ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第4話 隕石の衝突

 

 ラシアは「爆心地」という言葉がよく似合う場所に立っていた。

 

 メテオドライブハンマーで思いきりぶっ叩いたグランドドラゴンは、ミンチを超え、元が何なのかまったく分からない状態になっていた。

 

 そんな状態で無傷なラシアの方がおかしいのは間違いないが……グランドドラゴンと戦っていた者達がどうなったのかは恐ろしすぎて、すぐには振り向くことが出来なかった。

 

 ただ冗談を言っていい時ではないので、ラシアは慌てて振り返る。

 

 自分の真後ろにあったであろう馬車は吹き飛び、馬は生きてはいたが馬車から外れていた。戦っていた兵士も吹き飛び、その場で膝をついている。倒れていた者はそのまま死亡したのか……元から死んでいたのか、ぴくりとも動かなかった。

 

 血と肉片の匂いが、冗談を許さなかった。

 

 ラシアは慌てて吹き飛んだ馬車に駆け寄る。扉がひしゃげ、簡単には開けることができなかったので力を入れて引きちぎった。

 

 中を見た途端に血の気が引いた。ファンタジーに出てくるようなドレスを着た女の子。たぶん十五~十七歳ぐらいだろう。どこかにぶつけたようで顔には大きな傷があり、血を流し意識を失っていた。

 

 一緒に馬車の中にいたメイドと思われる女性も血を流し気絶している。

 

 明らかにヤバい。誰が見ても分かる。この子はきっとラノベで言うところの貴族とか、そういう高貴な身分の者だろう。そんな者に怪我をさせたとなればどう考えてもヤバい。

 

 良くて投獄……悪くて死刑。

 

「やばい!これはやばい!」

 

 慌てて倒れている馬車を元に戻し、ラシアは探す。装備があるのならアイテムもあるはずだ。ゲームではアイテムバッグの中にアイテムがある。ならばそれもあるはずだ。

 

 慌てて自身の体を探り始めると、腰の辺りで手が消える感覚があった。驚いたが、これがアイテムバッグか?と考え、欲しいアイテムを想像すると手に何かを握った感覚があった。

 

 そして手を引き抜くと、二本の回復薬があった。一つでHPを全回復してくれる最上位の回復薬だ。

 

 これで駄目なら……もう逃げるしかない。ラシアは二人の口にそれを流し込んだ。

 

 効果はてきめんだった。少し体が光ったと思った次の瞬間、すべての傷が癒やされ、静かに寝息を立て始めた。

 

「あー……良かった。本当に良かった」

 

 ただ外にはまだ怪我人がいる。回復アイテムに余裕はあるが、入手手段が分からない今は使用を控えた方がいいと考える。

 

 だから別の方法で回復させる。

 

 メテオドライブハンマーをアイテムバッグにしまい、別のハンマーを取り出す。

 

 回復系スキルが使えないラシアの、回復アイテムを除く唯一の回復手段。

 

 リジェネクティブハンマー。

 

 叩きつけた場所から衝撃が届く範囲まで回復フィールドを形成するハンマーだ。敵も回復してしまうが、アンデッドならダメージを与えつつ自分だけ回復できる武器だ。

 

 そのハンマーを装備し、先ほどと同じように力強く地面に叩きつける。ゲームと同じ仕様だったようで、怪我をしていた兵士達が回復し始めた。

 

 そしてほっとする間もなく、馬車の中で寝ていた高貴な少女が目を覚まそうとし、兵士の隊長と思われる者が何か怒鳴っているようだった。

 

 それがこの惨事に対してなのか、ラシアに対してなのかは分からないが……こういう時は経験上、逃げた方がいいという事を社会で学んだ。

 

 兵士がラシアに近づき、少女は目を覚まそうとする。

 

 ラシアの心のキャパシティはそろそろ限界だった。異世界に飛ばされ、命の危険にさらされ、目の前には武装した兵士。自身の体も意味不明……

 

