ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第57話 迷子って事にしよう

 

 一方通行の道、暖炉から飛び降りた先にノアがいた。樹海で遭難し王都で別れて以来なので、元気そうで良かったと思う。

 

 思うだけだ。なんせ場所が悪い。

 

 先に逃げる事も考えたが……進み道はノア達の後ろにあるドアのみ。

 

 場所は古城ダンジョンの内部。ラシアはBランクで中級、しかも一人。いつもの受付嬢に入ってはいけないと言われていたのを無視して入っている。

 

 煙玉、帰還石……このめんどくさい状況から逃げる方法を考えるが……ノアと目が合った時点で詰みだ。

 

 ラシアは力の限りため息をつく。

 

「ラシアさん! それは傷つくからほんとにやめて!」

 

 先に少しノアと話をしたいので、手招きでノアだけを呼び近くに来てもらう事にする。ノアもそれが分かった様で、仲間に少し待ってもらいラシアと共に部屋の隅で話をする。

 

「はぁ……お元気そうで何よりですが、どうしてこんな所に? ノアさんはAなので中級では? ここは上級の狩り場ですよ?」

 

「ラシアさん! ため息は傷つくって! しかもそっくりそのままラシアさんにその言葉が帰ってくるからっ! ラシアさんBだよねっ! あたしはパーティーで来てるしSの人もいるからね!」

 

 ノアから詳しく話を聞くと、今日はクランの上位ランクで集まってこの古城で狩りをしているとの事だった。

 

 モンスターは強く罠も多いが、自分達も多いのでボスモンスターがいる様な場所や未発見の場所に行かなければ、安定して十分に狩りができるのでここに来ているとの事。

 

 ノアの仲間の方を見るとハンターやハイナイトという様な上位の職もいたので、大丈夫なんだろうなとラシアは納得する。

 

「イタズラ妖精だけには気をつけてくださいね」

 

「それは一番気をつけてる。あそこのハンターの人に攻撃するよりイタズラ妖精を気にしててってクラマスが頼んでるから。それでラシアさんはどうしてここにいるの?」

 

「いえ、金に目がくらんだ自分が悪いのは間違いないんですが……どこかの馬鹿のせいで……」

 

「???」

 

 ノアはラシアの強さを知っているので、多少なら話しても問題ないと考え、ラシアは事情を伝える。

 

 もちろん白の騎士や騎士達の事は省いてだが、兵舎から繋がる隠しフロアに入っていたら何処かの馬鹿がギミックを解除して、閉じ込められた。

 

 そこからかなり遠回りしてなんとかここまで戻って来て大変だったと伝える。

 

 初めの方は不思議そうに聞いていたが……ラシアの大変さが伝わったのかノアは変な汗が噴き出していた。

 

 そう。自分がやったとは言えないから。

 

「そういう訳で……本来ならもう帰ってるはずなんですが……その馬鹿のせいで遠回りになっているのでここにいるという感じです」

 

 ラシアが静かに怒っているのがノアに分かったので……余計な事は言わずに話の方向を変える。

 

「大丈夫! 私はラシアさんの味方だよ! あとこの前の焼き菓子美味しかったよ!」

 

「??? そうですか? それは良かったです」

 

「うん。よかった! また作ってね…………それでラシアさんはこれからどうするの?」

 

 後は帰るだけと思っていると、ノア達ももう帰還するとの事で、一緒に帰るかという話になった。

 

 知らない人と話したくないが……ラシアは少し考える。受付で迷子になって古城から帰って来たとするよりも、くわしく言わなくてもいいからノア達と一緒に戻って来たと伝える方が良いだろうと考える。

 

 流石に城門前で何日もレギオンやレギオンアーチャーを狩っていたと言っても、他の冒険者がそんな奴見てないといった話になったら困るからだ。

 

 だから事実を伝える。金に目がくらんで大変な目にあった。これが一番無難だ。

 

