ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第50話 拠点

 

 ラシアは少し頭が痛い。物理的な物ではなく精神的な物だ。

 

 まだ余裕はあるのだが、トイレの匂いを消す消臭玉を作る為に鉱山ダンジョンに行ったら、人が増えているのだ。

 

 一階と二階は襲ってくるモンスターもいないので、そこら中で戦闘音が聞こえたり休憩したりしている、初級者から上がったばかりの中級が多い。

 

 前は全然いなかったのに……原因は間違いなくセレットのせいだったので、いつもの受付嬢に尋ねるとやっぱりそうだった。

 

「はい。セレット様が登録された物の材料が鉱山のダンジョンで楽に取れるので、中級に上がった人達は楽に稼げるので行っているようですよ。他の錬金術師の方々も石鹸や高級石鹸を作っていますから」

 

「……おやっさんが弱み握ってるのかと思ったがセレットさんがおやっさんの弱みを握ってるパターンもあるのか……」

 

 そんな失礼な事を口に出していると、ラシアがセレットと知り合いだった事にも驚かれたが、泊まっている宿のおやっさんと再婚したのでそのつながりで知り合ったと答えた。

 

「セレットさんってそんなに有名な方なんですか?」

 

「セレット様の実力も然る事ながらですが、その先生がさらに凄い方なので有名と言うのもありますね。ですがこの都市としてはここに店舗を構えてくれているのでセレット様の方が有名ですね」

 

 色々あるんだなーと思っていると前に渡した高級石鹸の事を思い出したので、その事を尋ねるととても好評だった。

 

「ラシアさん。ありがとうございました。なんですが……ああいうのは控えてくださいね。セレット様の登録する物を一般人に先に渡すとか、心臓飛び出るかと思いましたよ……」

 

「いやー申し訳ない。一緒に考えたものだったので使用感を聞きたかったので」

 

「ラシアさんは錬金もできるんですね。まぁそれは良いですが、匂いも良く汚れもよく落ちるので、また必要な時はラシアさんに頼んでいいですか?……たぶん店では買えなくなるので」

 

 大げさだとは思うが、消臭玉の材料とかを取りに行くついでに取れるのでラシアは全然おkですと答えた。

 

「その感じだとしばらくは鉱山のダンジョンに人が多そうですね」

 

「はい。初級から上がった人は行きやすいし稼げるのでずっと多いと思いますよ……お待たせしました」

 

 そこで今日の稼ぎ分の換金が終わり、ラシアは礼を言ってから宿に戻っていった。

 

 ラシアがギルドから出るといつもの様に横から後輩が顔を出す。

 

「……貴女、ラシアさんに高級石鹸を融通してもらうように頼むんじゃなかったの?」

 

「お願いしようとしたんですが……私の方は忙しくてそれどころでは……」

 

「人気の受付嬢は大変ね」

 

「無愛想な方がいいんですかねー」

 

 悪気はないのは分かっているが自分の事を無愛想だと言われればむかつくので、受付嬢はラシアが来てもこいつの為には頼まないと心に強く誓った。

 

 ラシアが宿に戻ってくるとかなり繁盛しているようで……鬱陶しいぐらいに人がいるので裏口から入って行く。

 

 宿の仕事は終わったようでおやっさんは食堂に座ってたばこを吸っていた。

 

「おう。戻ったか」

 

「はい。てかめっちゃ繁盛してますね」

 

「誰のせいだ誰の」

 

「誰のせいなんでしょうね。私のせいではありません。登録したセレットさんのせいです」

 

「……確かに間違いねーや」

 

 まだ部屋に戻る気分でもないのでラシアはその辺にあった椅子に座りおやっさんと世間話をする。

 

 もちろん話題はおやっさんが王都に行ってもらって来た手配書の事だ。そこには堂々としたフル装備のラシアが描かれていたからだ。

 

 色はついていないが……どうやったらこんなのできるのと言うレベルで精密に描かれていた。

 

 その手配書を見ながらラシアは大きくため息をつき、どうして助けたのだろうかと後悔する。

 

「一つ勉強になりました……助けて損する事もあると分かった。次からは助けない」

 

 そう言って依頼書を眺めるラシアをおやっさんは機嫌良さそうに笑う。

 

「諦めろ。それが実践できる奴は最初から人なんか助けねーよ。お前が人と話したくないのと一緒で持って生まれた物だ」

 

「ぐっ……頑張れば何とか」

 

「冒険者は転けた時に次から転けない様にするより転けた後にどうするか考える方が楽だぞ」

 

「そんなもんっすかねー……でもこの手配書見ると大失敗って感じっすわ」

 

「手配書じゃねーよ。依頼書だ依頼書」

 

 頭を抱えて悩むラシアにおやっさんは笑いながら飲み物を用意する。ラシアは礼を言ってからそれを飲んでこれからの事を相談する。

 

「という訳で。おやっさん。なんか目立たずに冒険者のランク上げる方法ってない?苦労する分には我慢するし手間もかかるのも良し」

 

