ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第9話 休憩。

 苗木のダンジョンでウルフマンを倒してから、ラシアは宿に引きこもっていた。

 

 何というか、胸の奥が重い。そんな感じだ。

 

 外を見ながらその時のことを思い出す。

 

 生き残った者たちは死者を弔い、装備していた物を外し、生き残った者が持ち帰った。一日置いていけば、装備でも何でもダンジョンが取り込むとのことだ。

 

 冒険者の死体は、よほどのことがない限り置いて帰る。そういう世界だ。

 

 連れて帰る途中でモンスターに襲われては、死者の後を追うだけだ。生き残った者は生きる。

 

 それが冒険者の弔い方だと仲間の装備を外す若い冒険者に教わった。

 

 残った装備の山分けも提案されたが、ラシアには必要ないので、ウルフマンの魔石だけを受け取り、亡くなった冒険者のブレスレットを冒険者ギルドへ届けることにした。

 

 ダンジョンを出て冒険者達と別れラシアは受付へ並ぶ。

 

 右半身の軽装は引き千切れ、鋼のメイスはとんでもない力がかかり、ひしゃげていた。並んではいたが急いでいない冒険者は、何も言わず列を譲った。

 

 頭を下げてから、いつもの受付嬢に何があったのかを説明する。

 

 冒険者が死に、ウルフマンに進化したこと。それを討伐したことだ。

 

 受付嬢に渡したブレスレットは九つ。あと一人でも亡くなっていたら、本当に大変なことになっていただろうとラシアは思う。

 

 説明が終わると、受付嬢は業務的ではあったが、少し辛そうに「ありがとうございました」と礼を言った。

 

 思うことも聞きたいこともあったが……人と話したい気分ではなかった。何も聞かずにいると受付嬢が話し始める。

 

 今ぐらいの時期は新人が多く、苗木のダンジョンで亡くなる者はとても多いということ。それと注意喚起は必ず出しているが、守る人は少ないのでどうしようもないとのことだ。

 

 初心者ダンジョンをクリアすれば苗木のダンジョンに入れる。これは国が決めたことで、ギルドの一存では変更できない。

 

 初級の冒険者の何割かは確実に死ぬ。だが残った何割かは確実に上へ行き、生き残る。

 

 だから止められないのだ。

 

 人の夢は止められない……それと同じだとラシアは思う。

 

「それで討伐したウルフマンですが、本来なら低くてもBランク。

 適性はAの冒険者になりますが……ラシアさんは苗木のダンジョンを踏破していないので、急にランクを上げることはできません。申し訳ありませんが……ご了承ください」

 

 ラシアは特にランクを上げるつもりもなく、ゆっくり進む方針だったので、「問題ありません」とだけ告げた。

 

 それから倒したモンスターの魔石を買い取ってもらい、帰ろうとしたところで、隣の受付にいた冒険者に絡まれる。

 

「お前みたいな女がウルフマンなんか倒せるか。嘘も大概にしろよな」

 

 こいつは誰だ? とラシアは思う。少し名があるのか、高ランクなのかは分からないが、対応していた受付嬢も困った様子だった。

 

 ラシアからすれば、信じてもらえなくても嘘でもどちらでもいい。ただ報告しただけだ。亡くなった者は弔われた。それだけでいい。

 

 だから、こういう輩に信じてもらおうとは思わない。どうでもいいのだ。

 

 ラシアは無視して金を受け取り、受付嬢に頭を下げてその場を去ろうとするが、回り込まれる。

 

「おい、なんか言えよ!嘘しか言えないのか?」

 

 こんなことで喧嘩も口論もしたくない。ラシアは早く帰りたい。だから一言だけ、静かに言葉を発する。機嫌はかなり悪いが。

 

「どけ」

 

 LV100の怒気を含んだその声に男は死を感じ、驚き尻餅をついた。周囲の低レベル冒険者達もガタガタと歯を鳴らし始める。

 

 それ以上は何も言わず、ラシアは静かに冒険者ギルドを出て宿へ向かった。

 

 そんなことがあったのが五日前だ。そろそろダンジョンへ行こうとは思うが、なかなか気分が重い。

 

