ロディーとティーガーの戦いは、無事にロディーが勝利した。
いくら前線から退き、子を産んだと言ってもドラゴンナイトの上のインペリアルナイト。本当に強い。
たぶんだが、ラシアのようなロマンビルドではなく、ガチガチの戦闘ビルドなのだろう。だから全方面に強い。
ロディーはメイドに頼み、皆の分の飲み物などを用意させる。その頃にはティーガーも復活し、話を始めようとするが、先にティーガーとパルサーへ忠告が入る。
「先に……言っとく。こちらのお方は、私がお仕えした姫様の娘様のリレッサ様。そして姫様直属騎士であった隊長の娘様のラシア様。いいね」
「流石に無理あるやろ! おかんこの国のお偉いさんやで? それが膝ついて頭下げたんやで、どう考えても無理あるわ!」
「ロディー様……流石にそれは無理がありますね……誤魔化すにしても、もっと他に……」
「無理かー……ホンマに無理かー……君らちょっと前の記憶とか消されへんか?」
「あきらめ。おかんが悪い」
「まぁまぁ。こちらもロディーがどうしてこちらにいるのか気になりますし、ロディーにしてもわたくし達のことが気になるでしょう。利益、不利益になることはありますが……まずお話ししましょう」
ロディーは姫様と呟いてから少し目を瞑り、そして話し始めた。
任務でローウェンテニアを離れていたこと。知らせを受け、勇者ローリスが魔族と手を組み、ローウェンテニアに攻めたことを知ったこと。
すぐに動ける者を集め、ローウェンテニア奪還の準備をしていたこと。
そして、さぁ……攻め入るぞと言ったところで、この世界に召喚されたこと。
そこまではラシアにも想像できた。ゲームの中でもロディーは、とあるダンジョンの入り口に物資を集めて立っていて、ローウェンテニアの現状を教えてくれるNPCだ。
『何が勇者だ! 魔族と手を組み自国に攻め込むなど、そんな勇者が居てたまるか!』みたいな感じの台詞を言っていたはずだ。
そこだけ関西弁では無かったので、なぜか覚えている。
そしてそれ以降の話は、ロディーがこちらの世界に来た話になるので、ラシアが全く知らない話になる。
気がついたら知らない場所で寝ていたこと。全ての技術体系が元の世界より劣るが……かなり世界が似ていること。
自分が元いた世界が区切られ、ダンジョンと呼ばれていること。
元いた世界に戻ることも考えたが……元の国は滅んでいること。まともに世界として成り立っているのか分からないこと。
本当に様々なことがあったのだろう。
そして……元いた世界へ戻ることを諦めてこの世界にとどまることを決意し、ぼちぼちお国のために働いているとのことだ。
「故郷のこともちゃんと思い出せますし、姫様やラシア隊長のことも覚えています。部下や国のこともです。ですが……この世界から元の世界を見るとかなり歪なので……私は戻ることを諦めました」
リレッサが質問する。ロディーが言った歪の意味をだ。
それはゲームをやっている人なら分かるあれだ。現実なら全てが地続きになるが、ゲームだとオープンワールドを除けば、フィールドを移る時に飛ばされる。
絵やオブジェクトとしては存在するが、実際には行けない場所。
ロディーはその辺りを調べたらしい。ダンジョンになったローウェンテニアに入り、様々な場所から外に出ようと試みた。だが世界が切り取られたように、出ることはできなかった。
城壁をよじ登り外へ出ようとすると、強制的にギルドへ戻される感じだ。城壁に上れば外の世界は見えている。空もある。なのに、そちらへは行けない。
ゲームなら当たり前だが……現実ならかなり歪な世界だ。見えるのに行けないからだ。
「後は、時間的なものもずれています。私が連れ出された時にはローウェンテニアはまだ滅んでいませんでしたが……ダンジョンとして行けるローウェンテニアは滅んでいます。だからおかしいのです」
「ロディーさんがいた場所って……ダンジョンだと星丘のダンジョンですよね?」
「ラシア隊長。ロディーでいいですよ。その言い方も昔と変わりありませんね……そうです。私は星丘の平原で物資を集め、兵を集めていました」
ゲームの地図だと、ローウェンテニアの近くにある平原の丘が星丘だ。大昔に落ちた隕石がどうのこうのでダンジョン化した場所。ストーンサークルに入るとダンジョンに行ける。
それは良いが……やっぱりロディーもラシアを知っている。
ロディーが歪だと思った理由は、そこだ。
世界が区切られているのではなく、その世界の時間ごと区切られている。
