ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第39話 繋がる事

 二人は宿の中に入ってから話を始める。

 

 最初はセレットの番だ。アイテムバッグの中から小瓶に入った灰色の砂を取り出す。

 

 それは少し前にダンジョンに灰の砂漠が出現し、原因不明の珍事件として片づけられ採取された物だ。

 

「これは前にダンジョンで採取した物ね。そしてもう一つは……」

 

 そう言いながらもう一つ、かなり少量だが小瓶に入った灰の砂を取り出した。

 

「これとこれの違いって分かる?」

 

「いや? 同じものに見えるがどうした?」

 

 セレットは笑顔で答える。これは先の爆発で部屋の隅に溜まっていた物だと。

 

「これが部屋にあったって事は、ラシアちゃんが灰の砂漠を出現させた張本人だと思ってるの。大小ではなくて、これができる人が二人いるって事の方がおかしいからね~」

 

「あいつは何をやっとんのだ……だが、灰の砂漠で採取した物をこぼしたって可能性あるんじゃないのか?」

 

「ないよー。ラシアちゃん部屋に物を置いてないから、入ったら覚えられるぐらいしか物無いしね~。実験の時はそういう物も出してなかったしねー」

 

 おやっさんは難しい顔をしながら考える。あの馬鹿は何をやってるのかと、隠す気あるのかと……。そしてセレットに一つだけ質問する。

 

「……聞いてどうしたい? それによる」

 

「ん~……できる範囲でだけど助けてあげようかなーって思う。ラシアちゃんのおかげでティアちゃんがお母さんって言ってくれたし、ノアちゃん助けてもらったしね~。後は私が知らない錬金アイテムを知ってたから、その辺を含めてね」

 

 セレットは錬金術師の間でもかなり名の通った者だ。そんな人物が知らない物をラシアは知っていて、それを作らせたというのだからおやっさんはため息しか出ない。

 

 人生で一番深いため息をついたあとに、おやっさんは話し始める。

 

 ラシアが宿に来た時の事、ティアが水晶病にかかった事、ラシアがクリスタルリザードを倒して治した事などだ。

 

「えっ? ラシアちゃんってクリスタルリザード倒せるの?って思ったけど……子守しながら樹海抜けるぐらいだからいけるかー」

 

「そういうこった」

 

「でもそんな重要な事を再婚相手に黙ってるのはどうかと思うなー」

 

「王都に行ってたお前が悪い。弟を呼びに行く前に行ったがいなかったからな。というかお前も結晶病の治し方知らないだろうが」

 

「そうなんだけど……って事は結晶病の治療法を発見したの弟さんじゃなくてラシアちゃん?」

 

「そうだが……あいつの国には昔からある治療法とか言ってたぞ」

 

 最近見つかった治療法なら秘匿もされるが……昔からあるのなら噂ぐらいはあるのでは? とセレットは考える。確実な治療ではなくても、ましになるとかそういうのも聞いた事が無い。

 

 だから結晶病は不治の病と言われていたのだ。

 

 だから大昔から秘匿されていたと言うより、知っているラシアが急に現れたと考える方が楽なのだが……それこそあり得ないなとセレットは頭を抱える。

 

「ラシアちゃんって何処かの国のお姫様とか貴族?」

 

「いや……あの戦闘能力でそれはない。いくらノアがAランクと言っても樹海を抜けるのは無理だ。それを守りながらだろ? 俺たちぐらいならラシアは片手で倒すぞ。だが……人に教えるほど計算とかできるし、魔物とかアイテムにも詳しい……お前武具が10段階まで鍛えられるって知ってたか?」

 

 えっ!? と驚くセレットにおやっさんは先ほど鍛えた包丁を見せる。

 

「10段階まで鍛えるとこうなる。9と10を鍛えるのはヒヒイロ鋼ってアイテムがいるんだとよ」

 

「……」

 

「知識も俺たちみたいな製造職より深い事を知ってる。だが……誰でも知ってるような浅い知識は知らない……鍛冶の仕方とかな」

 

「私も教えたけど……錬金の仕方も知らなかった」

 

「モンスターとかもやたらと詳しいが……どういう奴か分からん。今でこそ俺とかティアと冗談も言うが……他の客の気配を感じたらすぐに逃げるからな」

 

「うーん……足音しないし……暗殺者とかそっちの系かな?」

 

「それはないな。モンスターから魔石抜くの辛いとかよく言ってるからな」

 

 お守りしながら樹海を抜けられて、現役を退いたとは言え上位職メタルスミスの旦那が片手で負けると言わしめ、その上でハイケミストの自分が知らない錬金を知っている。

 

 さらにモンスターやアイテムもやたらと詳しく、絶世の美女。

 