 ノアに頭を下げてそれでお願いできますかと頼むと、ノアは喜んで仲間達の所に戻っていった。

 

 先ほどのノアの態度を見て、繋がる所がある。

 

 あれだ……急にお菓子の話を出したのはギブアンドテイクだ。

 

 またつくってねと言っていた。だから目立ちたくないならその作戦に付きあってやるから、また焼き菓子を焼け――というやつだ。

 

 友達でも友人でもないただの知り合いに頼んだのだ。無償というのは確かにおかしな話である。

 

 新しく入った料理人が休みの日におやっさんに厨房を借りるか。調理器具も取ってきたから前よりは少し美味しく焼けるだろう。そんな事を考えているとノアが戻ってきた。

 

「ラシアさん。いいって! 一応というか遭難してラシアさんがかなり強いって言うのは伝えてあるけど、すっごい装備持ってるとか、夜通し戦ったとか言ってないからたぶん大丈夫と思う」

 

「ありがとうございます。ならちょっと戦えるBランクでいけそうですね」

 

「……ラシアさんってランク詐欺だよね。その辺は言わなくても勝手にAとかSぐらいで思ってくれてるんじゃないのかな?」

 

 ラシアはもう一度ノアに礼を言ってからノアのパーティーの所に向かった。

 

 十人ぐらいのパーティーで様々な職の人がいる。話したくないのは山々だが、ノアと会った時点でアウトだ。後はどう致命傷にせずに切り抜けるかが問題になる。

 

「こちらは私と同じ遭難組のラシアさん。詳しい職まではしらないけど戦士職の前衛さん」

 

「ラシアです」

 

「……ラシアさん。人類は敵じゃないからもう少し喋って!」

 

 ノアから自分の事は聞いていたのだろう。観察するとまでは言わないが、変わった人を見る目でラシアは見られる。

 

 この中で、ラシアの次に強いであろう人物が自己紹介を始める。

 

「あなたが……噂のラシアさんね。私の名前はリュートリア。ノアやダード達が加入しているクランのマスターをやらせてもらっているわ。私達もこれから帰る所だから一緒に戻ると言うのなら問題はない。だけど……ノアの方からクランへの加入を勧められてると思うのだけど断っている理由をお聞かせ願える?」

 

 冒険者をまとめる様な事をやっているだけあって……美人ではあるが何か雰囲気が怖い。顔も怖い。

 

 一人で帰れと言われても全然帰られるが、怒らすとめんどくさそうなので、ラシアは言葉を選び考える。

 

「しゅっ宗教上の都合で……」

 

 あきらかに嘘だと思われているので、その場にいた全員がなんとも言えない顔をする。

 

「ラシアさん……」

 

「貴女……馬鹿にしてる?」

 

 馬鹿にしている訳ではない。ただ入りたくないだけなので、それを素直に言った所で揉めるだけだ。ラシアなりに考えた結果が失敗だったという話だ。

 

 うーんめんどくさいと考えていると、助け船が飛んで来る。

 

「まぁまぁ。リュートリアも落ち着いて。彼女には彼女なりの理由があるんだよ……それはそうとラシア君といったかね?」

 

 長い髪の男性に話しかけられラシアは少し戸惑うが、はいと返事をすると彼の自己紹介は続く。

 

「僕の名前はフリオール。美しい君に惚れた! 僕とお付き合いしてもらえないかな?」

 

「嫌です。ノアさんすみませんが……先に帰らせて頂きます。お手数かけました。皆様も時間を取らせて申し訳ありません。失礼いたします」

 

 そう言って頭を下げてからスタスタと帰ろうとするラシアの服をノアは必死につかみ止めようとする。

 

「ラシアさん! まってまって! フリオは馬鹿だからちょっとまって! というか力つよっ! 全然とまらない!」

 

 ノアぐらいの軽さならあって無いような物なので、引っ張って帰っても何の問題もないが、流石にそれもどうかと思うのでラシアは止まることにした。

 

