ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第87話 再び

 

 強い……聖騎士であるロワンテが、ダンジョンで戦うラシアに抱いた感想はそれだ。

 

 一層、二層ならラシアのクランメンバーのパッとしないゴミでも進めるが……三層になると話は変わってくる。

 

 聖騎士の中でも中位や上位に来る者達でしか進めないだろう。そんな中をラシアは支援なしで、蟻達を一撃で潰して進んでいく。

 

「なるほどーなるほど~。これは凄まじいですねー。ティーガーさんはどう思いますか~?」

 

「そやな。冷静に見てもウチや自分よりは強いな。それは間違いないやろ」

 

「私は支援なのでー比べるベクトルは違うのでなんともですがー。ティーガーさんがそう言うって余程ですねー。流石は大公に目をつけられたって感じですね~」

 

「その辺はどうやろな? 大公の情報網が凄かったんか、ラシの運が悪かったんか……」

 

「なるほど~」

 

 二人は聖騎士だが、仲が良いというわけではない。騎士団はデゴットを中心にほぼ一枚岩だが、聖騎士は少しややこしい。

 

 ティーガーはどちらかと言えば貴族の下にいる聖騎士。だがロワンテは司教の下につく聖騎士といった感じだ。

 

 従う者が違う感じで、思想も命令系統も少し違う。

 

 だからロワンテにティーガーの考えは分からないし、逆もまたしかりだ。

 

「あかんか。ノアとハゲはちょっとしんどそうやな。ラシの強さを見るのが目的やしな。ロワ公。ノアとハゲに支援かけたってくれ」

 

「分かりました~」

 

 口ではそう言うが、自分より遙かに劣る者に、手に入れた力を使わなければいけないのかとロワンテは思う。

 

 ただ忌々しいことに、ティーガーは自分より強さも立ち位置も上。逆らうことに意味はない。

 

 ……

 

 蟻の数が多い。人ぐらいの大きさのものもいれば、二の腕ぐらいのサイズもいる。強さはグオンもノアも問題ないが……死角ができてしまうために少しグオンの反応が遅れる。

 

「グオンさん! 私が前を歩くのでノアさんをお願いします!」

 

「分かりやした!」

 

 そう言って位置を変えようとすると、ノアとグオンの体が光り始める。

 

「エンジェブレス。プロテクションウォール」

 

「ドラゴニックパワー!」

 

 ティーガーとロワンテから、ノア達二人に支援魔法が飛んでくる。

 

「あっ、ありがとうございます」

 

「おう。気にすんな。ラシの強さを見るのが目的やからな。お仲間は無駄に怪我とかせんでええやろ。痛いしな」

 

「でもー。ラシア様の強さをー見るのが目的なのでー。ドミナトリクスまでは支援なしですよー」

 

 ラシアはもう一度礼を言って態勢を立て直す。二人から支援をもらったことでグオンとノアの強さは一段階上がったので、さっきよりも楽に進むことができる。

 

 ラシアは一撃で倒せるので問題はないが、抜けた蟻をグオンが攻撃し、ターゲットを取った後にノアが魔法で焼く。

 

 グオンに関してはやはりベテランだ。ウォーハンマーのような片方が尖ったハンマーを使っていて、重いはずだが使いこなしている。

 

 振ればちゃんと蟻の関節のような柔らかい場所を狙って攻撃しているし、盾で受ければ真正面から受けるのではなく、人のいない方向へ流している。

 

 これはラシアにはできないことなので本当に凄いことだ。

 

 ノアに関しても樹海の時より戦い方が上手くなっている。点と面で蟻を抑えている。

 

 グオンが一匹と戦っているならナパームボルトで援護し、一対複数になりそうならフレイムウォールで進行を防ぎ、できる限り一対一に持ち込めるように調整している。

 

 装備を購入する時もラシアの助言が役に立っているようで、かなり火力は上がっている。

 

 その上で二人からの支援があったのだ。今のところはかなり安定している。

 

 ちなみにフウコウは一番身軽で、見ているだけでは暇なので、ティーガーに脅されて魔石や落ちたアイテムを拾っている。

 

 蟻の数が多いので拾ってくれるのは十分ありがたいのだが……なんでこんな化け物みたいな奴に喧嘩売ったのにゃー……あいつらアホにゃ……みたいなことがたまに聞こえてくるので微妙に気が散る。

 

 アニメならともかく語尾ににゃとかつけられると、聞き慣れないのでなんか気になるのだ。

 

 そんなことを思っていると、自称聖女も同じことを思っていたようで文句を言い始めた。

 

「そこの猫さ~ん。似合ってもいないのに~語尾ににゃとかつけて話すのやめてもらっていいですか~。気が散るというか……正直鬱陶しいのでー」

 

「もっ、申し訳ない……にゃ」

 

 そんなロワンテ達を見ていると、ラシアはティーガーと目が合った。何やら口が動いている。

 

『ラシ! お前が言うな言うたれ! お前も大概やぞって言うたれ!』

 

