ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

59 / 82
第59話 人の話は聞こう

 

 ラシアは自分の部屋で下着姿のまま土下座している。

 

 目の前にはおやっさん。ティア。困った顔をしているセレットの三人だ。

 

 ラシアが今回やらかした事の怪我人はいない。だが……宿の一階は水浸し。道具屋の方は濡れなかったが、今日はもう営業中止だ。

 

「床をぶち抜いた、ベッドを壊した、屋根を吹っ飛ばした……次は壁か宿ごと破壊するかと思ったが……お前は人の想像の斜め上をいってくれるな! 水害か! おおん? 潮でも吹いたのか? クジラシア!」

 

「すみませんすみません……本当にすみません」

 

 一階、二階をずぶ濡れにされたら誰でも怒る訳で……セレットは困った顔でおやっさんをなだめる。

 

「まぁまぁ……ラシアちゃんも知らなかった訳だからー」

 

「知らなかったら聞けよ!」

 

「知らなすぎると何を聞いていいか分からない事ってあるからね」

 

「お父さん。落ち着いて!」

 

 ラシアは謝る以外の選択肢はないので素直に頭を下げている。

 

「というか……ラシアちゃん。なんで下着姿なの?」

 

「私が悪いので……とりあえず下着姿で謝っておけば……おやっさんも強くは言えないだろうと!」

 

「したたかな野郎だな! 反省しろって言ってるんだよ! ボケ!」

 

「すんませんすんません……」

 

 それから少ししてようやくおやっさんが落ち着いたので、ラシアはいつもの服を着てから片付けを手伝う。

 

 そしてダンジョンから持ち帰った物はブロン鋼で手入れして使わないと今みたいになると教えてもらった。

 

 そんなことがあるのかとラシアが驚いているとセレットが付け加えて教えてくれた。

 

 極論だが物にも魂みたいな物があって、それをこちらの世界で定着させて安定させる為に必要な事らしい。

 

 ただモンスターが持っている武器とかは大丈夫なので、その辺は未解明だ。ただ偉い人が言うには、モンスターの魂に触れられているから形として定着しているとの事。

 

「色々あるんですね」

 

「そうなのよ。なんというか……ダンジョンの物ってダンジョンの記憶だけを持って帰ってる感じで、それをこの世界で形にする感じかな? だけどモンスターから出た物でもブロン鋼で手入れした方が安全。混ざっても大丈夫だし」

 

 だから武器を鍛える人が少なくてもブロン鋼の需要があるのかとラシアは納得する。

 

 そんな話をしながら床を拭いているとおやっさんが割れた浴槽を眺めていた。

 

「……ラシア。この浴槽って簡単に手に入るのか?」

 

 基本的にダンジョンの物は壊れても一日経てば元に戻る。ラシアがやらかした事などももう戻っている。

 

 だからその浴槽も同じなら元に戻ってるはずだ。武器庫から持ち帰った物がどうなってるかも知りたい。その辺りも要検証だ。

 

「ダンジョンの物を持ち帰って元に戻ってるなら、手に入れるのは簡単ですね」

 

「なるほどな」

 

 また怒られるのかとラシアが思っていると、おやっさんが面白い事を言い出した。

 

 共同にはなるが浴室を作るかと。

 

「……じゃあ! ワンサイズ大きいの持って帰って来ます! 行ってきます!」

 

 と、言って早速、古城のダンジョンに向かおうとするラシアの首根っこをおやっさんが掴む。

 

「おい待て!……先に片づけろ!」

 

 おやっさんを少し引きずったあとに全面的に言っている事が正しいのでラシアは止まった。

 

「流石に二階に作るのは排水の加減がダルいから一階になるぞ。井戸がある中庭あたりだな。まぁ宿からは繋ぐが」

 

「作ってくれるなら何でもいいです。何でも手伝います」

 

「お前……そんなに風呂入りたいのか? 王都にあるし鉱山の街に温泉あるだろ」

 

 いつも通りの理由なのでラシアは宗教上の都合だとおやっさんに伝えた。

 

「作るのはいいが……水はどうすんだ? お前もシャワー浴びるときは井戸から水汲んでるんだろ? 浴槽に水を張るってなると大変だぞ」

 

「そんなめんどくさい事はしない訳で……かと言って説明が……」

 

 イレイザーハンマーでお湯を作って入れてるとは言っても良いが、説明するのがめんどくさい。そう考えていると、セレットが精錬で使っている魔石を入れたら水が出る道具が目についた。

 

「セレットさんが使ってる魔石入れたら水が出るのなら楽じゃない? お湯にするのは簡単にできるから」

 

「あれか……」

 

 そこでセレットから待ったがかかる。もう少し大きな物もあるし浴槽に水を入れることはできるだろうが……効率が悪いとの事。

 

「できる量の水に対して……かなりの量の魔石を使うから宿の儲けが消えるよー」

 

 おやっさんの宿は仕事で、ラシアが風呂に入りたいのは娯楽だ。儲けが出ないならしては駄目だが……ラシア的にはどうしても風呂に入りたいのでなんとか説得する。

 

「入りたい人だけ魔石使って水作って入ったらいいと思う! 数日待ってくれたら水が出るアイテム取ってくる! だから浴室はほしい! 衛生面的にも!」

 

 そこからラシアのプレゼンは続き、ラシアの熱量におやっさんは負けて中庭に浴室が作られる事になった。

 

「やった! おふろおっふっろ!」

 

「ラシアさん嬉しそう!」

 

「後は……ラシアが浴槽を持って帰って来てからだな。大きさが分からんと部屋の大きさが分からん」

 

