全てが吹き飛んだ蟻巣ダンジョンの中を、聖騎士達が調べに調べまくっている。
一層は無事だが……二層は吹き飛び、三層、四層は消滅。五層は崩れて、現状は侵入が少し難しくなっている。
三層を中心に球状の爆発が広がり、上下の階層を破壊したのだろう。ダンジョンの階層を破壊できるというのは凄い発見だ。
そんなことを考えながら、無くなった階層を見下ろすロワンテに聖騎士達が報告を入れる。
「このダンジョンのボスである女王蟻は生きています。被害がなかった階層のモンスター達も、普段と行動は変わらないように思えます」
「分かりました~。明日には元に戻ると思うのでー引き続き調査をお願いしますー。見落としなどがないようにお願いしますね~」
「はっ」
ラシアの本気の結果がこれだ。幸いなことに死者も怪我人も出なかった。
ラシアが太陽の色をした杭を打ち込もうとした瞬間に、ティーガーが明確な死を感じ、帰還石を使用して即座に撤退したからだ。
ドチビに助けられたことは忌々しいが……ティーガーがいなかったらロワンテも死んでいただろう。
そこにも少し疑問がある。どうしてラシアは残ったのか。
帰還石を使えば、パーティーを組んでいる者は、使った者が通ったポータルに強制的に戻される。
だから全員が王都の冒険者ギルドに強制的に戻された。だけどラシアは残った。
そして王都に待機していた全ての聖騎士を連れて戻ってきた時には、今のようになっていた。
もちろんラシアも無事。一番下の階で魔力の使い過ぎで頭痛でもするのだろう。発見した時は頭を押さえていた。
これだけのことができる者が今まで何処に隠れていたとなるが……偽りといえども、聖女と呼ばれる者が見せてはいけない表情でロワンテは笑う。
「ふふっ……ラシア様。貴女はとても面白いですね」
……
フウコウは雇い主であるガロニアに、今回のことを詳細に報告していた。気難しく気を遣う相手だが、今日のフウコウは機嫌が良い。
聖騎士の紅い虎に脅されて魔石とかアイテムを拾っていたが、討伐が終わって精算となると、三等分してもらえたからだ。モンスターも倒さずにアイテムとか魔石だけ拾って、これだけの金額がもらえるとは思っていなかったからだ。
「そんな感じにゃー。あのラシアとかいう白騎士は人間やめてるから、関わらない方が無難にゃー」
「そうなってくると……白の騎士が持ってる破壊の力は何種類かあるってことになるね。感じ的には……灰の砂漠と今回の攻撃方法は別ってところかい。フウコウ。今回は砂のような物はなかったんだね?」
この人は大事なところをまったく聞いていないと、フウコウはため息をつく。
「パッと見た感じだけにゃ。探せばあるかもしれにゃいけど……なかったにゃー。場所によっては高熱で溶けてたにゃ。蟻は焼死してたのもいたにゃ」
なるほどとガロニアが考え始める。フウコウ的には、そうやって考えてくれてる方が良い。今回のお金は全部自分の物にしたいからだ。
(にゅふふ。ウハウハにゃ~!)
