ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第70話 ランクを上げよう

 

 ラシアの次の目標は、冒険者のランクを上げることだ。

 

 中級のまま上級のダンジョンに行って痛い目を見ているので、今度は適正ランクで行こうという話である。

 

 Cは初級。B、Aが中級。Sが上級。Zが超級。XはSよりは強いがZ程ではない感じで、上級と超級のダンジョンで狩りをしているとの事

 

 噂では、ノアが樹海から初級者であるラシア達を子守しながら王都まで連れて帰ったことなどが認められ、Sランクに上がったそうだ。

 

 これでノアも上級に挑戦できるようになったらしい。

 

 大丈夫かなーとラシアは心配するが……余計なお世話とか言われたら凹むので言えない。

 

 ランクの上げ方自体は簡単だ。ダンジョンのボスを数匹倒し、実力を示せばいい。

 

 同じボスを何匹も倒してもいいが、違うダンジョンのボスを倒した方が早い。

 

 時間湧きのボスは、基本的に適正ランクの者が一人で倒せる相手ではないので無視だ。

 

「全部で五体も倒せばAになれるかな?申請とかあったけど……」

 

 今日もダンジョンに行くつもりだったが、ラシアはそのまま宿へと帰還する。

 

 宿に戻ると、食堂を掃除していたリレッサとティアに驚かれる。

 

「ラシアさんおかえりー。早いね」

 

「あれ? ラシア。忘れ物ですか?」

 

「いえ。いつも話してる受付嬢のお姉さんがお休みだったので帰ってきました」

 

 その答えの意味が分からないリレッサは、ラシアに質問する。

 

「えっと……この国の冒険者には担当みたいな人がついていて、その人を通してでしか仕事が受けられない感じでしょうか?」

 

「そういうことです!」

 

 自信満々にラシアが嘘をつくと、厨房にいたおやっさんにも聞こえたようで、嘘つくな! と怒られた。

 

「お前は……自分が仕える姫君に嘘ついてどうすんだ」

 

「本音と建前は違うんすよ。おやっさん」

 

 お前みたいな騎士は初めて見たとおやっさんに呆れられながら、ラシアは近くの椅子に座る。

 

「ねー姫様。ラシアさんって昔からあんな感じなの?」

 

「んー……そうですね。あんな感じですね。たくさんの騎士がいて、わたくしに仕えてくれる者も多くいました。ですが、みな友と呼べる人がいて、一人で行動するということはありませんでした。けれどラシアを見る時は、ほぼ間違いなく一人でした。兜を被っていても、一人の騎士を探せばラシアなので、探すのは楽でしたが……」

 

「お前……それでよく王族直属の騎士やってたな……親のコネか?」

 

「おやっさんが失礼過ぎる!」

 

 そんなことを言いながら、ラシアは掃除をするリレッサを見る。

 

 考えているのは、今のようなことだ。

 

 リレッサはゲームのキャラだ。だけど……今みたいなことを知っている。確かにゲームの中でも、今のような出来事はあった。

 

 様々なプレイヤーが姫様に会うことができるし、クエストをこなせば直轄の騎士になれる。

 

 だけど姫様が覚えているのはラシアだけだ。

 

 ランキングに入るような上位プレイヤーの名前を出しても、覚えていない。

 

 ラシアは職業がディザスターナイトだから、騎士といえば騎士だ。

 

 アポカリプスやロードランサーなど、別の職がいたことは覚えている。だが、覚えているのは姿だけだった。

 

 他にも、ゲームにあった街や村やダンジョンなどは完璧に覚えている。

 

 ゲームにあった知識だけを、この世界が補完しているのか? と思ったが、そうでもない。

 

 自分が子供の頃の記憶もあるし、ラシアが知らないことも知っている。人だったら当たり前だが……ラシアもリレッサもゲームのキャラクターなのだ。だから設定以上の話があるのはおかしい。

 

 もっとおかしいのは、リレッサがラシアの過去を知っていること。リレッサの中では、ラシアは平民から騎士になったことになっている。

 

 ゲームだとそんな設定はない。キャラクターを作ったらその姿でゲーム世界に生まれるから、過去なんかない。

 

 その辺を詳しく聞いたら、城で書類を見たから間違いなく覚えていると教えてくれた。だけど、記憶に穴があったりもする。その辺は長い間、体と魂が切り離されていたことや、別の世界に来た弊害なのかもしれないが……

 

 ラシア的には、なんか色々とおかしい。

 

 それでも一番しっくりくる考え方は、これだった。

 

 ラシア・ラ・シーラという人物が、最初から存在していた。

 

 そうなってくると、今度はラシアの中にラシアの記憶がない。元の世界の記憶があるだけ。会社に行くまでの道のりも思い出せるし、子供の頃の記憶もある。

 