 少し思うところはあるが……そんなことを言おうものなら大変なことになるのは目に見えているので、ロワンテに見えないように首を振って狩りへと戻る。

 

 そして狩りを続けていると……明らかに他の蟻より大きな足跡が見つかった。

 

 このダンジョンは本当の蟻の巣のように、通路や大広間のような場所がある。足跡が続いている場所は、ラシアの記憶が正しければ三階で最も広い場所だ。

 

 肌に当たる空気も、圧力が増しているような気がする。ほぼ確実にいるだろう。

 

 皆も肌で感じているのだろう。ラシアが振り返ると全員が頷いた。

 

「さてと……白騎士様の実力を見せてもらおうか。ドラゴニックパワー」

 

「そうですねー。防御魔法は抜けてくるので身体強化の支援だけかけておきますね~。エンジェブレス」

 

「おっ、応援だけしとく……にゃー」

 

 そして……戦いを前にノアとグオンに指示を出そうとしたところを狙われた。

 

 上半身が人、下半身が蟻の大きなモンスターがラシアめがけて高速で体当たりを仕掛けてきたのだ。

 

 こちらが気づいていたように、モンスターも気づいていた。

 

 大きな体がラシアに迫る。

 

 だが……問題はない。ラシアは正面からその体当たりを受け止め、押し返す。

 

 ノアやグオンが狙われたら危なかったかも知れないが、支援魔法により強化済みだ。いつものラシアよりも強い。

 

 そのまま大広間まで押し戻し……持ち上げて投げ飛ばす。

 

 何匹もの蟻が下敷きとなり潰れるが……流石はボスというだけあってドミナトリクスも無傷だ。

 

 ここなら広い。ラシア、ノア、グオン、その他が戦っても十分な広さがある。

 

 ハンマーを持ち直し戦闘態勢に入ると……ティーガーから呆れた声が聞こえる。

 

「ラシ……月齢の王の攻撃受け止めて押し返して、しかも投げ飛ばすって……自分、ホンマに人間か?」

 

「何というか~流石は白の騎士様ーといった感じですね~」

 

 気が散る……と思っていると、初手はドミナトリクスに取られた。ギチギチと甲高い音を鳴らすと……地中から何匹ものロイヤルアントやインペリアルアントといった、ゲームで言えばレベル七十後半のモンスターを何匹も召喚する。

 

 一匹ならノアとグオンで対処できるが……ここまで数が多いと流石に無理だ。だけど戦い方はいくらでもある。

 

「クラックフォール!」

 

 地面が割れ、ドミナトリクスと他の蟻を飲み込み、行動不能にさせる。

 

「ノアさん! フレイムエンチャントお願いします!」

 

「分かった! フレイムエンチャント!」

 

 ラシアのメテオドライブハンマーに火属性が付与される。今まで使わなかったのはファイヤーアントといった属性持ちがいたためだ。そういう敵は無属性で殴った方が効く。

 

 だがロイヤルアントやインペリアルアントはどちらも地属性。火がとても効果的だ。

 

 ラシアはすぐさまモンスターの群れに突撃し、一撃で倒して灰にしていく。

 

 すぐにドミナトリクスにたどり着き殴るが……流石は上級ダンジョンの時間湧きのボスだ。他のモンスターとは違い一撃とはいかず、攻守交代となる。

 

 自分とラシアの間に魔法による攻撃で大きな岩を出現させ、一度間を作り、距離を取る。

 

 ドミナトリクスもラシアを強敵と見なしたのだろう。もう一度、取り巻きの蟻を呼び手駒を増やす。

 

(バスタースワローの時も思ったことだけど、モンスターが賢い……)

 

 ここでもゲームとの違いが表れる。取り巻きのモンスターは基本的に召喚だ。だがドミナトリクスは呼んだ。この違いは先ほど呼んだ蟻がまだ残っているということだ。

 

 再召喚なら最初に出たモンスターは消えるはずだが残ってる。……いつかは限界が来るだろうが、数で押されたら……危険だ。

 

 ドミナトリクスもラシアが危険というのは肌で分かったのだろう。呼んだ蟻で自分を守らせ、他の蟻にはノア達を狙わせ始める。

 

 そしてラシアが助けに行き三人が集まると、呼んだ蟻ごとまとめて範囲攻撃を仕掛けてくる。

 

 ラシアが接近しようとすると、また別の蟻を呼び壁を作り、ノア達に攻撃を仕掛けて距離を取らせる。

 

 ティーガー達のことも警戒はしているが、傍観者というような立ち位置というのは分かっているのだろう。

 

 ラシアもクラックフォールでスタンさせ距離を詰めるが、スタンはゲームの特性と同じで、同じ敵に使う度に拘束時間が短くなる。もしものことを考えると、同じ敵に使い続けるのは危険だ。

 

(これ以上、蟻が増えてきたら……流石にどうなるか分からないな。いい加減、決着をつけないとマズい)

 

