「このプレッシャー……遭難組か?」
「ラシアさん。誰が来てるのか分かるの凄いけど、ちょくちょく変なこと言うよね!」
「遭難組とは?」
リレッサに、樹海で遭難した時に知り合った五人を遭難組と呼んでいるのだと教えつつ宿に入ると、正解だったようで、ダード、ビエット、エリエスの三人が食堂でご飯を食べていた。
「お父さん。ただいまー」
「戻りました。皆さんも元気そうで」
「ただいま戻りました」
「おう」
声に釣られて遭難組が振り返り、ラシアに挨拶をしようとするが……ダードはスプーンを落とし、ビエットもエリエスも振り返ったまま視線が固定され、声を出すことができなかった。
その視線の先にあるのはもちろんリレッサである。
「なんか! 王族っぽい人がおいでなさいまする!」
エリエスの言葉は明らかに変だったが、ようやくそれでこの世界に意識が帰ってきたようで……お互いの自己紹介が始まった。
……
…………
「ラシアさんと同じ国の人なんですね」
「あれですね。美女ばかりが生まれる国とかあるんですね」
「ラシアと姫って何処の国から来たんだ?」
「……えっと。ラシア自由国連合?」
「それだと……ラシアが国の王ということになりますよ」
リレッサとティアが買ってきた物を運んでくれることになり、四人で世間話が始まった。
今日は休みで、相談か何か聞きたいことでもあるのかな? とラシアは思っていたのだが……違った。
エリエスが、ムカつくからクランを抜けてきたとか言い出したのだ。
何処でも合う合わないはある。気に入らなければ抜ければいいのだが……明らかに三人が怒っているので尋ねると、ラシアの事を悪く言われたらしい。
「いや……それぐらいで怒って抜けなくても」
「違うんですよ! スキルのこととかあるので、一緒に狩りに行くなならまだ分かるんですよ! でも、会ってはいけない、話をしてはいけない! とかどういうことですか! ってなりません?」
ノアにそんなことを言われたら泣く自信はあるが……たぶん違って、クランマスターのリュートリアとかいう人が言ったんだろうとラシアは思う。
詳しく聞けばその通りで、リュートリアの方から接触禁止が出たそうだ。
理由は、ノアがSランクの冒険者になった事と、少し大きく動くことがありそうだかららしい。
あと……悪かったのは、前にダード達に水没のダンジョンのことを教えたことも一つの原因だった。
かなり稼げていたらしく、それを聞いた同じクランのBやAランクと一緒に行くことになった。
人数が増えれば倒すのは楽になる。だけど、その分だけ稼ぎは減る。
三階層で狩りをしていたのだが……かなり余裕があったので、Aランクの者達が四階層に行ってみようと言い出したのだ。
ダード達はラシアから絶対に行くなと言われていたので、何があっても行かないと決めていたし、必死になって止めた。
だけど……その忠告は聞かれなかった。
「この三人の中じゃ俺が一番固いから、エリエスにアースアーマーかけてもらって見てきたが……二人死んで残りは重傷。階段の近くだったから何とか引き上げた感じだ」
「……あそこの四階層は水属性フィールドに水のモンスターばかりで、上位ダンジョン並みの強さだから」
「遠目だけどドラゴンって初めて見たが……俺たちはまだまだ勝てる気しなかったな」
運悪く、降りた所にシードラゴンがいたのだろう。絶対ではないが、スキルも装備も最適化されていないダード達では厳しい。
上位ダンジョンでは、モンスターにフィールド属性の力が乗ってさらに強くなる。エリエス達に教えた水没のダンジョンは、上級に行く前の練習場のような場所だ。ここが駄目なら上級は無理だぞ、という感じのダンジョンである。
だから、ガチガチに属性装備で固めて挑むならまだしも、いつも中級で狩っているような装備では無理なのだ。
それでラシアのせいとまでは言われなかったが、クランに悪い影響があるのなら接触禁止、ということになったらしい。
そして、自称ラシアの友人である三人はブチ切れて、クランを抜けてきたという感じだった。
「教えてもらったスキルの事とかあるので、違約金とか払って抜けてきたので文無しですけどね! いいんです! 絶対にラシアさんと話せる方がメリットありますから!」
「確かにな! 俺もスカルパイレーツから強打も覚えたしな!」
「……正直、あそこのクランは亡くなっている人も多いので、抜けようとも考えていたんです」
自分と話したいからクランを抜けてきてくれた。
そのことだけは、素直に嬉しい。
だけど……それでは駄目なのだ。
顔には出さないが、困ったと考えていると、リレッサがおやっさんを連れて戻ってきた。
