クラン。それは人と人との繋がりだ。
ゲームなら自分で作ったところに誰かが加入して、一緒に狩りに行ったり、誰かのところに加入して以下同文。
もちろん人と人の付き合いだから、大変なこともある。だけどそれが一つの醍醐味だとも言える。
それがクランだ。
現実ならどうだろう。たぶん大きな差はない。
ゲームでも現実でも、人付き合いは同じだから。自分がいて他人がいる。他人がいて自分がいる。
ラシアは応接室のソファーに崩れ落ちた。
「無理です」
「私もそう思っていますが、まずは話を聞いてください」
細かな設定は色々とあるのだが……冒険者はほぼ間違いなくクランに入っている。
初心者や初級でずっと狩りをするというなら別だが……ほぼ間違いなくだ。
ラシアがよく言っているように、一人でできることには限界があるからだ。だから皆、クランに入って仲間と狩りに行く。臨時でパーティーを組んで行く者も多いが、自分に合ったクランならパーティーを組むのが楽だからだ。
Aランクに上がる頃には、ほぼ間違いなく全員が入っている。ギルドも勧めるし、クラン側も人が欲しいから誘うし、若手冒険者は知識が欲しいから加入する。
合わないところは抜けて、合うところを探す。それでも駄目ならお金を貯めて自分達でクランを立ち上げる。
それが冒険者の流れだ。
そしてその流れができているので、冒険者ギルドが大昔に作ったルールも変わっていない。
Aランクより上に上がる者は、クランに入っている必要がある。というものだ。
ギルド側も勧めるし、誘われていますよと教えてくれる。
Aランクに上がれるような有能な冒険者は一人でも多くいて欲しいし、上がれない者でも安全に狩りをして欲しいからだ。
冒険者もすぐに分かることだ。一人で狩りをする危険性とメリットの無さだ。
「受付嬢さんがしつこいぐらいお誘い来てますよと教えてくれたのは、訳があったんですね」
「はい。……まさかここまで意固地にというか、一人で問題なく狩りができる人がいるとは思っていなかったので……」
感じ的に……無茶を言えば通る。
この国で二番目に偉くてヤバい人の命令だ。このまま上げてくれと言ったらいけるだろう。
だけど……それは駄目だなとラシアは思う。
自分の考えが足らずにノアは大怪我をした。親切な受付嬢も困っている。顔も知らないギルマス達は寝込んでいる。
これは全部ラシアのせいだ。
何処にでもルールはある。おかしなものを含めてもだ。
その上に人がいる。この間のパルサーの話ではないが、その上を歩けないならモンスターとして生きるしかない。
ラシアは人として生きたいのだ。
「……ぐあっ! そうなってくると前にリュートリアさんから誘われた時に入っておけば、ダードさん達も抜けないで、ノアさんも大怪我しなくて済んだのでは!?」
「えっ? ノアさん大怪我していたんですか? 先ほど見かけた時は元気そうでしたが……」
「あっ……その辺は過去の話なので治りました。普通に元気いっぱいなのでお気になさらずに」
「過去の話ですか……それなら良かったです」
ラシアは悩む。人と会話することは重要だが、この際諦める。天秤に比べるものではないからだ。
なら何を比べるかというと、クランに入ったとして……そこにかかる迷惑だ。
食人令嬢やその親であるクレイジーモンスターに目をつけられているのだ。入ったクランに迷惑がかからないはずがない。
追放されるぐらいならまだしも、連帯責任で皆殺しとかも普通にあると思う。たぶん。
そうなってくると入れるクランってないのではと思って、受付嬢に質問する。
まぁ自分が悪く思ってるだけで……大丈夫だろうと思っていると、そんなことはないようでそっぽを向かれた。
「やっぱりそうなりますよねー……そもそも私が入るとして、白の騎士とは言わないと駄目でしょうし……」
ラシアが問題なく入れるクランなどない!
だけどそうなってくると、残りは三つだけ。
国外逃亡。大公をぶっ飛ばす。自分でクランを立ち上げる。
2は人のやることではないので却下。やったとして、その後が想像できない。きっと世界のお尋ね者になって、一生追われたりして、ダンジョンとか入れなくなる。
1もたぶん同じようなものだ。一生狙われる気がする。ラシアが逃げたことで責任を取らされて、ギルドにたぶん多大な迷惑がかかる。きっと物理的に首が……。
それにラシアとリレッサの見た目で一緒に一生逃げるのは無理。というより姫様には幸せになって欲しい。あとこの国より終わってる可能性も。
そうなってくると3。
有能性を見せつつ、敵対はしないぞ? でもやってきたらやり返すぞ? を見せるのが一番無難。できるならの話になるのだが、目指すのはここ。
「受付嬢さん……すみません。クランを立ち上げる方法を詳しく教えてもらえますか?」
「ありがとうございます。そう言っていただけると思って資料を準備しました」
ラシアは受付嬢からクランの説明を聞く。ここでゲームとは明確な違いが現れる。金銭的なものではなく、オンラインゲームをやったことのある人なら分かるあれだ。
お金とか経験値とかアイテムを入れてクランのレベルを上げて、ちょっとしたバフがもらえたり、生産性とかが上がるヤツ。
それが一切ない。
現実基準で考えたら、会社にお金を入れたら生産性が上がるという意味不明なことになるので、そりゃそうだという話なのだが……これに関しては明確な違いだ。
あとは……ゲームでクランを立ち上げるより明確に高い!
