ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第84話 聖騎士と聖女

 

 大公から連絡があったとのことなので、ラシアは冒険者ギルドに行かなければならないのだが……外でたばこを吸っているおやっさんが目についたので、少し話をする。

 

「おやっさん……生きてる?」

 

「あれだな……断頭台にかけられる貴族の気持ちがよーく分かったな。お前が帰ってこなかったらと思うとぞっとするわ」

 

 ラシアとおやっさんが思っている以上に味方……ではなく、リレッサを慕っている者は多かった。

 

 おやっさんが姫様を泣かしたという話は一瞬で広まり、瞬く間に人が集まり……おやっさんは吊るされた。

 

 他人からしたら笑い事だが……本人からしたら大変なことで、村八分ならぬ街八分。街から叩き出されそうになったとかなんとか……

 

 姫様やティアやセレットのおかげで何とかなったが……ラシアもとばっちりを受けた。

 

 騎士なら姫を守れとか、そんな流れ弾だ。

 

「ラシア。すまんな」

 

「こっちこそ申し訳ない……」

 

 ラシアは考えておかないといけない。元の世界に帰るとしても、姫様をどうするかだ。

 

 確実に連れてはいけないだろう。だけどラシアは帰りたい。

 

 リレッサを助けたことに後悔は微塵もない。だけど……リレッサをどうしたら良いのだろうと不安が残る。

 

「こう……姫様に似合うようなイケメンで、人間できてて、私より強い人とか、おやっさん知らない?」

 

「俺はお前の全力を知らんからな。なんとも言えんが……お前の幸せと姫様の幸せは違うとは思っとけよ」

 

「うぃっす」

 

 そこで話は終わったと思いラシアが立ち上がり、冒険者ギルドに向かおうとすると、まだ話があったようで呼び止められる。

 

 それは、この世界での貴族のことだ。

 

「ラシア。今さら、貴族と関わるなと言うのは無理だ。それは相手が騎士でも聖騎士でも関係ない」

 

「……」

 

「だからこれだけは覚えとけ。貴族は俺やお前から見ても考え方が違う。見方によっちゃ……馬鹿の集団にも見えるだろう。だけどな……無能じゃない。それだけは忘れるな」

 

 村人や街人がいて、冒険者や冒険者ギルドがある。その上に騎士や聖騎士がいて、貴族がいて、頂点に王族、国王陛下がいる。

 

 この前の襲撃のようなことはたまにある。冒険者は基本的に血の気が多いからだ。

 

 そんな者達が無法にならずに、人としてルールの上にいるのはなぜか。

 

 騎士団や聖騎士という、何かあれば鎮圧できる組織があるのも一つの理由だが……

 

 貴族達が優秀だからだ。

 

 法やルールを整備し、力ある者達にレールを敷いた。こんなことは無能にはできない。

 

 それに無能なら……他の貴族に食い潰される。極端な言い方だが、蠱毒と同じだ。

 

 生き残っているからそこにいる。

 

 自分だけの強みがあり、他を利用し、利用される。

 

 爵位は確かにある。だけど……冒険者のように明確な強さで分けられるものではない。

 

 殺し殺され、生き残った。

 

 子が生まれれば学ばせ、強くさせる。それより優秀な者がいれば、血が繋がっていなくても養子にし、家を強くする。

 

 そのような者達が貴族だ。狂ってる者もいるだろう。馬鹿だと思う者もいるだろう。

 

 だけど……本当に無能ではない。

 

「俺から言えることはそれだけだな。忘れんなよ」

 

「うぃっす。なんか凄まじい世界ですよね。冒険者も騎士も貴族も」

 

 そして口から弱音がこぼれる。この国から出ていった方が良いのだろうかと……

 

 その言葉をおやっさんはすぐには拾わず、少し経った後に答える。

 

「それも一つの答えだろうが……余所は終わってるって聞くな。ウチの宿は、一応は冒険者になったばかりの奴が泊まりに来るのは知ってるだろう?」

 

「はい……」

 

 そんな宿だからこそ、聞ける話がある。元いた国では住めなくなり、命からがらこの国にやってきて、冒険者になって再起を図ろうとする者の話だ。

 

 賊に村を焼かれた者。戦火に巻かれて国を追われた者。モンスターに全てを奪われた者……本当に様々だ。

 

「俺はずっと冒険者一筋で……ティアの生みの親が死んで宿の主人をやってるから、余所の国のことはほとんど知らんが、話はよく聞く。色んな客を見てきたが……俺が一番記憶に残ってる客って分かるか?」

