ラシアの中でピンとくる物があった。

 

「あと極端だけど二つの力を一つにする感じかな? こう違う力と違う力を一つにする感じ」

 

 セレットのその答えでラシアの中で答えが繋がった。

 

「二つの力を一つに……」

 

「その感じだと何か分かったようね。ラシアちゃんやってみて」

 

 ラシアは力強く返事をしアイテムを錬金釜に入れる。

 

 ラシアは異世界に来て大事な事を忘れていた。

 

 成功率なんてのは単なる目安だ。後は勇気で補えばいい……錬金もその通りなのだと。

 

 ラシアの長い髪が魔力によって巻き上げられていく。

 

「私には……勇気は無いかも知れません。だけど勇者王!あなたの御業お借りします!」

 

「へっ!?」

 

 二つの力を一つにする。

 

 ラシアなら最も想像しやすい事だ。

 

 声も構えもBGMも全てが余裕で脳内再生可能だ。

 

「ヘル ア○ド ヘブン!!」

 

魂の籠もったかけ声と共に体を開き構える。

 

右掌から攻撃の力が、左掌からは防御の力があふれ出す。

 

「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ……ふんっ!」

 

「ちょっと!?ラシアちゃん!?」

 

 慌てるセレットの声はラシアには届かない。

 

 ラシアは力強く釜を掴むと同時に、二つの力が錬金釜に流れ込み、一つになろうとする

 

「ウィィィィタァァァァァァッ!!」

 

 そしてその力を釜の中で一点に集約させる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ラシアは叫びと共に錬金釜を天に掲げた。

 

 ピシッ!

 

 ピシピシッ!

 

 錬金釜の中でラシアの攻撃の力と防御の力が一つになる。

 

 ただ……本気ラシアの気力と魂の全てが乗った攻撃に、錬金釜が耐えられる訳もなく。

 

 凄まじい光と爆発音が全てを飲み込んだ。

 

 ……

 …………

 

 太陽の日差しが降り注ぐ部屋の中でラシアはおやっさんに土下座していた。

 

 凄まじい爆発で宿の屋根は文字通り吹き飛んだが……怪我人はいなかった。ラシアが釜を上に掲げた事で力が空に逃げたからだ。

 

「お前はウチの宿に何の恨みがある? 宿の床は潰すはベッドは破壊するは今度は屋根か?……よし先に言え。次はなんだ? 宿ごと破壊すんのか? あん?」

 

 調子に乗ったラシアが悪いので謝る以外の選択肢はなく、ひたすらにおやっさんに頭を下げる。

 

 そして部屋の片付けをしていたセレットとティアが頃合いを見計らって仲裁に入る。

 

「まぁまぁ。錬金ではよくあることだしー私の説明が悪かったのもあるからそれぐらいでねー」

 

「そうは言うがセレット。こいつは強く言っておかないと絶対またやらかすぞ」

 

「お父さん。ラシアさんだから仕方ないよ!」

 

「ティアちゃん!それ馬鹿にしてるか慰めてるのか分からない!」

 

「今日は、私がお母さんって呼ばれた記念日だから程々にね」

 

 そう言ってニコニコと微笑むセレットとティアを見て、これ以上は何も言えないとおやっさんは大きくため息をついた後にラシアを許した

 

「おい。ゴリラシア。今日中に屋根の修理するから晩までティア連れて時間潰してこい!」

 

「おっおやっさん!」

 

「私も手伝うからすぐに終わるからーティアちゃんをお願いねー」

 

 許してもらえた様なのでラシアはもう一度謝った後に感謝を告げ、ティアを連れて街へと向かう。

 

「ラシアさんはゴリラって感じよりライオンだよね!髪の毛がこうぶわっ!ってなってかっこよかった!」

 

「え?そんななってたの!?」

 

 そんな二人を夫婦になった二人は見送り、その姿が見えなくなった所でセレットがおやっさんに話しかける。

 

「……さて。あなた~。ラシアちゃんって何者? 夫婦の間で隠し事はなしにしましょうね」

 

 声も顔も笑っているが気配が笑っていない。その気配におやっさんはたじろぐが、逃げる事はできなかった。

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