「今回は聖騎士が封鎖してしまったから……これ以上できることはないね。さてと……フウコウ。今回手に入れた物を全て出しな。アイテム、金、全てだよ」
「にゃ!? なんでにゃ! ワッチが命かけて行ってきたにゃ!」
「私はお前の雇い主。給料はもう払ってる。契約の時にも言ったが、ダンジョンで手に入れた物は私の物。何か問題があるのかい?」
天国から地獄へ一気に落とされた気分だ。しかも正論なのでフウコウは何も言い返せない……
「ふっ、不幸にゃ……」
……
今回の雇い主であるエリゼに報告を済ませ、ティーガーはラシアのことを思い出していた。
少し時間をもらって話をしたからだ。
「ラシ。ちょっとええか?」
ティーガーに呼ばれて、ラシアは少しビクつきながらやってくる。これだけのことができるなら、もう少し胸を張って生きれば良いと思うが……人それぞれなのだろうとティーガーは思う。
「色々とご迷惑をおかけしました……」
「ん? 別にええやろ。水晶の泉も灰の砂漠もラシがやったんやろ? その延長がこれやったらアホでも想像つくから、それはええねん。いっこ聞きたいんやけど、自分なんでロワ公を警戒してたんや?」
ドミナトリクスから攻撃を受け、性格が切り替わる時にティーガーに守られたことをラシアは見ていた。だからロワンテが今はいないのを確認し、感覚的な物だけど、と前置きしてから伝えた。
何かこう……人でもモンスターでもないような、気持ちの悪い感じがしたと。
「こっちも一ついいですか?」
「おう。何でも答えたるで」
「ティーガーさんって何処かで私と会いました? もしくは……転生者?」
「いや? 会ったことないで? 調べはしたけどな。ちゅうか転生者ってなんや?」
「……違いましたか……何というか何処かで会ったような気がしたので」
……
(ラシも感覚的な物だから詳しくは分からんって言うとったけど……これで三人目か……)
そんなことを考えていると、本当の雇い主の部屋にたどり着く。辺りを警戒し、誰も見ていないことを確認してから中に入る。
「おー。大公! 今日も元気に首刎ねてるかー!」
普通の者ならそれを言われた時点で殺されているが……ティーガーがこんな性格というのは大公も執事も気にしていないし、特に気にする必要もない。
というより普通の者ならそんなことは言わない。
執事の男は挨拶だけしてお茶の準備を始める。
「なんだ。何人刎ねたか聞きたいのか?」
「お嬢もそんな返しができるようになったら大したもんやけど、まあええか」
ティーガーはダンジョンであったことを全て大公に話し始める。ラシアがどんな人物かということや、どれほどの戦闘能力があるかということもだ。
話し終わるまで大公は静かに聞き、ようやく口を開いた。
「ロワンテ側の意見だと、白の騎士に支援をかけようとしたらお前に邪魔されたと言っていたがな」
「まーその辺は大公の受け取りしだいやろ。どっちかが嘘言うとって、大公はその場におらんかったからな。判断のしようがないわ。ほんで? 大公はどう動くんや?」
その質問に大公は考える。白の騎士の強さは分かった。どう扱うのかも考えてはいるが……未だにどういう人物かが見えにくいからだ。
それだけの力があるのだ。子供のように癇癪を起こされて暴れられたらたまったものではない。
ただ力があれば何でもできると思っているような馬鹿には思えないので、判断には悩むところだ。
「強いだけなら倒す方法はいくらでもあるが……難しいところだな。お前はどう思う?」
あの大公が自分に意見を聞くとはとても珍しいことだが……相手が相手なのでティーガーにも分かる話だった。
「そやなー。武力に関しては他の追随を許さんな。たぶんウチとかパルサーぐらいやったら片手で倒すやろな。支援があったとはいえ、ドミナトリクスを一人で倒したからな。まーこの辺はある程度想像ついとったやろ」
「……」
「で、ウチが思うんは……しばらくは静観がええやろ。ガロニアか……もしくはロワンテ、聖騎士側が先に動くやろうからな。他の貴族もなんか動くやろ。大公ぐらい力があったら、それから動いても全然いけるやろ」
白の騎士のことは確かに気にはなるが……どう動くか分からない強者を使うより、動きの分かる弱者を使う方が明らかに効率が良い。それに大公が動かせる者は弱者ではない。ラシアがおかしすぎるだけなのだ。
