ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第75話 夢と現実

 

 ラシアは夢を見ていた……

 

 少し変わった夢だ。ここは元の世界だろう。

 

 ラシアは、自分が住んでいたマンションの前にいた。

 

「うーん。元の世界なのにラシアの姿か……」

 

 だからこれは夢なのだろう。体は半透明で、壁を触ろうとすればすり抜けるのに、階段は普通に歩ける。そんな変な夢だ。

 

 自分が住んでいた部屋に向かって歩く。

 

「……進んでる時間とか同じなら、冷蔵庫の中とか新たな生命が生まれてそうではある」

 

 そしてドアノブに手をかけて中に入ろうとすると、急に扉が開いた。

 

「お母さん、行ってきます!」

 

「お兄ちゃん待って!」

 

「気をつけて行ってくるのよー」

 

 兄妹が走って出ていったので、ラシアは部屋の番号を確認するが、前に住んでいた部屋と同じ番号だった。

 

「まぁ夢だし何でもいいか……」

 

 夢でも知らない人が住んでいる部屋に勝手に入るのはなんか嫌なので、ラシアは屋上へと向かう。

 

 そこから見える街並みも元の世界だった。空には飛行機が飛んでいるし、自動車も走っている。

 

 武器や甲冑を身につけている人間は何処にもいない。

 

 足元を見ると、先ほどの子供達が遊んでいる。

 

「年配の方々が昔は良かったなーとか言うけど……本当にそうだなーと思う。便利にはなって、娯楽もいっぱい今の方があるんだけど……なんか子供の頃は楽しかった」

 

 夕方ぐらいまで遊んで帰ったら、母親がご飯を作っている。妹と宿題をして待っていると、父親が帰ってきて一緒にご飯を食べる。

 

 ただそれだけだが……何か楽しかった。

 

「そういえば子供の頃ってちゃんと友達いた気がする……他の子に比べて少なかった気もするけど!」

 

 異世界に比べて少し排気ガスくさい風が、ラシアの髪をなびかせる。

 

「嫌なことも多いし、碌なこともないけど……私はこっちの世界の方が好きだな。暴力はあるけど、それでほとんどの物事は解決しないし……何より、モンスターの死骸から魔石を取らなくていいし」

 

 トイレ問題だけは流石に慣れたなとラシアが笑うと、ゆっくりと体がさらに薄くなっていく。

 

「よし……この世界に帰ってくるためにも頑張ろう」

 

 そう呟いてゆっくりと目を閉じると、世界が切り替わった感覚があった。そのままゆっくりと目を開けると、見慣れない天井で、何処かのベッドの上に寝ていた。

 

「どこだここは?」

 

 元の世界に帰るために頑張ろうという夢は見ていた気はするが、どういう夢だったかなーと考えていると、近くから話しかけられた。

 

「起きたか」

 

 声の方向を向くと、そこにはパルサーが立っていた。

 

「あっ、ども。ここって何処か分かりますか?」

 

 近くにあった椅子をベッドに近づけて座り、パルサーは話し始める。

 

 ここはおやっさんの弟の病院で、ラシアは冒険者との戦いで気を失い、今日で三日目だということだ。

 

 ティアが飛ばされた瞬間を思い出し、また血が沸騰しそうになるが……全員が無事だと伝えられると、ラシアは落ち着きを取り戻した。

 

 そして特に罪にもならなかったと伝えると、ラシアはそんなものだろうなーと納得していた。

 

「まあ……弟子やあの獣人の方は、ランクが一つ降格といった感じだ。一度ランクが上がった者なら、戻すのはそう難しくないからな。他の冒険者に馬鹿にされるぐらいだろう。基本的にランクは下がることなどないし、一般人を襲う馬鹿も殆どいないからな」

 

 ラシアは頑張ってその時の冒険者のことを思い出そうとするが……装備などは思い出せるが、顔は無理だった。こう、マネキンが何かしていた感じでしか思い出せない。

 

 その場にいたティアやおやっさんの表情は思い出せるが……どうしても無理だった。

 

 もう彼らはラシアの中でモンスター認定だろう。だから顔が分からない。

 

 確実に個体差はあるはずなのに、人間がモンスターを見分けられないのと同じだった。

 

 ベッドに腰掛けながら、ラシアはパルサーに質問を投げる。パルサーはモンスターは目を瞑っていても分かると言っていたからだ。

 

「パルサーさん……モンスターと人の違いって何なんでしょうね?」

 

 その質問に、パルサーは目を瞑って少し考えた後に言った。

 

 その答えは「無い」だった。

 

 ラシアは少し驚く。もっと違う答えを期待していたからだ。するとパルサーはゆっくりと昔話を始める。

 

「子供の頃に、小さな白い猫を飼っていたよ。とても可愛い子だった。ある日、使用人が部屋を閉め忘れてな。外へ出ていってしまった」

 

「……」

 

「次に見つかった時は死んでいたよ。見た人が言うには、聖騎士が蹴り飛ばしたらしい」

 

「ひどい……」

 

「あの頃は我が家も今ほど地位のある立場ではなかったから……泣き寝入りだ。父さんが苦情は入れてくれたそうだが……意味はない。私はそういう連中が人とは思えない……だけど必要だ」

 

