第89話 繋がり
ラシアがドミナトリクスを倒してから、少し時間が経った。
一人の時とそんなに変わらないから、良かった良かった……というようなことはなく、普通に忙しい。
急遽クランを立ち上げたので、色々な反動が来ている感じだ。ランクも言われていたようにSにまで上がった。
いや、正確にはSでは収まらないだろう、という話になったらしい。ギルドも後で何か言われたら嫌だったのか、騎士団や聖騎士にも声をかけて確認したとかなんとか。
デゴットは、ラシアがローリスをソロで倒したところを見ている。聖騎士もドミナトリクスを倒したところを見ている。前にボコったガーゼンにも尋ねたところ、上げても何の問題もないだろうとのことだった。
ただ、急にXランクになってもそれはそれで制度上の問題があるらしく、ひとまずラシアはSランクになった。
この街を拠点に活動するSランクは少ないらしいので、ギルド的にもSで良いなら問題ないという判断だ。少しキツい言い方をすれば、適正ランクでない者がダンジョンに行くと、どうせ死ぬ。
だから強い者は、強い者として扱っておく必要があるのだ。
とはいえ、頑張ってXやZランクになったからといって、すぐに超級ダンジョンである深淵のダンジョンに行き、願いを叶えて、はい、元の世界へ帰りましょうとはいかない。
超級ダンジョンに入るには、ランクとは別に、それなりの名声や実績がいるんだそうだ。なんか国王直々の署名とか、信用に足る冒険者だと証明するものが必要らしい。
犯罪者みたいな冒険者が超級に入って、モンスターを一匹でも連れ出したら……冗談では済まない被害が出る。そういうことも考慮しているそうだ。
それと、冒険者ギルドからしても、強者を適正ランクにしておかないと本当に危険らしい。
その者自身が危険というより、周りが危険になる。
簡単に言えば、あいつが行けたから自分達も行ける、という者が出る。ラシアがBランクのまま上級で狩りをしていれば、それを見た者が勘違いして上級に行き始める。
そして死ぬ。
そういう勘違いを防ぐためにも、ランクは正しくしておく必要があるらしい。
「色々あるんだなー」
ラシアは宿の部屋から外を眺めている。自分が来た頃と比べて景色は変わっていないが……治安は良くなっているような気がする。最近、何かが盗まれたとかそういう話も聞かないし、喧嘩も確実に減っている。
目に見えて変わったことといえば、路線バスみたいな馬車が通るようになったことだ。定期的に門とこの辺り、それからギルド前を回っている。
いつの間にこんなのができたのかなーと思って見ていると、兵士さんが降りてきて、この辺でサンドイッチとか昼食を買っている。たぶん、それが防犯にも繋がっているのだろう。
そんなことを考えながら、一階へと降りていく。今日のラシアは休みだ。ノアとグオンは、ダード達の狩りを見るために中級ダンジョンへ全員で行っている。
パルサーも今日は休みらしいので、ラシアは今度こそ話を聞こうと思って待っていた。
一階に降りると、ティアが赤い蟻と青い蟻の二匹を使役して店の掃除をしていた。この前、女王蟻の指輪で呼んだ蟻だ。
人の言葉を理解できるのか。どこまで命令通りに動くのか。その実験をティアに手伝ってもらっている感じだ。ティアが当てたのだから、本来はティアの物になるのだが……
街でモンスターを使役する時は、ギルドで登録する必要がある。だからティアも連れて行き、登録しておいた。見慣れないモンスターだったのでとても変な顔をされたが……その辺のモンスターより賢いので通った感じだ。
床を拭いたり窓を拭いたりする蟻を見るのは少し面白い。
そんなことを思っていると、パルサーがやってきた。
「おい。ラシア、来てやったぞ……何故、蟻が掃除をしているんだ?」
ラシアが休みの日で少し浮かれているように、パルサーも笑顔だった。たぶん、同じように嬉しいんだろうなーと思いながら質問に答える。
「こないだのドミナトリクス討伐の時に出た指輪を、ティアちゃんが装備してるから」
「パルサーさん、いらっしゃい! あお。パルサーさんに椅子持っていって」
ティアの命令に従って青い蟻がパルサーに椅子を持っていくと、当の本人はなんとも言えない顔でそれを受け取った。
「あっ……ありがとう……なんというか、私が知らない物は多いものだな」
ラシアがパルサーの分の飲み物を準備してから話を始める。
話の内容は、前に言っていた騎士団とローウェンテニアの関係だ。
「そうだな。簡単に言えば……ローウェンテニアの技術を、騎士団と聖騎士が取り込んだ形になる」
「ん? どういうこと?」
少し長くなるが、と前置きしてから、パルサーは話し始める。
今より三十年ぐらい前、ダンジョンから一人の女性が連れ出された。
