ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第77話 夢の先

 

 メイド服を着たラシアは、ケーキ……パウンドケーキみたいな感じの焼き菓子を焼いている。

 

 ノアが宿に戻ってくるとのことなので、お祝いというわけではないが……あんな目に遭ったのだ。良いことの一つや二つあっても良いだろう。

 

 厨房には良い匂いが広がっている。

 

「ラシアさん焼けた?」

 

 妹も、母がお菓子を焼いていた時は度々見に行っていたなと思い出し、ラシアは笑った。

 

「焼けた焼けた。たぶん美味しいとは思うけど……そこまで期待はしないでね」

 

「大丈夫! ラシアさんなら大丈夫」

 

 そう言って戻っていったので、ラシアは何が大丈夫なんだろうと思いながら、ティア達の分の焼き菓子を切り分けて持っていく。

 

 メイド服を着たリレッサがお茶の準備をしている。……何を着ても似合うが……また破壊力がおかしい。

 

 ラシアのメイド服姿を見て、私も欲しいと言い、この街にあるらしい服屋で作ってもらったとのこと。

 

 姫様の方が後からこの街に来たのに、ラシアより詳しいのはどうかと思うが……姫様なので仕方がない。

 

 あと……かわいそうなのがダードとビエットだ。ラシアとリレッサのメイド服姿にやられて、顔がリンゴより赤い。同性のエリエスですら赤いのだ。異性には辛いだろう。

 

 そして切り分けたケーキを配り、皆が食べ始める。

 

 なかなかに好評だ。

 

「ラシアさん美味しい! こう、お姫様になった気分!」

 

「ありがとう。お姫様……お姫様ごっこでもする?」

 

「する!」

 

 そう言ってティアは元気に階段を駆け上がり、ローウェンテニアの国宝を頭に載せて帰ってきた。

 

 周りはお姫様ごっこってなんぞや? と思っていたようだったが、それで理解したようで、リレッサもノリノリだ。

 

「では。ティア様。こちらにおかけください。本日はラシアが焼いた焼き菓子となります」

 

「分かった!」

 

 そんな感じで遊んでいると、パルサーがやってきた。最近よく来るなーとラシアは思う。

 

「おいラシア。どうしてローウェンテニアの騎士達が私達の騎士団に精通してるか分かったぞ……というか何をやっているんだ? その前に何故メイドだ?」

 

「えっと……お姫様ごっこ。こちらがティア姫です」

 

 少しキョトンとしたが、それで分かったのだろう。

 

 パルサーは膝をつき、頭を垂れる。

 

「ティア姫。御前にて失礼いたします。火急の任がございましたゆえ、一刻の猶予もなく参上つかまつりました」

 

「うん。分かった!」

 

 厨房ではおやっさんが何をやっているんだというような顔をしているが、何か嬉しそうだった。

 

 ラシア達がそんな感じで遊んでいる頃、ノアはルインエルデに戻ってきていた。

 

 入っていたクランを脱退し、クランの資金で購入した装備などは返却した。クランを通して魔法やスキルを覚えたので、その違約金も払った。

 

 お金がないわけではないが……王都で暮らしていくほどの余裕はないからだ。

 

 ノアはその時のことを思い出していた。

 

「リュートリア。悪いけどクラン抜けるね」

 

 ノアのその言葉に、リュートリアは驚いた。

 

 それよりも大怪我をしてまともに動けなくなっていたノアが、綺麗に治っていることに本当に驚いた。

 

 クランのために仕事をして怪我をしたのだ。冒険者として動けなくなっても、養うつもりだった。

 

 元気に動けるようになったならそれでいい。

 

「そう……行き先は白い騎士様?」

 

「うん」

 

「分かったわ。抜けるというのなら止めないけど、装備品の返却と違約金は払ってもらうわよ。いくら初期からいるとは言っても、こちらにはこちらの都合。貴女には貴女の都合があるのだから」

 

「うん。その辺は大丈夫」

 

 ノアはリュートリアとフリオールがクランを立ち上げてすぐに、リュートリアが勧誘して入ってもらった人物だ。

 

 人の出入りが激しい冒険者のクランでは、本当に古参といった者だ。だから悪いことも良いことも知っている。お互いの夢もだ。

 

「貴女は最後までいると思っていたけど……そうでもなかったわね」

 

「私も抜けると思ってなかった! だけど、リュートリアの夢と私の夢は違うから、無理に並んで歩くのは無理だと思う。リュートリアはもうすぐXに上がれるけど……私はまだまだAランク並みのS……」

 

「……多少の無茶は必要では?」

 

「私は無茶したくないかなー……頑張りはするけどね」

 

「そう。貴女、変わったわね」

 

「うーん……向きは変わったと思うけど、中身はあんまりかな?」

 

「ふふっ……押しに弱いものね」

 

「ぐっ……」

 

 二人は出会った頃から変わっていない。リュートリアの夢は最高のクランを作ること。

 

 ノアの夢は、かっこいい魔法使いになること。子供の時に夢見た夢。

 

 目指すべき物がある夢と、明確な目標がない漠然とした夢。

 

 今までは、リュートリアの夢にノアが乗っていた。だけどリュートリアの夢に、もうノアはついていけない。

 

 その実力はない。だから今回のように、待っているのは死だけ。

 

 リュートリアの夢から、ノアは振り落とされたのだ。

 

 それは悪いことでも良いことでもない。

 

