ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第85話 準備

 

 ティーガーは大公宅を歩きながら、ラシアのことを思い出していた。

 

 強いのは聞いているし、人と滅多に話をしないというのも聞いていたが……疑問に思うところは、自分達聖騎士に対する反応だ。

 

 自分とロワンテに対する反応がおかしかった。

 

 このなまりのある話し方のせいで、変わった奴と思われることは確かに多い。だけど……ロワンテに対する反応は明らかに警戒だった。

 

(腹黒聖女が伝わってるにしても……なんかおかしいんよな……あいつら出会ったの初めてやろ? なんであっこまで警戒するんや?)

 

 自身に対しては戸惑いはあっても警戒はなかった。聖騎士を警戒しているなら、両方に同じ反応をするはずだ。

 

 だけど、それがなかった。

 

「うーん……おかんの知り合いか? 戻って聞いてもええけどちょっと忙しいしな。終わってからでええか」

 

 ティーガーは目的の部屋にたどり着く。ノックをすると、中からどうぞと声が聞こえた。

 

 声の主はエリゼ・デルパロアだ。自身の知人で、今回の任務に自身を指名した張本人だ。

 

「生きとるか食人のエリゼ! 今日も喰ってるか! バーベキューか!」

 

 機嫌良くティーガーが中に入ると、メイドのメニスは本当に困ったように笑ってから挨拶をし、エリゼは美しい顔に似合わないほど、血管を浮かべていた。

 

「ちょっと!ティーガー! どうして貴女までその悪口を知っているのよ!」

 

「ちゅうことは他にもおった訳か。狂犬あたりか? まぁーそれはええけど……最近の流行で、エリゼに似おとるからしゃないな」

 

「メニス。そのバカトラの首刎ねていいわよ」

 

「お嬢様……流石に私では無理でございます。ティーガー様もお戯れは程々に」

 

「なんや! 首はねて……食べるんか!? ウチは貧相やからあんまり食うとこないで!」

 

 エリゼは立ち上がって何度も深呼吸をする。この変ななまりの生き物のペースに飲まれると碌なことがないからだ。

 

「ふぅーーー……ふぅー……」

 

「なんかあれやな……深呼吸しとるだけやのにおもろいのは、ある意味……才能やな」

 

「……メニス。ちょっとウチの暗部呼んでちょうだい。今日という今日は泣かす」

 

「それはええねんけど、ラシにお礼言うといたで!」

 

 なぜそんな大事なことを先に言わないのかと……エリゼは頭が痛くなる。もう一度、深呼吸してからそのことを詳しく聞いた。

 

 ……

 

 ラシアと狩りに行く話がまとまったところで、ティーガーはエリゼから頼まれていた感謝の言葉を伝えた。

 

「そうそう。ラシ。エリゼのお嬢様がありがとうって言うといてって言うとったで」

 

「……誰? って思いましたけど人食い令嬢? ……じゃなくて! たっ大公陛下の御子息の方ですよね!?」

 

「なんかめっちゃ失礼な単語が混じってた気もするけど、おもろいからええか。ありがとうやって。メイドの方も礼言うとったわ」

 

 調子に乗った私も悪いですが……三割ぐらい貴女のせいですよね? とラシアは言いたいが、言ったら言ったで大変なことになるので、どう致しましてとだけお伝えくださいと言った。

 

「分かった。伝えとくけど大公の娘やで? なんかくれぐらい言うても全然いけるで?」

 

「平穏をください」

 

「あー……そら無理やな。自分、無茶言うたらあかんわ」

 

 …………

 

「そんな感じで言うといたで。だいぶ苦労してる感じやったな! 頭痛そうなところはお嬢とそっくりやったわ」

 

 エリゼもメニスも激しい頭痛に目眩を覚える。目の前のバカに頼んだのが大間違いだが……よりにもよって自分達の命の恩人にそんな失礼な言い方があって良いものかと……しかも白の騎士が自分の悪口を知っている。

 

「接触禁止じゃなかったら……メニスに行かせて、私が直接お礼を言ったのに……このバカトラのせいで……白騎士様から私の好感度って最悪になってるんじゃないの」

 

「大丈夫。元からゼロや」

 

「なんでよ!」

 

「そらそやろ。相手の都合も考えんと依頼とか出して手配書みたいにした奴の好感度が高いわけないやろ」

 

「ぐっ……でもほら。私は大公の娘で……こう……なにかね」

 

「貴族は他人の都合とか考えんもんな! 分かる分かる。おかんもそれで苦労したしな。エリゼの普通とラシの普通はちゃうんやで」

 

「ごふっ……」

 

「エリゼ様! お気を確かに!」

 

 ティーガーとエリゼが仲良く遊んでいる頃、ラシアはクランメンバーに今回の討伐のことを伝えていた。

 

 油断さえしなければ全然問題はないのだが……上級ダンジョンの月齢の王だけあって、皆の顔色はあまり良くない。

 

