ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第66話 白い騎士と黒い勇者

 

 ラシアは古城ダンジョンのボスがいる玉座の間に向かっている。

 

 聖女オリスメニタを倒したので、剣聖ロビルカロンと天弓ゼレティエスの二人は誰かが倒している。ゲームならそれでここのボスが本気仕様になるからだ。

 

「はぁ……上手くいったら姫様に文句言おう……って思ったけど、よく考えたらこの状況って受付嬢さんの忠告を無視して城の中に入った私が悪いんだよな」

 

 大きなため息をついた後、ラシアが玉座の間の一つ前のフロアにたどり着くと、騎士や冒険者といった人だかりができていた。

 

 そして一人の冒険者がラシア――白い騎士に気がつくと周りが騒がしくなる。

 

「おっおい……あれが噂の白い騎士か?」

 

「……みたいだな。本当にいたとはな」

 

 なんて声が聞こえるが、皆、中に入る様子がないので先に進むと、扉の前で騎士団がおりその中に騎士団長のデゴットがいた。

 

 そしてラシアに気がつくと知り合いの様に手を上げて話しかける。

 

「いたか。ホワイトナイト。お前さんも見に来た口か?」

 

「何の事だ?」

 

 話を聞くと勇者ローリスの様子がおかしく、Sランクの冒険者で構成されたパーティーが壊滅したとの事だ。

 

 デゴット達も勇者ローリスを討伐にきたが、今の戦力では倒せないのでここに足止めされているとの事だ。

 

「なるほどな」

 

「お前さんは何か知っているのか?」

 

 答える必要もないが、答える事で犠牲が減るのならラシアは答える。

 

 勇者ローリスを倒す前に、聖女オリスメニタ、剣聖ロビルカロン、天弓セレティエスの三人を倒しておくとローリスが強化されるという事を。

 

「剣聖ロビルカロンはお前達騎士団が前に倒しただろう? 聖女オリスメニタは……私が倒した。修練場にいるはずの天弓セレティエスもいなかったから誰かが倒したのだろう」

 

「それは本当なのか?」

 

「嘘を言ってどうする。いまなら取り巻きが悪魔ではなくその三人達になっているはずだ」

 

 騎士達はまだ確認していなかった様だが、先に入って撤退した冒険者達が勇者とロビルカロン、他に見たことも無いモンスターを見たと言った。

 

「流石に勇者+他の月齢の王が相手では消耗が激しいな……訓練でやる事じゃない。ホワイトナイト、ローリスはずっとあのままか?」

 

「いや、倒すかその三人の誰かが復活すれば元に戻る」

 

「なるほどな……まぁそれならしばらく放置だな。冒険者ども、今聞いた通りだ。こいつの話を信じるなら待っておけ。俺たち騎士団は撤退する」

 

 嘘を言った訳では無いが……自分が言った事を何処まで信用しているのか? とは思う。だが自分に分からない何かがあるのだろうとラシアは思い、先に進む。

 

「ホワイトナイト。何処にいくんだ?」

 

「私はローリスを倒しに来たんだからここにいるんだ。お前達が挑まないのなら私が行かせてもらう」

 

 辺りがまた騒がしくなり始める。

 

「……お前、一人で行くのか?」

 

「ご想像に任せる」

 

 そう言ってラシアは軽く手を振ったあとに重厚な扉を開けて中へと入っていく。

 

 中に入ると先に入りやられた冒険者の匂いだろう。濃厚な死の匂いが広がっていた。

 

 そして玉座の近くにいた。目は焦点が合わず、開いた口からはよだれがダラダラと垂れ流し、それは毒なのか地面に触れるとジュッと音がした後に湯気が出る。

 

「太陽の勇者、伝説の勇者、勇者王……いろんな勇者を見てきたけど…………比べるのもおこがましい勇者だな。お前は」

 

 ラシアの視線の先はローリスの胸元だ。もう一つ、人の顔がある。

 

 周りには先ほど倒した聖女オリスメニタもいる。

 

 そして……ラシアに願った王女、リレッサ・ロード・ローウェンテニアもいる。

 

 体だけがあって何も無いのだろう。オリスメニタもリレッサも何処も映していないし何処も見ていない。

 

「さてと……上手くいってくれよ。姫様に文句言いたいから」

 

 ラシアはプラティディオンハンマーを手に取り戦闘体勢に入る。

 

 気をつけるのは天弓のセレティエスだけ。こいつのスキルで影縫いという物がある。それをくらえばその場に縫い付けられ、一方的に攻撃される。

 

 だから最初に倒すのは聖女ではなく天弓だ。

 

「クラックフォーール!」

 

 ラシアはハンマーを構え地面に向かって思いっきり叩きつけると玉座の間にヒビが入り、ローリス達を飲み込む。

 

 クラックフォールは範囲内の敵をスタンさせる技だ。スタンって何って話になるのだが、全員が行動不能になったのでそれで良しとする。

 

 すぐにセレティエスに接近しハンマーを叩きつける。ラシアが慣れたのか、これが取り巻きだからかは分からないが……聖女を倒した時の様な不快感は無かった。

 

 まだローリス達は動けない様なので次は近くにいたオリスメニタだ。それも一撃で消滅させるが不快感はない。

 

 そこでスタンの効果が切れたのか勇者達が動き出す。

 

 一番厄介なのと回復は倒した。後は楽と思ったがそうでもなかった。

 

 剣聖ロビルカロンが距離を詰めて一気にラシアの首元を狙う。すんでの所で躱し、反撃をするが……剣聖の名は伊達では無かった。

 

