クランのマスターになって一番のメリットは……いつもの受付嬢が休みの時でもダンジョンに入れることだろうとラシアは思う。
そう、自分が並ばなくても他のメンバーに手続きを任せればいいのだ。
自分ができないことは他人が支え、他人ができないことは自分が支える。
それが仲間なんだろうなとラシアは思う。
だから人と話したくないとか、そういうことではないのだ。
ノアやグオンには先に深緑のダンジョンに行ってもらっている。ラシアはと言うと……気になることの確認だ。
少し時間をもらい、星丘のダンジョンに来ている。
そこは本来なら……NPCのロディーがいるはずの場所だが、今はいない。この世界の住人に連れ出されて、NPCではなく人として生きているからだ。
その時の名残で、木箱などが乱雑に積み上げられている。それを見ていると、ラシアはなんとも言えない気分になってくる。
知っている世界が壊れている悲しみか、NPCが消えたらどうなるのかという疑問か……自分が好きだったゲームがなくなっていることか。色々なものが混ざっている。
ラシアは近くに咲いていた花を一輪ほど摘んだ。NPCのロディーが立っていた場所を思い出し、そこに置いてから手を合わせた。
長い時間では無かったが、黙祷を捧げてから一度ギルドに戻り、メンバーがいる深緑のダンジョンへと向かった。
深緑のダンジョンに着くと、皆が準備を済ませて待っていた。
「お待たせしました」
「ラシアさん。どうだった?」
「はい。それはそうだ、という話ですが……ダンジョンから連れ出された人は、そこにはもういないんですね」
ラシアの台詞から何かを感じ取ったノアは、それ以上は何も聞かなかった。
「それで? 姐さん。今日はここでスキルのことをやるんですか?」
「はい。開けた場所があるので、そこまで移動してからにしましょう。私が先を歩くのでついてきてください。……もしはぐれたら、慌てずに向いている方向へひたすら歩いてください。それでこの場所に戻ってこられるので、皆さん覚えておいてください」
深緑のダンジョンは、ゲームとかでよく見る迷いの森とか、そんな感じのダンジョンだ。
緑が濃すぎて空も見えないような場所で、適当に歩いても同じ場所をグルグルと回る。
目的の場所に行かないのなら、フィールドを行ったり来たりしてモンスターとひたすら戦える、割と人気のダンジョンだ。
ドロップも美味しく、食材系のアイテムも出る。
そんな場所だが……目的の場所に行くのは割と簡単だ。ゲームだとフィールドの入口に、必ず色のついたキノコが生えている。赤、赤、赤、赤、青の順で行くと、ダンジョンの中にある村に行ける。
青、青、青、緑、青で忘れ去られた魔女の墓という場所に行ける。
村の方に行ってもいいが……今回は緑、青、緑の順で行ける、敵が少なく見晴らしの良い休憩場所みたいなところに行く予定だ。
目的の緑色のキノコを見つけたので、後は順番に進むのだが……この世界はゲームじゃなくて現実。道じゃない場所も歩こうと思えば歩ける。木の間とか、木を上って進んだらどうなるのかなーとラシアは思う。
だが……ロディーが言うように世界が切り取られているなら、変な動きをしたら強制的にギルドの方へ戻されたりするんだろうなーと考えていると……木の間にいた小動物を追いかけてノアが消えた。
……犬かな?
レベル的にはノアなら問題は無いのだが……もしもということはある。
「グオンさん。すみませんがノアさんを迎えに行ってくるので、先に進んでおいてもらえますか? 緑のキノコで進んだので、次は青で進んで、最後は緑を進んでください。そしたら開けた場所に出るはずです」
少し呆れたようにグオンは笑い、わかりやしたと返事をしてから先に進んだ。ラシアはノアが消えたところに進むと、少し空気が変わった別のエリアに出た。目の前にはノアがいて、皆どこ!? と少し慌てている。
なんというか……可愛い人だなとラシアは笑ってしまう。そして迷子になったわんこを呼ぶ。
「ノアーおいでおいでー。ご飯だよー」
「あっ! ラシアさん! というかなんでワンちゃんを呼ぶみたいに呼ぶの!?」
「いえ。小動物を追いかけてどこかに行くとか……どこの犬さんかなっと」
アイテムバッグからいつもの飴を取り出して、文句を言いそうなノアの口を塞いでから先を急ぐ。
先ほど言っていたように、キノコに関係なく同じ方向に向かってひたすら歩くと、最初の位置に出てくる。
この辺はどうなってるのかなーと思うが、なんかメビウスの輪みたいになってるのだろうとラシアは考えるのをやめた。
途中で豚の顔をしたポークマンやピッグマンといったモンスターが出てくるが、強いモンスターではないのでサクッと倒してから、緑、青、緑の順で進んで行く。
ようやく開けた場所に出ると、グオン達も無事に着いて待っていた。そしてノアは皆にからかわれている。