 

「お金払わない奴?」

 

「それは客じゃねーよ」

 

 おやっさんは笑いながら話を続けた。今でこそ食べられる物を出せるようになったが……宿を始めた頃に来た客で、味の薄いクソまずいスープと固いパンを美味い美味いと言って、涙を流して食べた客がいたのだという。

 

 そして初めて行ったダンジョンで帰って来なくなってしまったが、その客のことは今でも覚えているとのことだ。

 

「ラシアがどこかへ行こうとしているなら、それも一つの答えだが……行った先が素晴らしい所だとは思うなよ。って話だな」

 

「おうち帰りたい……どうしてこんなことになったんだろう」

 

 ラシアは悩むが、この国で活動するのが一番マシだろう。前に地図で見た感じでも、ここから国境を抜けるのに一ヶ月とかは普通にかかる。

 

 そうなってくると……一人でも大変な上に、リレッサを連れていくとなると現実的ではない。

 

 ラシアは大きくため息をついて、色々と諦めた。

 

「みんな生きるのに必死なんだろうな……俺も昨日は流石に死ぬかと思ったが……生き残ったな」

 

「おやっさんはもう少し女の子の気持ちとか考えた方がいいっすよ」

 

「くくくっ……俺もそう思うな」

 

 そう言って笑うおやっさんを見て、ラシアは本当に分かってるのかなーと心配するが、自分も分かってないので、まぁ良いか……といった反応になり、おやっさんに礼を言ってから冒険者ギルドへと向かった。

 

 冒険者ギルドに入ると、ギルド側からも警戒されていたのだろう。すぐにその辺にいた職員から、いつもの受付嬢を呼んできますので応接室で待っていて欲しいと言われてしまった。

 

 自分が疫病神みたいになっているような気がして少し辛いが、仕方がない。ラシアは言われた通りに応接室へと向かい、受付嬢を待った。

 

 すると三つの気配があった後にドアがノックされて、いつもの受付嬢と二人の女性が入ってきた。

 

 装備を見る限り……ナイト系の上位のドラゴンナイトだ。グオンのハイズナイトの一個上の職だ。

 

 もう一人は聖職者系列の職であるアークプリーストだ。

 

 ディーコン→プリースト→クレリック→アークプリーストになる。系列的には姫様と同じだけど、スキル取りでかなり変わるのもプリ系の特徴。有名どころだと殴りプリ。

 

 ドラゴンナイトの女性は少し背が低めだ。ラシアが他の女性に比べると少し高いが……この人は一番小さなティアとラシアの間ぐらいだ。

 

 それは良いのだが……どことなく見覚えのある雰囲気だった。

 

 そう思って見ていると、視線に気がついたのか話しかけられる。

 

「ん? なんや自分。ウチに面白いもんでもついとんか?」

 

 !? なぜ異世界で関西弁? とラシアは思うが、なまりの加減でそう聞こえるのだろう。

 

 だが、今のエセ関西弁でまた思う。何処かで会ったような気がすると。

 

「ラシアさん。お待たせしました。こちらのお二方と組んでダンジョンに行ってもらいます。片方はティーガー様。もう片方が聖女ロワンテ様になります。どちらも聖騎士の方になります」

 

「ラシアです」

 

 いつも通りに挨拶すると、受付嬢になんとも言えない顔をされる。ノアにもそんな感じの反応をされたが……名前を言うことが大事なのではなかろうか?

 

『ラシアですっ★ 今回の依頼は一緒に頑張ろうね! きゃるん!♪  ミ★』

 

 みたいなことを言った方が絶対に失礼だと思うし、間違ってはいないはずだ。

 

「自分な……噂の白い騎士やろ? もうちょいしゃんとした方がええで? まあ先に自己紹介させてもらうわ。ウチはティーガーや。全部言うたら長いからな、名前だけでええやろ。冒険者もそやしな」

 

 ラシアが頷くと、次はアークプリーストの女性が前に出て自己紹介を始める。

 

「初めまして~。白の騎士様ー、お会いできて光栄ですー。私はロワンテと言いますので、どうぞお見知りおきを~」

 

 セレットさんをさらにのほほんとさせた感じの口調で、特に敵意があるわけでもないが……ラシアの初対面のイメージは、なんか気持ち悪い、だ。

 

 流石に初対面の人にいきなり、貴女……気持ち悪いですとか言えるほど人間終わってないので、頷くだけにとどめるが……

 

