ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第41話 魔法の実験

 

 ラシアはエリエスと沼地のダンジョンに来ている。ここは前に来た鉱山ダンジョンよりモンスターは強いが、水属性の魔物が多く地属性を使うエリエスと相性が良い。

 

「ではラシアさん。魔法を覚えますね」

 

「お願いします。何か出たら守るのでやってみてください」

 

 ダンジョンの中で魔法を覚えてもらうのはどうかと思うが、ラシアはたぶん覚えられないし覚える気も無いので、人が魔法を覚える場面を見るのは貴重だ。

 

 エリエスが本を開くと本が宙に浮かび、勝手にパラパラっとめくれ上がり、本と一緒にエリエスが少し光った。

 

 そして本が閉じられると光も収まる。

 

「これで魔法の習得になります」

 

「書店で立ち読みしたら覚えられるのでは?」

 

 と疑問を口に出すと、エリエスにそれは窃盗ですと呆れられ、売っている魔法書には基本的に開かないよう封印がかけてあるとの事だった。

 

 そしてもう一冊も同じように覚えてもらい、魔法を覚えるとはどういう感じなのかと尋ねる。

 

「んー。難しいですけど感覚が増えた感じですね。イメージ的には急にもう一つ手が生えて動かせる感じです」

 

 何となくだがエリエスの言ってる事がラシアには分かる。だからラシアが最近できるようになった周りの気配を探るのもやはり一つのスキルなんだろうと納得する。

 

 だがそれが言っていたようにレベル101か、この世界の1かは不明。

 

 このダンジョンに来た目的はいくつかある。

 

 一つは、エリエスに勧めた魔法の基本的な使い方とかその辺だ。

 

 もう一つはモンスターが使う魔法を覚えられるのか? の実験だ。

 

 このダンジョンにはワニマンというモンスターがゲームならいる。そいつが使う魔法にアースアーマーという魔法がある。その魔法はプレイヤーがスキルを取れば覚えられるのだが、前にダードが見て使うと覚えられると言っていたのでその検証だ。

 

 そしてラシア自身の検証もある。石鹸ができたので異常状態の汚れに使ってみようという感じだ。

 

 ゲームならクリックで使用だが……この世界だとどうなるのって話だ。

 

 この沼地のダンジョンも五階層になるが、今回も踏破が目的ではない。ラシアが前衛を務め、エリエスが後衛だ。

 

 沼地というだけあって足が泥に取られて少し歩きにくい。

 

 周りを警戒しながら進んで行くとすぐにモンスターを発見する。目的のワニマンではないが、オオケガニという脚を含めた最大幅は二メートル近くある大きなカニのモンスターだ。

 

 エリエスだけなら大変な相手だが、こいつは水属性でラシアもいるので問題は無い相手だ。

 

 ラシアがエリエスに指示を出す。

 

「まずマッドフィールドで速度を奪ってからロックボルトを唱えてみてください。こちらに来たら私が倒しますので失敗しても気にせずに」

 

「わっわかりました!マッドフィールド!」

 

 オオケガニを囲うように泥が集まり始め、急速にその足に絡みつき動作を奪う。

 

 オオケガニの周りは泥のフィールドになり、足には泥が絡みつきまったくといって良いほど動けなくなっていた。

 

 ラシアがゲームと少し違うなと考えていると、エリエスはロックボルトを唱える。

 

 マッドフィールドの中から拳ほどの石が勢いよく飛び出し、オオケガニを攻撃する。

 

 一撃で倒せる事はなかったが相性の加減もあるのか、続ければ倒せそうな感じだったのでラシアはエリエスに次の指示を出す。

 

「エリエスさん。次は……地面からとげが飛び出すイメージでアースニードルと唱えてもらえますか?」

 

「ん?私そんな魔法覚えていません……って言いたいんですが、なんかできそうな感じがするんですよね……アースニードル!」

 

 するとラシアの思っていた通りでマッドフィールドの中から幾つものとげが現れ、オオケガニを串刺しにして倒した。

 

 何かのスキルを覚えるとそこから派生するスキルを覚えるのはゲームと同じだなとラシアが納得していると、エリエスは自分が覚えていない魔法を使えた事にとても驚いていた。

 

「こう……自分のなかに新しい力が宿った! 的な感じはしていたんですが……ラシアさん説明お願いできますか?」

 

「説明が難しいんですが……スキルによっては別のスキルを取るとそこから派生する物があったりするんですよ。今のようにマッドフィールドとロックボルトを覚えるとアースニードルを覚える感じですね」

 

「はー。色々あるんですね。魔法二つ買って三つ目もらえるなんてお得ですね!」

 

 そうですね。とラシアは笑うが、また疑問が出てくる。魔法名を知らなかったら使えるのか? という話だが……毎回毎回考えても仕方ないので、自分はほとんど知ってるから良いかと考えるのをやめた。

 

 それより気になるのは別の事だ。マッドフィールドは本来、速度を抑える呪文で今みたいに拘束する魔法ではない。

 

 だからオオケガニの素材を回収して次のモンスターを見つけたらその実験だ。

 

「エリエスさん。すみませんが私が知ってるマッドフィールドと効果が少し違うのでもう少し実験に付き合ってください」

 

「魔力にも余裕があるので全然大丈夫です」

 

 そしてまた沼地を歩きながらモンスターを探す。このダンジョンの一階層は五種のモンスターがいる。

 

 目的のワニマン、オオケガニ、カゼキリヤンマ、ミサイルラベンダー、テッポウヤゴだ。

 

