ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第74話 調停者

 

 ラシアが気を失ったことで、拘束されていた者達は動けるようにはなったはずだ。

 

 だが、動けない。

 

 あまりの出来事に圧倒されたこともある。レベル差のせいか、この世界でスキルの仕様が変わったのかは分からないが……クラックフォールに飲み込まれた者達の足はズタズタになっていた。

 

 ガーゼンはアイテムで回復を図ろうとするが、凄まじい力で握り潰された手は動かない。

 

 そんな中でおやっさんが立ち上がり、辺りを見渡す。

 

 ティアは気を失っているラシアの体を揺さぶりながら、何度もその名前を呼んでいる。

 

「あいつは何やってんだ……って話だな」

 

 そう言ってガーゼンに近づき、これまでのお返しと言わんばかりに顔面へ思いっきり蹴りを叩き込んだ。

 

 そしてラシアに武器を破壊されていたので、アイテムバッグの中から別の武器を取り出す。

 

 気を失ったガーゼンを守るように、ベニユッドがアイテムを使い、怪我を回復させてから立ち上がる。

 

「まぁ……ここまでやってお互いにごめんねでは済まないよな。お前ら覚悟しろよ?」

 

「ええ……そうですね。その女は危険すぎる。ここで倒させていただく」

 

「はっ! 自分が弱ぇーからって相手を危険とか言うのは雑魚過ぎるだろ」

 

 ティアやセレットがおやっさんを止めようとするが……自身の娘を怪我させられ、その友人をこんな状態にされているのだ。

 

 おやっさんもブチ切れ状態だ。もう後は、お互いに死ぬか生きるかだけだ。

 

 二人が構えたところで、声が届く。

 

「そこまでです」

 

 おやっさんとベニユッドの間に魔法陣が浮かび上がり、リレッサが数体の天使を引き連れて出現する。

 

「おやっさん……すみません。まさか町内会議が長引いて、ティアを先に帰らせたことが裏目に出るとは思いませんでした。本当に申し訳ありませんでした」

 

「おう……それはいいが姫様。危ねーぞ」

 

「私も戦えますから大丈夫ですよ……それよりもラシアやダード達が気になりますね。一度、回復させましょう。ソレイユ・サンクチュア」

 

 リレッサを中心に、その場にいた者の怪我が治療される。

 

 ダード達は目を覚まし、おやっさんの怪我も癒え……握り潰されたガーゼンの手も綺麗に治療された。

 

「おい。姫様!」

 

「まあまあ」

 

 のほほんとしながら、リレッサは怒るおやっさんをなだめる。

 

 そして怪我が治ったガーゼンが立ち上がろうとするが……姫を守っていた数体の天使が行動を起こす。

 

 まるで頭が高いと言わんばかりに、ガーゼン達全員を地面に貼り付け、いつでも首を切り離せるように光の刃を首元に当てた。

 

「動くこと、話すことを禁じます。ラシアがあなた方に手加減までして、とどめを刺さなかった意味をよく考えなさい。向かってくるというなら……私はラシアほど優しくありませんよ」

 

 Xランクの冒険者であるガーゼンでさえ……確実な死を感じ、言葉を話すことを諦めた。

 

「待ちな!」

 

 という声が響き、全員がそちらを向くと、ガロニアも回復していたようでゆっくりと立ち上がった。

 

 だが……この場の支配者は待たない。

 

「誰が発言を許可しましたか?」

 

 さらに二体の天使が召喚され、ガロニアは弟子や護衛と同じようにその場に叩きつけられ、首に光の刃を当てられた。

 

「ぐっ!」

 

「姫様……殺すのか?」

 

「いえ。このまま刎ねてもいいんですが……ラシアも望んでいないでしょうし、ティアもいますから、このまま貼り付けておきます。が……」

 

 そんな様子を、遠くにある建物の上から見ている者がいた。

 

「なっ、なんか! どえらいことになったにゃー……ばっ化け物がいるにゃ……だからやめとけって言ったにゃー……どうやって助けたらいいんにゃ?」

 

 ガーゼンの仲間の獣人だ。彼女の危険察知は本当に鋭い。だから今回は助かったはずだったが……

 

 油断していたわけではない。ガーゼン達がいる場所からここまでは本当に遠く、スキルがあってようやく見える距離だ。

 

 だけど目が合った。お姫様のような少女だ。

 

 足元に魔法陣が浮かび上がったと思った瞬間、一瞬で風景が切り替わり、今まで見ていた場所に飛ばされた。

 

「にゃんですと!?」

 

 そして同じように地面に叩きつけられ、首元に刃を当てられる。

 

「わっちは何もしてないにゃー」

 

「ええ、ですから発言は許可しましょう。ですが、戦場に観客席があると思いますか?」

 

 これ、いらんこと言ったら確実に死ぬ。

 

 だから獣人は、仲間と同じように黙ることにした。生きる選択肢はそれしかないから。

 

 そしてリレッサは、まだ起きないラシアと、その傍から離れないティアに近づく。

 

「姫様……ラシアさんが起きない」

 

