ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第55話 聖女の住まい

 

 ラシアは騎士達の様子を少し伺う。五人ほどの小さな集まりだ。

 

 ここに狩りに来たのかと思ったが、たぶん違う。あれだ。

 

 このダンジョンにちょくちょくいる、イタズラ妖精というモンスターのせいだ。

 

 そいつが使ってくる魔法で、指定した範囲にいる者を別のフロアに強制的に転移させるというものがある。

 

 こいつは小さい上に、モンスターと重なると見えなくなって、いつの間にか別のフロアに飛ばされているという事がよくある。

 

 帰還石が使える場所なら楽だが……使えない所は歩きだ。

 

 支援が飛ばされてパーティーが壊滅したとかもよく見かけるし、よく巻き込まれた。

 

 目の前の騎士達もその類いだろう。

 

 よく見ればラシアに投擲してきた、あのパルサーとかいうルーンランサーもいる。上位職だし、周りもナイトやガーディアンといったような感じだ。

 

 怪我はしている様子だったが、ボスにさえ気をつければたぶん問題なく戻れるだろう。

 

 ラシアは静かにその場を離れる。

 

 大公の娘から命を狙われている身だ。迂闊な事をしてどこからバレるかも分からない。助けて損をする事はあっても、得をする事はこの世界ではそんなにないのだ。

 

 自分が手を出さなくても、彼らは無事に帰るだろうと思い、その場を離れようとする。

 

 離れて行っているはずだが……騎士達との距離は近づいていく。

 

「あーもう!!」

 

 そして範囲内に入ったのを確認してからラシアはリジェネクティブハンマーに持ち替え、地面を叩き回復フィールドを形成し彼らを助ける。

 

 急に現れた白いフルプレートの騎士に騎士達は驚くが、回復フィールドを出した事にもさらに驚く。

 

 自分でも馬鹿な事をしているとラシアは思う。助けてもらった事など人生で数回しかない。

 

 ラシアは思う。人間はいい人もいれば悪い人もいる。めんどくさい人もダルい人も鬱陶しい人も、むかつく人も頭おかしい人も、会話したくない人もうるさい人もいる。本当に色々な人がいると思う。

 

 そういう人達とは近づかない。話さないでいいと思う。

 

 自分の普通と彼らの普通は違うから。わかり合えなくていい。

 

 だけど……死ななくて良いとは思う。いなくなって欲しいとは思うが、死ななくていい。

 

 だからラシアは助ける事を選んだ。死と比べると助かった方がたぶんいいから。

 

 騎士達は自らの怪我が治った事に驚くが、現れたフルプレートの騎士に警戒する。

 

 話しかけないとどうにもならないので、頑張って声を変えてラシアは話しかける。

 

「戻る気があるのなら案内するが……どうする?」

 

 その問いに騎士達は少し待って欲しいと言って、皆で集まり相談する。そして前にラシアにパルサーが代表として話をする。

 

「仲間達の傷を癒やしてくれた事は感謝する。一つ聞きたい。貴殿は噂に聞く白い騎士か?」

 

「自分からそう名乗った覚えはない。戻る気が無いのなら私は進む。ここには厄介なのがいるからな」

 

「わかった。初めて会った貴殿を信用する事はできない。だが私達はこのエリアに来るのは初めてだ。すまないがその手を借りたい」

 

 普通に話せば話せるのになんで前は攻撃してきたこのアンポンタン! と思うが口には出せない。

 

 そして現状と元いた場所、どうしてここに飛ばされたのかを尋ねると、やはりイタズラ妖精の仕業だった。

 

「仲間達は礼拝堂にいるはずだ。私達もそこに行きたい」

 

「いなかった場合は? 先に帰還石で戻ったかもしれないぞ?」

 

 白い騎士が帰還石の事を知っていて少し驚くが、それなら話は早いと告げる。

 