 全力で行けば良いのだが……ティーガーやロワンテが邪魔だ。スキルなどをあまり見られたくない……だけどリレッサの言葉を思い出す。

 

『時には力を見せることも大事ですよ』

 

 そのタイミングでまたドミナトリクスは蟻を呼び、自身を守るようにラシア達の前に立ちはだかせ、溜めの動作に入った。

 

 そんな動作はゲームにはなかったので少し油断があった。

 

 そしてドミナトリクスの複眼が強い光を放ち、ラシア達を包み込んだ。

 

 その攻撃には見覚えがある……ラシアが注意していたランダムでの必中状態異常だ。

 

 薄れていく意識の中でこの感覚は覚えがある。

 

 混乱だ……

 

 だけど今は頼れる仲間がいる。ノアとグオンに目を向けると動けている。

 

 自分の状態異常も治してくれるだろう……そしてラシアは膝をついた。

 

 ラシアが膝をついた時……一番早く動いたのはロワンテだった。杖をラシアの方に向ける。

 

 だが、その杖に大剣が触れた。

 

「おいこら。ロワンテ。お前……今、何をするつもりやった?」

 

「……ラシア様が~状態異常なのでー治そうかと思いまして~」

 

 二人の殺気が交差する中で、ノアとグオンは少し慌てる。ノアは麻痺になり、歯の奥に仕込んだ麻痺直しですぐに動けるようになったが、グオンは鈍化の症状で動くのがかなり遅れた。

 

 ラシアに向かってドミナトリクスが体当たりを仕掛けようとしている。

 

「ラシアさん!」

 

 その声に応えるように、「大丈夫だ」と声が聞こえる。

 

 全てを巻き上げるような凄まじい魔力の動きがあった後に、ラシアは立ち上がりドミナトリクスの体当たりを受け止め、投げ飛ばす。

 

 ただ先ほどと違うのは、足を引きちぎっていたことだ。これによりドミナトリクスの機動力は大幅に低下する。

 

 そして長い髪を巻き上げながら立ち上がる。

 

 その圧倒的な魔力とその風貌に全ての者が息をのむ。

 

「ラッ、ラシアさんが格好いい……」

 

 ラシアはティーガー達に話しかける。

 

「ティーガー、ロワンテ、フウコウ。見せてやろう! お前達が白の騎士と呼ぶ者の力! 浪漫を超えた絶対浪漫の力を!!」

 

「……おう。見せてもらおうやんけ」

 

「楽しみですね~」

 

「絶対! 逃げた方がいいにゃ! なんかやばいにゃ!」

 

 ノアとグオンはラシアの圧力に飲まれて動けない。ラシアはドミナトリクスに向き合い、メテオドライブハンマーを仕舞った。

 

 そして……終わりが始まった。

 

「シュトルクトゥーア・オーバーリリーヴ!!」

 

 ラシアの体を流れる血液が沸騰し、命が燃え上がる。だが先ほどのバフで、燃え上がる命があふれ出す。周りの岩や蟻の死骸なども宙に浮かび始める。

 

「ギガンテックハンド!」

 

 ラシアの腕がドラゴニックパワーの効果もあり、竜の腕のように太く力強くなる。

 

 そして声が聞こえる。

 

「俺達を使え! ラシア!」(幻聴)

 

「ラシアさん、今です!」(幻聴)

 

「来い! プラティディオンハンマー!」

 

 白金色の巨大なハンマーがラシアの前に現れるが、まだここからだ。

 

「ディスラクシオンツール!!」

 

 幾何学模様の小さなハンマーが現れ、光った後に分解される。そしてパーツがプラティディオンハンマーと一つになり、さらに大きくなる。

 

 それをラシアは掴み、ノアとグオンの名を呼ぶ。

 

「ノア! グオン! 支援を頼む!!」

 

「わっ、分かった! フレイムエンチャント!」

 

「分かりやした! アームズアップ!」

 

「お前達の気持ちは受け取った! だがまだだ! サンライトコンタクト!」

 

 洞窟内に小さな太陽が出現したかのように光り輝き、その光は全てプラティディオンハンマーに集まった。

 

 ドミナトリクスを守るように蟻達が一斉にラシアに襲いかかるが、ラシアがハンマーを横に振ると全てが光の粒子になって消えた。

 

 ドミナトリクスが恐怖に怯え始める。

 

「ステイク……パルス……エシュピー……はぁぁぁぁぁぁ! コル・クール・パル!」

 

 ドミナトリクスの前に、透明ではなく、太陽で作ったかのような巨大な杭が出現する。

 

 ラシアは叫ぶ! ストレス過多で鬱憤もたまりにたまっているからだ。

 

「蟻の貴婦人よ! 太陽に沈めぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 ラシアはハンマーを振り下ろした。

 

 時間さえも壊したように、静かに杭がドミナトリクスに打ち込まれる。光も破壊されたのだろう。それを見るラシアの瞳には白黒に映っている。

 

 そして……全てゆっくりとスローモーションでボロボロと崩れていった。

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