ロディー……その名で思い出した。
ラシアがやっていたゲームに出て来たNPCだ。あるダンジョンの入り口にいて、ローウェンテニアの騎士という設定だった。
クエストを進めていくと、プレイヤーの部下にもなる。ラシアはクエスト関係を一通りやっていたので、見たことがあるはずだ。
ゲーム中でも何故か関西弁で話をする、ティーガーと同じ紅い髪のNPC。
先ほどのパルサーの話と繋げると、ティーガーはロディーの娘ということになる。
「おー。おかんの知り合いがこの街におったか。自分は名前なんて言うん?」
「リレッサです。どうぞお見知りおきを」
「じゃあ見た目、姫やから姫でええな」
NPCのロディーがこの世界にいて、娘までいる。そうなってくると……ダンジョンとこの世界の時間のズレはどうなっているのか、という話が出てくる。
一応、ダンジョンは一日でリセットされるので……連れ出された後は、この世界のルールが適用されるのだろうとラシアは考えた。
リレッサの事も気になる。少しは年を取っているかもしれないが、ゲームの時と同じぐらいの年齢に見える。ダンジョンの中では歳を取らないのか? という疑問が出てくる。
初めてダンジョンが見つかったのは約千年前みたいな事が古い本には書いてあった。ロディーが連れ出されたのが数十年前だったとしても……頭に?マークが浮かぶ。
(セレットさんがダンジョンを初めて見つけたのは冒険者って言ってたけど……)
悩んでいると、パルサーがラシアに質問する。
「なんだ? ティーガーの母親、ロディー様が気になるのか?」
「はい……知ってる人の可能性がとても高いので……別人の可能性もありますが……ダンジョンから出て来た人の話を聞いてみたいので」
リレッサと目が合うが、リレッサの場合はモンスターから人に戻ったようなものだ。ロディーとは少し事情が違う。
ラシアが聞きたいのは、NPCがこの世界に連れ出された場合の話だ。
パルサーは少し悩んだ後、ティーガーに提案する。
「ティーガー。ラシアも姫様もロディー様に会ってみたいそうだ。今からお前の家に行かないか? 次の休みがいつになるか分からんだろう?」
「えー……せっかくの休みやで? とは思うけど、ホンマに次いつ休みか分からんしなー。行ってみよか。ラシも姫もええんか? 別にどっかの家みたいに首はねて食べたりはせえへんで」
ラシアとリレッサは同じタイミングで頷く。
「ほんだら今から行こか。騎士団がゲートポータルを発表してくれたから、何処でも使えるようになってホンマに楽やわ!」
リレッサがおやっさんとティアに出かけることを伝えに行っている間に、ラシアはその件を質問した。当事者だからだ。
「それって……聖騎士の方で損害とか出てないんですか?」
「ん? 出まくりやけど、隠す方向で動いてたのは司教派の聖騎士やからなー。ウチはあんまり気にしてない。職もちゃうしな」
「なるほど」
「ありもしない物に勝手に価値をつけて、勝手に喧嘩し始めるどうしようもない連中やからなー」
「色々あるんですね」
「パンツはく時に右足からはくか左足からはくかで喧嘩してる奴を見たら、アホやと思うやろ? 司教派の聖騎士とかそのレベルやで。ちなみにロワンテがそっちな」
ラシアがあの気味の悪いアークプリーストを思い出していると、パルサーが会話に混ざる。
「まぁ……騎士団も似たような所はあるな……あと普通は右足からはくしな」
「どこもそやろとは思うけど……それは置いといて。左足からやろ。自分、冗談きついで」
「「……」」
「右足だ」
「左足や」
ニコッ。
そしてお互いがとても良い笑顔を向けた後、また喧嘩が始まったので、ラシア達はティーガー宅へ行くのが遅れた。
……
ティーガーが白紙のスクロールを使い、四人が転移すると、大きな屋敷の庭園に出た。
ティーガーは近くにいたメイドに話しかけ、母親の都合を確認してくるので少し待っているようにとラシア達に言った。
待っている時間が暇なので、ラシアは気になったことをパルサーに尋ねる。
「ダンジョンから連れ出された人って……どういう扱いになるんですか? この屋敷に住んでいるなら客人?」
「そうだな。前例はほとんど無いが……ロディー様の場合は客人という扱いだ。ただ、もうこの国では重鎮だな。武力、知力共に国に尽くしてくれた方だからな」
「他にもあったんですか?」