「じゃあ! 今から行ってくる! 片付けの人が足らないならギルドで雇ってくるから行かせて欲しい!」

 

 そんなラシアを見てセレットが待ったをかける。何か大事な事を忘れて無いかというものだった。

 

 大事な事は確かにある。それは騎士達がギルドにいる事だが……戻ってくる人を警戒しているのなら、向かうラシアはたぶん大丈夫だ。

 

 その事を伝えると違うといわれた。

 

「違うのラシアちゃん。旦那とティアちゃんにお土産あるのに私のは?」

 

 もちろん取ってきてない。帰還石二つあげたからええやろの精神だ。あれ二つで約二百万セルもする。おやっさんやティアのお土産は値段不明だ。調理器具とか下手したらただのガラクタだし、クラウンも偽物の可能性もある。

 

 だからラシアは考えた。あれだ。あの娘にしてこの母あり、だ。

 

 ようはノアと一緒でおやっさんから助けてやったから古城いったらなんか取ってこいというやつだ。

 

「セレットさんって……ノアさんのお母さんですよね。今から行くのでなんか探してきます」

 

「ありがたいけど……急にどうしたの?」

 

「それでおやっさん。おやっさんが今度、厨房の日にノアさんが来るのでちょっと窯貸してくださいね。作戦に付きあってやったから焼き菓子を焼けと言われたので」

 

「おっおう。いいが……ノアがそんな事を言うか?」

 

 世間の荒波が彼女を変えたんですよ……と言って、ラシアはすぐに用意をしてギルドへと向かった。

 

「ラシアちゃん……絶対になんか勘違いしてそう」

 

「確かにそんな気はするな」

 

「ラシアさんだから!」

 

 三人が片付けの続きを始める頃にはラシアはもうギルドに着いていた。

 

 いつもの受付嬢の所に行って早々と古城に行きたいが……色々とやっておかないと駄目な事があるのでちゃんと話をする。

 

「あれ? ラシアさんいつの間に戻っていたんですか? いつもなら戻ったらすぐに受付にきますよね?」

 

「いえ。受付さんがいなかったのでそのまま帰りました」

 

「ああ……ラシアさんが行った次の日が休みでしたね。というか私がいない日もあるので他の人にも慣れてください」

 

「無理です! というか人多いですね」

 

 理由は知っているが、世間話をしながら依頼品を半分だけ出す。今から古城に行くので、戻って来たらまた少し出す感じだ。一度に全部出すのは駄目だ。たぶんだが一日ではそろわないからだ。

 

 依頼品を受け取り受付嬢は説明する。古城に白の騎士が出たので話を聞きたいから騎士達が待ってるとの事で、外野は白の騎士を見てみたいからいるとの事。

 

「なるほど。いろいろあるんですね」

 

「そういう事です。ラシアさんなら一日で依頼を達成しそうな気はしましたが……無理でしたか。魔石の買い取りのお金はどうします?」

 

「流石にむりですね~。また依頼の続きに行くので後でお願いできますか?」

 

「分かりました。後は……前と同じですが城の中には入らない様にお願いします」

 

「了解です!」

 

 受付嬢と別れてラシアはポータルの列に並ぶ。

 

(受付さんは私がある程度強いのは知ってるからこれぐらいのやりとりにしとかないと駄目だよな。たぶん仕事として書かれたらごまかせないから……嘘ついて申し訳ないけども!)

 

 そしてラシアはポータルを抜けて古城のダンジョンへとたどり着く。そしてまた受付嬢の忠告を無視して中へと入っていく。

 

 今回は騎士達もいないようだったのですんなりと城へと入り、気になっていた事を確かめながら進んで行く。

 

 浴室へいく途中で不可解な事があった。

 

 武器庫から持ち帰った武具だがオブジェクトと同じ扱いのはずだが復活していなかった。

 

 そして……王女の冠も本来ある場所になかった。

 

 基本的にダンジョンで拾った物は冒険者の物なので、問題がないと言えば問題は無いのだが……ダンジョンの壁や置いてある物の違いは何なのだろうとラシアを悩ませた。

 

 そして今回は王女の浴室ではなく、この城の国王と王妃が使う浴室へとやってきた。王女の部屋にある物より少し大きな浴槽があった記憶があったからだ。

 

「おっ! あったあった。おやっさんもセレットさんと一緒に入りたいだろうからこのサイズがいいだろ……てかえらい豪華だな」

 

 そんな事を考え、ラシアはその浴槽をアイテムバッグに仕舞った。そしてセレットがなんかよこせとか言うので、本でも持ち帰れば良いかと考えた。書庫へと向かうはずだった。

 

 油断があった。

 

 帰ったらようやくお風呂に入れるという油断だ。

 

 それと受付嬢の忠告を聞かなかった油断だ。

 

 足下に小さな妖精が接近していてそれと目があった。

 

 イタズラ妖精だ。

 

 ラシアは即座に武器で叩き潰そうとするが……イタズラ妖精の方が少し早かった。

 

「やめろっ!」と叫ぶが無駄だった。ラシアの足下に転移陣が描かれ即座に何処かに飛ばされた。

 

 ラシアが飛ばされた先は少し前に見た場所で、女神の加護が届かない場所。

 

 そう、古城ダンジョンの最下層。下水道エリアだ。

 

「なんで数あるエリアの中でまたここなんだよ!」

 

 ラシアは叫ぶが……ここでは帰還石は使えない。

 

 そしてラシアの声に釣られて、奴がやってくる。

 

「おっお前は!! う○こスライム!」

 

「ブリブリブリ! ボクは くさいスライムだよ!」(幻聴)

 

「ぎゃーーーー! 来んな!」

 

 そしてラシアはまた歩いて戻る事になった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。