ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第99話 現状維持

 

 ラシアへの今後の対応だが……現状維持、もしくは様子見という感じで決まった。

 

 騎士団としては、感謝はあっても敵対する理由が無い。これはデゴットがトップなので、騎士団の総意となる。

 

 ロディーにしても、ラシアは元々、自身が仕えていた国の王族直属の騎士。それに自身の上司にあたるし、信用に足る人物と考えているからだ。人と話さない所以外は何の問題もないと考えている。

 

 だけど大公の意見は少し違った。

 

 デゴットが言う敵対する理由が無いというのも正しい。この国のために働いたロディーがそう言うのなら、そうかもしれない。

 

 だけど現状のラシアが本当にどういう人物なのかを見極めた者はいないのだ。

 

 他国に使役されて、この国に害をなすためにやってきたということも十分にある。

 

 泥棒が私は泥棒なので捕まえてくださいとは言わないのだ。探せばスパイなどいくらでもいる。そんな国だ。

 

 かと言って、デゴットやロディーが無能かと言われるとそうでもない。その二人がラシアは大丈夫と言うなら、ある程度は信用できるのだろう。

 

 だから様子見。何かあれば即座に殺し、装備やアイテムなどを奪う。

 

「まー。お前程度にラシア隊長は倒せんけどな」

 

 眉間に皺を寄せ、紅茶を飲みながらロディーは大公に文句を言う。

 

「お前がそう思うならそうだろうが……ただその紅茶には毒が入っているから、先に解毒することをオススメする」

 

「…………ホンマか?」

 

「自分の体で試すといい。方法などいくらでもあるそういう事だ」

 

「…………デゴット! こいつ殴ってええか! ええなっ!?」

 

「やめとけ……ただ何処までは干渉して良いのかは決めておきたいところだが……」

 

 デルパロア大公は少し考えて答える。

 

「そこは自分達の判断で良いだろう。身の丈に合っていない力など身を滅ぼすだけだ」

 

 ロディーはメイドに持って来てもらった解毒薬を飲みながら文句を言う。先に仕掛け始めたのはお前やんけ! だ。

 

「お前の娘ぐらい聡明であればいいのだが……お前と逆で我が家は少し足りないからな」

 

「……お前はウチがアホとでも言いたいんか?」

 

「ふむ。自分がアホと分かるぐらいの脳はあったようだな」

 

「よっしゃ! その喧嘩買ったるわ!」

 

「買うも何も、もう私の勝ちだ。自分が飲んだ物が本当に解毒薬だと、どうして思うんだ?」

 

 今度は自身のアイテムバッグから解毒薬を取り出し、目力だけで人を殺せそうな勢いでロディーは大公をにらみながら座った。

 

「たしか……最初に仕掛けたのはエリゼ嬢か…………もっと他に思いつかなかったのか?」

 

「そういうことだ。聖騎士を使い、多少は探りを入れてはいるがな。……こちらとしては今しばらく様子見だ。お前達が白の騎士を利用するというのなら好きにすれば良い」

 

 ……

 

 …………

 

 その話を聞いて色々と思うところはあるが、ラシアから大公に対する反応は思ったよりはまともだ。もっとこう、噂だけだが……かなり危ない人というイメージだったからだ。

 

「こちらとしてはそんな感じだな」

 

「もっとヤバい人ってイメージあったんですけど……思いのほかまともですね」

 

「その辺は……捉え方しだいだな。国に被害があるようなことはしてないが、敵や被害を出そうとする奴には容赦しないからな」

 

「なるほど……でもまぁ。首を刎ねてそれを食べてるような家ではなくて安心です」

 

「その人食い令嬢とか誰が言い出したんだ? 俺的には面白いから何でもいいが……エリゼ嬢怒ってたぞ」

 

 本当に誰が言い出したんだ! と思いながら横を向くと、パルサーになんとも言えない顔で見られた。

 

「まぁ……ロディーや大公がどう動くのかは分からんが、騎士団としては敵対する気も無いし、できたら協力して欲しいというスタンスだ。初手で投擲した奴もいるから、水に流してくれとは言いがたいがな」

 

「んぐっ!?」

 

 このままデゴットのいじりに乗ってもいいが……顔を手で覆っているパルサーを見ると少し可哀想になってくるので、ラシアは気にしてないし、敵対しないのであればそれでよろしくお願いしますと伝えた。

 

「あとは……国王や宰相などへの報告はしばらく止めておく。国王の次に大公がくる。そこが止めておくと言うなら、乗らない意味は無いからな」

 

「こちらとしてはありがたいんですけど……大丈夫なんですか?」

 

「一介の冒険者が何かする度に毎回毎回報告するか? って話になるからな。管轄外とまでは言わんが……言ったところでというのはある。まぁ、お前が悪さしないのが前提だがな」

 

「しませんけどね。人食い令嬢を助けて命を狙われてるだけで、隠れて生きる気満々でしたから」

 

「それに関してはほんと災難だな。あと何か聞きたいことはあるか?」

 