「ええ。疲れているのでしょう。今はゆっくり寝かせておいてあげてください」

 

 ラシアとティアの頭をリレッサが撫でていると、バタバタと足音がした後にパルサーがやってきた。

 

「嫌な予感がして来てみたが何があった!?」

 

 リレッサがゆっくりと立ち上がると、パルサーは無意識に膝をつき、王に謁見するような態度を取った。

 

「パルサー。私は王ではありません。そのような態度は必要ありませんよ」

 

 初めてこの宿でリレッサを見た時、パルサーは本当に驚いた。美しさは確かにあった……だが、それよりも気配が王族のそれなのだ。

 

 それは誰もが持ち得るものではない。王だからこそ持つ、王故の気配だ。

 

 本当に無意識だった。子供の頃から教えられた作法が勝手に出たのだ……王族だと思ったからだ。

 

「しっ、失礼した。それで? どういう状況か教えてもらえますか?」

 

 リレッサは答える。この者達がここを襲撃したことを話し始めた。

 

 ただ、襲撃された直後のことなどは分からないので、その辺りはおやっさんやセレットに詳しく話を聞いた。

 

「なるほどな……冒険者は馬鹿が多いと聞くが……まさにそれだな。自分が一番強いとでも増長したか? アホ共め。

 姫様。申し訳ありませんが……少し応援を呼んできますので、このまま拘束しておいてもらえますか?」

 

 そう言って呆れるパルサーに、ダードがボソッと「お前が言うか?」とツッコミを入れていた。

 

「分かりました。こちらもこれ以上のことはしません。静かに待っていましょう」

 

 ありがとうございます。と礼を言って、パルサーはダードをしばいてから冒険者ギルドに応援を呼びに行った。

 

 そしておやっさんが機嫌悪そうに煙草に火をつけてから、ゆっくりと立ち上がりガロニアに近づく。

 

「よくもやってくれたな。クソババァ」

 

 喋ると確実に死ぬ。首に当たっている刃がそれを物語っていた。

 

 だから誰もが話せない。

 

 おやっさんもそれが分かっているのだろう。強めにガロニアの顔面を蹴り飛ばした。

 

 気が済んだわけではないが、「もう二度と来るなよ」と言ってまた煙草に火をつけた。

 

「おやっさん。お口の中が火事みたいになってますね」

 

「元鍛冶屋だからな。というか姫様もやっぱり強かったんだな」

 

「流石にラシアには劣りますが……この程度ならなんとかできますよ」

 

 まだ目覚めないラシアの方を見ると、全くそんな風には思えない。

 

 単純な強さだけならラシアの方が上だろうが……恐怖や底知れないものを含めると、目の前のリレッサの方が圧倒的に上だと思う。

 

 だが、今の顔を見るとそんな風にも見えないので、不思議なものではある。

 

「姫様もなんかラシアに似てるな……まあそれはいいが助かった。礼を言う」

 

「まあ私が来なくても、あの冒険者はともかく、他は制圧できたでしょう」

 

 そう言ってリレッサはガーゼンの方を見る。

 

「だったらいいんだけどな」

 

 そんなことを話していると、パルサーが十人近い騎士達を連れて帰ってきた。そして力や魔力を抑える効果があるらしい魔道具で、全員を拘束していく。

 

「Xランクの実力がある者にこの拘束具では少し心許ないですが、よほどの時は私が責任を持って対処しますので、これでご勘弁願いたい」

 

「分かりました。貴女の言葉を信じます。ですが私は平穏を望みます。よほどの時は協力を惜しまないので言ってください」

 

「ありがとうございます。それと何か質問はありますか?」

 

「そうですね……この者達はどうなりますか?」

 

 その質問に、パルサーは少し考えた後、正直に答える。

 

 ガロニアやガーゼンは、やはり功績が大きいので特に重い罪になることはない。だが他の者は、元とはいえ一人は冒険者ではない一般人だ。そして、その娘に手を上げた。

 

 そこまで重くはないが、降格は免れないだろうとのことだ。

 

「何処の国も似たようなものということでしょう。罪状や罪に関しては仕方ありませんね」

 

「ご理解感謝する」

 

 そして連れて行かれるガロニアに、セレットが話しかける。

 

「先生……今回のことはどう思ってますか?」

 

「失敗はした。だから次に生かすだけさ。錬金と同じだよ」

 

 セレットは昔の自分を思い出す。

 

 結婚して子供が生まれる前は、自分もこんな感じだったなーと。世界は自分を中心に回っていて、そこに錬金がある。そんな感じだった。

 

 大事な人は亡くしてしまったけど、それと同じくらい大事な人も現れた。

 

 だからたぶん、自分の道が間違った先がガロニアなのだと分かってしまった。

 

 錬金のことだけを考えるなら、正解かもしれない。

 

 だけどセレットは人でいたいのだ。

 

「ガロニアさん。また会うこともあるでしょうけど……もう来ないでくださいね~」

 

「ふんっ!」

 

 セレットがもう一つの道を歩み始めた頃……ラシアは夢を見ていた。

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