 だから情報の大洪水で、ラシアの脳はパンク気味だった。

 

「おい。頭から湯気出てんぞ」

 

「答えがないんっすわ。答えが……分からんことが多すぎて」

 

「やめとけ。分からんことを考えても、分からんことが増えるだけだぞ。お前は地図もないのに、コンパスだけで目的地に行けるか? 諦めろ」

 

「あーそうか。それが正解かも分からないってことか」

 

「おう。そういうことだ。お前が先にやることは……人と話をしろ! 受付嬢が休みで帰ってきた冒険者って初めて聞いたぞ!」

 

「私が時代の先を行く先駆者だからしゃーない」

 

「お前の場合は、馬鹿がルールを作るだろ」

 

「よしっ! その喧嘩買った!」

 

「俺がお前に負ける要素ないけどな!」

 

「……ティアちゃん! 後でお菓子あげるから味方して!」

 

「分かった! 後でお母さんに言っとく!」

 

「おい! 卑怯者! 正々堂々と戦え!」

 

「ははは! 私は姫のためなら喜んで泥を被ろう。勝てばいいのだよ、勝てば!」

 

「今の会話に、わたくしは関係ない気がしますが……」

 

 そんなことをやっている間に、リレッサとティアの掃除が終わった。

 

 暇なら買い出しに付き合ってほしいということになり、ラシアは喜んで付き合うことにする。

 

「おい。ラシア。分かってると思うが、姫様ちゃんと見とけよ」

 

「分かってますって」

 

 おやっさんが姫様と呼んでいるのは、馬鹿にしているわけではない。畏怖だからだ。

 

 少し前、店に貢献したいとリレッサが言い出した。

 

 おやっさんがラシアに相談し、前に古城のダンジョンから持って帰ってきたホットサンドメーカーでホットサンドを作って、ティアちゃんと宿の前で売ったらいいのではという話になった。

 

 そして、おやっさんとセレットが王都デートの日に実践した。

 

 使い方と味付けはラシアが教えたのもあるが……流石は神童。すぐにアレンジし、ラシアの味を超えた。

 

 朝から作り始めて……おやっさん達が帰ってくるまでに、店の一日分の売り上げを簡単に超える額を叩き出したのだ。

 

 これは放置すると冗談では済まないとなり……おやっさんも畏怖と敬意を込めて、姫様と呼ぶようになった。

 

 そんな感じで、それ以降は一日に売る分を決めて、ティアと二人で作って売っている。まあ朝に売り出して、昼前にはすでにない。

 

 ちなみに宿の周りの人からも、姫様とか姫と呼ばれている。ティアに聞いてもらったら、どう見ても姫だからだそうだ。

 

 そして三人は市場にたどり着く。

 

 リレッサの中では、単価が安く、美味しく、売れる作り方がすでにできている。目的の露店に行くだけのはずだが……ラシアがいない時でもちょくちょく市場に来ているようで、知らない間に知り合いがいっぱいできていた。

 

 しかも普通に相談までされている。

 

「ティアちゃんにしても姫様にしても、よくあんなに人と話せるなー」

 

「えぇー。ラシアさん普通だよ。姫様は色々知ってるけどね」

 

「ティアちゃんの普通と私の普通は違うってことは覚えておいてね」

 

 露店を進み、前にラシアが肉を買った露店へとやってくる。姫様曰く、ここが一番美味しくて安いとのこと。よく分からないが、流石ラシアですねと褒められた。

 

「よう。姫様いらっしゃい。今日もいつものか?」

 

「はい。お願いできますか?」

 

「姫様がここの肉は美味しいって勧めてくれたおかげで売り上げ好調だ。肉やソーセージが足りないくらいだよ。いい鶏肉が入ってるが、いらないか?」

 

「鶏肉ですか……ラシア。鶏肉を使った料理って何かありますか?」

 

「鶏肉……唐揚げか……親子丼かなー? サンドにするなら唐揚げかな」

 

「なるほど……」

 

「ラシアさん、唐揚げは知らないけど、親子ドゥンってカツドゥンみたいなの?」

 

「ドンねドン。卵と米があったら作れるね。唐揚げはなくても作れるけど」

 

「なるほど……分かりました。店の営業に影響がないだけ売ってもらえますか?」

 

「ちょっと姫様!?」

 

「おう。いいが、結構な量になるぞ」

 

「大丈夫です。私は私のラシアを信じます」

 

「私は私の物ですよ! ティアちゃん止めて!」

 

「私も親子ドゥン食べたい!」

 

 味方が裏切ったことで敗北し……今日のお昼と夕飯はラシアが作ることになった。

 

 そして色々と諦めて必要な物を買って帰ると、誰かが来ているようで、少しだけ宿の方が騒がしかった。

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