「ないな。普通は楽して冒険者のランク上げたい奴が多いからな。今みたいにボチボチやるしかない。後は……」

 

「あとは?」

 

「ボスモンスターをソロで倒すな。遺跡発見するな。ぐらいだな。アホほど目立つぞ。今回は上手くいったらしいが……やめとけ」

 

「ぐっ……レアアイテムも狙えないとは楽しみがねーっすわ」

 

 諦めろと笑うおやっさんだったが一つ思い出した様でその事をラシアに伝える。それは指名の依頼だ。このアイテムが欲しいから取って来て欲しいという物だ。

 

「でもギルド通すからあんまり意味ないのでは?」

 

「ああ。あんまり意味ねーが優秀な冒険者ならその商人が隠したいからギルドとその商人で話は止まるぞ。何処で何を狩ってただけは止まる。商人が売る物が関係してるからギルドも情報として出せない」

 

「ほうほう」

 

「あんまり変わらんが……指名の依頼があったら受けても良いかもな。商人と縁を作っておけば何かと役立つ。金の価値は何処でも同じだからな」

 

 と言ってもラシアに知り合いの商人は昇級試験の時のスケベ親父と遭難した後に街道から王都まで乗せてくれた人ぐらいだ。

 

「あったら受けてみるかー」

 

「指名料とかギルドに商人は払うから、指名ができる商会は金があってギルドとの付き合いもあるから信用して良いぞ」

 

「行商のスケベ親父とかいましたけどね」

 

「自分の見た目を恨むしかないな」

 

 この手配書を見る限りだと顔が隠れる系の装備も避けた方がいいなと考えていると、おやっさんが何かを思い出してラシアに相談する。

 

 それは宿で働く人を増やそうかという相談だった。

 

 異世界の宿の事なんか分からないと思ったが、ティアを今の様に手伝わせるのもどうかと思うのと、時間があればセレットの道具の方を手伝いたいそうだ。

 

「ティアの方は勝手に手伝ってるだけだが……どうかと思ってな。お前、なんかよく検証してるから頭良いだろ。どう思う?」

 

「頭悪いから検証してるんですよ。おやっさん」

 

「馬鹿は検証って言葉をしらねーよ」

 

 今日は特にやる事もなくおやっさんには世話になっているのでラシアはアイテムバッグから紙とペンを取り出しながら考える。

 

 ラシアが泊まってるこの宿は部屋の数が八で、一番大きい部屋をおやっさんら三人が使っている。

 

 冒険者が泊まれる部屋は七ほどあって、冒険者がいない時は大丈夫だがおやっさんとティアが二人で回していた。

 

 よくやっていけたなというレベルだ。

 

「おやっさん。月の売り上げっていくらぐらい?」

 

「ん?かなり儲かってるぞ」

 

 値段を聞いてラシアは驚く。かなり儲かっていた。冒険者がダンジョンに行っていない時でも先にお金をもらうので時間で考えてもかなりの物だ。

 

「ふむふむ。なるほど」

 

「何がなるほどかは分からんが……一人雇えばいけるか?」

 

「一人でも行けるけど安定させたいなら二人。一人でも良いけど料理できるのは必須」

 

 料理人は必須。これは間違いない。現状だとおやっさんが寝込んだりしたら詰みだからだ。ティアは料理できないし意外にもセレットも無理。ラシアは客だからしない。

 

 今の宿を安定させたいなら、料理人と雑用を一人ずつ雇っておやっさんはお金の管理とかそっちに回る方が良い。ティアが手伝ってくれるにしてもだ。

 

「ふむ。だが二人雇うと手持ち無沙汰にならねーか?」

 

「暇だったらおやっさん、道具屋の方を手伝いたいって言ってたから二人はいる。給料はこんなもんかな?」

 

 ラシアが書いた具体的な値段等を見ておやっさんはうーんと悩み始める。

 

「まぁ参考だから適当に考えてもらえればと……もう少し安く雇いたいなら部屋を一つ潰して住み込みもありかなーとは思う。儲けがもう出てるから質を上げる方向でいいかも。トイレの匂い消えたし!」

 

 おやっさんはうーんと悩みながらラシアが書いた紙と睨めっこする。そして一人では決められないと思いセレットと相談する事になった。

 

「一度これでセレットに相談してみる。助かる」

 

「お役に立てて何よりっすわ」

 

「お前を最初に見た時は変な奴が来たと思ったが……まさか宿の事を相談するとは夢にも思わんな」

 

「私もそう思った所で……あっでも誰か雇っても人が多い時は部屋までご飯運んでね!」

 

「……やっぱお前はラシアだな。全然変わってないな」

 

 まだ分からない事も問題も多いが……ティアの様な友人もでき、おやっさんやセレットのように相談できる人が現れた事を、驚くと同時に喜んだ。

 

 これから先も大変な事は多いだろうが……何とかなりそうな気がしなくもないラシアだった。

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