ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第6話 初心者ダンジョン

 

 ラシアはこの街に来て何度目かのダンジョンに潜っている。

 

 お金を稼ぐために潜っているが……戸惑うことがあった。それはダンジョンに出てくるモンスターがゲームと同じだったことだ。

 

 この初心者ダンジョンと呼ばれている場所は別名「若葉のダンジョン」と言われ、その名も出てくるモンスターも階層も同じだった。

 

 広さも単純計算だが、初心者ダンジョンは三階層あり、一層の広さは東京ドーム一個半ぐらいになる。

 

 この辺りもゲームの設定とほぼ同じだったので、ダンジョンの構造と出てくるモンスターが分かっているラシアからすればありがたい話だった。

 

 そしてお金を稼ぐという以外にも、一つ目的があってダンジョンに通っている。若葉ダンジョンでは関係ないが、もし全てのダンジョンが存在するなら、最も高難易度の深淵のダンジョンをクリアーすると願いが叶う――そんなゲーム設定があったはずだ。

 

 そのダンジョンがあるのかは分からない。だが目的を持って行動しようと考えラシアはダンジョンに入っている。願いが叶えられるなら、願うことは元の世界に帰ることだ。

 

「おうち帰りたい……」

 

 そのダンジョンはゲームでもラシアは攻略できていない。だからクリアーできるかは未知数である。

 

 そんなラシアがまだ初心者ダンジョンにいるのは問題が残っているからだ。まずは依頼として出されている白の騎士の件。助けた娘が大公の娘で、余計なことは避けたい。ほとぼりが冷めるまでおとなしくしておこうと考えているからだ。

 

 目立たずに済むなら目立たぬままダンジョンを制覇して、元の世界に帰る方が良い。

 

 フル装備が使えないのは痛いが、しばらくは必要ないので我慢はできる。問題はもう一つある。

 

 ダンジョンも同じ。モンスターも同じ。

 だが……行動が違う。

 

 これがラシアを戸惑わせる問題の一つだ。

 

 今もラシアの前には、ゲームに出てきたマウスマンという子供くらいの大きさで二本足で立つねずみ型のモンスターが武器を持っている。もう一匹はマウスマンメイジという魔法を使う個体だ。

 

 ゲームならマウスマンメイジは小さなファイヤーボールしか使わない。だが……目の前のマウスマンメイジは詠唱の後、水の球を飛ばしてきた。

 

 どちらの攻撃もラシアにはダメージにならない。だがこの行動こそが戸惑いの原因だ。

 

 楽に進めるから進んで良い、では駄目なのだ。ラシアはこの世界ではただ強いだけの初心者だ。いくら強くても息ができなければ死ぬ。首が落ちれば死ぬ。死ぬ要素などいくらでもある。だから初級ダンジョンで慣れてから先に進もうと考えている。

 

 急がば回れ。今はそれでいい。

 

(今はいいんだよな……中級から上級に出てくる奴に問題が絶対に出てくる。ゲームなら制作者が意図的に外していた最悪の組み合わせを持ったモンスターがいるはずだ。いないならそれでいい。でも、いると思って行動しないと確実に死ぬ)

 

 簡単に言えば、必中スキル持ちが即死攻撃を使うパターンだ。ゲームなら成立させてしまえばただのクソゲーだ。

 

 そういう危険な組み合わせの敵にすぐ対応できるよう、この世界に慣れておこうという考えだった。

 

 あとはゲームの仕様と現実との差に戸惑う感覚を、このダンジョンで調整している。

 

 マウスマンとマウスマンメイジをメイスで叩き潰し……心臓付近から魔石を抜き取る。この作業も本当に吐きそうになり慣れない。モンスターとはいえ、さっきまで生きていたものの体から魔石を抜き取る。

 

 これが想像を絶するほど辛い。ただ抜き取らないと金にならない。手に持っている物しかアイテムバッグの中に入らないので、手を汚さずにというのは無理な話だった。

 

「おうち帰りたい……」

 

 誰も「いいですよ」とは言ってくれないので、諦めてマウスマンの死骸を漁る。すると血の匂いに釣られて別のモンスターが姿を現した。

 

 中型犬ぐらいの大きさのウサギだ。モンスターなので耳は剣のようになっている。ステータス的にはマウスマンより強い。こいつもゲームとは違う行動をし、三匹ほどの群れで現れた。

 

 ゲームと違う点はラシアにも恩恵がある。こういう数が多い雑魚の時は、ゴルフクラブを振る要領で地面をメイスで殴ると、泥や小石がショットガンのように飛んでいき簡単にサーベルラビットを瞬殺できる。

 

 ただ……これはゲームではなく現実だ。貴族の娘の時もそうだが、自分の攻撃は人間にも自分にも当たる。今のような攻撃をして射線上に誰かがいたら大変なことになる。

 

 攻撃するときは気をつけようと心に決め、追加で現れたサーベルラビットから魔石を回収したところで、そろそろ初心者ダンジョンは突破しようと考える。

 

 入り口と出口は同じ場所にある。ランダムダンジョン以外は下に降りる階段の位置も同じだ。ゲームと構造は同じなので階段の位置もだいたい覚えている。今は二層目で狩りをしていたので、次に進めばボス部屋だ。

 

 ラシアは警戒しながら先へ進む。初心者ダンジョンなので人は少ないが、遠くでは誰かがモンスターと戦っている音がする。

 

 普通の人より戦える者なら命の危険はある。だが初心者ダンジョンで稼げるなら、生活は楽になるのだろうか。とラシアは考えながら進んでいく。

 

 下に降りる階段にたどり着くと、階段の近くではまだ若い冒険者たちが休憩していた。

 