「ノアさん……本当にすみませんガチ目に帰っていいですか?」

 

「駄目だよ! 一人は危ないよ!」

 

 ラシアは大きくため息をついた後に先程の場所に戻っていく。他の方々も律儀なようでまだいた。

 

 戻ったら戻ったでフリオールがラシアに話しかける。

 

「では、ラシア君。急に付き合ってくれと言われて戸惑うのも分かる。まずは恋人からどうかね?」

 

「貴方のクランには可愛らしいノアさんがいるのでノアさんがいいのでは?」

 

「可愛いと言ってくれたのは嬉しいけど私もこんなの嫌だよ!」

 

「はっはっは! レディー達。この私をこんなの扱いとはひどいじゃないか」

 

 このクランで新人さんが一人亡くなったと聞いたので、あまりまともな所ではないのかとラシアは思う。だが……それを面と向かって言えるものではないので、色々と諦める。

 

 そして他のメンバーからの簡単な自己紹介があり帰還する事になる。

 

 これだけの人数がいれば自分が戦う必要も無いとラシアは思うが、後で色々と言われたら面倒なので前衛組に紛れて戦闘を行う。

 

 BランクのラシアがAランクの者が手こずるモンスターを一撃で倒すのもどうかと思うが、遭難組から色々聞いていると言っていたし、ラシアもこの面子と早々に別れたいので仕方が無い。

 

「おまえ本当につよいな! ノアが言ってた通りだな!」

 

 大剣持ちの前衛に褒められるが……ラシアなので頭を下げるだけに止める。

 

 ……

 …………

 

 そしてようやく出口へとたどり着き、ここまで送ってくれた事に礼を言ってから別れようとすると、クラマスであるリュートリアに止められた。

 

「本当に噂通りだったわね。ラシア。貴女、私のクランに入りなさい」

 

 時間にして一秒にも満たないうちにラシアは即答する。「嫌です」と。

 

「ラシアさん! 早いよ! もう少し悩んで!!」

 

 リュートリアは少し難しい顔をした後、次の手を考える。先ほど見たラシアの戦闘力を考えれば、どうしてもクランに欲しいからだ。自分並みか、低く見積もってもその次に強いのは確実だからだ。

 

「わかったわ。ならクランに入らないと言うのなら……ノアや遭難組とダンジョンに行ったりするのは控えてね。こちらのクランメンバーでもあるし何かあっては困るから」

 

「喜んで!」

 

「さっきより早いよラシアさん! しかも喜ばないで!」

 

 運良く言質は取った。これで誘われても荒波立てずに断る事ができる。その事をラシアは喜んだ。

 

 だがクラマスの言いたい事も分かる。一人で好んで狩りをする変な奴とメンバーを一緒に狩りをさせるのは怖い。

 

 冒険者が一人で狩りをするとか……よっぽど頭おかしいかそれなりの理由があるかだ。

 

 ラシアは前者だと思っているのでそれでよし。

 

 半泣きになってるノアをまた少し離れた所に呼んで話をする。

 

「五日後とかならおやっさんが厨房の担当なのでその辺なら焼き菓子を作れると思うので来てもらえれば焼きますよ」

 

 半泣きになってたのが嘘の様に元気になり、その日は空いているとの事なので元気よく「行く! 絶対行く!」とノアは返事をする。

 

「では、私は帰りますので……また会いましょう」

 

「クラン来ればご飯ぐらいだせるよ?」

 

 絶対行きませんと言ってからクランの人達に送ってくれた事の礼を言った。ラシアが倒したモンスターの魔石の事は? となったが、送ってくれた礼だと言って礼だけ残し、ラシアは逃げる様にその場を後にする。

 

 ようやく古城のダンジョンから冒険者ギルドに戻ってきたが……やたらと忙しそうにしていたし、なんか武装してる人も多かったので、受付には行かずラシアはすぐに宿へと戻った。

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