その頃にも騎士団は存在していた。確かに軍ではあったが、今よりは遥かに練度が低かったらしい。
そんな時、前国王から騎士団の組織としての力を高めよという命令が出た。
ちょうどその頃、実験的に連れ出された女性が軍の知識を持っていると分かった。性格、実力共に何の問題もないと判断され、その女性は騎士団の相談役となった。
彼女は当時の騎士団にはなかった知識を持っていた。その知識を取り入れることで、騎士団は今の形に作り替えられたのだ。
「だから、戦い方や戦術がローウェンテニアに通じている訳だ。父さんに聞いたところ、ほぼまるごとローウェンテニアの知識を組み込んだらしい。騎士団だけではない。使える物は国の中に組み込んでいる。ローウェンテニアが本家なら、こちらは分家といった感じだ」
「なるほど~」
と、ラシアは頷くが……変な汗が出てくる。
そうなってくると……リレッサはこの世界でも姫として通じてしまうのではないか。
後でリレッサに伝えるだけ伝えて、二人で知らん顔しよう。ラシアは強く決めた。
「後は時計塔のダンジョンでもローウェンテニアの魔法技術とか、そういうのも見つかったらしく、その辺も使えるところは組み込んだらしいぞ」
「あそこって本とかいっぱいありますもんね」
「それと……その女性の助言で、騎士団を二つに分けたそうだ。その頃は一つの組織にしては人数が多かったし、何かあった時のことを考えて騎士団と聖騎士ができたそうだ」
「色々とあるんですね」
そして、その話は別のところにも繋がっている。ラシアがパーティーを組んだ時にいたティーガーが、当時連れ出された女性の娘だそうだ。
「なるほど……それであのなまりがあるのかな?」
「どうなんだろうな? あれは母親譲りだからな。ティーガーの母親もあんな感じの話し方だ。ちなみに父親は不明だ」
本当に色々あるんだなーとラシアが思っていると……宿のドアが勢いよく開け放たれた。
「ラシおるかー! 遊びに来たったで!」
ラシアとパルサーが驚いてそちらを向くと、今ちょうど話をしていたティーガーが立っていた。
「お? 狂犬もおるやんけ? なんや自分、色気づいて男でもできたか?」
ラシアはティーガーが来たことに驚いただけだが……パルサーは頭が痛そうな顔をしている。
「誰が……狂犬だ。私が狂犬なら、お前は聖騎士の馬鹿虎だろうが!」
「誰が馬鹿じゃこのアホンダラ!」
喧嘩する二人を見てラシアは思う。やっぱりティーガーは何処かで見たことがある。元の世界ではないはずなのだが……
「まぁまぁ……パルサーさんもティーガーさんも落ち着いてください。パルサーさんは狂犬というか青豹なので」
「……騎士団の青い豹。なかなかいいじゃないか! 覚えとけよ、この馬鹿虎!」
「騎士団のアホ豹やな! 戻ったら聖騎士で流行らしといたるわ!」
なんというか性格も正反対の二人だが……ラシアのイメージは仲良しといった感じだ。言えば大変なことになるので心の中で止めておくが。
「それで? ティーガーさんは遊びに来たとのことですが……割と真面目に何をしに?」
「うん? 普通に遊びに来ただけやで。ラシはなかなかおもろいからなー。今日はウチの休みの日やしな。先に言うとくけど、パル子も休みや。こいつが真似しごんぼなだけやからな」
パルサーがティーガーを睨むので、ラシアはとりあえずパルサーをなだめた。
「あーそうそう。ラシ。エリゼのお嬢からの伝言や。家の方に招待したいから、空いてる日とか教えて欲しいって言うとったで」
エリゼという人物は大公の娘だ。何が悲しくてモンスターハウスに行かなければならないのか。
そう思った瞬間、ポロッと口からこぼれた。
「絶対に嫌です。何が悲しくて自ら死地に行かないと駄目なのか…………」
パルサーもティーガーも驚いた表情でラシアを見る。それで自分の失言に気がついた。
「嘘です! すみません! クラン立ち上げでバタバタしていて忙しいので無理です! ティーガーさんすみませんけど、最初の失言は忘れてください!」
「よっしゃ! おもろそうやから、最初に言った方を伝えとくわ!」
「本当にやめてください!」
そんなことをやっていると……楽しげな声に誘われて、奥で仕込みをしていたリレッサがやってきた。
「ラシア。お知り合い…………ですか……?」
「なんや……またものごっつい美人が出てきたけど……ここは美人のバーゲンセールか?」
お前は入ってないから安心しろとパルサーが言うと、また喧嘩が始まったので、ラシアはリレッサに伝える。この人がティーガーで、前に言ったように何処かで見たことがある人だと。
少し悩んだ後にリレッサが答える。
「もしかして……ロディーの親族の方ですか?」
「ん? おかんの知り合いか?」