ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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五章 一つ先へ
第69話 動き出す者達


 

 王都にある貴族街の一角で、とても華やかで、一般の者なら一生見る機会がないほどの夜会があった。

 

 伯爵といった身分の者がほとんどで、侯爵の身分の者も集まる夜会だ。

 

 だが……一人だけ周りの身分に合わない者がいる。

 

 この国の王に並ぶ権力を持つデルパロア大公だ。

 

 彼は情報の強さを知っている。人の価値も知っている。

 

 自分を蹴落とそうとする公爵達の夜会に出るより、自分より遥か下の貴族達が集まる夜会に顔を出す方が、よほど有益だ。

 

 危険がないといえば嘘になる。だが、そこで大公に牙を剥けるほどの胆力がある者なら、直々にスカウトしたいとも思っている。

 

 もちろん、そんなことをすれば物理的に首が飛ぶと誰もが分かっている。警備も万全だ。

 

 様々な貴族達が大公と顔を繋ごうと寄ってくる。大公は話が好きだということを知っている。ゴシップネタから最新情報まで、本当に様々なものだ。

 

 大公に気に入られれば昇爵することもある。だから皆、持ってくる情報は必死だ。

 

 デルパロア大公のやる事は、それが使えるか使えないか見分けるだけ。

 

 嘘か本当かはどうでもいい。嘘ならそれを真実にしてしまえばいいだけの話だからだ。

 

 今夜の話題はもちろん、今話題の白の騎士だ。

 

 デルパロアの娘を助けたとして有名でもあり、大公本人も面白半分で見てみたいと思っている。

 

「聖職者が使うような魔法を使ったと聞きますが……大公の虎の子ではありませんよね?」

 

「だったらこちらとしても面白い話だが……そうはなかなか上手くはいかないようだ」

 

「それは確かにそうですな」

 

 お互いが潰し合うような、ギスギスした夜会ではない。

 

 そもそも、集まっている貴族達にデルパロア大公と争う気はない。戦えば確実に負けると分かっているからだ。

 

 デルパロア大公もまた、彼らと争う必要がない。情報以外なら、大抵のものはすでに持っている。

 

 だから互いに気楽なものだ。

 

 そして、この夜会を主催した貴族の催し物がある。この貴族に関しては、デルパロア大公も一目置いている。

 

 冒険者をやっていたということもあり、ポータルを使えるために足が軽く、様々な場所から変わったものを持ち帰ってくるからだ。

 

「ようこそ! 皆様おいでなされた! 今日の見世物は、私が冒険者時代にドラゴンと戦い倒した武器を見ていただきたい。ドラゴンのあまりの膂力に我が武器は壊れ、それでも私を救った由緒正しき武器でありますぞ!」

 

 そう言うのであればドラゴンの剥製でも見せればいいと思うのだが……フィクションはフィクションであるからこそ面白いと大公は笑い、展示された二つの武器を見にいく。

 

 そこには、どうやったらこんな鉄の塊が曲がるのだろうか、というメイスや、どうすればこんな砕け方をするのかと思うようなハンマーがあった。

 

「ほう。これは面白い」

 

「どうですか? デルパロア大公閣下」

 

「少し調べさせてもらってもいいか?」

 

「どうぞどうぞ。壊れている物ですから、武器としては使えませんので」

 

 大公が一言「おい」と言うと、いつの間にか大公の背後に護衛の者がやってきていて、持ち主に頭を下げてからそれを調べる。

 

 メイスの方は凄まじい力がかかり、曲がったことが分かった。人の手のサイズにしては大きすぎるが、曲がり方を見れば握られたものだと分かる。

 

 ハンマーの方は、武器破壊という珍しいスキルで破壊されたことが分かった。

 

「面白いでしょう。我が武器は」

 

 確かに面白いと笑い、大公は周りに命令する。

 

「今より、私がいいと言うまで耳を塞げ」

 

 その命により、目の前にいる貴族以外は目を瞑り耳を塞いだ。

 

「お前は面白いな。これを何処で手に入れた?」

 

「話のネタに買った物ですが、大公のお眼鏡にかなうとは思いませんでしたな。ダンジョン都市ルインエルデの武器屋になります」

 

「ルインエルデか……」

 

「はい。最近は錬金術師のガロニアの弟子が錬金術で石鹸を作ったり、大きなことで言えば水晶病の治療法が見つかったりと、個人的にはかなり目をかけている都市になります」

 

「ガロニアも拠点を移したと聞いたな」

 

「エリゼ様もあの近くで助けられていますので、個人的にですが……あの街に白の騎士はいると思っています。まぁ私の方は、特にその者に用事もないので話のネタ程度ですがね」

 

 大公も独自の伝手を使い、ある程度までは絞ってきている。

 

 だが、王都から繋がる都市はいくらでもある。その上、公爵ほどの地位になれば、それ相応の強者を雇い、育てているものだ。

 

 表に出ないだけの話で強者などいくらでもいる。

 

 先ほどの大公の護衛ですら、Xランクより強いと言われている。

 

 ただ、その中でも白の騎士は別格だ。本当に噂通りの実力があるなら引き入れたい。駄目なら殺して、装備などを奪う。

 

 少し考えている大公に、主催者の貴族は話しかける。

 

