ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第93話 選べない選択

 

 ラシアはベッドの上で小さくため息をつく。

 

 色々とミスをしたなーと思っているからだ。何というか、小さな判断ミスが積み重なって、事が大きくなった感じだ。

 

 確かにロディーから手に入った情報はこちらにとっても有益なものだった。ただ……話す場を間違えたり、話し過ぎたというのが本音だ。

 

 いくらロディーがNPCでローウェンテニアの元騎士とはいえ、元の世界で過ごした時間より、この世界にいる時間の方が長いし、娘もいる。だからロディーはもう、この世界の人間と言っても良いだろう。

 

 そしてそんな人間の前で色々と話し過ぎた。これが一番のミスだとラシアは思う。だけど、話さなければ情報は手に入らないし、いつまでも帰る方法も分からない。

 

 ただこの世界に来て……時間がたった。リレッサもノアも助かった。友人と言って良い人達もできた……慣れたというのもあるだろうが、少し気が緩んでいたんだろうなーと思う。

 

 そしてもう一度ため息をつくと、下のベッドから声が聞こえる。

 

「ラシア。眠れないのですか?」

 

「あっ……姫様。すみません。起こしてしまいましたか?」

 

「いえ。私も眠れないので大丈夫ですよ」

 

 ラシアとリレッサは同じ部屋を借りている。流石に同じベッドでは寝られないので、おやっさんに了承を得てから街の家具屋で二段ベッドを購入し、ラシアが上段、リレッサが下段という感じで寝ている。

 

「ラシア。良かったら少しお話しましょう。私のベッドに来るか……私がそっちに行くか選びなさい」

 

 たまにこう……王族的な圧力を出してきて断るという選択肢を奪うのはどうなのかなーと思うが、ラシアも中身は男なので、リレッサのような美少女に誘われると断れるほど強くはない。

 

 あと……気分的にも落ち込んでいるので、話を聞いて欲しいというのもある。ラシアはベッドから降りて、失礼しますと言ってリレッサのベッドに入っていく。

 

 そしてラシアが自分の考えていたことを伝えると、リレッサは何も言わずに静かに話を聞いてくれた。

 

 全てを話し終えると、リレッサが静かに言った。

 

「ラシア。一緒にこの国を出ますか? ……確かにここから国境を抜けて他国に行くのは少し遠いですが……行けない距離ではありません」

 

 その答えにラシアは少しだけ悩む。

 

 ただ、それは選ぶことができない。きっと大変さの次元が違うからだ……少し前におやっさんと話をしてから、暇な時に他国のことも調べている。

 

 この国と似たようなところもある。だけど……本当に終わっているところは終わっている。モンスターの脅威がある上に国同士で戦争しているから、国が疲弊している。場所によっては国が維持できていない。そんなところは多いものだ。

 

 だから優秀な者達はこの国に集まる。そこで力があるなら冒険者をしてもいい。商才があるなら商人になればいい。

 

 一度他国からここに来ると、元の国に戻るという選択肢はほとんど無いのだ。

 

 治安が悪い場所もある。貴族が頭のおかしいところもある……だけど他国に比べれば遥かにマシなのだ。

 

 ラシアが強すぎるのが問題で、普通に流れて来た者がこの国の貴族と出会うことなどほぼない。

 

 ラシアの運が悪かったところは、大公の娘を助けてしまったこと。この人見知りすぎて慎重な性格なら、本来は隠れてランクを上げることもできた。たまに調子に乗ることもあるが……許容範囲だろう。

 

 人を助けたことを失敗だったと思ってしまうほどには、ラシアは疲れていた。

 

 ラシアはリレッサに伝える。国を出ることは考えているが……それはできないと。元の世界に帰ることも重要だが……リレッサにも幸せになって欲しいからだ。それに今は相談できる人も、友人と呼べる人もいる。

 

「私は……元の世界に戻ることが目的ですけども……それと同じくらい姫様には幸せになって欲しいので……せっかく王族ではなく町娘になれたので」

 

 ゲームの中でも、いつも外を見ていたリレッサをラシアは思い出す。ゲームの中だから許されるのだ。友人はおらず神童と崇められ……この国はもう安泰とまで言われ、全く自由が無かったはずだからだ。

 

 この世界では自由がある。同じNPCだったロディーも子を産み、親になっている。リレッサにもそういう道があるかもしれない。

 

「そうですか……でしたらラシアも私のことはリレッサと呼ぶべきですね。姫様では何処の姫様となるでしょう?」

 

「えっと……姫様は姫様なので……」

 

 夜のリレッサはボディタッチの頻度が多い。何かにつけて頬をつついたりしてくる。本当に体が男だったら理性が危なかったなと考えていると、リレッサが名前で呼ぶようにせかしてくるので、ラシアは色々と諦める。