 こういう所もゲームとは違う。一人一人が弱くても、集まっていれば何かあった時に協力して対応できるようにしているのだ。

 

(これも強いだけでは分からない正解だよなー。次の初級ダンジョンは、もう少し時間をかけてもいいかもしれないな。学ぶ所はかなり多いな)

 

 他の冒険者とは話もせず、感心しながらラシアは階段を降りていく。

 

 階段を下りきると、目の前には大きな門があり開かれていた。

 

 これもゲームと同じ仕様で、門が開いているなら中に人はいない。閉じているなら誰かが戦闘中で入れないということだ。こっちの世界ならパーティーだとどうなるのかとは思ったが……ゲームでも一人だったのでそこは気にしなくていいだろう。

 

「確か……初心者ダンジョンのボスはラットマンだったな」

 

 そう呟き、扉をくぐって中へと入っていく。

 

 中に入るとラシアの予想どおりに、小柄な男性ほどの大きさになり、錆びた剣と盾を持ったラットマンがいた。

 

 踏み込んでメイスを叩き込めば一瞬で終わる。だがボスにも行動の変化があるのかを調べるため、警戒のランクを数段階上げラシアはラットマンと対峙する。

 

 マウスマンより少し速い踏み込みでラットマンが襲いかかる。ラシアからすれば遅い。だが階段の上にいた初心者たちからすれば十分に脅威となる動きだ。

 

 ゲーム時の行動はモーションの都合か、振りかぶって斬るだけだった。だが目の前のラットマンは突く、払う、盾で殴るといった動きもしてくる。

 

 今のところ目では簡単に追える。だがもっと強くなり、技として昇華させたモンスターが出てきたらどうするのだろうとラシアは思う。

 

「本当に私は強いだけの初心者だな……」

 

 ラットマンも自分の攻撃が届かないと悟ると頭を使い始める。先ほどまでしなかった盾を投げ、ラシアを驚かせた。

 

 そして驚いた隙に距離を詰め、掴もうと飛びかかる。

 

 モンスターの攻撃すべてが今のラシアには勉強になる。ダンジョンという意味不明な空間で、どういう生態なのかも見当がつかない。だがラットマンに一言感謝を告げ、その頭にメイスを振り下ろした。

 

 倒したラットマンは他のモンスターとは少し違い、ボロボロと体が崩れ、魔石と使っていた剣だけを残して消えていった。

 

 ボス以外のモンスターは、一日だけ死骸が残る。その間にダンジョンから取り出せば皮や肉は素材として使えるし、食べようと思えばくえるらしい。その辺りもゲームとはまったく異なる仕様だ。

 

「ダンジョンってなんなんだろう?」

 

 と思うが、別の世界から元の世界に来た人がいたら、きっとこの世界はなんなんだろうと思うはずだ。だからラシアは考えるのをやめ、そういうものだと思うことにした。

 

「別に私は世界のすべてを知りたいわけじゃない。そう……おうちに帰りたいだけ!」

 

 魔石と残った剣を回収し先へ進むと、どこかへ繋がるポータルがあった。ゲームと同じなら出口のはずだ。ラシアはそこへ進んだ。

 

 やはりそれはゲームの仕様と同じで、冒険者ギルドへと帰還することができた。このまま宿に帰ってもよかったが、どうせ次に来た時に売らなければならない。ラシアはいつもの受付嬢がいる列へ並ぶ。

 

 他の列が空いていようが関係ない。知らない人と話したくないからだ。

 

 ようやく番が来て、魔石の買い取りとラットマンが落とした剣の買い取りをお願いする。

 

「分かりました」

 

 と返事をした後、受付嬢が尋ねる。

 

「ラシアさん。この剣はボスのラットマンを倒して手に入れたものですか?」

 

「はい。なにか問題ありましたか? 買い取ってもらえないとかですか?」

 

 そう尋ねると違ったようで、受付嬢は「おめでとうございます」と祝福した。詳しく聞くと初心者ダンジョンをクリアしたことで、本格的に冒険者として登録されるらしい。

 

「最上位はZ、そこからX、S、A、B、Cとなります。ラシアさんは今この時をもってCランクの冒険者となります」

 

 ゲームの時にはそんなランクなかったなーと思いながら、「ありがとうございます」とだけ伝える。

 

 すると、いつも業務以外のことは話さない受付嬢が不思議そうな顔をした。

 

「皆さんもっと喜ばれるのですが……ラシアさんは何というか普通ですね。当たり前とも言うべきか、なんと言うべきか……」

 

「えっ? 喜んでますよ? 顔に出にくいだけで……あーウレシイな。めっちゃうれしいな」

 

「そうですか」

 

 それ以上は何も言わず、受付嬢はいつものように接してくれた。

 

 今回はボスも倒して六万セル。だいたい円と同じくらいの価値で、ここから税金で十五%ほど引かれるので手取りは五万ちょっと。

 

 命の危険はある。だが日当で考えれば夢はある。とラシアは思う。もっと上のダンジョンへ行けばさらに稼げるのだから。

 

 宿の延長もあるので全額を受け取り冒険者ギルドを後にする。

 

 宿に戻ると親父さんが店先を掃除していた。十日ほど宿を延長したいと告げる。

 

「感謝はしてるから俺が言うこともねーが……クリスタルリザード倒せるなら他の宿でもいいだろ。お前、初心者ダンジョン行ってるって話だが……いる場所間違ってるだろ」

 

「料理で例えるなら……最高の食材を素人が調理するみたいなもんですわ」

 

「何言ってんだ」

 

 そう言われるが、ラシア自身も何を言っているのか分かっていない。

 

 一泊三千八百セルの宿を十日分その場で支払い、宿の延長を決めた。

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