 今のところは少し安全になった現状維持なので、大公とかロディーは放置でいいと思うが、やはり行方不明の司祭をどうするのかが気になる。武力でなんとかなるならどうとでもなるが……そういう話では無いからだ。

 

 人を一人捜すなど、一般の人ができることではないからだ。

 

「そこに関しては騎士団が動く。全員が全員信用できる訳でもないが……聖騎士でも同じだからな。そこは任せてくれ」

 

「分かりました。あの村やダンジョンに関しては詳しいので、こちらもある程度なら協力できるので言ってもらえればと思います」

 

「わかった。じゃあ人が足りないから、そのうちギルドを通して何か依頼を出そう。協力を感謝する」

 

「常識的な範疇でお願いします……」

 

 ラシアが言うと、隣にいたパルサーが、そう言うなら常識の範疇で戦ってくれと注文をつけてくる。

 

 そんなことを言われてもどうしろと、と思いパルサーを見ると、先ほどのドレスを着た女性を思い出した。

 

「そういえば……さっき凄い綺麗な人を見ましたけど、パルサーさんってお姉さんか妹さんいるんですか?」

 

 その質問にパルサーの顔はみるみる赤くなり、デゴットは「んふっ!」という感じで口元を押さえた。

 

 パルサーもデゴットも固まっているのでラシアが不思議に思っていると、ようやくデゴットが復活し話し始める。

 

「良かったなーパルサー。白の騎士様に褒めてもらえて」

 

「父さん!」

 

 今のやりとりを聞きながら、ラシアはさっき逃げた人を思い出しながらパルサーを見る……普段鎧姿のパルサーだが……見えている部分のパーツは確かに先程の女性だった。

 

「おい……ラシア。言いたいことがあるのは分かるが忘れろ。人食い令嬢にドレスでパーティーに参加しろと言われたから着ただけだ。似合ってないのは分かっている!」

 

「いや……あれだけ着こなせるなら毎回、鎧じゃなくて服とか着たらどうですか? 似合ってますよ?」

 

 パルサーの顔は赤くなるが、デゴットは本当にその通りだからもっと言ってやれと言う。

 

 そして何度か深呼吸した後に、ようやくパルサーは言い返す。

 

「褒めてくれたことには感謝するが……お前ももう少し身だしなみを整えろとしか言えないぞ。どうしてメイド服か軽装か白騎士なんだ?」

 

「服がね、無いんです服が」

 

 デゴットもパルサーも買えば良いのでは? と普通の反応をするが……この世界では服を買う=店に行く=店員と話さなければいけないのだ。

 

 だからラシアは行けない。三着あれば洗ってローテーションを組める。下着もある。知らない店員さんと話すことに比べれば、とても些細な問題だからだ。

 

「これが王女直属の騎士なんだから、ローウェンテニアは凄い国だな。ロディーも言っていたが……王族直属の騎士が会話しないって大丈夫なのか?」

 

「父さん。思っていても口に出すな」

 

「優れた兵士は剣の動きだけで思考を読むと言うので、そういうことですよ」

 

 どういうこと? というような反応をされながらも話は終わり、ラシアは礼を言って部屋を出ようとする。そこで、デゴットから少し忠告が入った。

 

「もう死んでるとは思うが……深緑のダンジョンで背に槍が刺さった白ナマズをみたら注意しろよ」

 

 しばらくは行く用事も無いのでラシアは礼を言ってから部屋を出た。

 

 するとパルサーが外まで送ろうとついてきてくれた。

 

「先の話ではないが、よく家に来たな。ロディー様でも良かったのでは?」

 

 その質問に確かにそうだとは思うが……付き合いが長い分、パルサー達の方が信用できるのだ。

 

 少し冷たい言い方をすれば、ゲームでの付き合いを除けばロディーは出会ったばかりの他人だ。……いつかは姫様のことで頼るとは思う。だけど今はまだ見定める時期だ。

 

「敵味方という訳ではないんですけど、話すならパルサーさん達かなーと思いましてね。こっちの世界で出会った時間で考えても、パルサーさんやデゴットさんの方が長いですからね」

 

 そう言うと、パルサーはラシアもドキッとするような表情で少し笑った。

 

「ふっ……なるほどな。誰かを信用するしないはその人の匙加減だからな。お前に見限られないように頑張るとしよう」

 

 そんなパルサーを見て思う。命をかけて戦っているから仕方ないのは分かるが……もっとこうツンケンせずにした方が絶対にいいなと。

 

「なんだ? 私の顔に何かついてるか?」

 

「パルサーさんはもっと笑った方が良いですよ」

 

「……お前がそれを言うか? それならラシアはもっと人と話した方が良いぞ」

 

 盛大なカウンターをくらいながら、ラシアはパルサー宅を後にした。

 

 そして宿へと戻り、帰りを待っていたクランメンバーやおやっさん家族に、司祭のことは任せて来たと伝えた。

 

 その時間と同じ頃、ティーガーの元に大公の執事から手紙が一通届いていた。

 

 内容は、ロワンテが聖騎士になる前のことを追えないこと。そして、転生や転生者という言葉はこの国にも隣国にも無いというものだった。

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