諸費用込み込み三百万セル!
1 クラン登録保証金 800.000セル
2 年間税・営業権 400.000セル
3 倉庫・設備費 700.000セル
4 初期運転資金 500.000セル
5 緊急予備金 300.000セル
6 人脈・紹介料 300.000セル
合計 3.000.000セル
4・5・6は食費とか罰金とか情報屋とか武器屋の紹介なので、かなり抑えられる。
だけど1・2・3はギルドへの保証金とか、この都市への滞在権とか、ギルドの設備を使ったりするお金。ここは絶対にケチれないお金。
で。大事なのは……これ+ダード、ビエット、エリエスの装備の弁償。
本人達は大丈夫と言ってくれてるけど、大丈夫ではない。一文無しの上に装備がないのだ。冒険者引退レベルだ。
単純計算で一人百万セル。
「お金いりますね……」
「はい。皆さん分割で払われたり、多人数で割って払うのでなんとかなりますが……一人だと大金ですからね」
たぶんだが……大公からいちゃもんつけてきたからお前が払えよ! って言ったら出してくれると思うのだが……そんなことは言えるはずもない。
どういう人物か見極めるというようなことも言っていたので……その辺も見られるだろう。となると……
ギルドでの買い取りとかも見られているということに多分なる。迂闊にレアアイテムとか出せない。
あいつ、なんか面白そうなもの持ってるな。殺して奪うか! になりそうな感じだ。
こうなるといつもの物はあるが、売れないからお金にできないという話になってくる。
で、重要になってくるのは期限だ。
流石に今日、明日すぐとかはないはず。無茶は言っても馬鹿ではないはずなので、そのことを受付嬢に尋ねる。
「デルパロア様が準備する聖騎士達の都合もありますので……討伐を含めて一ヶ月を見ているとのことです。聖騎士達も他の任務がありますので……ですが、できれば早くしていただけるとギルドとしてもありがたい感じです」
「私がギルド職員なら胃に穴があきそうですね……というか大公とか聖騎士とか、ろくでもないヤツのオンパレードはどうなんですか?」
「ラシアさん……余所ではやめてくださいね。騎士も聖騎士も国に仕えてはいますが……上が違う感じですね。騎士は国王陛下や宰相などの下になり、聖騎士は大公や貴族の下になるといった感じです」
命令系統が違うのだろうなとラシアは考える。パルサーもそんなことを言っていたはずだ。
「分かりました。詳しく説明してもらってありがとうございます。お金の方は用意できますが……少し時間をくださいね」
「分かりました。後は今回のことで、私がラシアさん担当という形になったのでよろしくお願いします」
「……分かりましたけど、今までとあんまり変わらない感じですね」
「…………はい。この前も私が休みの時に帰ったみたいですしね」
誰かに見られていたかとラシアは笑い、これからもよろしくお願いしますと頭を下げて、一度戻ると言って部屋を出た。
部屋を出てギルド内を歩くと、どうしてメイドが? という感じでやたらと見られるが仕方がない。メイド服だからだ。
すると……名前を呼ばれた。
「おっ? ラシアの姉さんじゃないですかい」
冒険者ギルドで話しかけてくる者といえばグオンぐらいしかいないので、振り返ると正解だった。
「似合ってはいるんですが……なにゆえにメイド服ですかい?」
「服がないゆえにですが? それで? グオンさんはどうしてここに?」
「そろそろクランの更新期限なので、更新に来たって感じですね」
そういえばグオンもクランマスターだ。ラシアが白の騎士ということも知っているので、その辺も含めて相談するのもありだなーとラシアは思う。
ただ……メイド服ラシアは破壊力抜群で目立つので、時間があったらついてきてもらえないかと話す。
「了解しやした。ですが……メイドの姐さんに誘われたら、その手のお誘いかと勘違いしそうですな」
「アホなことを言っていると潰して引きちぎりますよ」
そんな冗談を言いながら、ラシア達は宿へと引き返す。
宿へと戻った二人はとても驚いた。
冒険者ギルドへ向かう前は全員が元気だったはずだが……何か大変なことがあったようで疲れ切っていた。
「みっ、皆さん大丈夫ですか!?」
「こいつはひでーや」
パルサーだけは一人静かにお茶を飲んでいたので、ラシアが質問する。
「そうだなー。家族の愛と友の友情を見たと言ったところだな。襲撃されたとかではないから安心しろ。それで? そっちはどうなった?」
グオンにもそのことを相談したいので、とりあえず倒れている者達は置いておいて、ラシアは二人にギルドであったことを説明した。