エリエスとの狩りを終えて宿に戻ってくると夜も遅く、宿の食堂は閉まり、おやっさんは皿を洗い、セレットは何かを錬金するのかテーブルの上に材料を並べて悩んでいる様子だった。
本来なら静かに二階に戻るのだが、ラシアは帰って来た事を告げる。
「ただいま戻りました」
「おう。なんか喰うなら作ってやるが?」
「あ、ラシアちゃんおかえりー。私もちょっと休憩しようかなー。お酒と軽めの物作ってー」
「わかったが……ラシアに酒飲ますなってノアに強く言われてるが、何したんだ?」
酔った勢いで全員殴って沈めたとは言えないので、苦笑いしながらセレットの向かいの席に座る。
そして屋根をぶっ壊した夜に二人に相談した時の事を思い出していた。
……
…………
異世界から来たとは言わないが、ダンジョン都市に来る途中でドラゴンに襲われている人がいたから助けたら、お尋ね者みたいな扱いになっているといった感じだ。
「そういう訳で……相手はややこしいとの事なので、隠れているというか忍んでるという感じです……私が人と話すのが嫌というのもありますが、良い噂を聞かないので」
おやっさんとセレットは何も言わずにラシアの話を聞いていた。
先に口を開いたのはセレットだ。
「うーん……ほんとにうーん、なんだけど、あらかた合ってるから否定できないのよねー。ラシアちゃんが助けたのはエリゼ様って言うんだけど、その方はまともだけど……父親と祖父はやっぱり聞いた通りの人だからねー。おじいさんの方は亡くなっているから父親がね」
噂どおりか……とラシアはため息をつく。
「できる事ならそのまま隠し通せ。俺も冒険者やってたが……貴族と冒険者は基本的に考え方が違うからな。関わらん方が一番いいが……まったく関わらんというのも無理だ。依頼があったりするしな」
大体は断っても大丈夫だが、XとかZランクになってくると国王やそれこそ大公の依頼なども出てくるので断る事は不可能だと言った。
「国のトップクラスの依頼だからな。何処か違う所にいて無理とかならいけるが、基本は無理だな。ギルドや他の冒険者に迷惑がかかる。というか普通断らんけどな。名誉な事だからな」
「……冒険者なのに自由がない。冒険者の冒険ってなんぞや……」
「そこはー歴史のお勉強で、はじめてダンジョンを見つけた人が冒険者だったから、ダンジョンに潜る人を冒険者って言うのよ」
「なるほど」
「お前ら話それてんぞ。俺もセレットもお前が倒したグランドドラゴンの死骸を見たが……お前はZランク並みの戦闘力あるわな。クリスタルリザード倒せる時点でSランクだ」
「えっあれ見たんですか?あの辺までいって?」
「凄い死に方してたからギルドの方で全部回収して解析したのよー。私も少しお手伝いしたけど……ラシアちゃん。人間やめてる?」
ゲームのキャラに生まれ変わっているのでそれって人間なのか? とは思ったが、その辺は言っても通じないことなのでやめておいた。
そして三人で話を続ける。ラシアはこの世界がどういう場所なのか分かってないので、ゲームでの都市や日本の都市名を質問したが、おやっさん達は全く知らない様子だった。そこで、この世界がゲームの世界という可能性は消えた。
図書館で調べていた時から薄々とは分かっていた事だったが……。
そして元の世界に帰りたいとは言えないので、ラシアの目標として深淵のダンジョンを踏破するのが目標だと伝えると、おやっさん達は少し難しい顔をしていた。
「何か問題があるんですか?」
「言い渋っても仕方ないな。俺もセレットももうすぐXって所まで冒険者やってたが……そんなダンジョンは聞いた事が無い」
「うえっ!?深淵のダンジョンないんですか?もしかして超級がない?」
それはあるとおやっさんは付け加え、現状ギルドから繋がっている超級は三つだと答える。
ゲームだと六つだ。獄炎、絶冬、天風、地星、聖陽。そして願いが叶うとされている深淵だ。
「ダンジョンってどうやって見つけるんですか?」
「それを知らないのになんでダンジョンの名前知ってるのか? ってなるが……まぁいい。世界の何処かにあるんだよ。さっきセレットが言った様に入り口が何処かにある。それに一人でも入れば繋がる」
「あとはー危険すぎて国が解放してないとかもあるわね。超級でも入れるのはXとZランクだけだから、国が調査してって感じだね。ほかのダンジョンも見つかったら国が先に調査してランク付けして一般開放みたいにね」
「なるほど……」
「お前がその深淵のダンジョンに行きたいならランク上げないとどうにもならんって話だが……隠れてランク上げるのも無理って話だ」
その辺りを詳しく聞くとXとZランクだけで百人もいないそうだ。それは冒険者だけの話なので聖騎士や近衛兵を入れるとそれ並みの猛者はいるが、それでもかなり数は少なく本当に目立つそうだ。