このダンジョンはゲームと同じなら、キノコに合わせて進んだ方向でモンスターの質が変わる。
赤ならモンスターが少し強く、数も多め。青はそれなりの数で、ドロップがよく落ちる。緑はモンスターの数が少なく、薬草とか回復アイテムがよく落ちる設定だ。
この場所は緑を通って来ているので、モンスターの数は少ないはずだ。スキルを教えるのには向いている。
それで……今回のメンバーはラシアを入れて十人。LLLが全員いる。
グオン、ノア、ダード、ビエット、エリエス、フォルグ、エンセト、パドロワ、ゲニツだ。
グオン、ダード、エンセトが前衛。
フォルグ、ビエット、ゲニツが斥候や罠の解除など。
ノア、エリエスが後衛。
パドロワが支援職というか、前衛兼支援。要は殴りプリ。
そしてグオンに言われていたように、まずは前衛の相談に乗る。他のメンバーには、その辺でモンスターを狩ってもらうことにした。
「じゃあまずは、職とスキルを教えてもらえますか? グオンさんはこの前聞いていたのでスキルだけお願いします。ダードさんとエンセトさんは職とスキルでお願いします」
分かりましたと返事をして、三人は職とスキルを話し始める。
この前のノアのようなことがあるので、クランメンバー全員に職は確認させておいた。
まずはダード。ちゃんと強くなっているようで、初級職のソードマンからナイトに上がっていた。
戦いの型は、前と同じで片手剣と盾持ちのナイトになる。
エンセトは細身の男性だが、大剣持ちのハイズナイト。ずっとナイトだと思っていたが、調べに行ったらハイズナイトになっていたとのことだ。
グオンもハイズナイト。片手ハンマーに盾を装備しているタイプ。
何というか……ゲームじゃなくて死んだら終わりなので、皆手堅くまとめている感じだ。この世界ではそれが正解なのだろう。
大剣とかゲームと同じなら、剣の幅があったりするので防御の補正が入ったはずだ。
ラシアは両手ハンマークリティカル特化型なので……正直、防御が致命的だ。課金アイテムのおかげでなんとか固いが……盾とか持ってない。
その辺を考えながら、ラシアは三人から話を聞いていく。
分かったことは、スキルが秘匿されているのもあって、レベルに対して覚えているスキルが非常に少ないということだ。
ゲームならプレイヤーのレベルがあって、ジョブ、職のレベルがある。それは大体同じようなものになる。
極端な狩り場に行ったりすれば話は別だが……プレイヤーのレベルが50なら、職のレベルも大体似たようなものだ。
この中ではラシアの次に強いのはグオン。たぶん55とか60近いと思う。それを超えるとドラゴンナイトになってくるからだ。
で、50と考えても……聞いているとスキルが少ない。50個のスキルは取れるはずだが……15ぐらい。同じスキルでもレベルが上がると+がつく。それは確認の仕方が不明だから仕方ないのだが……やはり少ない。
グオン達なら前衛なので、テックハンド系のスキルは必須。全員がハイテックハンドで止まっている。
ラシアが使うギガンテックハンドはスキルポイントを使って取っても、上昇率が少ないで取らない人もいる。だが、オーガテックハンドまでなら大幅に攻撃力が上がる。だから前衛はほぼ習得する。
で、色々と話をしていて分かったことは……ダードの一言。
「ラシア。オークってなんだ?」
「えっと……」
そう、この世界には……オークとかゴブリンとか、ファンタジー定番のモンスターがいないのだ。
図書館にあった生物の図鑑を見ると、元の世界と似たような生き物はかなり多い。ライオンとかコアラとかゴリラもいるし、この世界固有の生き物もいる。
だけどモンスターはゲームと同じだから、ゲームに登場しないモンスターはいない。
オークの代わりにピッグマン。オーガの代わりにオニサン。ギガントは巨人か、その辺だろうけど……モンスター名の前にデッカイとつくのが巨人の立ち位置だ。
だから進化名で見てもオーク等がいない。
ピッグマン→ポークマン→ブデピッグマン→トンカーツ→カーツ
で、スキルを覚える方法を思い出すと、見て、その名前を言うことが一つの条件だ。
だから……オークテックハンドとかオーガテックハンドが覚えられないのだ。使ってくるモンスターはいるが、名前が分からないので覚えられない。
ドラゴンはちゃんといるので、適当と言えば適当だ。
そしてどんなデメリットが出てくるか分からないので、ダードにはハイズナイトになるまでオーガテックハンドは使用してはいけないと伝えた。そのうえで三人にオークテックハンド、オーガテックハンドを教えると、すぐに使用することが出来るようになっていた。
他にも教えることはあるが、そのスキルを使ってみたいとのことだったので、このエリア内で適当にモンスターと戦ってもらうことにした。スライムが出たら教えて欲しいと伝え、次はノア達後衛組の元に向かった。