「なるほどな……確かに静観が一番マシか……欲をかいた者達が消えることもあるか」
「まーそんな感じでええと思うで。それになんか新しいおもちゃのユートピアみたいな感じの奴で遊んでるんやろ? しばらくそれ見てる方がええと思うで」
この目の前のティーガーはたまに訳の分からんことを言い出すので、大公は考える。多分だがリュートリアのことだ。話した感じは大したことがない感じではあったが……想像以上に使えるという結果になっている。
そちらを鍛えて手駒を増やすのも一つの手だなと大公は思う。
「後は……エリゼの接触禁止を解いておくか」
「お? それは意外やな。ラシやし、大丈夫とは思うけど大丈夫か?」
「何かあって困るのは私ではなくエリゼだ。良い身代わりになってくれるだろうよ」
「なんぼ金持ってても親がこうやとお嬢も大変やな」
「何もなければわがままが言いたい放題だ。文句はあるまい。それで……今回の報酬として何が欲しい?」
ティーガーは考えていたことを伝える。それは、極秘でロワンテを調査することだ。ガロニア、パルサー、そしてラシアの三人が、ロワンテを見て気持ちが悪いと言った。
性格は終わってるが見てくれだけは良い。それでも初対面でそれが出てくるとは何かあるとティーガーは思う。だからそれを極秘に調べて欲しいと伝えた。
「昔調べた時は何も出なかったが……確かに気になるな」
大公がそう言うと、執事の男が自分が調べようかと言った。今は大公も少し忙しく、自分の方が時間があるからだ。
「確かにな。ではお前に任せたぞ。ティーガーもそれでいいか?」
「全然ええで。執事さんもごめんやで! あとついででええんやけど、転生とか転生者って言葉も調べといてくれるか? どっかの国の言葉やと思うんやけど、馴染みがない言葉でな。そっちは片手間でええで」
「かしこまりました」
「司教派側の聖職者や。間違いなくなんかあるやろな。なかったらなかったでええけどな」
……
ティーガーと大公がそんな話をしている頃、ラシアはティアと分けたアイテムの整理をしていた。
魔石などは王都の冒険者ギルドで買い取ってもらったが……蟻巣ダンジョンで蟻を倒すと中身のない蟻の卵というアイテムが出る。
これを他のアイテムと交換という感じで全部もらってきたのだ。本当にゴミアイテムだが、たまーに換金アイテムが出たり、人の腕ぐらいの蟻を二匹使役できるレアアイテム、女王蟻の指輪が出るからだ。
何というか……それが欲しいわけでもないが、ガチャがしたくなった感じだ。
「ラシアさん出ないねー」
「そうだねー。出ないのが基本だけど、開けるのが楽しいからね。おっ?サファイヤでた」
「おおーさすがラシアさん!」
ちなみに……ノアとグオンは正座中。帰って皆に狩りであったことを話したら……おやっさんが怒ったからだ。
あれだけクランマスターのラシアが、危険だから混乱にかかったら解除してくれと言っていたにもかかわらず……見とれていたとか、そんなクソしょうもない理由だったからだ。
ラシアが叱り方を知らないのでおやっさんが叱ってくれているから、ラシアは何も言えない。
「で? ノアもグオンも何年冒険者やってるんだ? ラシアが無茶を言ったか? 危険だからすぐに解除してくれって話だよな?」
「はい……その通りです」
「面目ない……」
「良かったな、聖騎士様が助けてくれて。ティアは一人っ子になって、俺とセレットは娘を一人亡くしたわけだ。グオンにしても……自分を慕ってついてきてくれてる者をどうするつもりだ?」
「「本当にすみません」」
「お前らはそこで座ってろ」
そしてリレッサが、ラシア達が戻ってきた時のために準備をしていたケーキが焼き上がった。
辺りに良い匂いが広がる。
「リレッサ! お父さんから許しを得て欲しい!」
「ノア……軍でもトップに逆らうのは駄目ですし……ご両親や友人を心配させた責任は取らないといけませんよ」
「うぐぐっ……」
ただ……今回に関しては急造でできたクランだ。ラシアも初めてのことだらけだ。
確かに今回はたまたま助かっただけかもしれない。でも次はもう少しゆっくりと皆でクランを育てていこうとラシアは思う。
そして立ち上がって、おやっさんをなだめに行こうとする。
「あっ……ラシアさん! 指輪出た!」
これでこの章は終わりとなり次回から新章に入ります。
今更だけどこの章は少し長くなったなーという感じ。