「なるほど……」
「そういう訳だから……現状は今まで通り目立たずにランク上げろって感じだな。後は何かあったら俺たちに相談しろ。娘二人を助けてもらった礼だ。協力はしてやる」
「おっおやっさん……」
「あとね。ラシアちゃん。水晶の泉と灰の砂漠の依頼があったんだけど……」
その事を言われてラシアは変な汗が噴き出すが……
「もう過ぎた事だから掘り返さないようにね。私もスッキリしたし。思い出は美しいままで~って感じでね」
これはバレているなとラシアは分かったが、余計な事は言わなくて良いと本人が言ってくれてるのでその好意に甘える事にした。
そんな事を話していたのが数日前だ。
騙されている事も心の隅に置いておかないと駄目だが……いい人達だとラシアは思う。
そんな事を考えていると簡単な軽食が運ばれて来たので三人で夜食を取ることになった。
「それで?今日はどこのダンジョンに行ってたんだ?」
おやっさんは酒を飲みながらラシアに尋ねる。もちろんラシアには酒は無しだ。
「一緒に遭難したエリエスさんという方と、沼地のダンジョンで魔法の特訓と私の実験ですね」
「ワニマンとかオオケガニとか倒してましたね。踏破するのが目的ではないので一階どまりですが、二人でそれなりに稼げたという感じです」
「あそこか……中級の連中からしたらモンスターが地味に強いのに稼ぎ悪いからあんまり人気ないな」
「出てくるモンスターは水属性なので、地属性の武器とか魔法があれば楽に倒せるのに人は少なかったです」
「その辺が理解できるようになったら沼地いかなくても稼げるからね~」
ラシアは手を合わせてから夜食を食べ始める。いつもの、よく分からない食感の肉っぽい何かだ。これにも流石に慣れてきたなと思っていると、セレットが今日はノアが来ていたと告げた。
「ノアちゃんがラシアちゃんに会いたいって言ってたよ。あとクランに入ってーって言ってた」
そういえば王都で別れて以降ノアを見ていないが、特に用事も無いので良いかとなった。
「今のところクランに入るメリットが無いですからね。誘ってもらう事はありますが断っています」
「まーラシアが入るメリットはクランにはあってもラシアには無いわな。悪い事するときは一人でしろっていうしな」
「私は何も悪い事してませんけどね……」
「人数が多いと何をしても隠せないって話だな」
そういえばエリエスもノアのクランに入ったと聞いたので、いるならその辺を詳しく聞きたいと思ったが、明日はクランでボスの討伐に行くそうなのでもう帰ったとの事だった。
おやっさんとセレットさんは元Sランク冒険者だったので、今のボス討伐で思い出した事を尋ねた。
ボスはゲームだと二種いる。一つはそのダンジョンの一番下の階層にいるものだ。初心者ダンジョンならラットマン、苗木のダンジョンならオールド・アイ。
それとは別に中級から出始めるダンジョンの何処かに出現する時間で沸くモンスターだ。一時間に一回のものもいれば三時間に一回とかいうものもいる。そういうモンスターだ。
他のモンスターよりも遙かに強いが進化などはせず、特殊アイテムやレアアイテムを落とすのが特徴で、基本的にプレイヤー同士で奪い合いになる。
その辺りを当たり障り無く尋ねるとやはりいるようで、ノア達もそれを倒しに行くとの事だった。
ただ少しゲームとは違って時間では無く、月に一度か早くても週に一度、強いモンスターが現れるとの事だった。
「やっぱりいるのか……それって沼地だとオオケガニを召喚してくるエンマガニとか鉱山だとトロッコVであってます?」
「あってるぞ。そういうのを専属で狙う奴も多いな。聖騎士とかはそういうボスをよく狙いにいくって聞く」
「ピンキリだけど……勝てるんですか? エンマガニは弱い方ですけど……基本強いのに」
「ラシアちゃんってどの辺ぐらいまでなら倒せるの?」
「どの辺……うーん……」
ゲームなら回復アイテム大量に持ち込んで、即死さえ防げば回復薬とMP回復薬連打で倒せるが……この世界だとどうやって連打しながら戦うんだという話になってくる。
液状の回復薬を樽に入れて背負って飲みながら戦う訳にもいかないからだ。
「エンマガニならいけますがトロッコVがギリギリかも……コアラキングみたいな本体も取り巻きも強いのは無理かも」
「普通は一人でいけないし、上位ダンジョンのボスを知っているのか問い詰めたいが……まぁいい」
「その辺少し気になるので、その内ダンジョン行って見てきます。鉱山のダンジョンならたぶん人いないので大丈夫?」
「放置されるボスも多いからねー。たぶん大丈夫かな。無理はしないでね」
分かりましたとラシアは返事をして夜食を楽しんでいると、ティアも起きてきたので四人で夜食を楽しみ明日への目標に備えた。