 このダンジョンもエンカウント率が高いようで、すぐに見つかる。自転車ぐらいの大きさのトンボだ。羽は刃のように輝いて、ラシア達を見つけると高速で接近してくる。

 

「カゼキリヤンマか……ちょうどいいな。エリエスさん試したいので私を狙ってマッドフィールドを展開してもらえますか」

 

「ええっ!?大丈夫ですか!?」

 

 大丈夫ですと言うラシアに向かってカゼキリヤンマが突撃してきたが、ラシアは簡単にいなし後頭部を鷲づかみにする。

 

 ラシアが考えているのは、マッドフィールドは泥のエリアだという事だ。ゲームと違い拘束されるので頭から突っ込んで拘束したら息ができずに死ぬのか? という話だ。

 

 エリエスが呪文を唱えるとラシアを拘束するように泥沼が出現する。少し足を取られるが拘束まではいかないなと思い、暴れるカゼキリヤンマを顔面から泥に突っ込む。

 

 すると泥がカゼキリヤンマにまとわり付き、そのまま拘束した。

 

 そして少し時間が経つと、まったく動かなくなった。

 

「……ラシアさんけっこうエグいことしますよね」

 

「かも知れませんけど……知っておかないとヤバいですからね。ダードさんやビエットさんがもし、マッドフィールドで転んで顔面からいったらすぐに解除してくださいね。今みたいになりますよ」

 

「あ……」

 

 ラシアの言ってる意味が分かったようで、エリエスはすぐにマッドフィールドを解除する。モンスターは確実に死んでいるようだった。

 

 カゼキリヤンマの解体はエリエスに任せてラシアは考える。マッドフィールドは本来なら足止めの魔法だが……モンスターを倒せた。

 

 エリエスが将来レベルを上げて重力操作の魔法を覚えたら、マッドフィールドに落として窒息させて倒せるなと考えると……魔法の恐ろしさが垣間見えた。アースニードルもそうだ。ゲームなら範囲が表示されるがそれもない。足下の沼から急に現れるのだ。

 

 下手をすれば躱しようが無いのだ。

 

「うーん……魔法って要注意だな」

 

「えっ!?ラシアさんを魔法で倒せるとは思いませんが?」

 

「私も呼吸が止まれば死にますし……頸動脈斬られても死にますよ……」

 

「えぇー……魔法で呼吸できなくなってもそれまでに使用者倒しそうですし、頸動脈に刃が届く前にラシハンマーが飛んで来るのでは?」

 

 なるほどとラシアは思う。拘束されたらどうしようも無いが……エリエスの言ってる事はやられる前にやれだ。確かに一理あるなと納得する。

 

 そして二桁に達する所でようやく目的のワニマンが現れた。難しい説明は無いが成人男性ぐらいのワニが二足歩行で歩いているモンスターだ。尻尾があるのでもっと大きくは感じる。

 

 見た目は割とシュールだが、強さは沼地のダンジョンではボスの次に強い。噛みつきに尻尾での攻撃に魔法と多彩だからだ。

 

 そして実験を兼ねた戦闘が始まった。先制はラシア達でマッドフィールドで拘束する。

 

 するとワニマンが目的だったアースアーマーを使用した。茶に近い黄色のオーラが地面から現れワニマンにまとわり付いた。そして一瞬光った後に消えたが、あれで防御力が上がったのだろうとラシアは思った。

 

 まだ拘束は解けてなかったので、ラシアは今の魔法名をエリエスに伝えた。

 

 ……

 

 結果は成功である。エリエスはアースアーマーを覚える事ができた。

 

 試しにロックアーマーやガイアアーマーと似た感じの言葉を教えてみたが覚える事はできなかったので、魔法を見て正確な名を唱えるというのがスキルを覚える一つの条件だという事が分かった。

 

「ラシアさんのおかげで魔法をいっぱい覚えられたのは良いんですけど……だいじょぶですか?」

 

 ラシアの目的も達成された。ワニマンは汚れの状態異常を起こす特殊攻撃をしてくる。アースアーマーを覚えられたので拘束を解いてもらってその攻撃を待ってラシアが受けた。

 

 汚れ状態を治療する石鹸に需要が無いのが分かった。

 

 ゲームならクリック一つで治るが……この世界なら治らないからだ。体を洗うように水をかけて泡立てないと、汚れ状態は治らない。

 

 ダンジョンでそんな悠長な事はできないので、昔はあったかも知れないが消えていったといった感じだろう。体についた泥などは石鹸が無くても水をかければ落ちる。

 

 それにノアが前に言っていたようにダンジョンから出れば全ての異常状態は解除される。それも一つの理由だろうとラシアは納得した。

 

「さてと……私がここでやりたい事はやりましたのでどうします?まだ時間も早いのでもう少し狩りをしますか?魔法の応用も考えたいので」

 

 ラシアの提案にエリエスは驚く。

 

「えっ!?ラシアさんって終わったらすぐに帰るイメージでしたけど……是非ともお願いします!狩りましょうどんどん!」

 

「他人ならすぐに帰りますけど……そもそも一緒に行きませんけど、一緒に遭難した仲ですからね」

 

「……なるほど!じゃあ大変でしたけど遭難してよかったです!」

 

「それはどうなんでしょう」

 

 そして二人で笑い合った後に、今日覚えた魔法の応用などを考え狩りを続けた。

 

 そして……狩りから戻ったエリエスはノアやダードにもの凄い嫉妬を覚えられたのはまた別の話である。

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