 人でもモンスターでも……マネキン……でもなく、なにかこう……別の生き物を見ている感じだ。

 

「おう。ラシ。ロワ公見てどうしたんや?」

 

 関西からの転生者? と聞きたくなる感じの話し方だ。

 

「いえ。アークプリーストの方を見るのは初めてでしたので」

 

「なるほどな。冒険者にはあんまおらんって聞くもんな。ほんだら仕事の話しょーか。まあそこ座れや」

 

 言われた通りにラシアは座る。隣には受付嬢が座り、ティーガー達と向かい合う感じだ。

 

「先にぶっちゃけて言うとく。今回の共同依頼は、ラシの強さを見るもんや。よほどの時はうちらも手を貸すが……自分らのパーティーだけで戦えって感じやな。ロワ公がおるから回復とか支援ぐらいはしたるけども」

 

 それで超級のダンジョン行けとかなったらこいつらマジでアホじゃね? とは思うが、声にも顔にも出せないので我慢だ。超級でないことを祈るしかない。

 

「ほんで重要なのは、表向きは共同ってことやから、名声とかドロップアイテム関係の半分はこっちがもろていく。その辺は我慢してくれ。大公様の命令やしな。聖騎士も金欠や」

 

「ティーガーさーん。話し過ぎても駄目ですよ~」

 

「ええねん。ウチと大公は仲良しやからな」

 

 超級のダンジョンじゃなかったら何でもいいから……と思いながらラシアは頷く。

 

「ほんで依頼やけども……好きなのから選ばせたるわ。月齢の王の討伐になるけど、得手不得手があるやろ? だから候補を持ってきた。ラシが選び」

 

 なんかもう言ってることが無茶苦茶なので頭が痛くなるが……選べるならマシなヤツもあるはずなのでラシアは祈る。

 

 一つ目は樹海ダンジョンのコアラキングの討伐。

 

 二つ目は九十九ダンジョンのヤマタノロチの討伐。

 

 三つ目は水没ダンジョンのシャークムーンの討伐。

 

 四つ目は蟻巣ダンジョンのドミナトリクスの討伐。

 

 五つ目……を言い終わる前に、ラシアは並べられた依頼票を素早く手に取った。

 

「こっ、これでお願いします! 蟻巣ダンジョンのドミナトリクスでお願いします!」

 

 自分達の動体視力でも捉えきれないほどの動きに、ティーガーとロワンテが戸惑う。

 

「おっ、おう。他にもあるが……それでええんか?」

 

「絶対にこれで! 今の感じだと、キャプテンドレイクとかデスマンティスとか出しそうなので、これでお願いします!」

 

 なんで分かんねん、というような顔をされるが……後から代えられたらたまったものではないので、すぐに一番楽なヤツを選ぶ。

 

(いける。どれでもいけるけど全部上級! 大公の人! もっと無茶苦茶言うかと思ったけど全然いける! ありがとう! 常識ある人でよかった! ノアさんもグオンさんも連れて行ける!)

 

 選んだ依頼票を天に掲げ、まだ見たことのない大公を少し見直した。

 

 そんなラシアに二人は戸惑うが、まだ取り決めを行うことがあるので話は続く。

 

「そうそう。言い忘れとったけどな、馬鹿猫の獣人が一匹ついてくるらしいから、その辺も頼むわ。ラシがこの前ボコった、ガロニア関係やな」

 

 そんな奴いたか? とラシアは思い出そうとするが……分からない。後から聞いた話ではそんなのもいたとかは聞いたが……ラシアは直接見てないので分からないのだ。

 

「分かりました。ガロニアさんって人の味方とのことなので……何かしたら倒して良い感じですか?」

 

 その反応に全員が驚くが……ラシアを一番よく知っている受付嬢が一番驚く。そんなことを言う人だとは思っていなかったからだ。

 

「ランクは落ちたみたいやけどAやからな。なんもせんやろ。こっちも仕事や。ラシになんかしそうやったらこっちで対処するわ、なっロワンテ」

 

「はいー。流石にガロニア様でも~。デルパロア様と聖騎士には何もしないと思いますよ~」

 

 そう言って笑うティーガーに、ラシアはやっぱり見覚えがある。どこで? と言われたら思い出せないが……。

 

 そして話は進み、三日後に討伐に向かうことになった。今から行ってこいと言われてもいけるが、流石に皆に都合もあるし、ノアやグオンのためにも少し装備を整えておきたいからだ。

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