「違法なものも含めればある。だが、基本は人と見分けがつかないからな。誰かが隠していたりすると全く分からない……ただ、他国がこの国の真似をしてダンジョンから人を連れ出して、大変な目にあったとは聞く」
「あっそうか。頭おかしい奴もいるってことですもんね」
「そうだ。ロディー様がまともだったというだけの話だ。それで、ダンジョンから人を連れ出すのは重罪、という法ができたといった感じだ」
そんな話を聞きながら、ラシアはゲームの中のNPCを思い出す。街にいる者は何処にでもいるようなNPCだが……ダンジョンにいる者は何故か、一癖も二癖もある者が多かった。
関西弁のロディーや……それこそダンジョンの中にある村に住む者達。マッドサイエンティストもいれば……頭のおかしい者もいる。
それらはゲームだからこそ、物語に花を添えるキャラクター達だ。ロディーは別として、そんな連中が実際にいたらたまったものではない。
リレッサもラシアと同じことを考えているのだろう。余計なことは言わずに静かにしている。
それから話を続けていると、ようやくティーガーが戻ってきた。
「戻ったで! ちょっと忙しそうやけど、ラシと姫の名前を出したら気になるから連れてこいって言い出したし、おkやな。ちょっと気難しいおかんやけど許したってな」
ティーガーを先頭に屋敷の中を進んでいく。屋敷はパルサー宅よりは小さく見えるが、それでもたくさんの使用人がおり、ティーガーと会うたびに皆、丁寧に挨拶をしている。
そんなやり取りを繰り返していると、ようやく目的の部屋にたどり着いたようで、ティーガーが部屋をノックする。
「おかん! 連れてきたで!」
ラシアはなんというか、とても変な違和感に襲われる。建物の作りは中世とかそっちなのに……ティーガーは関西弁。なんか色々と変なのだ。
中から「どうぞ」と声が聞こえたので中に入ると、見覚えのあるNPCが年齢を重ねたらこうなるんだろうなーという女性が、座って書類を読んでいた。
「さてと……どこの誰か知らんけど、私のことを知ってると娘から聞いたんやけど誰や?」
そこでようやく、ロディーがラシアとリレッサを瞳に捉える。
長い長い沈黙の後、やっと言葉が出た。
「……もしかして、姫様とラシア隊長?」
その言葉にラシアも困っていると、リレッサが返事をした。
「やはりロディーでしたか。ティーガーがとても貴女に似ているので本人かと思いましたよ。歳は離れてしまいましたが、元気そうで何よりです」
その言葉にロディーは慌てて服を正し、すぐに膝をついて頭を垂れる。
「リレッサ王女殿下。たっ、大変失礼いたしました。またお会いできたことを、心より嬉しく思います。ラシア隊長におかれましても、お変わりなく何よりです」
ラシアもパルサーも固まっていると、ティーガーが呆れた顔でロディーに話しかける。
「おかんがその話し方したらキモいで? というか、やっぱり姫とラシと知り合いやったんか?」
ロディーは何も言わずに立ち上がり……ティーガーの頭をしばいた。
「お前はアホか! 我が家が仕える主家こそ、ローウェンテニア家だと何回も言うとるやろ! その姫様がこのお方! リレッサ・ロード・ローウェンテニア様!」
「はぁ!? おかんがたまに言うとるダンジョンの中の国やろ!?」
「そや! ほんでその姫様の直属の騎士で、私がいた部隊のトップがラシア隊長や!」
「それは嘘や! ラシとか全然人と話さんのに、部隊の隊長とかできる訳ないやろ!」
「このアホンダラ! ラシア隊長にその失礼な物言いはやめ!」
急に関西弁での親子喧嘩が始まったので、ラシアはパルサーにどういうこと? と質問するが、ラシアに分からないことがパルサーに分かる訳もない。
「まぁ……姫様に関しては、私は父さんからある程度聞いていたからな。ある程度はそうだろうなーという感じだな」
「なるほど……」
「というか、今のロディー様の話が本当ならお前の話になるが……その辺はどうなんだ?」
「とても説明が難しいのですが……ある記憶と無い記憶があるんですよ。姫様やロディーの記憶はあるにはあるんですが……全部は無いんですよね」
「なるほどな……ロディー様も記憶が無い箇所があると聞いたことがある。なら、少し待ちだな」
転生してこの世界に来たとかは言っても信用されないし、ロディーの話もとても気になる。だからラシア達は、とりあえず目の前の親子喧嘩が済むのを待つことにした。