 ノアにはノアの夢や生き方があるからだ。誰もそれを強要できないし、してもいけない。

 

 ノアは思う。

 

 きっと夢から覚めたのだろうと。

 

「……じゃあ。今日でさようならだけど死なないでね」

 

「分かっているわよ。抜けた者、死んだ者達が羨むようなクランにしてみせるから、貴女も後悔しなさい。私のクランは再加入を認めていないわよ」

 

「あははー。分かってる」

 

 そんなことを思い出しながらルインエルデの冒険者ギルドを歩いていると、ノアちゃん? と呼び止められた。

 

 振り返ると、そこには母親であるセレットがいた。

 

 宿に向かいながら、ノアはまたラシアに助けられたこと、クランを抜けたことをセレットに話した。

 

「なるほど……うちの家族って本当にラシアちゃんに頭あがらないわね」

 

「うん……宿の方は襲撃されたって聞いたけど大丈夫だったの?」

 

「うん。ラシアちゃんがガロニアさん蹴り飛ばして壁に穴開けたぐらいかなー」

 

 セレットはガロニアのことを先生と呼んで慕っていたはずだ。だけどガロニアさんという呼び方に変わっていた。それだけのことがあったということは、ノアにも伝わった。

 

「それはそうと……ノアちゃんはこれからどうするの?」

 

「うーん……ラシアさんに誘われたけど、私の実力じゃついていけないから宿の方を手伝うかも……足は引っ張りたくないけど……ラシアさんの力にはなりたい!」

 

 燃え上がるノアを見て、セレットは不安に思う……冒険者とか、そういう不安ではない。

 

 きっとノアはラシアに恋をしているのだろうが……相手が悪すぎる。

 

 まずは誰とでも友達になるティアだ。母から見ても凄いし、ラシアとも普通に仲良しだ。

 

 そしてあのパルサーという騎士も、たぶんその口だ。ラシアを見る目がまさにそれ。身分的には騎士団長の娘で貴族。ウチに遊びに来て大丈夫? ってレベルだ。

 

 そして最後が……強すぎる姫様。リレッサ・ロード・ローウェンテニア様。もう支配者だ。ラシアがたまにドキドキしてる時点で、勝ちが確定してるようなもの。でもこれは分かる。

 

 仮にリレッサに求められたら、セレットも落ちる自信はある。姫は男女問わず魅了する。弟子達に至っては、すでに魅了され、将来は姫様のために働くとか言っている。

 

「お母さん。どうしたの?」

 

「……ノアちゃん普通の子だから、負けが確定して不憫で……後は姫様が強すぎて」

 

「貴女の自慢の娘だよ!! ……というか姫様って?」

 

「あっそうか。ノアちゃんはまだ会ったことないんだったね。姫様は姫様。私達が一般人から見ても姫様なのよ」

 

「私の人生の姫様は私ですが!?」

 

 強く生きろよ娘。などとセレットが思っていると、ようやく我が家へと帰ってきた。

 

 先にセレットが入り、ノアが続いて中に入ると、面白い光景が広がっていた。

 

「久しぶりに家に帰ったら妹がハーレムを作っている件について! お姉ちゃんは羨ましいから代わってほしい!」

 

 ティアを中心に美少女メイド二人と美少女騎士を見て、そういう反応なのだろうが、ラシアは何をラノベのタイトルみたいなことを言っているんだとおかしくなる。

 

「ノア様。ティア様の御前ですよ。いくら御姉妹とはいえ、まずはご挨拶を」

 

「えっ? ただいまー……なんだけど、みんな何やってるの!? というか凄い綺麗な人がいる」

 

「ラシア。こちらの方は?」

 

「えっと……姫様、こちらは」

 

「今はティア様が姫様なので、リレッサでお願いします」

 

「えっと……リレッサ。こちらはノア様と言って、いま言ったようにティア様のお姉様になります」

 

 ラシアに名前で呼んでもらったのが嬉しいのか、リレッサはニコニコしながら自己紹介を始める。

 

「ノア様。お目にかかれて光栄です。私はリレッサ・ロード・ローウェンテニアと言います。以後、お見知りおきを」

 

 ガッチガチの姫なのにメイドも似合ってるのは凄いなとラシアが感心していると、ノアがおかしくなった。

 

「姫だ! 本当に姫がいる! 母さんの言ったことは嘘じゃなかった!」

 

 元気そうで何よりという感想しか出てこなかったので、ラシアはセレットの方を向くと……やっぱり親子だった。

 

「ティアちゃんが姫様なら私は王妃よね! ラシアちゃん! リレッサちゃん! お願いだから私も混ぜて!」

 

 うん。楽しそうで何よりとラシアは笑う。

 

「ではセレット王妃陛下。こちらのお席へどうぞ。ノア様もこちらへ。……リレッサ。お茶の用意をお願いします」

 

「分かりました。セレット様。ノア様。失礼します」

 

 遊んでいると、おやっさんが何かを作ってくれたようで、つまみを持ってきてくれた。

 

「お前ら元気だな。というかセレットが王妃でノアとティアが姫なら俺は国王か?」

 

「この宿の王ではあるけども……王様って気がしないから、国おやっさん陛下?」

 

「また、訳の分からんことを言い出したよ。お前は」

 

 そんなことをやっていると、セレットが思い出したように手を叩き、ラシアに告げた。

 

「そうそう。ラシアちゃん。冒険者ギルドから呼び出しがあったよ」

 

「はい?」

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