「今ならこの宿で一部屋空いていますよ」
三人の間に火花が散る。そして喧嘩が始まり……勝ったのはエリエスだった。
「おい。男共。なに後衛の魔法使いに負けてるんだよ。しっかりしろ」
「おやっさん。こいつが馬鹿力なだけで……」
「お前らまでおやっさん言うな」
「それはいいですけど……ダード、何処に泊まりますか?」
お腹を押さえてうずくまるビエットに、リレッサが答える。
「確か……二軒隣の宿が空いているので、そちらが一番近いですね。その宿の主人が料理などを出すのはやめたので、こちらで食べる方がよろしいかと」
そこに行くかとダード達が話していると、おやっさんが疑問を浮かべる。なんでよその宿のことを知っているのかと。
リレッサが言うには、店の前を掃除していたら近くの人達と仲良くなり、色々と相談に乗っているうちに、近くの店同士で協力しようという話になったそうだ。
二軒隣の宿の主人も、料理があまり得意ではなく、やるにしても人手が足りないと悩んでいたらしい。
そこでリレッサは、地域で協力することを提案した。食事を作れる店が食事を出し、部屋が空いている宿が客を受け入れる。そうやって皆で協力しようということが、いつの間にか決まっていた。
その流れで、近くの鍛冶屋にホットサンドメーカーを作らせ、冒険者用のお弁当として販売を始めた店などもある。
「おいラシア。この辺、姫様に占領されてんぞ」
「だからしっかり見ておかないとって私は言いましたけどね」
「二人とも失礼ですね。占領ではありません。協力です」
そして、いつの間にか作っていたこの都市の精密な地図を取り出し、ダード達に宿の場所を教えた。
その時に一言だけ、この宿の紹介で来たと伝えてほしいと言って、二人を見送った。
それから無事に宿は空いていたようで、夕ご飯を食べるために三人は戻ってきた。
そしてまたクランの悪口を言い始めたので、ラシアは唐揚げと親子丼の準備を始める。
おやっさんは鶏肉が好きらしいので、ティアとおやっさんと世間話をしながら料理をすることになった。
「それで? さっきの話だが……あいつら大丈夫なのか?」
「いやー……全然駄目っすね。今回も私のミスですわ……私がずっと一人でいるから、クランとか入らなくても大丈夫とか思ってるんでしょうね」
「ん? ラシアさんそれって駄目なの?」
「じゃあティアちゃん。そのお野菜を洗いながら、お肉も切ってもらえる?」
「無理!」
「そういうこと。どうしても人ができることには限界があって、それをカバーできる何かがあるとか、自分にできないからしないって言うならいいんだけど……お金なくしてまでクラン抜けてくるぐらいだから、たぶん分かってない」
「だろうなー」
ラシアはいつも一人だから、その辺は本当によく分かる。
装備や能力のおかげでなんとかなっているだけの話で、普通ならクランに入らないメリットなどない。
しかもエリエス達がいた所は受付嬢に少し聞いたが……割と大手で、入りたいという人が多い所らしい。
自分のことをよく思ってくれるのは素直に嬉しいのだが……ダード、ビエット、エリエスにも夢があって冒険者になっているのだ。
感情を殺すなとまでは言わないが……それぐらいで抜けていいことはない。
ラシアと話がしたいのなら、こそっと宿に来るか、偶然を装って話せばいいのだ。
上級者からスキルや戦い方を学ぶ。それこそ、ラシアが嫌いな人付き合いも学ばなければいけないだろう。高位の冒険者もいれば、貴族もいる。
そういうものはたぶん、個人や少人数では学べない。あの三人はもっと上に行ける人達だからだ。
「ちょっとツテがあるので、明日にでも冒険者ギルドに行ってきます」
「ほっとけばいいとは思うが……お前が話せる人間だしな……というか一つだけ言わせてもらっていいか?」
「駄目。何を言うか分かってるから」
「「…………」」
「そんだけ人付き合いの大事さ分かってるなら、もっと人と話をしろよ! 一人でダンジョン行くなっつってんだよ、ボケ!」
「駄目って言ったのに! 二つも言いやがった! しかもボケって言いやがった!」
「ラシアさんとお父さんって仲いいね!」
そんな感じで作られた唐揚げと親子丼はとても好評で、親子丼は米を炊くのが面倒くさいのでたまに作ることになったが、唐揚げはおやっさんがやたらとはまったので宿の料理に組み込まれることになった。
そして次の日を迎え、ダード達は久しぶりのルインエルデなので顔見知りに挨拶をしたりすると言って朝から出ていき、ラシアは冒険者ギルドへと向かった。
中に入ると今日も混んでいたが、運が良く目的の人物はすぐに見つかった。