 騎士はモンスターを討伐するのに特化している。聖騎士はモンスターも倒すが、癒やしの力も使う。災害などがあった場合に派遣され、怪我人を治療するのも彼らの仕事だ。冒険者の治療などもやっている。

 

「その時に、ちょうど聖騎士達が近くで正義を語っていたよ。その時に私は思ったね。何が正義か……お前達が偽物なら私は本物の正義になろうとね。それから私は騎士を目指すことにしたよ。父さんと母さんからは猛反対を受けたけどな」

 

 他人に変わってもらうより、自分が変わる方が早い。子供とはいえ貴族社会の中で生きてきたパルサーだ。人は変わらないというのはよく知っている。

 

 才能があった。剣を握った少女はメキメキと力をつけていった。

 

 そして……戦いを好まなかった娘が剣を取ったことを重く受け止め、父も目が覚めた。今の地位では何もできない。誰かを助けることも、罰することもできないのだ。

 

 だから実力をつけ、わがままを通すために騎士団長になった。

 

 パルサーも力をつけ、騎士団に入って各地で色々な者を見てきた。色々な人達もだ。

 

「人は正直……何処でも似たようなものだったが、モンスターは違っていたな。ダンジョンではなく、外に住むモンスターのことだ」

 

「生態が違うんですよね? 私も樹海でいろいろ見ましたけど……」

 

「そうだな。人を襲うモンスターの討伐依頼があって、私も同行したよ。村では何人も喰われていた。そしてようやく森の中の洞窟に巣があるのが分かり、そこに向かった」

 

 洞窟にはモンスターが確かにいた。数頭のウルフマンだ。隊を指揮する隊長からの命令がなかったので、パルサーはしばらくそのモンスターを監視していた。

 

 群れのボスだろうウルフマンがいて、その子供だろう小さなドッグマンもいた。そしてボスに従うように、数体のドッグマンやウルフマンが子供達を守っていた。

 

 姿が違うだけで、そこには人と同じ営みがあった。

 

 そして命令があった。

 

 パルサー達はそのウルフマンを倒した……巣の中からは、人の物と思われる骨が幾つも出てきた。

 

「その時倒したウルフマン達から見れば、私達がモンスターだろうな。だけど私達は倒さないといけない。被害が出るからな」

 

「……」

 

「私達、人は豚や牛といった動物の肉を食うだろう? それを食べなくても生きる道はある。モンスターもそうだ。人を食べなくても生きる道はある。だけど食べる。人と動物が違うと言えばそれで終わりだが……モンスターも人も同じだ。人と呼べるモンスターがいるだけ」

 

「でもパルサーさんは見分けがつくんですよね?」

 

「自分でも分からないがな。狼の獣人とか、人語は話すが……ぶっちゃけ鎧を着たウルフマンだからな。魂とか気配で分かるのかもな。あの時のラシアはどう見てもモンスターだったが、なんでだろうな? まぁ今回も人間やめてるがな。Xランクを瞬殺だからな」

 

「ぐっ……じゃあ、人間そっくりに変身するドッペルゲンガーとか分かるんですか?」

 

「ああ。私が専門だな。討伐依頼があれば私が行っているが……あれは上位の依頼じゃなかったか?」

 

「その辺は置いといてもらって……」

 

「話を戻すと……人とモンスターの違いは無いと私は思っている」

 

 人には人のルールがあり、モンスターにはモンスターのルールもある。だから本当の違いは、見た目ぐらいのものだとパルサーは言う。

 

 ただ……どこまで自分を律して行動できるかで分けられる。それはお金でもいいし、規律でもいい。

 

 欲望のままに力を振りかざし、好き勝手に生きているのなら、本当にモンスターと変わらない。人の世で生きている意味などなく、モンスターと暮らせばいいのだ。

 

「だからラシアが気に入らないと思ったら殺してもいいぞ。人とモンスターで、そこまで変わらないからな。ただ殺すなら、揉み消せるぐらいに力はつけておけよ。今回でもガロニアやガーゼンが誰かを死なせていても、罪にはならなかっただろうからな」

 

「なんか凄い話ですよね……」

 

「極端だが、百人助けた人間が一人殺しても、重い罪には問われないことがある。権力はいいぞー。わがままが通る。お前も騎士団に入らないか?」

 

「入りませんけどね……」

 

「まぁまとめると、殺したかったら殺せ。ただ相手は選べ。面倒くさいからな、で終わる話だ」

 

「凄まじく物騒な話で終わった……」

 

「するかしないかはお前次第だからな。さてと、いい加減医者を呼んでこよう。お前は寝とけよ!」

 

 そう言って立ち上がり、ドアに向かうパルサーにラシアが礼を言うと、今度何か奢ってくれと言って出ていった。

 

 少しだけ気分が楽になったような気がする。違いが無いのなら、最後は自分の匙加減で決めるしかない。この間セレットに話した聖属性の話と同じだ。

 

 人に害があればモンスター。そうじゃないなら人だ。姿形の問題ではなかった。だから滝壺で見たキッチョウなんかも、人に害が無いのなら倒さなくていい。

 

 だけど……今回みたいにマネキンにしか思えない相手は、ラシアの中ではモンスターだ。誰かに迷惑がかかるなら、倒した方がいいだろう。

 

 そんなことを考えていると、走ってくる足音が聞こえてきた。

 

 そして目覚めたラシアを、みなが喜んだ。

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