 プラティディオンハンマーの重い一撃を簡単に流され、鎧の隙間に剣を突き刺された。

 

 剣聖の持つ剣からは血が滴る。

 

 ラシアは即座に剣を掴んでへし折り、引き抜き投げつけ一度距離をとる。そして回復薬を飲み距離を詰める。

 

 取り巻きが再召喚されたらたまったものでは無いからだ。

 

 剣技だけなら圧倒的に負けている。だが……ブラッドナイトに教えてもらった技が生きている。しかも相手の剣はもう折れている。

 

「貴方が人間だったら絶対に負けてるな……」

 

 ラシアは剣聖の技を見切ってその手首を掴み、ハンマーを振るように持ち上げ、そのまま本気で地面に叩きつけ、剣聖を消滅させる。

 

 あとはリレッサと国王、王妃、ローリスだけだ。ラシアは次の目標、ローリスにすぐに接近する。

 

 ローリスを守る様に国王と女王が道を塞ぐが、顔面に蹴りをいれて吹き飛ばす。

 

 そしてそのままローリスの顔面にハンマーを何度も叩き込む。ただ全力では殴らず、ある程度のダメージ調整はする。

 

 ローリスはHPが半分を切れば胸元に取り込んだ妹を盾にするからだ。

 

 勇者の剣は折れ、鎧はひしゃげ……ラシアの感覚的な物だがスキルを使えば止めをさせると感じさせる所までは来た。

 

 だから一度距離を取り体勢を整える。

 

 すると……ローリスを守る様にラシアの前に王女が立ちはだかった。

 

「……初恋が実らないのはゲームの世界でも同じか。姫様……ごめんね。そいつはここで潰す」

 

 そう言ってラシアはシュトルクトゥーア・オーバーリリーヴとギガンテックハンドを使用する。

 

 ラシアの腕は巨大化し、命は燃え上がりさらに輝きを増した。

 

「ムーンライトコンタクト!」

 

 月の光が輝きを増しラシアのプラティディオンハンマーを磨き上げる。

 

 このエリアの外に騎士や冒険者がいる。巻き込む訳にはいかないので、これで充分だ。

 

 ラシアは目の前のリレッサ王女の体を雑に担ぎ上げる。

 

 暴れるが無視だ。

 

 そして……「勇者ローリスよ! 月夜に沈めぇぇ!」ラシアはハンマーを振り下ろした。

 

 ラシアを中心に月の光がはじけ、光が全てを飲み込む。

 

 屋根も壁も全てが消滅し……ローリスも消えた。

 

 ラシアが姫様を担いだのには訳がある。ゲームの仕様だが、取り巻きを倒さずにローリスを倒すと数分の間だけ取り巻きが何もせずに残るのだ。

 

 だからローリスは倒したが……ラシアの肩には動かなくなった姫がいる。

 

 ラシアは即座にグリミックから手に入れた転移魔法のスクロールを使用する。

 

 飛ぶ場所はもちろん自室だ。

 

 いろんな人が見ているがどうでもいい。時間が無い。

 

 スクロールを使用すると足下が光り、ラシアは即座に宿の部屋に帰還した。

 

 そして大きな声でティアを呼んだ。

 

「ティアちゃん! ごめん姫様の王冠持ってきて!!」

 

 近くにいたのだろう。わかったという声と共にティアが王冠を持ってきてくれた。

 

 それを自身のベッドに寝かせたリレッサの頭にかぶせる。そしてアイテムバッグの中から生命の秘薬を取りだし口に含んでからリレッサに口づけをして流し込む。

 

 リレッサの体はたぶん死んでいる。冷たかったからだ。だから流し込まないと飲み込めないと思ったからだ。

 

「……上手くいってくれよ」

 

 弟さんに貸した本が正しいのなら……いけるはずだ。

 

 リレッサの魂は冠の中にある。体は無事なはずだ。そして命の秘薬でこの世界につなぎ止める。

 

 もし起きてモンスターのままならラシアが責任を持って倒す。

 

 そう思っているとティアがラシアに話しかける。

 

「この人がお姫様? 幽霊さんとそっくりだね!」

 

「うん。この前のが魂のはずだから……これがご本人かな?」

 

「なるほど……というかラシアさん格好いいね!」

 

「だよね! この鎧格好いいよね! 私もそう思う!」

 

 自分が好きで手に入れた鎧を褒められてラシアの気分も良くなっていると、その気配に気づいたのか、下からおやっさんとセレットがやってくる。

 

「噂の白い騎士が何やってんだ?……というかいつ帰ってきたんだ? おれはずっと下にいたぞ?」

 

「可及的速やかに行う超重要な案件がありまして……」

 

「お前は訳の分からん事をいうクセを直せ」

 

 ラシアがおやっさんに文句を言われているとセレットがリレッサ王女に気がついた。

 

「所で……ラシアちゃん。そのどこからどう見てもお姫様はどうしたの? まさか攫ってきたの?」

 

 まさかではなくその通りなのだが……説明が難しいと思っているとティアが助け船を出してくれた。

 

「お姫様がラシアさんに助けて欲しいって頼んだから、ラシアさんが助けてきた!」

 

 ティアの説明通りなのでこれ以上説明しようが無いのだが、おやっさんとセレットには?マークが浮かんでいた。

 

 そして……ラシアのもくろみ通りに小さなうめき声があった後に……

 

 お姫様は目を覚ました。

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