とっても嫌な音がしたので、ラシアは慌てて扉の方へ向かい調べる。
「ふんすっ!……」
開けようとするが……ちゃんと鍵がかかっている。結構本気で力を入れるが、それでも開かない。流石は人類最後の砦と言われた城の武器庫だ。
だが今はそうではない。
閉じ込められたのだ。破壊して出る事はラシアなら余裕だ。だがそれはできない。兵舎に人がいるのは確実だからだ。モンスターはオブジェクトを動かさない。なら人がいる。
目立つ事はできるだけ避けたい……だから壊せない。
ただ出られない事はない。ここから繋がる通路もあるからだ。帰還石という方法もある。
ただ帰還石を無駄に使うなら売りたい。
ラシアが思っていた作戦はこうだ。
「ラシアさん。遅かったですね。大丈夫でしたか?」
「はい。なかなかモンスターがいなかったので、かなり必死に探しました……あと教えて頂いたきれいな石が出たのでもう一つ狙おうと思っていましたが……出ませんでした」
「おめでとうございます。では査定のほうを始めますね」
みたいなやりとりを考えていたのだが……何処かの馬鹿がオブジェクトを動かしたので、その作戦は消えた。
「これ……今日中に帰るの無理だな。時間湧きのボスがいる所は避けつつ帰るか……この広い城の中を? ……よっぽどの時は帰還石使おう」
ラシアは武器庫の床を調べ、そこから繋がる隠し通路へと入っていった。
ここからは一方通行で、城の最下層に繋がり迷路の様になっているので……できれば行きたくなかったが仕方がない。
「……物騒な事は駄目だけどオブジェクト動かした奴を発見したら沈める」
ただラシアは久しく古城のダンジョンに来ていないので、忘れている事がある。
帰還石が使えるのは今いる辺りのフロアまでで、最下層では使えないという事を……
……
…………
ラシアが大変な事になっている頃、ノアはクランメンバーと共に狩りに来ていた。
……場所はローウェンテニア城。古城のダンジョンだ。
そして今いる所は兵舎。
「ちょっとノア! 迂闊にオブジェクトとか銅像に触らないで! この城の罠はまだ生きてるんだから!」
「ははっ。ごめんごめん。前に来た時、その銅像ってあんな向きだったかなーと思って」
「さっきも騎士団の人達見たから、何処かにいるんじゃない?」
ノアとその仲間が話していると、クランのリーダーが手を叩き話をやめさせる。
「はいはい。そこまでよ。さっきも何か変な音がしたから、モンスターが現れる前兆かも知れないし、気を引き締めなさい」
「「はい」」
元気よく返事をしながら、ノアはラシアの事を考える。
(ラシアさん何処にいるのかなー? あの焼き菓子美味しかったよ。直接お礼言いたいよー)
……
…………
誰かのせいで最下層エリアの下水道にいるラシアは、割と大変な事になっていた。
「ぎゃー! 気持ち悪い! そして臭い!」
この下水道エリアには、名前に腐ったがつくモンスターが出てくる。腐ったワニマンや、マウスマン系の亜種であるドブネズミマンだ。
後は苦手な人は絶対に無理な……ジャイアントコックローチなど。人が不快に感じる様なモンスターが大量に配置されているのが下水道エリアだ。
「Gがデカいキモい!……こんな所来るんじゃなかった! もーむり! おうち帰る!」
ラシアはここから歩いて帰るのは無理だと考え、アイテムバッグの中から帰還石を取り出し掲げる。
「あれ?」
だがウンともスンとも言わない。
そして何度か試した所で思い出す。だが認めたくない。だから帰還石に語りかける。
「お願いだから動いてよ! いま動かなきゃ!」
「姐さん。さすがに無理っすわw」(幻聴)
「……まじ? ほんとに無理? ここから歩き? かなり遠いよ? こいつらでこんな気持ち悪いならこの先もっとエグいよな? 冗談だよな。さぁ光れ帰還石! 私を導け帰還石! 皆がお前を待ってるぞ!」
ラシアの問いに帰還石は答えない。受付嬢の忠告を無視した方が悪いと、言わんばかりだった。
「あああーーーーーーー! もう! マジかぁーーーーーーー!」
ダンジョンの奥底でラシアは叫ぶが誰にも届かない。
ラシアは膝から崩れ落ちた。そしてその声に呼びかけられる様に大量のモンスターが集まり、戦いが始まった。
ラシアが大変な事になっている頃、宿の方も少しだけ面倒な事になっていた。
おやっさんが皿などを洗い、セレットが弟子達と売れ行き好調の石鹸などを錬金していると、その人はやって来た。
「セレットいるかい!」
大きな声と共に現れたのは、つい先日結婚の報告に行った、セレットの先生であるガロニアだった。数人の護衛も連れている。
おやっさんもセレットも驚き、そちらを見る。
何回見直してもガロニアが立っていたので、セレットはようやく我に返り声を出す。
「えっと……先生どうしてここにいるんですか?」
「今のルインエルデは気になる事が多いからね! こっちに越して来たんだよ!」
ガチャン!