 

「リッ、リレッサ」

 

「はい」

 

 何度かその名で呼んだことはあるが……改めて呼ぶと恥ずかしいなとラシアは思う。

 

「なんというか、人前では恥ずかしいので姫様で良いですか?」

 

「それでいいですよ。今のことと、ラシアが悩んでいることは同じです。急に決めなくても大丈夫ということですよ。確かに考えることは多いでしょう。ですが急いだからといって、すぐにどうにかなることでもありません」

 

 それは何でも同じだとリレッサは言う。いくら王族が城を欲しいと言っても、次の日に完成などはしないのだ。

 

 だからラシアが焦っても、すぐに動きもしないし好転もしない。

 

「だから時には待つことも大事です。相手が先に動いたとしても、ドンと構えていればわりと何とかなりますよ」

 

 そんなものですかねーとラシアが上を向いて考えるが、その通りだなとラシアは思った。

 

 焦ったところで良くなるわけでもないし、自分が強くなるわけでもない。悪人が改心するわけでもないし、元の世界に帰れるわけでもない。

 

 きっと自分がしんどくなるだけだ。だから今は自分のできることをするだけだなと、ラシアは納得してリレッサに礼を言った。

 

「リレッサ。ありがとうございます。考えがまとまりました」

 

 上を向きながら言った台詞だったので、少し油断があった。ラシアの頬に温かく柔らかい感触があった。

 

 慌てて横を向くと、リレッサの頬も少し赤くなっている。

 

「気にしないでください。私のことを心配してくれているお礼ですよ」

 

「リレッサ……急にはやめてください」

 

「なるほど……急じゃなかったら良いんですね?」

 

 この人にはかなわないなーとラシアはまた上を向く。そしてリレッサが、ラシアがいた元の世界のことを聞きたいと言ったので、二人は眠くなるまで話を続けた。

 

 ……

 

 話を聞いてもらったこともあって、今日のラシアは元気だ。過ぎたことをやり直そうとしても無理だから、未来に向けて考える方が健全だろう。

 

 大公やロディーがどう動くのかは分からない。ただ、敵になると言うのなら倒していいだろう。この世はわりと自分ファーストだ。

 

 そこで気分を切り替える。

 

 で、今後の方針はと言うとクランの強化。というよりも個人の強化だ。グオン達からスキルの相談を受けているからだ。

 

 部屋で朝ご飯を一人で食べていたので、食器を一階に運びながら、食堂にいたおやっさんにその辺を質問する。

 

「おやっさん。スキルを教えるのって基本的に何処でやるの? ダンジョン?」

 

「ん? グオン達か?」

 

「グオンさん達というか全員。今だと上級も無理だから鍛える感じ」

 

 そう聞くと、大体クランが借りるような家には庭があって、そこで密かに教えたりするそうだ。スキル自体がそのクランの資産になったりするからだ。

 

 だから抜ける時は違約金がいる。スキルを忘れさせるものがないからだ。

 

「しゃーない。ダンジョン行って皆で仲良く覚えるか」

 

「おう。良い心がけだ。中庭でやるとか言い出したら殴ってるがな」

 

「クランメンバー全員で十人いて……中庭で暴れるほど野蛮じゃないので」

 

「良い心がけだが……何回も宿をぶっ壊してる奴の台詞じゃねーな」

 

「すっ、すんません……」

 

 おやっさんに笑われた後、宿の中を探すと、ノアが本を読みながらひなたぼっこしていたので、他のクランメンバーの居場所を尋ねる。すると、グオン達はリレッサから借りている宿にいるとのことだったので、おやっさんにダンジョンへ行くことを告げてからグオンハウスへと向かった。

 

 家に行くとちょうどグオンがいたので、時間があるならダンジョンに行って、前に言っていたスキルの相談を受けると伝えた。すると何処にいたのか分からないが……ダード達もすぐに集合し、LLLの全員がそろった。

 

「……あっ、集まるのが早いですね」

 

「俺やノアは見てますが……本気の姐さんが見られると思うと皆すぐに集まりますよ」

 

「私は前にラシアさんに魔法を見てもらって、その凄さを知っていますからね! いつでも行けますよ!」

 

 ボス討伐に行くわけでも無いので全力で戦う必要も無いのだが……そう言われるとラシアは少し嬉しくもなる。

 

「それで? 姐さん何処に行きますか?」

 

 全員いるが……そこまで無謀なところに行けるわけでもないし、今回はスキルを見るのが目的なので、比較的楽なところを伝える。

 

「じゃあ……中級にある深緑のダンジョンに行きましょう」

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