「礼拝堂にいなければ大広間に集合という事になっている。それでいなければもう帰還しているはずだ。それに我らがここに飛ばされてまだ時間は経ってない。まだいるはずだ」

 

「……分かった。お前達が私を信用するというのなら着いてこい」

 

 騎士達全員が頷くが、一人の騎士が手を上げて質問する。この場所は何処かという事と、どうして帰還石が使用できないのかという事だ。

 

 ゲームの設定を思い出しながらラシアは答える。

 

「ここは女神の力が届かない場所だ。だから女神の力で我らを助ける帰還石は使えない。この場所だが……地下聖堂と言われている。中央付近に行けば祭壇などもある。お前達は初めてか?」

 

「はい。どんなモンスターがいるのかも知りません」

 

「ここは時間湧き……月齢の王、聖女オリスメニタが住まいだ。光の羽が見えるシスターがいたら逃げる事だな」

 

「初めて聞きました……貴殿は何処でその事を?」

 

「暇なら城の西側にある書庫に行くといい。あそこならこの城の歴史があるかもしれないな」

 

「……そんな所もあったのですね」

 

 この連中ですら分かりやすい書庫にすら行っていないとなると……もしかしてこの古城のダンジョンのほとんどの場所は未発見なのでは? とラシアは思った。

 

 ただ樹海よりややこしい上に、へたをしたら強いので、用事が無い限りは行く必要もないのかなーとラシアは思う。

 

(でも武器とかほしがる商人いるし……セレットさんとかこの城の歴史とか調べたそうなんだけどどうなんだろ?)

 

 ここでだらだら話していても仕方ないので、ラシアが先頭を歩き、樹海でパルサーと名乗ったルーンランサーの女騎士に一番後ろを歩いてもらい先に進む。

 

 どうして自分がルーンランサーか分かったのか驚いていたが……ルーンが描かれた槍を持ってるからとしか言えない。ちなみにラシアが投擲した槍とは違うものだったので、きっと回収できなかったのだろう。

 

 オリスメニタがいればかなり大変なので、全員に気をはって進むように言い聞かせ先を進む。

 

 スカルプリーストやホーリッチといった聖属性のモンスターが現れる。だが時間をかけて良いことはないので、進む先にいればラシアが即座に潰す。

 

 自分達では倒す事に苦労するモンスターを一撃で潰すラシアに、畏怖と敬意の目を騎士達は向ける。

 

 樹海で遭難した時に似ているが……ラシア的にはこっちの方がかなり楽だった。フル装備の上に騎士達もかなり強い。

 

 死の使いの亜種系モンスター、白の使いという聖属性のモンスターが壁を抜けて背後から襲いかかってくる事もあるが、それぐらいならパルサーや他の騎士達で倒せる。ホーリッチが範囲攻撃魔法を使っても普通に耐えるので、戦闘が終わったらリジェネクティブハンマーで回復させれば良いだけだ。

 

 先ほどは回復も無しに連戦で戦って疲れ切った所に飛ばされて、さらに戦ってくたばりかけていたのだろうとラシアは考える。

 

 まぁ……一番後ろを歩くパルサーからは凄まじい視線を感じるので、大公の娘とかあの辺と同じで自分の事が気に入らないんだろうなーとラシアは思う。だが助けると決めたら助けるので、まぁ良いだろう。

 

 そんな事を繰り返し、ようやく上へとあがる階段近くに来たが……異様な気配を感じる。あきらかに今までいたモンスターとは桁が違う気配だ。

 

 その気配に一番若い騎士は膝をつき、嘔吐き始める。

 

「ライオニックハート!」

 

 ガーディアンの者がすぐに近づき、その男に恐怖状態を解除する魔法を唱える。

 

 すぐに顔色が良くなり立ち上がるが……異様な気配にラシアとパルサー以外は顔が青くなっている。

 

「白騎士様。どうしますか?」

 

 いつの間にかパルサーに白騎士様とか呼ばれる様になりラシアは戸惑ったが……それどころではないので考える。

 