 だからラシアはアイテムバッグに手を入れ、モンスターから逃げる時に使う煙玉を地面に叩きつけた。

 

 凄まじい煙がすべてを覆う。

 

 そしてラシアは走った。

 

 煙が晴れる前に、少しでも兵士達に追いかけられないように。もしかしたら自分がとどめを刺してしまった兵士がいるかもしれないが……その現実から逃げるように本気で走った。

 

 馬よりも速く走った。

 

 煙が晴れる頃には怪我人のすべての傷は治り、馬車にいた二人も目を覚ましたが……その場に白い騎士の姿はなかった。

 

 煙が晴れてもラシアは走ることをやめず、ひたすら走り続けた。この夢が覚めるように願い、走って走ってひたすらに走った。

 

 夜になっても街はまだ見えない。

 

 大きな木にもたれかかり、火属性のハンマーで落ちていた木を燃やし、明かりと暖を取る。

 

「おうち帰りたい……」

 

 火に話しかけるが、良いですよとは言ってくれず、代わりにラシアのお腹が可愛く鳴る。

 

「お腹へった……確かアイテムの中にステータスを一時的に上昇させる食べ物あったな」

 

 アイテムバッグの中を探り、目的のアイテムを想像すると昼と同じように手に感触があった。

 

 それはとても大きなおにぎりで、ゲーム中の効果はクリティカル率に関係する幸運値を上げるアイテムだった。

 

 一口食べると食べ慣れたお米の味が口に広がり、すぐにそれを全部食べてしまった。かなりの大きさだったので一つで十分だったが、代わりに飲み物が欲しい。

 

 イラストでは瓶に入った液体として描かれていたMP回復薬を取り出し、飲んだ。

 

「……なんだろう。エナドリみたいな味がする」

 

 お腹が膨れたことで思考も少し落ち着き、考える余裕ができた。

 

 もうここが異世界だとか、自分が女性になっているとかは、この際置いておくことにする。

 

 装備も自分の物で、自分に危害を加えるものではないので、これも置いておく。

 

 問題は人とモンスターだ。街へ行くということは人もいる。これは間違いなく良いことだが、今日助けた相手がどれほどの身分なのかが問題だった。

 

 ラシアのやったことは結果的には助けたのかもしれないが、きっかけを作ったのは自分だ。どちらかと言えば怪我をさせ、巻き込んだという方が近い。

 

 考えていた通り、相手が権力を持つ者なら本当に捕まる。

 

 姿は確かに見られたが、声は聞かれていない。顔も見られていない。

 

「……もしスマホみたいな通信器具があったら、もう街に連絡が行ってそうだしな。フルプレート系の装備は避けた方がいいな。グランドドラゴンぐらいなら、ステータスがゲームと同じなら軽装でも問題ないし……ハンマーもやめておくか」

 

 聖銀鋼のフルプレートとリジェネクティブハンマーをアイテムバッグにしまう。余裕がなくて入らなかったらどうしようかと考えたが、大丈夫なようだった。

 

 そしてガチャで当たった外れ枠の低級装備を取り出して装備する。何かの革で作られた軽装と、中級者が使うようなメイスだ。

 

 軽装の方は魔法でもかかっているのか、装着した瞬間に体にぴったりとフィットした。

 

 メイスもハンマーに比べれば軽く、振ると妙な風切り音が鳴る。

 

 よほどの時は問答無用で本装備を使うが、今のところはこれで大丈夫だろうとラシアは判断する。

 

 考えることは多かったが……脳は疲れているようで、思考を拒んでいた。

 

 だが、ここで眠れるかと言えば確実に無理だった。遠くでは獣の遠吠えが聞こえ、近くでも何かの気配がする。

 

「寝るのは無理か……寝なくて大丈夫かな?」

 

 火に薪をくべながら、ラシアは一夜を明かした。

 