「一つ面白い話があるので、大公自らが見定めてみますか?」

 

「どんなものだ?」

 

「はい。私がまれに依頼を出す冒険者のクランが、白の騎士と思われる冒険者を知っているとのことなので」

 

「ほう……」

 

 ……

 …………

 

 そしてその日の内に、王都にあるクラン。リュートリアを代表とする冒険者の集まりに吉報が届けられた。

 

「リュートリア。いい知らせだ」

 

 フリオールが手紙の返事を手に、クランマスターであるリュートリアの元に持っていき、内容を伝える。

 

 確証はなかったが、エリゼ・デルパロアが白の騎士の行方を捜している。その特徴に近い者がいたら教えてほしいというものだ。

 

 だからリュートリアは知り合いの貴族を通して、この前に知ったラシアという女のことを教えた。

 

 特徴が似ている者は多いが……あれほどの強さの者はいない。確実に自分よりは強い。そんな者がBランクなどあり得ない。

 

 自身のクランに入るというのなら、余計な事を言うつもりはなかった。

 

 だが、入らないのであれば他人だ。

 

 それならば、自分達が駆け上がるために利用させてもらう。冒険者とは、そういうものでもある。

 

 そしてそれは成功し、期待していた以上の成果になった。

 

「まさか……大公が直接話を聞きたいとは思っていなかったわね。エリゼ・デルパロアと繋ぎでもできればいいと思っていたけど……」

 

「大丈夫なのかい? 私達には少し荷が重いような気もするけど?」

 

「確かに、間違った情報なら問題はあるでしょう。だけど、ラシアが白の騎士なのはほぼ確定よ。仮に違っていても、間違えたのは向こう。こちらに問題はないわ」

 

「ならこちらとしても問題はないが……抜けた三人の補完はどうする?」

 

「エリエスがいなくなったのは少し痛いけど、所詮はBランクよ。大公に上手く取り入れば、いくらでも替えがきく」

 

「たしかにね。ノアもSランクに上がってきたことだし……僕たちはこれからだね」

 

 そういうことだとリュートリアは笑うが、フリオールは少し不安を覚える。身に余るものは身を滅ぼす。それは全てのことに当てはまることだ。だが……それが本当に身に余るか余らないかは、手に入れてみなければ分からない。

 

 だからこれはチャンスなのだと、自分に言い聞かせた。

 

 そんなことになっている頃、ラシアはおやっさんと世間話をしていた。

 

 お題はもちろん、今はやりの姫様ことリレッサ・ロード・ローウェンテニアのことだ。

 

 知り合ったパルサーが変なことを言っていたので、リレッサに精密検査を受けさせた。結果は、どこからどう見ても人間だった。ラシアに関しては、ストレス過多と言われたぐらいだ。

 

 ただ、リレッサの事情を詳しく話すわけにはいかない。この前貸した本を譲ることと、生命の秘薬を渡すことを条件に、なんとかならないかと頼んだら、なんとかなった。

 

 世の中は割と賄賂でなんとかなると、ラシアは学んだ。

 

「というわけでおやっさん。申し訳ないけども、姫様をここで働かせてあげてくれない?」

 

「俺は構わんが……大丈夫なのか? ダンジョンとはいえ一国の姫だぞ?」

 

「それは本人も気にしてないから大丈夫。どっちかと言うと心の問題が心配で……」

 

 慕っていた者に両親を殺され、家臣も殺され、国も焼かれ……そして自身も殺された。

 

 運良く二度目の生を手に入れたとはいえ、その記憶まで消えたわけではない。

 

 だから、なんでもいいから何かをしていないと辛い。やったことのない難しいことを覚えようとしている間だけは、少し気が紛れるからだ。

 

「感じ的には戦えそうだが、冒険者はしないのか? まぁ姫だし、戦わなくていいか」

 

「その辺は話し合ったけども、しばらくはお金に困ってないから、この国を学んでから考えるって……迂闊にあれこれする方が危ないとのこと」

 

「ウチの売り上げに貢献してくれれば何でもいいか」

 

「おやっさんが注意することは、上限を考えておいた方がいい。姫様はガチで神童だから……おやっさんがこの国一番の宿にしたいとか言い出したら確実にやる」

 

「がはは! それは面白そうだな。頼んでみるか!」

 

 ヤバいときはラシアが止めようと思っていると、入り口の方が騒がしくなり、買い物に行っていたリレッサ、ティア、セレットの三人が帰ってきた。

 

「駄目ね……姫様の姫力が高すぎて、売ってる服でも……」

 

 前と同じパターンかとラシアとおやっさんは笑う。もうどう見てもお忍びの王族だ。

 

「私も頑張って姫力を下げようとしているのですが……セレット。申し訳ありません」

 

「ラシアさん! 姫様が凄かった! もう本当に凄かった!」

 

 なんとなくだが、ティアの言っていることは分かる。

 

 姫様を助けたことで大変になるのは目に見えている。それでも、こうして笑っている顔を見ると、ラシアは助けてよかったなと思えた。




重要なお知らせ!

このお話でようやくカクヨムに追いついたので
明日からは一日一回の投稿になります。時間は朝(7時過ぎぐらい)

もうすこし書き貯めがあるので毎日更新は続きますが、
そんな感じでよろしくお願いします
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