ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第92話 進む先は何処?

 

 ラシアは誰に呼ばれたのか? それは自分が一番知りたいことだと思う。マンホールに落ちて気がついたら女性の体になっていて、異世界にいるのだから当然だ。

 

「ラシはその辺って記憶にあるんか? こっちの世界に来て初めての記憶は?」

 

 ラシアがその質問に答える前に、ロディーがティーガーの頭を叩いて怒る。

 

「お前はその失礼な言い方やめ! ラシア隊長までは言わんでもええけど、ラシア様もしくはさん!」

 

「ええやんけ! ウチとラシは一緒に狩りに行った仲や! もうツレやろ! なーラシ」

 

 本当ですか? と言うような顔でロディーがラシアを見ている。その横で、ティーガーの口が動いていた。

 

『話進める方が大事やから! そない言うといて! おかん怖いねん』

 

 友人かどうかは置いておいて、呼び方など特に気にしてもいないので、ラシアはロディーにそのとおりで大丈夫だと伝えて話を続ける。

 

 別の世界から来たなどとは言えないが……この世界で目を覚ました時はルインエルデの近くの草原で、そこからルインエルデにやってきたと話した。

 

 その道中で人食い令嬢がグランドドラゴンに襲われていて、助けたせいでこうなっていることも伝えた。

 

 長い話ではなかったが、全員が全ての言葉を拾うように静かに聞いていた。

 

 そして最後に、自分でも確認することができないので、どうしてこの世界にいるのかは本当に分からないとだけ伝えた。

 

 全員が悩み始めるが、一番初めに声を出したのはティーガーだった。

 

「姫様のことはこの際ええわ。ラシがおかんと知り合いって言うのも……まぁ置いとこう。やけど……ラシがこの世界に召喚されたのだけは見過ごせんなー」

 

 ラシア的にはそこは別に良いのでは? と思うが、ロディーもパルサーも同じ考えだったようで難しい顔をしている。

 

「ラシ。悪いけどそのことは大公に報告させてもらうで」

 

「えっ!? ……やめて欲しいと言ってやめてもらえるなら、是非お願いしたいところですが……」

 

「無理やな。ダンジョンの人間を連れ出すことは可能や。けども、モンスターみたいに呼び出す技術はこの国にはない。それは確実や。……やのにラシは召喚された。たぶん間違いないやろ。余所の国でもダンジョンに繋がる場所はあるけども……人一人をダンジョンから連れ出して草原に捨てるか?」

 

「でも、白紙のスクロールとかゲートポータルがあるのでは?」

 

「そうなんやけどなー……ラシみたいなべっぴんを他国の草原に捨てるか? いらんにしてもなんぼでも使い道あるやろ?」

 

 姫様がフウコウに使用したキャッチポータルみたいな、他者を使用者の近場に強制的に召喚する魔法もあるけれど、あれは視界内のみだ。ゲームならクランハウスに飛ぶアイテムはある。ラシアは一人なので持ってはいないが……プレイヤーを召喚するアイテムはない。

 

 ラシアは思う……神様のイタズラだった場合はどうなるのだろうか、ということだ。

 

 神様を出した時点で何でもありになってしまうので、考えを放棄している気もするが……今は説明がつかない。

 

 仮にラシアという人物がいて、この世界に召喚されたとする。だけど、そうなると今度は、どうして別世界の記憶を持っている? となる。

 

 この記憶が偽物だとしても……スマホとか、ああいう電子機器の記憶があるのはおかしい。この世界にある技術の延長上では考えにくいし、魔法とも少し違う気がする。

 

 だからこの記憶は、元の世界にあった記憶で間違いないのだ。

 

 そしてもう一つ気になるのは……リレッサとロディーが持つラシアの記憶だ。二人が覚えているラシアも無口というか人見知り。これはゲームの設定が出ていると思う。

 

 ゲームをやる人なら分かるが、ラシアがやっていたゲームは、主人公が「はい」か「いいえ」、あとは本当に必要な時しか話をしないタイプのゲームだ。だから声もない。ゲームへの没入感を高めるためだ。

 

 でも、リレッサに声が変ですね、とは言われたことがないから謎なのだ。ゲームの世界の記憶はないが、一切話をしないなど無理だからだ。

 

 リレッサの声はゲームと同じ。ロディーも年を重ねた感じだ。だから本当にここは不明。まぁ声は何でもいいが、一つの情報として必要だ。

 

 そうなってくると、神様がいて、ラノベを読んで異世界物にはまり、マンホールに落ちた男性をゲームのキャラに転生させたとかの方が、まだ信憑性がある気がする。

 

 だからラシア的には、ティーガーの言っていることは的外れなのだ。

 

 だけど……ティーガーの言うことは分かる。彼女もパルサーも国を守る者だ。

 

 ラシアのような強大な力を持った者を、簡単に召喚できるものがあるなら、それを見つけなければならない。

 

 戦えない人達を守らないといけないからだ。

 

 本当にそういうものがあって……ラシアではなく殺人鬼が召喚され、ラシア並みに強かったとしたら? この世界にはこの世界の技術がある。勝てるのは勝てるだろうが……被害は凄いことになるだろう。

 

「分かりました。国のことなので……その辺は皆様にお任せします。ですが……私の目的の邪魔をするなら排除しますし、姫様に危害を加えても同じです。ガロニア達のように知り合いに迷惑をかけるというのなら、この国を出るともお伝えください」

 

「わかった。ラシの目的を教えてくれるか?」

 