「今でも物資の名残はありますが……集まった兵士達の名残はありません。私の記憶にはあるのですが……」
それはそうだとラシアは思う。ゲームの中で星丘に配置されていたNPCはロディーだけ。会話を進めれば兵士のNPCが報告だけする演出はあるが……
ゲームのダンジョンにこの世界が干渉して、プレイヤーみたいな感じで冒険者がダンジョンに行っているのか? とラシアは考える。
ただ……ロディーもアプデで消えたとかは聞かないし、ネットミーム化されて、いつまでも応援が来ない兵士みたいな感じでネタにされていたので、NPCとして存在しているのだろう。
だが、少しだけ絞れてきた。
この世界がゲームに干渉しているのか……ゲームと同じ世界があってそこに干渉しているのか。それとも、ゲームの世界をダンジョンが模しているのか。
(……アプデの方向で調べたらもう少し分かるかも。ゲームなら古城のブラッドナイトとか最初は大広間にいたし)
ラシアがそんなことを考えている間に、ロディーはリレッサへどうやって助かったのかを尋ねる。
自分は歳を取り、一人娘も成人しているような年齢になっている。だが……リレッサの姿は記憶に焼き付いた姿そのままだからだ。
その質問にリレッサは、ローウェンテニアが落ちた時のことを踏まえて話し始めた。
……
「そしてラシアによって、この世界で助けられたということになりますね」
全てを聞き終えると、ロディーは歯を食いしばり、大粒の涙を流した。
ダンジョンとしてローウェンテニアの行く末は知っていた。だが……当事者であり、自身が仕える者からその言葉を聞き、国王陛下や仲間達の最後を知ったからだ。
「なにが……騎士だ。自分の守るべき者、国や民を助けられず……訳も分からない世界でのうのうと生きていた。姫様を助けられる機会があったにもかかわらずだ。私は自分がふがいない」
ティーガーもラシアもパルサーも、ロディーにかける言葉を持ってはいない。
だが王女であるリレッサは違う。
「ロディー。世界が変わり、それでもなお国を思い、民を慕う貴女の忠義は大変嬉しく思います。ですが……人には誰しも、できることとできないことがあります。私にもできないことはあります。いくら神童と言われていたとはいえ、慕っていた者に隙を突かれ殺されたのです。それも国が落とされた一つの原因でしょう」
「姫様! それは違います!」
「いいえ。なにも違いはありません。ローリスが自分のできたことをし、私達ができないことをした。その結果です。過去はどう足掻いても変わりません。今は……再会できたことを喜びませんか?」
ロディーはもう一度、涙を流した後、リレッサとラシアの手を握って、また会えたことを喜んだ。
それから少し世間話などをして、お互いの現状を話し合った。
「なんかアホほど強い冒険者が現れたとか……貴族側に流れて来てたけど……まさかラシア隊長とは思わんかったなー。まぁ隊長ならおかしい話ではないんやけども」
話し方は頑張って戻してもらった。ラシアにしてもリレッサにしても、ロディーの方が年上で、この世界の先輩だからだ。
かなり抵抗されたが……ラシアもリレッサも穏やかに生きたいのに、この国の重鎮に様付けや敬語で話されると、とてもややこしいことになる。現状でも十分ややこしい。
最後は、姫様自身が「慕う者が穏やかに生きたいと言っているのに、それを邪魔するのは家臣としてどうなのか?」という感じで押し切り、ロディーが折れて今に至るという訳だ。
「ロディーさん。ラシアで大丈夫ですからね」
「流石にそれは不敬すぎて無理です。公の場ならともかく、ここでは隊長と姫様と呼ばせてもらいます」
少し話が落ち着いて来たので、パルサーも会話に混ざってくる。
「ロディー様。ラシアは昔からこんな感じなのですか?」
「うん? そやで。誰に対してもこんな感じやったな。話しかけられるか、よっぽどの用事が無かったら話しせんかったな。軍で会議とかあっても、会話せんまま終わったとか普通に多いで」
なんとも言えない瞳でパルサーに見られるが、存在しない記憶のことを言われてもどうしようもない。
ただ元の世界でも、会社の会議で会話せずに終わったことは何度かある。それは今は関係無い。
そんな話をしていると……ずっと静かに考え事をしていたティーガーが口を開いた。
「大体の話の流れは分かったんやけど……一番重要なことがあるで。ラシをこの世界に呼んだのは誰やって話や」