あまりの出来事におやっさんは驚き皿を落としてしまうし、セレットも頭を抱える。
「そんな嬉しそうな反応されると、こっちまで嬉しくなるじゃないか。さてと土産は買ってきた。セレットの旦那! 茶ぐらい出しな!」
若い時には確かに世話になったが……恩人と言える程でもないので、おやっさん的には追い返したい。だがそれでもセレットの先生だ。おやっさんは色々と諦めて準備を始める。
セレットも弟子達に店を任せて準備を始める。
準備が終わり三人は席につく。他は護衛なので店の外に立ったりして警戒に当たっていた。
「そいつらは私の護衛で来てくれた連中だ。冒険者もやってるからここから通うんだとよ。私だけでも余裕だが、世間体ってのがあるんだね」
セレットがなるほどと言って、おやっさんは護衛の連中を見る。明らかに自分よりは強い。ガロニアもたぶん自分より強い。その上で護衛までいるなら、この人を追い返すのは無理だと諦める。
「セレットの旦那。そう警戒しなくても何もしないし何もできないよ。一人はXランクだ。私達ぐらい片手で倒すよ」
そう笑うガロニアを見るが、そんな気配がする者はいない。おやっさんも現役は退いたが、まだ戦える。この中に自分が片手で負けると思う様な奴はいない。そこだけは分かる。
勝てはしないが……本当に片手で負けると思うのはラシアぐらいだ。このメンツが自分に片手で勝てるなら、ラシアは小指で勝てるだろう。
そんな事は言えないので、今面倒くさい事になってるからしばらく帰って来るなよと、おやっさんは心の中で祈った。
「それでー先生はどうしてまたダンジョン都市に住むんですか? 王都の方を放置して大丈夫なんです?」
セレットの質問にガロニアは元気よく答える。
「ああ。大丈夫さ。やらなければいけない事は全部やった。私のやる事に文句を言えるのは陛下と大公ぐらいだね。これまで散々国に貢献して来たんだ。何も言われない。仕事をしない訳じゃない。場所が変わっただけさ。このダンジョン都市が新しい職場だよ」
「うーん……流石は先生ですねー」
「そうだろ? 若さの秘訣は行動力だよ。それに水晶の泉や灰の砂漠も気になるからね。まずは泉の方を調べようと思う。魔術師ギルドの方にも許可はもらってあるからね。抜かりはないよ」
流石は自身の先生で、実質トップの錬金術師だ……何もかもが自分とは違うなーと感じる。
そして多分だが……何かに感づいてこの街に来たのだと思う。恩師で恩人でもあるが……ラシアとは会わせる事ができない。
ラシアの知識はガロニアの知識欲を満たすし、その能力は研究の対象にもなる。
ガロニアは良くても、ラシアからすればグイグイ来るタイプだ。確実に苦手な相手でもある。自身はティアのおかげで冗談を言ったりできるような仲にはなったが、ノアはほとんど話せていないと言う。弟子達もラシアと話してみたいと言っているが……まだ挨拶ぐらいしかしていないとの事だ。
だからラシアとガロニアを会わせる事は無理だ。
それをするとラシアは何処かへ行く。間違いない。
ラシアは自分の事を貴族ではないと言っているが、セレットは違うと思っている。知識以前に、字を書いたりする事や日常の動作が丁寧なのだ。フォークやナイフの使い方も知っている。
学んだ事がある者でなければできない作法だ。
だからラシアが逃げようと思えば、その力もあるし金もあるのだろうと思う。
ただ……それ以前になにかラシアの事は放っておけないのだ。
大体の事は何でもできるのに、いつも困っている感じがするからだ。
なんというか、ノアとティアという二人の娘がいるが……もう一人、娘が増えた感じだなとセレットは勝手に思っている。
だから目の前にいる恩師には悪いが、セレットはラシアの味方をしようと決めた。
(でもラシアちゃんって女の子なんだけどお兄ちゃんって感じがするのよね? なんでだろ? ラシアちゃん今日は帰って来ない方が良いかも~)
そんな願いが通じたのだろう。ラシアは古城の最下層エリアで元気に戦っている。
「ぎゃーーー! マジで来んな気持ち悪い!」