 ここを進めば……確実に聖女オリスメニタがいる。倒せる倒せないの話ではない。倒したくない……関わりたくないというのが本当の所だ。人型だからだ。

 

 ラシアは思う。きっと調子に乗って倒していたら、いつか人と区別がつかなくなるんじゃないかと。

 

 いつかは人と争う事もあるかも知れない。だけど元日本人のラシアからしたら、人を殺すとかは無理だ。殺されるってなったら殺すかもしれない。だけどそんな状況を作らないようにしないと駄目だとは思う。

 

 だからまともに戦わない事を選ぶ。先にラシアがオリスメニタのターゲットを取って、その間に騎士達に上の階に上がってもらう。騎士達が上がったのを確認してから大公の娘から逃げた時に使った煙幕玉を使う。

 

 あれはターゲットをリセットするアイテムだからだ。

 

 その作戦を伝えると騎士達は分かったと頷くが、パルサーは質問する。白騎士様なら倒せるのでは無いかと。

 

「私達が使う武力とは……最終的な手段だ。戦わない。倒さない。そういう道があるのなら私はそちらを選ぶ。理由無き力は暴力。殴って解決するだけのモンスターにはなりたくないのでね」

 

「……理由無き力は暴力」とだけ呟いて、パルサーは作戦に同意した。

 

 この古城のダンジョンの地図はラシアは覚えているので、騎士達に上に上がる階段の位置を伝えてラシアは先に進もうとすると後ろから声がかかる。

 

「白騎士様! お気をつけて!」

 

 ボスモンスターいるのにでっかい声を出すなと思ったが言えないで、軽く手を上げてから進む。

 

 そして角を曲がり、騎士達から姿が見えなくなった所でご対面だ。

 

 聖女オリスメニタ。

 

 ラシアの危惧している通りに人だった。ラシアと同じだ。違う所は黒い光る首輪と白く光る羽があるぐらい。

 

 聖女もラシアに気がつき視線が絡み合う。そして取り巻きの五体の天使を召喚する。

 

 墜ちたエンジェル、墜ちたアルケー、墜ちたヴァーチェ、墜ちたドミニオン、墜ちたスローンの五体だ。

 

 聖女が一撃では倒せないのは知っているし、取り巻きは全部が範囲攻撃持ちだ。騎士達に攻撃が当たる前に潰す。

 

 ムーンライトコンタクトを使用しハンマーの攻撃力を上昇させる。

 

 即座に接近し近くにいた墜ちたアルケーにハンマーをたたき込む。

 

 月の光が聖女を包み込み一瞬で取り巻き達は蒸発する。

 

 まぶしい光の中だったが、騎士達は言われた通りにすぐにその場を抜けて階段を駆け上がっていった。

 

 次はラシアが引く番だ。聖女の方を確認するが、多少はダメージを受けている様だったが……自動回復のスキルを持っているので凄い勢いで傷が癒やされていく。

 

 倒そうかとも考えて武器を握り直すが……自分には無理だなと、ラシアは悟る。アイテムの中から煙幕玉を取り出し、地面に叩きつけた。

 

 凄まじい煙がラシアと聖女を包む。

 

 ラシアはすぐに身を翻して階段を駆け上がるが……煙の中から声が聞こえた。

 

「強き者よ……どうか私を殺してください」

 

 えっ? と思い振り返るが、もう階段を上がりきり上では騎士達がラシアを待っていた。

 

「……今のは?」

 

「……白騎士様。どうかしましたか?」

 

 階段の下を見下ろすラシアを心配してパルサーが声をかける。もし追いかけてきたら大変なので、ラシアは先へ進むことを選んだ。

 

 そこからはできる限り人型モンスターのいる場所を避けて進み、ようやく礼拝堂へとたどり着いた。

 

 そこには騎士達の仲間やデゴットがおり、戻って来たパルサーと仲間との再会を喜んだ。

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