「うーん……遭難は別として初めてラシアさんと狩りに行くはずなのに、全く喜べない! ……中級ダンジョンのリュウモドキで失敗したのに上級とか無理なのでは!?」

 

「ノア……それを言い出したら俺達もそうだぞ。姐さんと合併してさぁ狩りだ! ってところにこれだからな……」

 

 そんなことを言い出したらラシアに関しては、初めて人のいるクランで自分がクランマスターになり、適正ではないところに友人達を連れていけと言われているのだから……もっと頭が痛い。

 

 もちろんそんなことは言えないし、言ってもいけない。ゲームと現実の違いはあるが……上級にいるボスモンスターが全て強いというわけではない。

 

 どんなことにもピンキリはある。

 

 依頼書にあったコアラキングやヤマタノロチは上澄みだ。下手したら超級に行っている人でも負けるほど強い。

 

 だけど逆にキャプテンドレイクやデスマンティスは弱い。

 

 ラシアが選んだドミナトリクスはちょうど間くらい。コアラキングみたいに画面がコアラで埋まるぐらいコアラを召喚するわけでもない。ヤマタノロチみたいに全属性+全状態異常のブレスをぶっぱしてくるわけでもない。

 

 ドミナトリクスは確かに強い。周りの蟻を強化するし、取り巻きで召喚する蟻も強い。

 

 そして一番厄介なのが、特殊能力として魔法防御などのダメージ軽減系魔法を無効化することだ。

 

 そしてそれを周りの蟻達にも付与する。

 

 だからエリエスにアースアーマー等を張ってもらっても無意味になる。

 

 この特性があるから……聖騎士、ティーガーやロワンテは依頼の中にこれを入れたはず。多分だが、彼らはドミナトリクスを倒していないからだ。

 

 ドラゴンナイトは確かに強いが……どちらかと言えば魔法剣士に近い。だから魔法で防御や攻撃を上げる。

 

 アークプリーストで防御を上げたとしても、ドミナトリクスはそれを貫通してくる。

 

 割と相性最悪なのだ。

 

 たぶんだけど騎士団は倒してると思う。剣聖ロビルカロンを倒しているし……パルサーはルーンランサーだからかなり強い。

 

 倒すなら……力こそパワー! で解決。魔法に頼らず力でごり押し。ラシアなら問題はないし、グオンのスキル取りも物理攻撃、物理防御寄りだ。

 

 それでノアに至っては炎タイプのハイウィザード。ラシアが思っていたように、ギルドで調べてもらったら中位職に上がっていた。だから生き残れた。

 

 職によるが、下位と中位ではステータスにかかる補正が全然違う。ゲームとその辺が同じならHPにいくらかの補正がかかっているから生き延びたのだ。

 

「で、ドミナトリクスは地属性だけど攻撃だけは無属性。属性の検証が終わってないからこいつがちょうど良い。ティーガーさんが出そうとしたデスマンティスとか即死攻撃してくるし」

 

「あっそうか。地属性だから私の魔法でも通るのか! ラシアさん火属性をエンチャントしてあげるよ!」

 

「うん? ……ノアさん。ハイウィザードですよね?」

 

「いぇい! 大魔法使いノア様だぜぃ」

 

 そういえばこの世界はゲームと違ってデメリットはあるが、全ての職が全てのスキルを覚えられることを思い出した。

 

 そこで少し繋がったことがある。白紙のスクロールでエンチャントできるし、ノアの言うことが間違ってなければ他の職でもエンチャントできる。

 

 だからエンチャンターみたいな少し特殊な職はいないか……もしくは消えていった職なのだろう。

 

 いればめちゃめちゃ便利だが……火力はウィザード系に劣るし、エンチャントするならスクロールで良いからだ。

 

 この辺は一人では思いつかなかったので、ノアに感謝する。

 

「話だけ聞いてるといけそうな気はしますが……他に気をつけることはありますかい?」

 

「ある。これだけは本当に要注意。状態異常をランダムで必中付与してくるから。超級が使ってくるような状態異常は使ってこないと思うけど……使ってくると難易度が跳ね上がる」

 

「どんなの?」

 

「即死、死毒、壊死とか状態異常に死がつく感じのヤツ。対策はあるけど……なんというか、どう変化してるか想像がつかないから、対策だけする感じ」

 

「色々あるんすね」

 

「ロワンテさんがいるから即死を防ぐ補助魔法はかけてもらおうと思うけど……何があるか分からないから、戦闘に入ったら即座に叩き潰す感じでいこうと思う」

 

「なるほど……ってことは姐さんの本気を見られるわけですね」

 

「おおっ!」

 

 そう言って、二人は目を輝かすが……全力なんて出せるはずもない。巻き込もうものなら二人は耐えきれないからだ。

 

 それからもう少し内容をまとめ、討伐の日を迎えた。

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