 明るくなってからラシアは走り出す。少しでも早く街に着くために。

 

 夜中に何度も魔物に襲われたり……トイレで本気で困ったりと、本当に大変だった。

 

 夢なら覚めてと祈りながら、ラシアは走り続けた。

 

 日が出ている間は常に走り、たまにすれ違う馬車に不思議がられ、夜は眠らず耐える。そんな生活を二日ほど続けると、太陽が傾いた頃にようやく街が見えてきた。

 

 丘の上から見える街はとても大きく、賑やかで活気があった。

 

 街の前には大きな橋があり、そこを渡れば街に入れるようだった。ただ橋の手前では関所のように検問が行われており、大きな馬車などが荷物検査を受けている。

 

 人と話す元気は残っていないが、街に入ることが先決だ。仕方なく列に並ぶ。

 

 様々な人とすれ違い、ラシアは獣人やエルフといった者達に驚く。そして男性からやたらと振り返られ、不思議に思っているうちにようやく自分の番が来た。

 

 門番らしき兵士が話しかけてくる。

 

「女か……その格好を見るにダンジョン目当てか? その身なりで冒険者になるつもりか?」

 

 ダンジョンがあるのか、言葉が通じるのか聞きたいことはあったが、後ろもつかえている。早く街に入りたかったのでラシアは適当に相づちを打つ。

 

「ええ。冒険者になろうと思って」

 

「なるほどな……お前ほどの見た目なら他に稼ぎ口もあるだろうが……まあ俺達が言うことでもないか。冒険者になるなら身分証はないよな?」

 

「はい。ありません。お金もないです」

 

 身分証もなく金もなく冒険者になる者は珍しくないらしく、兵士達は冒険者ギルドまでの道のりを教えてくれた。そこで身分証を発行してもらえば、借金という形で通行は可能になるとのことだった。

 

 身分証も欲しいし街にも入りたい。少額の借金を了承し、街に入ることを決めた。

 

 思ったより簡単に入れたので、兵士達に笑顔で礼を言うと少し赤くなっていた。

 

 そして大きな橋を渡り、ラシアは街へ入った。

 

 心に余裕があれば異世界の街並みも楽しめただろうが、今は生活基盤を作る方が先だ。

 

 兵士達から聞いた冒険者ギルドへと向かう。難しいことはない。街の中央にある大きな建物がそれだった。

 

 さっそく中に入るが……あまりの人の多さにラシアは気を失いそうになる。

 

 それから先のことはあまり覚えていない。……キャラクター名ラシア・ラ・シーラで登録し、夜中に襲われた魔物の魔石を買い取ってもらい、入場料を返済し、ダンジョンの話を聞き、おすすめの宿を教えてもらった……はずだ。かなり曖昧だが。

 

 そして街並みを見る余裕もなく、すすめられた宿へ向かう。父と娘の二人で経営している小さな宿だが、扉にはしっかり鍵が付き、料理も安くそこそこ美味しく、女性には嬉しいシャワーがあるという。

 

 少し迷いながらも、冒険者ギルドからそう遠くない宿にたどり着いた。

 

 中に入り、気難しそうな店主に話を聞くと一室空いているとのことだったので、換金した金で数日分の部屋を借りた。

 

「飯がいるなら適当に下に食いに来てくれ。料金は別だ」

 

「わかりました。トイレとシャワーはどこにありますか?」

 

「トイレ……ああ便所か。共同だ。その奥だな。シャワーは部屋にある。使うなら裏の井戸から水を汲んで使ってくれ」

 

 分かりましたと返事をして部屋へ向かう。

 

 部屋が空いていた幸運と、微妙に嫌な予感がラシアを襲った。

 

 だが……シャワーやトイレを確認する前に、部屋に入りかんぬきをかけてからベッドに倒れ込むと、ラシアは限界を迎えたように気絶するように意識を失った。

 

 ただ、失う前に――夢なら覚めてと願った。

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