 隣の部屋ではティアとおやじさんが掃除をしている。他のダンジョンで冒険者が亡くなったので、部屋を片付けているそうだ。

 

 ティアには「冒険者をやめて村に帰った」と伝えたらしい。そういう話は多いのだという。

 

 冒険者ギルド職員の給料は月25~35万セルほどで多い方らしい。金だけで見れば、冒険者は夢がある。

 

 隣で片付けをしているので、ラシアもつられて、いい加減アイテムバッグの整理をしようと考える。ゲームでも一発で整理できない仕様だったのは本当にくそ仕様だと思うが……今では良い思い出だ。

 

 アイテムバッグから、まず相棒のプラティディオンハンマーを取り出す。白銀に太陽が反射し、とても美しく輝いていた。

 

「……プラティ使って、気持ちよくゲームの中で狩りがしたい」

 

 インテリジェンスアイテムではないので返事が返るはずもない。

 だがストレス過多で心身共に限界が来ているラシアには……声が聞こえる。

 

『大丈夫、私達は必ず帰れる。だから今は耐える時だぜ、相棒』

 

「プラティ!」

 

『困ったら私を呼べ。ガッツだぜ』

 

 苦楽を共にした相棒の声にラシアは感極まり、巨大なハンマーに抱きつく。ひんやりとした金属が、疲れた体に心地よい。

 

 ミシ

 

 ミシ

 

 ミシ…………

 

 ズドン!

 

 不幸なことに、ハンマーの重量に耐えきれず床をぶち抜いた。

 

「プラティーーーー!」

 

 幸い下には誰もおらず、怪我人もなく、巨大なハンマーを見られることもなかったが……

 

「全面的に私が悪いので……謝ること以外は言いません。床の弁償もします。ですから追い出すのだけはご勘弁を……」

 

「お前な……ぼろい宿だが床に穴が空くってどんな物持ってるんだよ……」

 

「わー凄いね!」とティアが大穴を覗き込む横で、ラシアは頭を下げ、おやじは大きなため息をついた。

 

 普段なら殴って追い出すところだが、娘の命を救ってもらっていることと、その娘がなついていることもあり、色々と諦めて代わりの部屋を用意する。

 

 数人の冒険者が引退したり亡くなったりして、部屋は空いているのだ。

 

「おやっさん……ありがとう!」

 

「だれがおやっさんだ。……そういや思い出したが、ティアが水晶病にかかった時の医者がいただろ?あいつがお前を呼んでたぞ。十中八九、水晶病の件だろうな」

 

 呼んでいたと言われても、どうして私が行かなければならないのか。そう思い、ぽろっと口から出る。

 

「用事があるならお前が来いって話ですね」

 

 普段ろくに話さないラシアの物言いに、おやじは大笑いした後、カウンターの石板に何かを書き始める。書き終わると光り、文字は消えた。

 

「いまのは?」

 

「ん?転写板を知らんのか?簡単に言えば、こっちに書いた文字が別の場所にも書かれるって感じのアイテムだな」

 

 そんな物はゲーム中にはなかったな、とラシアは感心する。

 

 おやじが誰に連絡しようと自分には関係ない。散らかった物の掃除を手伝い始める。

 

 三十分ほど経つと、宿の呼び鈴が鳴った。

 

 おやじが「新しい客か?」と言って扉を開けると、ティアが水晶病にかかった時に来た医者が立っていた。

 

 タイミングいいなーとラシアが思っていると、おやじが言う。

 

「おう。こいつが水晶病を治したラシアだ」

 

「うぉい!私が治したって言わない約束でしたよね!」

 

 いきなり約束を破られて抗議するが、医者はおやじの弟らしく、大丈夫とのことだった。

 

「あなたが良くても私は良くないです」とラシアが言うと、医者は頭を下げた。

 

「確かに私がお伺いするべきでしたね。失礼しました。ここより病院の方が目立たないかと思いましたが……」

 

 なんで知ってるんだ? とおやじを見ると――先ほど石板に書いた文字は弟の病院に繋がっていて、「用事があるならお前が来い」と送ったらしい。

 

 性格なのか、文化の違いなのか……ラシアは軽く目眩を覚える。

 

 そのことを謝り、空いている部屋を借りて話をすることになった。

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