 ラシアは無意識にリレッサの方を見てしまう。だけど……ここがブレてしまったら、きっとこんな世界で生きている意味などない。だからラシアは告げた。

 

 それは自分の世界に帰ることだと。

 

 ……

 

 それから話は続き、良い時間になったところでロディーに食事へ誘われたが、ラシアは宿に戻ることを告げた。

 

 ロディーとラシアは知り合いとは言っても、ラシアからすれば他人だし……もうロディーはこの国の人間だ。

 

 毛嫌いするとか、そういう話ではない。ただ、その辺の冒険者が国の重鎮とご飯を食べるのもおかしいという感じだ。

 

「パルサーさん、家に戻るなら送りますけどどうします?」

 

「ここからは歩いて帰れる距離だからな。歩いて帰ろう。ロディー様とはまだ話したいこともあるしな」

 

「分かりました。ではロディーさん、今日はありがとうございました」

 

「ええ。隊長も姫様もお元気そうで何よりです。また次の機会にでも、ゆっくりと食事をして昔話をしましょう」

 

「はい」

 

「ええ。ロディーもまた会いましょう」

 

 そう言ってラシアとリレッサは宿へと戻っていった。

 

 それを見送った後に、ティーガーはロディーに尋ねる。

 

「なぁ。おかん。ラシって昔からあんな感じなんか?」

 

「ん? ……少し私達を警戒しすぎという感じもするけど、あんな感じだね。警戒する相手にはとことん警戒する。で? 聖騎士は姫様とラシア隊長に何をした?」

 

「姫様にはなんもしてへんで。ラシの方にはガロニアとか大公がちょっかいかけてるな。ウチは仕事で行っただけやな」

 

「……あのアホ共め。ラシア隊長を舐めすぎだ」

 

「ロディー様。強いのは知っていますが……ロディー様が戦えば善戦されるのでは?」

 

「パルサー。それは違う。文字通り桁が違う。ローウェンテニアみたいな世界中から精鋭が集まる国で、王族直属の騎士は伊達じゃないんや。陛下や王妃にも直属の騎士はおった。ただし、ラシア隊長を含めても五人。一人でローウェンテニアの騎士団全員と戦える」

 

 パルサーはゴクリと唾を飲み込むが、それを間近で見ていたティーガーは、そんなもんやろなという反応だ。

 

「さてと……ティーガー。大公のところに行くよ。釘を刺すというほどではないけど、少し話しとく」

 

「分かったけど……大公的にはしばらく様子見する言うとったで?」

 

「それでもや」

 

「まーしゃないか。ラシの正体も分かったし、報告が無難やろな。という訳で! パルサーもちゃんとデゴット様に伝えとくんやで!」

 

「ああ……」

 

 と返事はするが……パルサーの返事は少し切れが悪い。

 

「なんや? 親子の仲は良かったやろ? 何をそんなに悩んでるねん」

 

「いやな……どう報告するのが良いかと思ってな。姫様のこともあるしな。迂闊に話して敵対されると思うと少し怖くてな」

 

「……それでもや。ウチは聖騎士で、自分は騎士団や。変な決定されて気に入らんって言うなら……力つけてない自分が悪いんやで? 自分が一番分かっとるやろ?」

 

「……そうだな」

 

 そこでパルサーもティーガー達と別れ、自身の家へと戻っていった。

 

 ……

 

 パルサーは家に戻る道中で様々なことを考える。自身がラシアに向ける感情が何なのかはイマイチよく分かっていないが……憧れに近いものだろうとは思っている。

 

 ラシアとの関係が悪化するのは避けたいが……国のことを考えると、報告するのが最善なのは間違いない。

 

 そんなことを考えていると、父親であり騎士団長でもあるデゴットの書斎へとたどり着く。

 

 ノックをしてから中へと入った。

 

「パルサーか。どうしたー?」

 

「父さん……ラシアの正体が分かったが……結構大事だぞ」

 

「なに?」

 

 パルサーはデゴットに全てを伝えた。ロディーがラシアの元部下であることや、ラシアの目的など、ティーガーの家で聞いたことの全てをだ。

 

「なるほどな……ローウェンテニアの騎士というなら姫を助けたのにも納得がいくが……ラシアはどこから連れ出されたんだ?」

 

「それは分からないそうだ。気づいたらエリゼ様を助けた近くの草原にいたそうだ」

 

 デゴットは長い間、騎士団にいる。だが……ほぼ全てのダンジョンに行ったことはあるが、ラシアのような者は見たことがない。

 

 ただ、超級ダンジョンや隠された場所は存在する。その中から連れ出されたと言われればそれまでだが……

 

「ってことは今の位で考えたら、王族直属の騎士だから……俺と同じかそれ以上の立場ってことか」

 

「本人はそれが役に立つなら使うが、あまり気にしていないとのことだ」

 

「なるほどな……まぁ騎士団としては感謝はあっても恨みはない。特にこちらから何か仕掛けるということはないな。色々と教えてもらいはしたいがな」

 

 デゴットの答えにパルサーはほっとする。

 

「国王陛下や宰相には報告するのか?」

 

「いや……一旦止める。大公の話も聞きたいからな。あそこは一枚岩じゃないから、系統がややこしい」

 

「なるほど……今ならデルパロア様の家にロディー様もいるはず」

 

 デゴットは少し悩んだ後に、パルサーを連れてデルパロア大公の屋敷へと向かった。

 

 そしてその夜、ラシアはリレッサと一つの話し合いをしていた。

 

 この国を出るか、ここに残るか? そんな話だ。

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