 こんな人物が今まで何処にいたのかと言う事になってくる。

 

 そして考えてる内に一つの考えが見えてくる。

 

「ねぇ。噂の白い騎士ってラシアちゃんじゃない?」

 

「俺はそうだと思ってる。というか灰の砂漠の原因がラシアなら、グランドドラゴンぐらい余裕だろ……そんな奴が二人も三人もいる方がおかしい」

 

「だよねー。って事はどうするの? エリゼ様は案外まともだけど……デルパロア家って頭おかしいから……正体を明かす気が無いのなら徹底したほうが良くない? バスタースワローも樹海に落ちたって話だけどラシアちゃんが倒してそうだし」

 

 それだけ強いのにしがない宿のおやじに土下座するラシアの姿を思い出す。

 

 人と話そうとしないが……話せば面白い事も言える奴だ。ティアとノアという二人の娘を助けてもらった恩もある。だからおやっさんは少し考える。

 

 このまま知らない振りをして助けてやるか……知った上で助けてやるか。

 

 セレットは何も言わずにおやっさんの考えを待っている。

 

「よし……戻って来たら一回こっちの考えを伝える。それを聞いてラシアが出て行くならそれでもいい。選ぶのはあいつだ。だからお前も錬金の事とかはちゃんと話しとけ」

 

「わかったー。ラシアのレシピで作った石鹸とか良い匂いするから私も欲しいし、ラシアちゃん面白いから仲良くしたいなー」

 

「それは頑張れ。あいつこの宿に来て一週間ぐらいは、おはようございます。はい。結構です。しか喋ってないからな」

 

「今はティアちゃんいるから大丈夫」

 

「まぁそれは後でいいが……先に屋根を直すか」

 

「そだねー」

 

 二人がそんな話をしている頃、ラシアはティアと一緒に公園に来ていた。

 

 今日は前とは違うお菓子が売っていたので、ティアにお金を渡して買ってきてもらい、ベンチに座って二人で食べる。

 

「ラシアさん。ありがとう! 美味しいね」

 

「どういたしまして」

 

 美味しそうにお菓子を食べるティアを見ながらラシアは考える。錬金の事や武具の強化の事である。

 

 石鹸や精製水といった簡単な物の錬金でさえラシアがやれば成功率は低い。材料を無駄にするのはまだ良いとして……取りに行く手間の事を考えると、時間の無駄はどうしてもある。

 

 かと言ってすぐに上級や超級のダンジョンに行ける訳でもなく、現在は準備段階といった感じなのでとても悩ましい所だった。

 

 いつかは誰かに頼る時が来る。問題はそれをいつにして誰にするかだ。

 

 ティアは子供で冒険者でもないので省くとして、ダンジョンの事を知っていて人柄が分かってるのはおやっさんなので、協力を求めるならおやっさんになる。

 

 あんな綺麗な人と再婚するぐらいの恐ろしい運はあるが……たぶん鍛冶系の製造職だとラシアは思っている。運だけで+10の武具ができる事はまず無いからだ。

 

(なんやかんやでおやっさんは人を見てる感じがするから、私がやらかした事って繋げてると思うんだよなー……)

 

 そんな事を考えていると食べ終わったティアがラシアに礼を言った。

 

「ラシアさんありがとう。セレットおばさんをお母さんって呼べた。ちょっと恥ずかしかったけどね」

 

「どういたしましてなんだけど……ティアちゃんはもう少し考えないとね。ああいうのは嫌がる人もいるからね。主に私みたいなの」

 

「えーでもラシアさん。本気で嫌なら嫌って言わない?」

 

「いい大人なんだからはっきり嫌とは言わないかなー」

 

 ティアは軽く謝ってから話を変える。

 

「そういえばノアお姉ちゃんがクラン? とか言うのにラシアさんに入って欲しいって言ってたよ」

 

「絶対に嫌。何が悲しくて……」

 

 数秒前の事を思い出して、二人は笑い合った。

 

(そうだよな。まともにこちらの事も話してないのにどういう人か決めつけるのは無理がある……味方とまでは言わないけど、ある程度話せる人は自分で探して行かないとな)

 

 全部が全部言わなくてもいいから、もう少し情報を集めやすいように、戻ったらおやっさんとセレットさんに少し相談してみるかとラシアは考えた。

 

 ……もしもの時は逃げられるしそれができるだけの力もある。

 

 だけど、一人でできる事には限界があるからだ。

 

「よし。ティアちゃん。ありがとうね。少し考えがまとまったから」

 

「そっかー。どういたしましてー!ラシアさんあっちの方に行ってみよう」

 

「りょーかい」

 

 少し気分が楽になったラシアはティアと一緒に遊びに行き、その日の夕方におやっさんとセレットにある程度だが自身の事を伝えた。

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